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30話 二人目

「……好きにするといい」


 そんな一言を残して、蒼龍様はどこかに消えてしまった。


 すごくショックを受けていた。

 大丈夫ですか? 俺にできることはありますか? と声をかけようとしたのだけど……


「やめておけ、旦那様よ」

「それ、敗者に対するめっちゃひどい仕打ちでしょ」


 と、二人に止められた。


「とにかく……うまく話がまとまって、よかった」

「それ!」


 突然、ミカエルが大きな声を出して驚いてしまう。


「な、なに……?」

「大丈夫!? 蒼龍と戦うとか、めっちゃ無茶して……怪我してない? 呪いを受けてない? えっとえっと、それから……」

「大丈夫だ」


 無事をアピールするように、その場で軽くジャンプしてみせた。

 それからステップ。


「ほらね?」

「……」

「ミカエルさん?」

「ふぇえええええ……よかった、よがっだよぉおおおおお……ひぃいいいん」


 いきなり泣き出してしまう。


 え? え? え? ……と慌ててしまうものの。

 この子は、俺のことをすごく心配してくれていたんだな、と理解して。

 なんだか優しい気持ちになって、そっと、ミカエルの頬に触れた。


「ありがとう」

「ふぇ……?」

「心配してくれて、すごく嬉しい。でも、大丈夫。ほら……俺の手、温かいだろう?」

「……うん」

「生きている証だよ。だから大丈夫だ」

「……ふぇ」


 再びミカエルの瞳に涙が滲む。


「よかった、よかったぁあああああ、ふぇえええええぇんっ!!!」

「あぁ……どちらにしても、泣いちゃうんだ」

「こやつ、わりと泣き虫なところがあるからな」


 俺とルルは苦笑して……

 でも、温かくミカエルを見守るのだった。




――――――――――




「ぐすっ……もう平気」


 10分くらいしてミカエルは落ち着いた。

 涙目で、ちょっとしゃくりあげているものの、話ができる状態に戻った。


「あの……改めて、ありがとね。おかげで、マジ助かったし」

「うん、どういたしまして」

「……なんで」

「え?」

「なんで、あたしのこと、助けてくれたの……?」


 そう問いかけてくるミカエルは、迷子になった子供のようだった。


「さっきも言ったけど、仲良くなりたいな、って」

「あたしと……?」

「ああ。友達になりたいんだ。だから、あのままなにもしない、っていうわけにはいかなかった」

「……そ、そっか」


 ミカエルは、指先をもじもじと合わせつつ、うつむいてしまう。

 その耳は赤いけど……どうしたんだろう?


「あ、あのさっ!」


 再び顔を上げると、なにか決意した様子でまっすぐにこちらを見つめてきた。


「友達は……やだっ」

「そ、そっか……」

「あ、ごめん! 仲良くなりたくないとか、そういうわけじゃないの」

「え? それじゃあ……」

「あたしも……あたしも……」


 頬を染めて。

 瞳を潤ませて。

 僕の胸に飛び込んできて、至近距離で見上げて……甘く告げる。


「あたしも、あなたのお嫁さんにしてっ!!!」


 ……え?


「えええええぇえっ!?!?!?」

「ダメ……?」

「ダメというか、なんというか……ど、どうして、いきなりそんな話に?」

「悪魔なのに仲良くなりたいって言ってくれて……しかも、神を相手にしてまであたしを守ろうとしてくれた。こんなにされて、好きにならないわけがないし……大好き。愛してる。だから……結婚して?」

「い、いきなりすぎない?」

「ふふ、悪魔は情熱的なのよ。だいたい、ルシフェル様とも、わりとすぐに結婚したんでしょ?」

「そ、そうだ、ルルだよ!」


 こんな話、ルルからしたら不快だろう。

 怒られるかもしれない……


 なんて思っていたのだけど、ルルは、平然とした様子だ。


「ふむ、旦那様に新しい嫁か。良いことだな」

「えっ、怒らないの!?」

「別に、我は気にしないぞ? 適当な気持ちの者が相手なら反対はするが、ミカエルの想いは本物だろう。それに、元々、悪魔は男が少ないから、一夫多妻が普通なのだ。新しい嫁が増えることに抵抗はない。むしろ、我が旦那様はこれほどまでのたくさんの愛を授かる者なのだぞ、と誇らしい気持ちになるのだ」

「そ、そういうものなのか……」


 人間と悪魔の価値観の違いに驚くしかない。


 でも、人間も一夫多妻がないわけじゃない。

 その逆もある。

 血をたくさん残さなければいけない、貴族などに多い。


 それを考えると、わりと普通のことなのかもしれない。


「その……あたし、ちゃんとがんばるから! お嫁さんらしくするし、なんでもするし、尽くすから! もちろん、えっちなこともいいし!」

「ごほっ!?」


 どうしてルルと同じようなことを!?

 これも悪魔の常識なの!?


「その、あのさ……あたしじゃダメ、かな……?」


 その表情は反則だ。


 庇護欲をそそるかのような。

 それでいて、可愛くて綺麗で……心惹かれてしまう。


「……ルル」

「うむ、なんだ?」

「本当にいいの?」

「いいぞ。冗談でも強がりでもなく、我の本心だ」

「……うん、わかった」


 ここまで強く求められて。

 ルルも許してくれているのなら。


「えっと……俺は、二人からしたらレベルも低くて、弱いかもしれない。冒険者の新米で、頼りないところがあると思う。でも、負けていないところはある。それは、想いだ」

「……え……」

「こんなにも熱い想いを伝えてくれて、ありがとう。すごく嬉しいよ。だから俺も、その想いに応えられるように、負けないようにがんばりたい、って思うし……なにかあったとしても、全力で守ってみせる。だから……これから、よろしく」


 笑顔で手を差し出した。


「い、いいの……?」

「俺の方こそ、俺なんかでいいかな、って不安だけど……」

「いい! 絶対いい! あんたじゃなくちゃ嫌だ、他の誰かなんて絶対に嫌! あんただからこそ、あたし、好きになったんだ! 出会ったばかりだけど、もう、心底惚れていて……あたしの全部、捧げたい!!!」

「ありがとう」

「あたしの方こそ、ありがとう……ふぇ、ふぇえええええーーーーーん」


 わぁ!?

 また泣き出してしまった!?


「だ、大丈夫!?」

「うん……嬉しいだけだから……だいじょぶ……ぐすっ」


 ミカエルは涙をぽろぽろと流しつつ、笑う。


「これからよろしくね……あたしの旦那様」

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