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【eスポーツ小説】Faster Fastest R  作者: 赤城康彦
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Chase the mirage! ――彼方を追え!――

 その一方で、ケニー・ブレイクのフィエスタのミラージュカーことKBカーの速さもだが、それに食らいつくヤーナの技量にも舌を巻く思いだった。

 シムリグと一体になり、ハンドルを回すハンドブレーキを引くペダルを踏む、それら一連の動作にまったく無駄がなく。まるでプログラムされた機械のような正確さだった。

 が、そんなヤーナですらついてゆくのがやっとそうなKBカーの速さには唸らざるを得なかった。

 草原区間を終え、森林区間に入る。視界が変わる。草原区間では視界は開かれていたが、森林区間となると木々が陽光を遮り影を落とす。その影が濃く、一気に暗くなったような感じになり。影と木漏れ日が交錯し、目もちかちかしそうで。道路幅もつかみづらい。

「……」

 ヤーナは少し口を開いて深呼吸し、木陰と木漏れ日が交錯するくねくね林道を走った。

 さすがに景色の変化に目がすぐ対応できず。濃い木陰は影どころか夜を落とし込んだようでもあった。

 ややペースが落ちる。が、やがて目も慣れて、ペースを上げてゆく。

 それでも、まだ序盤だからか、無理せず無難に走る。

 フィエスタは砂利を散らす音やそれによって起こる煙を撒きながら、コーナーをクリアしてゆく。

 曲がりくねっていて、まっすぐになることがほとんどない。

 さて、そのころ。

 ウィングタイガーのDragonこと龍一とSpiral Kことフィチも、ラリーをスタートさせた。させたのだが……。

 龍一のドライブするミラージュは、あろうことか5つ目の右コーナーのイン側の盛り上がりに乗り上げ、横転! 

 さらに石ころのようにごろごろ転がり。何回転したかわからないほど回った果てにやっと止まった。

 青空を泳ぐ雲たち。風に遊ぶようにそよぐ草花たち。それら目に映るのどかな風景がやけに空虚に感じられた。

 AI音声のコ・ドライバー、フランシス・シェイクスピアが何か言っている。止まるな、走れ、とかだろうか。

「……、ああー!」

 龍一は顔を手で覆って呻いた。

 ビデオチャットでつながっているソキョンと優佳は唖然として、石のように固まってしまっていた。

「くそ」

「Stop!」

 リセットし、再スタートしようとする龍一を、ソキョンは止めた。

「しばらく休んで、気持ちを落ち着かせなさい!」

「……」

 龍一は脱力したようにうなずき。腕を組んでこうべを垂れた。で、その様子もばっちりライブ配信されていた。

 チームスタッフが同情しつつ、気を利かせて画面を切り替えフィチのみにした。

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