表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/39

27話 ミカエル

「ぐすっ……」


 ややあって、どうにか女の子は落ち着きを取り戻した。

 再び戦闘になることはなくて、ようやく話ができそうだ。


「えっと……なんか、ごめんね?」

「別に……ちょっとあたしが調子に乗っていただけだから」


 拗ねた様子ではあるものの、さきほどまであった敵意は消えていた。


「やれやれ、相変わらず泣き虫じゃのう」

「うっさい……っていうか、あれ? ルシフェル様じゃん」

「ようやく気づいたのか」

「ごめんごめん。だって、かなり久しぶりじゃん? 忘れちゃうのも仕方ないっしょ」

「まあ、千年以上は経っているな。それで……ミカエルよ」


 ミカエル……それが、この子の名前みたいだ。


「お主、このようなところでなにをしているのだ?」

「んー……あたしもよくわかんない」

「お主なぁ……」

「だって、わからないものはわかんないし。なんか、耐用年数に達していたのか封印が解けてさー。お、ラッキー♪ これからどうしようかな、って考えていたら、なんか人間がやってきて、いきなりナンパされて襲われそうになったから、ぶちかましておいた」

「それは本当なのか?」

「なにさー、ルシフェル様ってば、あたしの言うことを疑うつもり? あたし、こんな感じで軽いけど、つまらない嘘は言わないじゃん」

「うむ、そうだったな。すまぬ、疑うようなことを言って」

「いいよー、わかってくれれば」


 と、なると……


 ミカエルと戦ったという冒険者達は、完全に自業自得だ。

 まったく同情できない。

 これ、後でギルドマスターにしっかり報告しておいた方がいいな。


「ところで……」


 ミカエルの視線が俺に向いた。


「この人間、誰? 人間なのにあたしを圧倒するとか、マジありえないんですけど……」

「ふふん、旦那様は天才だからな!」

「へ? 旦那様?」

「うむ。我は、旦那様と結婚したのだ」

「えぇえええええーーーーーっ!!!?」

「そこまで驚くことか?」

「当たり前じゃん! ルシフェル様とか、結婚できそうにない悪魔ナンバーワンで、100年連続で首位に輝くとか、すっごい記録を更新していたじゃん!」


 そんな記録をつけていたのか。

 悪魔って、わりとヒマなのかもしれない。


「可愛いけど、お子様体型! やたら偉そう! 強いから怖い! とか、そんな感じの理由で、彼氏の一人もいたことない。一生独身で、最後は狭くて埃の溜まった部屋で一人寂しく、っていう未来図が簡単に想像できたのに、いきなり結婚とか……え、マジ? これ、夢?」

「……お主、ケンカを売っているのか? そうなのか? 買うぞ? 特売中だぞ?」

「ま、まあまあ」


 本気でルルが暴れだしそうだったので、慌てて止めに入る。


「えっと……はじめまして。俺は、カイル・バーンクレッド。冒険者で……今、紹介してもらったように、ルルと結婚しているよ」

「はー……弱味を握られているとか脅されているとか、そういうわけじゃなくて?」

「いや。そんなことはなくて、俺は、ちゃんとルルのことが好きだから」

「愛称で呼ぶ仲とか。マジかー……まさか、ルシフェル様に先を越されるとか、まったく想像してなかったし。あ、これ凹む……」

「我も想像していなかったな。しかし、旦那様は世界で一番優れていて、かっこいい男性なのだから仕方ないのだ」

「うわー、めっちゃ惚気けられた。ルシフェル様、心底、惚れてるんだねー」


 だいぶ和やかな感じで話が進んでいた。

 この様子なら、いい方向で話をまとめることができるかもしれない。


 そう期待しつつ、話を先に進める。


「それで、これからのことを話したいんだけど……」

「残念だが、その悪魔に『これから』はない」


 突然、第三者の声が響いた。

 慌てて振り返ると、見知らぬ男が。


 ニメートルを越えているほどの長身で、しかも、筋肉の鎧をまとっているかのような体。

 その身から放たれるプレッシャーは強烈なもので……

 ただ、どこか覚えがあった。


「もしかして……あなたは、神様ですか?」

「ほう、俺のことを知っているか?」

「あ、いえ。すいません、細かくはわからないんですけど……ただ、こんなプレッシャーを放つ人、神様以外にありえないと思って」

「なるほど、聡明な人間だな」


 感心したように頷いた。


「まずは、自己紹介をしようか。俺は、蒼龍リヴァイアサン。末席ではあるが、神の座を有する者だ」

「はじめまして。俺は、カイル・バーンクレッド。冒険者です」

「ふむ、礼儀正しいな。その正しき姿勢、良き冒険者なのだろう」

「ありがとうございます。それで……」


 ちらりと、後ろのミカエルを見た。


 蒼龍様を睨みつけている。

 ただ、その顔はちょっと青い。

 彼女の天敵……なのかもしれない。


「さきほどの言葉の意味を教えていただいても?」

「神の使命は、世界の秩序を保つこと。しかし、悪魔はその秩序を乱す存在だ。故に、排除しなければならない」

「……なので、ひとまず封印をした。でも、封印が解けたので様子を見に来た……ということですか?」

「ふむ? 詳しいな、その通りだ。ただ、一つ訂正すると、俺の目的はミカエルだけではない」


 蒼龍様がルルを見る。


「ルシフェルの封印も解けていたようだな。ちょうどいい。ここでまとめて始末してくれよう」

「えっ」


 まずいまずいまずい。

 このままだと、ルルとミカエルが危ない。


 ミカエルは出会ったばかりなのだけど……

 でも、見捨てたくない。

 悪魔かもしれないけど、でも、どこにでもいるような女の子に見えた。

 楽しく話をすることができたから、きっと、仲良くできると思う。


 どうすれば?

 どうすればいい……!?


 ……そうだ!


「あ、あのっ!」

「む? どうした、人間よ」

「俺、バハムート様から悪魔に関する対処を任されているんです!」

「……なんだと?」


 蒼龍様の注意がこちらに向いた。


 よし、ここからが正念場だ。

 どうにかして説得して、考えを変えてもらわないと。


「実は……」


 俺はできるだけ冷静にバハムート様との関係を語る。


 バハムート様も同じようなことを考えていて、衝突したこと。

 どうにかこうにか認めてもらったこと。

 俺の範囲内でなら、悪魔に関する対処を任せてくれたこと。

 そして、友達になってくれたこと。


「……と、いうわけなんです」

「まさか、竜神様がそのようなことを……」

「信じられない話かもしれないけど、本当のことなんです! えっと……そうだ、俺の体に残る魔力を見てくれませんか? たぶん、まだバハムート様と戦った時の魔力が残っていると思うので」

「……確かに、それは間違いなく竜神様の魔力だな」

「それに、他の神様方にも話をしておく、と言っていたのですが」

「そういえば、そのような話が来ていたような気がするな」


 よし!

 ここから、さらに話を繋げていけば、なんとかなるかもしれない。


「ミカエルのことですが、彼女も俺に任せてもらえませんか? 彼女が悪い悪魔とは思えなくて……」

「ふむ」


 蒼龍様は考える仕草を取る。

 ややあって、一つ頷いた。


「……いいだろう」

「本当ですか!?」

「ああ。竜神様に認められているのならば、俺も認めなければならない。ここでお前の意思に反する行動をとるということは、竜神様の意思に反するということ。それだけはできないからな」

「あ……ありがとうございます!」

「なに、礼は必要ない」


 蒼龍様は……嗤う。


「嘘だからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミカエルは確かに創作物では火のイメージただし種族は堕天してるけど
悪魔に天使の名前か。 ルシフェルは堕天使としても出てくるけど、ミカエルは天使長的な立ち位置だったような? 神の名前は今のところドラゴンの名前だし、わりと独特なネーミングですね。 そして嘘をつく神様。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ