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18話

 二人は部屋に戻れたということを、まずは追記しておこう。

 カードキーを部屋に置き忘れましたと素直にサイクロプスに相談したところ、


「あーよくいるんですよねー。予備のカードキー差し上げますねー」


 と、熟練の経験を思わせる素早い対応をしてくれた。

 いやいやお前最近までダンジョンに潜んで冒険者と戦ってただろというのは、もう突っ込んでも仕方がないことだろう。

 彼女の知識は完璧にホテル従業員のそれで、対応も完璧とあっては、あとはテンション高すぎる問題以外に何も責めるところはないのである。


 そうして、一夜を明かした。

 同じ部屋で眠る案も、実は結構マジで出されていたのだが、一人で眠ることができて、結果としてはよかったと思う。



 七階廊下で合流する。

 時刻や待ち合わせ場所を決めていたわけではなかったが、自然と三人、同時に部屋を出た。

 ドアを開けた瞬間、お互いに顔を見合い、笑ったぐらいのタイミングである。


 そのまま僕らはエレベーターに乗って受付を目指す。

 マナフは当たり前のように僕の手を握る。

 レヴィアは当たり前のように僕の腰に抱きつく。

 お前等は遊園地のフリーフォールの安全バーか何かかという発言が出かかったが、たぶん通じないので何も言わずにおいた。




 一階受付でチェックアウト。

 レヴィアの荷物を受け取り、外に出る。

 整地。

 そして、ファミレスを建造した。




「いらっしゃいませー。お客様何名様ですか? お煙草吸われます?」




 サイクロプスに出迎えられて、四人席に着く。

 余談だが、サイクロプスの格好はきちんとウェイトレスのものになっていた。

 いつ着替え、いつ移動し、建物がない時どのようにしているのかは、ファミレスの食材の産地なみの謎である。


 僕らはモーニングセットを注文する。

 料理が運ばれてくるまでの少しの間、話をする時間ができた。

 なので、僕は提案というか、報告をする。



「申し訳ないんだけど、今日は歩けそうもない」



 昨日、シャワーを浴びた時に自分の足を見て確信したことだ。

 足の様子がR-18Gだった。


 もちろん、本気で一歩も歩けない、というわけではない。

 がんばればもちろん、歩けるだろうが――今だって結構痛いのだ。限界いっぱいまでがんばったって、せいぜい一、二時間で音を上げる自信がある。

 そしておそらく、僕らは六時間以上歩く。

 となれば、あとで本気で歩けなくなってからリタイアするよりも、先に言っておこうと思ったというわけである。


「ふむ……まあ、神のおわす天上界では、徒歩という手段はあまり一般的ではないのだろうな」


 レヴィアはそのように納得した。

 いや、天上界とやらを『元の世界』だとすれば、徒歩は一般的な移動手段なのだが……

 一般的でないのは、距離だ。

 この世界の人はとにかく健脚なのである。

 レヴィアは難しい顔で続ける。


「……もとより私の旅路だ。無理についてきてもらおうというのが高望みだった。あまり辛いようであれば、ここから引き返してもらってもかまわんが」


 気を遣わせてしまう始末である。

 ……まあ、報告した時点で、この展開は予想できていた。

 なので、対応策も考えてある。


「だから、歩かなくてもいいように、ちょっと建築をさせてもらいたい」


 対応策と書いて『いつものアレ』と読む。

 僕ができることはまさしくそれだけなのだった。

 しかし――今回だけは、レヴィアも僕が何をしようとしているか、疑問を差し挟んだ。


「ご主人様のすごさは、私も手放しで認めるところではあるが、しかしだな、建築で移動がどうにかなるものなのか? 食事をしたい、雨風をしのぎたい、そういうものとはまた違うのだぞ」


 もっともな疑問だった。

 建物を建てた程度で移動手段はどうにもならない。

 ……が、それはこの世界の人の考えだ。

 建てるだけで移動手段を兼ねる建物が、僕の生きていた世界にはある。




「駅を建てる」




 駅。

 それは、電車に乗りこむための施設だ。

 ただし――僕が建築できるものの中に『電車』は存在しない。


 だからこそ思うのだ。

 ファミレスで料理が当たり前みたいに出るように。

 作るためのコマンドがないなら、駅を建てれば電車が付随するのではないかと。


 幸いにも鉄材はあるのだ。

 木や石に比べれば潤沢とは言いがたいが、日が暮れるまで電車に乗って、それから整地で回収していけば、どこまでだっていけるだろう。


 そして電車の利点は、何より、その速さにある。

 各駅停車なみの速度だって、徒歩より何倍も速いだろう。

 結果、西の魔王に会うまでの時間が短縮されるはずだ。


「うまくいけば、西の魔王にすぐ会えると思う」


 僕はそう補足した。

 レヴィアはよくわからないというように首をかしげていたが。


「……まあ、ご主人様のやることに間違いはなかろう。お任せする。私はあなたを信じた。ならば、信じるという意思を貫き通す。なぜなら――竜人族だからな」


 任せる、と言ってくれた。

 僕はうなずく。


「信頼に応えられるよう、がんばるよ」


 確認作業をするだけだけれど。

 信じてくれたレヴィアに言葉だけでも報いたくて、そんな安請け合いをした。

 彼女は、ふとつぶやく。



「しかし――『すぐ会える』か。旅の終わりに何が待ち受けているのだろう。……私も、覚悟を決めなくてはな」



 決意するように拳を握りしめる。

 ……彼女はついに、彼女のルーツと対面する。

 それがよき未来を示してくれることを、僕は願わずにはいられなかった。

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