表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

恋人たちの夜明け

 ふっと、目が覚めた。


(朝、か……)


 カーテン越しに差し込む柔らかな朝の光が、部屋の空気を淡く照らしている。

 自分の隣にいつもはない温もりがあった。この世でいちばん幸せな顔で眠っている愛しい彼女がそこにいる。その表情に、俺は自然と微笑んでいた。


 隣で眠る菜緒さんを眺める。細くゆっくりとした寝息。昨夜の名残が、彼女の頬にわずかな熱として残っている気がした。


 彼女の髪が、枕元にふわりと広がっている。ほんの少し乱れているのさえ愛おしくて、整えてやりたくなる。


 どれほどこの瞬間を夢に見たか。自分の隣に、こうして彼女がいるという事実が、まだどこか信じられない。


 昨夜、彼女は俺の名前を何度も呼んだ。

 熱の籠った瞳。甘い声。羊の声に蕩けて、指先一つに震えて、そして——


 思い出すだけで身体の奥から想いが爆発しそうだった。やがて、菜緒さんの睫毛がピクリと揺れ、ゆっくりと瞳が開かれる。


「……おはよう、ございます…」


 少しかすれた声。まだ眠たげで、でもどこか恥ずかしそうな、照れているような笑顔。


「……ごめん、病み上がりなのに。無理、させたよな」


 そっと彼女の髪を撫でながら言うと、ふわりと微笑んで小さく首を振った。


「ううん。嬉しかった……」


 その一言に、胸が一気に沸騰する。


「ちょ、それ……ずるいよ。可愛すぎ」


 堪えきれず、彼女の額に唇を寄せる。そのまま、そっと唇を重ねようとした、その時。


 ブーッ!


 俺のスマホが、ベッドサイドで派手に振動した。


「……無視でいいよ」


 一瞬目を上げた。が、苦笑しながらそう言って、再び菜緒さんに視線を戻す。


 けれど——


 ブーッ! ブーッ! ブーッ! ブーッ!!


(多くね?)


 そう思った次の瞬間、


 ピロン!! ピロン! ピロン! ピロン!


 今度はパソコンのチャット音がひたすら鳴り始めた。


「おい……うっざ!! 誰だよ……」


 画面を見ると、GG4のグループチャットが地獄のような勢いで更新されている。


《お前ついにやったな!》

《てか何時間未読だよ!》

《え、もしかして今隣にいる?》

《いるでしょ? いるよねぇ……???》

《予言的中♪》


 こめかみがピクリと引きつるのがわかる。菜緒さんは隣で、ぷっと吹き出して笑った。


「……あー、もう。せっかくの余韻を返せ……」


「ふふっ……みんな、優しいね」



 俺はしばらく苦い顔をしていたが、朗らかに笑う菜緒さんを見ていると、そんなことはもう、どうでもよくなった。腕を伸ばして彼女を優しく引き寄せる。彼女の温もりをこの胸に閉じ込めて、再び瞳を閉じた。


 通知はまだ鳴り止まない。でも俺らにはもう聞こえなかった。たしかに今、ここにあるこの時間が、愛おしくてたまらなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

もしよろしければ、評価、感想いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ