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38話 力だけでも

「色々あって、あれからまたレベルアップしたよ」

「ふ……」


 唖然として。

 次いで、怒りを爆発させる。


「ふ、ふ……ふざけるなぁあああああーーーーーっ!!!?」

「……トッグ……」

「俺が、この俺が、外道に墜ちてまでレベルを上げたっていうのに、それなのに貴様は、さらにその上を……ふざけるなふざけるなふざけるなっ、舐めるなぁ!!!」

「あなたは、そこまで……」


 トッグの事情なんて知ったことではない。

 外道に堕ちたのも自己責任……というか、自業自得だ。


 かつて憧れていた『漆黒の牙』のリーダー。

 でも今は、こんなにも落ちぶれていた。

 見る影もない。


 そのことが……少し悲しい。

 それと、寂しくもあった。


「この俺が!!!」


 トッグが再び斬りかかってきた。

 音よりも速く、複雑な軌道を描いて、剣をぶつけてくる。


「Aランクパーティーのリーダーである、この俺様がっ!!!」


 どんどん剣撃が加速していく。

 威力も増して、一撃一撃がとても重い。


「冒険者になったばかりの新米のカイルに負けるわけがねえだろうがぁっ!!!」


 トッグは獣のように吠えた。

 攻撃も荒々しく、全てを叩き潰して、飲み込むかのような勢い。


 でも……


 荒いからこそ対処ができる。

 簡単に見切り、防ぐことができる。


 怒りで攻撃力が増しているものの、その分、精度が落ちていた。

 トッグはそのことに気づいている様子はない。


「……ねえ、ルシフェル様。あれ、全部防ぐことができる?」

「……ちと難しいな。数発は食らうかもしれん」

「……あたしも。でも、カイ君、涼しい顔をして、全部防いでいるよね。しかも、完全に見切り、紙一重のところで避けて、防いでいる」

「……あの無茶苦茶さが旦那様なのだ。レベルとかそれ以前に、なんでもかんでも吸収して、独自に発展進化をさせてしまう、正真正銘の天才なのだ」


 ルルが褒めてくれるのは嬉しい。

 でも、俺は天才なんかじゃない。

 ただの新米の冒険者だ。


 そして……


「ぶっ潰れろぉおおおおおぉーーーーー!!!」


 トッグが勝負に出てきた。

 ありったけの力を込めて剣を振るう。


 その一撃は、今日、初めて見るほどの速度だ。

 威力も桁違いで、さすがにこれは防ぐことは難しい。


 だから……


「なぁっ……!?」

「無駄だよ」


 振り下ろされた剣を両手で挟んで止めた。

 東の方の国の技で、白刃取り、というものだ。


 この技は知らないらしく、トッグが唖然とする。

 その間に、俺は腕を捻り、トッグから剣を奪い取る。


 そのまま無防備になった腹部に一撃を加えた。


「がっ……!?」


 トッグは腹部をおさえてよろめいた。

 ただ、まだ倒れない。

 意地と気合なのだろう。


 ……その熱を別の方向に生かしていたら、今頃は、まったく別の道が開けていただろうに。


 わずかな憐憫と哀れみ。

 でも、同情はしても許すことはできない。


 俺のことはともかく……

 彼は、身勝手な欲望とわがままで多くの命を奪った。

 その罪は償わせないといけない。


「これで……!」


 前に出て、トッグの懐に潜り込む。

 俺の動きが見えていなかったらしく、彼は目を見開いて驚き、叫ぶ。


「なんだよ……なんなんだ、お前はぁっ!!!?」

「俺はっ……!!!」


 腹部にもう一撃。

 トッグが前かがみになったところで、今度は顎を下から上に蹴り上げた。


「……っ……」


 トッグは悲鳴をあげることもできず、そのまま白目を剥いて倒れた。


 指先がぴくぴくと痙攣している。

 生きているみたいだけど、しばらくは目を覚まさないだろう。


「俺は、ルルとミリーの旦那様だ」



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