35話 受けて立つ
「トッグから決闘が!?」
翌日。
ギルドに召集されると、ギルドマスターから驚きの話を聞かされた。
昨夜、受付嬢の前にトッグが現れて、俺に決闘を申し込んできたらしい。
日時は三日後。
場所は、南の平原。
「受付嬢さんは大丈夫だったんですか?」
「ああ。幸いにも、なにもされなかったらしい。ただ……彼女が言うには、トッグは、別人のように変わっていたらしい。魔物を相手にしているかのようだった……と」
いったい、トッグになにがあったんだろう?
「俺に決闘を申し込んできたのは……」
「キミに対する復讐だろうな」
自業自得ではあるものの、トッグが堕ちたきっかけは俺にある。
逆恨みをしていてもおかしくはない。
「しかし、なぜリベンジできると思ったのだ? そこらの人間が旦那様に勝てるとは到底思えないのだが」
「ねー。レベル差が圧倒的だろうし」
「それ以上に、旦那様はすさまじい技術を持つぞ? レベルが同じだろうと、まず間違いなく、旦那様が勝つだろうな」
「お二人が言うように、バーンクレッド君は、すでに一度トッグに勝利している。僅差や偶然と呼べるようなものではなくて、確かな実力で。それなのに再戦を挑むということは、勝てるという自信があるのだろう」
「……罠でしょうか?」
日時と場所を指定してきた。
罠の可能性を考えるのは自然だろう。
「私達もそう思い、ギルドの者といくらかの冒険者を雇い、南の平原の調査と監視をさせているのだが……今のところ、罠が設置された様子はない」
「旦那様に真っ向勝負か? 自殺志願者か?」
「んー……それ、違うんじゃない?」
ミリーがルルの推測を否定した。
「あたし、トッグっていう人間に会ったことはないけどさ。話を聞く限り、めっちゃずる賢いヤツなんでしょ? そういうヤツは、勝てる! って確信した時しか動かないと思うよ」
「つまり、旦那様に勝つ算段が? しかし、罠はないらしいぞ」
「設置型の罠とは限らないっしょ。魔道具を持ち歩いて、それを戦闘時に発動させるとか」
「ふむ、ありえるな」
「他は……実力で勝てる、と思ったとか」
「それこそまさか、なのだ。旦那様のレベルが圧倒的に上ということは、ヤツも知っているはず。それを忘れるほど、鳥頭ではないだろう」
「んー……なかなかわからないなー」
みんなであれこれと考えてみるものの、答えは出ない。
トッグはなにを考えて、なにを企んでいるのか?
たぶん、直接、対峙する以外にそれを理解する方法はないだろう。
「ギルドとしては、今回の決闘、受ける必要はないと考えている。トッグはすでに冒険者資格を剥奪されている上に、犯罪者だ。騎士と合同で捕らえた方がいいだろう」
「うむ。我も、それで異論はないぞ」
「いざとなったら、あたし達がぶちのめせばいいっしょ」
話がまとまりつつあるのだけど……
「……すみません。この決闘、受けさせてもらえませんか?」
俺は、話を覆すようなことを口にした。
みんな、驚きの表情に。
「なぜだ、旦那様よ? あのような人間に構う必要はないと思うが……」
「以前やられたことのリベンジ? って、カイ君は、すでにリベンジを果たしたんだっけ?」
「バーンクレッド君。なぜ、そうしたいのか理由を聞かせてもらえないか?」
「……ただのわがままです」
トッグについて、もう思うところはない。
この前の決闘で全て振り切ることができた。
ただ……
トッグの方はそういうわけにもいかないらしい。
より深く、今まで以上に怒りや憎しみをこじらせていて……
いつの間にか因縁が深くなっていたようだ。
「今回の事件は、俺が招いたものかもしれません。なら、俺が決着をつけないと」
「バーンクレッド君がそこまで気にする必要はないのだが……」
「おぉん? 旦那様がそう言っているのだ。それに従うのがギルドだろう」
「カイ君に異論を唱えるつもり? え、マジ? 覚悟できてんの?」
お嫁さん達の手の平がくるくるだ。
「むう……私としては、これ以上、バーンクレッド君に迷惑をかけたくはないのだが……」
「迷惑なんて思っていません。ただ……義務というか責務というか、そんな感じです。それと……」
今度の決闘に、たぶん、トッグは全てを賭けているだろう。
失敗したら次を……なんて考えていないはず。
これが最後。
なら、俺が挑みたい。
トッグに引導を渡すのは、この俺だ。
この手で……という、そんなわがまま。
「……わかった。そこまで言うのなら、バーンクレッド君に任せよう」
「ありがとうございます」
「ただし、トッグを逃がすわけにはいかない。決闘は許可するが、当日、冒険者や騎士達を派遣させてもらう」
「了解です」
当然の措置だ。
納得できるものなので反対するつもりはない。
「よし」
今度こそ話はまとまった。
なら、この後にやるべきことは一つ。
「ルル、ミリー」
「む? どうした、旦那様よ」
「ミリーちゃんに甘えたい? いいよいいよ、ばっちこーい♪」
それは魅力的だけど、また今度。
「俺に稽古をつけてくれないかな?」
三日後の決闘に備えておきたい。
決して慢心することなく、油断することなく。
絶対に勝てるように、コンディションを最高に整えておきたかった。
「うむ、我らに任せるのだ。旦那様を強くするのも、妻の仕事!」
「あたし達なら、もっともっとカイ君をレベルアップさせられるし!」
「ルル、ミリー、ありがとう。俺、絶対に勝つよ」
「「……ふはぁ……」」
ルルとミリーが赤くなる。
「決意を固める旦那様、かっこいい……しゅき」
「カイ君、意外と男らしさ満載……しゅき」
ルルだけじゃなくて、ミリーもちょっと、とろけていた。
二人共、恋愛補正が上すぎないかな?
俺は、そんな大したことないんだけど……
でも、そんな俺に期待してくれている。
ギルドマスターも期待してくれている。
なら、その期待に応えてみせようじゃないか。




