恋人たちの夜明け
ふっと、目が覚めた。
(朝、か……)
カーテン越しに差し込む柔らかな朝の光が、部屋の空気を淡く照らしている。
自分の隣にいつもはない温もりがあった。この世でいちばん幸せな顔で眠っている愛しい彼女がそこにいる。その表情に、俺は自然と微笑んでいた。
隣で眠る菜緒さんを眺める。細くゆっくりとした寝息。昨夜の名残が、彼女の頬にわずかな熱として残っている気がした。
彼女の髪が、枕元にふわりと広がっている。ほんの少し乱れているのさえ愛おしくて、整えてやりたくなる。
どれほどこの瞬間を夢に見たか。自分の隣に、こうして彼女がいるという事実が、まだどこか信じられない。
昨夜、彼女は俺の名前を何度も呼んだ。
熱の籠った瞳。甘い声。羊の声に蕩けて、指先一つに震えて、そして——
思い出すだけで身体の奥から想いが爆発しそうだった。やがて、菜緒さんの睫毛がピクリと揺れ、ゆっくりと瞳が開かれる。
「……おはよう、ございます…」
少しかすれた声。まだ眠たげで、でもどこか恥ずかしそうな、照れているような笑顔。
「……ごめん、病み上がりなのに。無理、させたよな」
そっと彼女の髪を撫でながら言うと、ふわりと微笑んで小さく首を振った。
「ううん。嬉しかった……」
その一言に、胸が一気に沸騰する。
「ちょ、それ……ずるいよ。可愛すぎ」
堪えきれず、彼女の額に唇を寄せる。そのまま、そっと唇を重ねようとした、その時。
ブーッ!
俺のスマホが、ベッドサイドで派手に振動した。
「……無視でいいよ」
一瞬目を上げた。が、苦笑しながらそう言って、再び菜緒さんに視線を戻す。
けれど——
ブーッ! ブーッ! ブーッ! ブーッ!!
(多くね?)
そう思った次の瞬間、
ピロン!! ピロン! ピロン! ピロン!
今度はパソコンのチャット音がひたすら鳴り始めた。
「おい……うっざ!! 誰だよ……」
画面を見ると、GG4のグループチャットが地獄のような勢いで更新されている。
《お前ついにやったな!》
《てか何時間未読だよ!》
《え、もしかして今隣にいる?》
《いるでしょ? いるよねぇ……???》
《予言的中♪》
こめかみがピクリと引きつるのがわかる。菜緒さんは隣で、ぷっと吹き出して笑った。
「……あー、もう。せっかくの余韻を返せ……」
「ふふっ……みんな、優しいね」
俺はしばらく苦い顔をしていたが、朗らかに笑う菜緒さんを見ていると、そんなことはもう、どうでもよくなった。腕を伸ばして彼女を優しく引き寄せる。彼女の温もりをこの胸に閉じ込めて、再び瞳を閉じた。
通知はまだ鳴り止まない。でも俺らにはもう聞こえなかった。たしかに今、ここにあるこの時間が、愛おしくてたまらなかった。
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