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25話 もう一人の……

 神様と遭遇する、なんていうとんでも依頼が終わり……

 あれから、俺とルルは順調な冒険者ライフを送っていた。


 一日に一つか二つの依頼を請ける。

 一週間に一日は休みをとり、その日は二人の時間を過ごす。

 決して裕福な生活ではないものの、愛する人と一緒にいられるということはとても幸せなことだ。


 満ち足りた時間を過ごしていた。


 そんなある日のこと。


「悪魔……ですか?」


 いつものように依頼を請けるためにギルドに赴いたら、ギルドマスターに呼ばれた。

 不思議に思いつつ彼の執務室に移動したら、そこで、近くのダンジョンに悪魔が出現したという話を聞かされることに。


 ついついルルを見てしまうものの、ルルは、「我ではないぞ!?」という感じで首を横に振る。


「詳しく聞かせてもらえませんか?」

「ああ、もちろんだとも。そのために来てもらったのだからな。実は……」


 ギルドマスター曰く……


 街を出て一日ほどの場所に、新しいダンジョンが発見されたらしい。

 冒険者達は喜び、未踏破ダンジョンに挑戦したのだけど……

 そこで悪魔に遭遇して、命からがら逃げ帰ってきたという。


「……その悪魔って、本物なんですか?」

「当人達が言うには、悪魔としか思えない姿で……他の魔物と比べて、力も別格だったらしい」

「ふむ」


 ルルは神妙な顔になる。


「ギルドとしては、まずは真偽を確かめなければいけない。そこで、バーンクレッド君とルシフェル君に調査を依頼したい」

「俺達でいいんですか?」

「キミ達だからこそ、という考えがある」


 俺はともかく……

 たぶん、ルルを頼りにしているのだろう。


 ギルドマスターは、うっすらとだけどルルの正体に気づいている節がある。

 悪魔とまで見抜いているか、そこは不明だけど……

 レベルが異常に高いということは見抜いているのだろう。


 だからこその判断。

 本当に悪魔がいたとしても、無事に帰ることができると思っているのだろう。


「……旦那様よ。我は、この依頼を……」

「ああ」


 この先は聞かなくてもわかる。


「その依頼、請けます」




――――――――――




 悪魔がいるというダンジョンに到着して、慎重に奥へ進んでいく。

 今のところ、ルルと出会う前の俺でも対処できるような魔物ばかりで、なにも問題はない。


「ルル以外に悪魔っているの?」

「もちろん、いるぞ。いや……いた、と過去形にするべきか。大抵の悪魔は、過去、天使との戦いにより滅びたはずだ」

「天使もいるんだ」

「うむ。面倒で厄介で憎きあやつらは、八つ裂きにしても足りぬ。神の下僕を自称してやりたい放題で、とても憎たらしく……と、話が逸れたな。他の悪魔だが、過去に起きた天使との戦争で、その大半が滅びた。野良で生きている者もいるだろうが、その辺りはよくわからぬ。妾と同じように、封印されている者もいるだろうな」

「なら、今回の依頼は……」

「封印されていた悪魔が……という可能性はあるな」


 目撃されたという悪魔は本物なのか?

 それとも、ただの勘違いなのか?


 この先で俺達を待ち受けているのは、どちらだろう。


「……旦那様」

「ああ」


 ある程度、ダンジョンの奥に潜ったところで俺達は足を止めた。


 この先に誰かがいる。

 そう感じた俺は、すぅっと消えるかのように気配を消した。


「……って、旦那様?」

「どうかした?」

「あ、いや……こんなに近くにいるのに、まるで旦那様を感じることができなくて……気配を消すの、ものすごく上手ではないか?」

「そうかな? 今回が初めてだから、うまくいっているならいいんだけど」

「初めてぇ!?」

「ルルの真似をしてみたんだ」

「我の、って……いやいやいや。この一瞬で、我が積み重ねてきた技術の一部をあっさりと習得してしまうなんて……まぁ、旦那様ならアリなのか? なんかもう、この現実を当たり前のように受け入れないとダメに思えてきたのだ」

「ルルは大げさだな」


 俺にできるくらいだから、そこまですごいことではないはず。


「それよりも……」

「うん?」

「……気づかれたかな」

「あ」


 あれこれ話していたせいで、隠れている意味がなくなっていた。

 奥の方にある気配が鋭いものに変わる。


「ねぇ……なんか、あたしに用?」


 ゆっくりとした足音と共に、一人の女の子が現れた。


 明るい桃色の髪。

 ヘアアクセサリーなどで飾られていて、けっこう派手なのだけど……でも、不思議とよく似合っていて、こうじゃないと不自然と思うくらいだ。


 ボディラインは蠱惑的。

 露出も多く、ちょっと目のやり場に困ってしまう。


 そして……

 背中にルルと同じ羽が生えていて、お尻の辺りから尻尾が伸びていた。


「ルル」

「うむ、間違いない」


 見た目は普通の女の子だけど、その身に宿す魔力の量はすさまじい。

 また、自然と強烈なプレッシャーを放っていて、魔物が慌てて逃げ出していくのが見えた。


 彼女が噂の悪魔なのだろう。

 本物だ。


 真偽を確認できたから撤退してもいいんだけど……

 こんな機会はそうそうない。

 もう少し粘り、情報収集をしよう。


「あの……ちょっといいかな?」

「ん? なに?」

「えっと……俺達、冒険者なんだけど、少し話をしたくて。それで……」

「は?」


 冒険者と聞いた途端、女の子はこちらを睨みつけてきた。


「まーた来たの? あれだけボコしてやったのに、懲りないわね、人間ってやつは」

「え? あの、えっと……」

「ま、いいや。今度は全殺しにしようっと」

「えぇ!?」

「ばいばい」


 女の子はにっこりと笑い……

 こちらに突撃して、拳を振りかぶってきた。

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