39話 新しい旅へ
連続殺人事件は解決した。
トッグは逮捕されて、収監された。
能力を封じる特殊な腕輪で拘束されていて、24時間の監視がついているため、脱獄は不可能だろう。
いつになるかわからないけど、一定の調査が終わったところで裁判になる。
まず間違いなく、極刑となるだろう。
あるいは、死ぬまでの労働奴隷。
どちらにしても救えない結末だ。
同情はできない。
でも……
かつて、一時的でも憧れを抱いた冒険者が堕ちる様は、見ていて悲しいものがあった。
その後、ギルドマスターから改めての謝罪。
それと謝礼を渡されて、今回の事件は幕引きとなった。
――――――――――
「えっと、それじゃあ……事件の解決に」
「「「かんぱーーーいっ!!!」」」
夜。
俺達は酒場を訪れて、美味しい食事と酒を楽しむことにした。
「ぷはーっ、酒が美味いのだ!」
「勝利の美酒、ってやつね。カイ君にもかんぱーいっ!」
「あはは、ありがとう」
二人にお祝いをしてもらえることが嬉しい。
自然とお酒も進む。
「すみません、おかわりください」
「おっ、旦那様、わりと飲める方なのか?」
「うーん……よくわからないんだよね。お酒を飲むの、今回が初めてだから」
「む? それにしては、水のように飲んで……大丈夫なのか?」
「初めてとか、なーんかえっち♪ あははは!」
ミリーはすでに酔っているみたいだ。
早い。
俺は……たぶん、大丈夫。
ふわふわした気分になるものの、でも、嫌な感じはしない。
気持ち悪くないし、むしろ気持ちいい。
おかわりの一杯を飲み干して、さらに追加を頼む。
「おおぉ、本当に飲むな……我はちょっと心配になってきたぞ」
「大丈夫だと思う。なんかこう、するっと入っていくから……たぶん、お酒は強いんじゃないかな?」
両親は、飲み明かしても二日酔いになっていなかったし……
村のみんなも、水のようにお酒を飲んでいた。
たぶん、俺もお酒に強いと思う。
「まあ、よいか。後で二日酔いになるかもしれぬが、今、楽しく飲めればいいのだ!」
「そうそう! 今がサイコー! ってね」
「二人もほどほどにね? 特にミリー」
なんか、言動も怪しくなってきたな……
お酒は好きだけど、そんなに強くないのかな?
「それにしても、料理も酒もけっこう頼んでいるが……旦那様よ、支払いは大丈夫か?」
「大丈夫。事件を解決したことで、けっこうな額の報酬をもらったから」
「そうか。それならばよい。いざという時は、店を爆破せねばならんところだった」
「……ルルも、実は酔っている?」
ここまで過激なことを言う子ではなかったはず。
あとそれ、普通に食い逃げで犯罪だからね?
いや、爆破するから食い逃げ以上か?
「それにしても……」
カットステーキを食べて、それをお酒で流す。
美味しい。
それに、ルルとミリーが一緒のテーブルで笑ってくれている。
この時間がたまらなく幸せに感じた。
「さて、旦那様よ。依頼は片付いたが、次はどうするのだ? また、別の依頼を請けるか?」
「はいはーい、あたし、新しい依頼を請けるに一票! ちゃんと冒険者らしいことやってみたいっしょ」
「そういえば、ミリーはまともな依頼は請けていないか」
いきなりトッグの事件に巻き込まれたから、冒険者らしいことはしていない。
「俺としては、このまま、この街で冒険者として活動を続けたいんだけど……二人はどう思う?」
「我はそれでよいが……旦那様は、それでいいのか? 今の旦那様なら、大抵のことはできるぞ思うぞ。それこそ、魔王を討伐して勇者となり、世界に認められることも」
「あまり興味はないかな」
「おおぅ、即答」
レベルが高くなったといっても、俺は勇者じゃない。
魔王のことは本業に任せるべきだと思う。
それよりも……
「俺は、ルルとミリーが一緒にいてくれれば、それだけで満足だから」
大事な人ができた。
一生を賭けて守り抜きたい人ができた。
大事な大事なお嫁さんだ。
「……旦那様……」
「……カイ君……」
二人は頬を染めて……
ガタガタガタ!
椅子を動かして、それぞれ僕の左右に。
そのまま、ぴたりと体を寄せてきた。
「我も、旦那様がいてくれれば、それでいいのだ」
「えへへー、カイ君、しゅきー♪」
「うん、ありがとう。俺も、ルルとミリーが好きだよ」
冒険者を志して。
でも、初心者狩りに遭って。
人生のどん底に落ちたと思ったけど、でも、それは違って……
この短い間に、本当に色々なことがあった。
とても濃密な時間だ。
これからも、そんな時間を過ごすのかもしれない。
さらに激しい事件に巻き込まれていくのかもしれない。
でも、大丈夫。
俺の隣には、大事な人がいる。
それは……
「これからもよろしくね、ルル、ミリー」
「うむ、我の方こそよろしくなのだ!」
「よろー!」
これからも俺は、可愛くて最強のお嫁さん達と一緒に歩いていくだろう。
ずっと。
ひとまずここで終わりです。
昔書いたものを直してみたらどうなるのだろう? と思い、試しに書いてみた作品となります。
楽しんでいただけたのなら嬉しいのですが、どうだったでしょうか?
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




