12話 心のままに
「我は信じるぞ」
透き通るような声に誘われるかのように、彼女に視線が集中した。
それに怯むことなく、ルルは不敵な笑みを浮かべて、堂々と言い放つ。
「さっきから黙って聞いていれば、どういうことなのだ? そこの男の証言だけで、他になにも証拠はないのではないか? あるのか? あるのなら出してみろ。それができないのなら、たわけたことをぬかすでない。片方の言い分を一方的に信じるとか、お主達、頭がどうかしているのではないか? アホなのか?」
「「「なっ……!?」」」
いきなりの暴言に、トッグを含めて、その場にいる全員が顔をひきつらせた。
その様子に満足している様子で、ルルはニヤリと笑い、さらに言葉を続ける。
「冒険者ギルドは公平で寛大であると聞いていたが、とんでもない嘘のようだな。一方の主張だけを聞き入れて、もう一方の主張には耳を塞ぐ。はっ、公平が聞いて呆れるな」
「そ、それは、Aランクのトッグさんの話ならば信頼性は高く、また、彼のパーティーメンバーも同様の証言をしていたため、ギルドとしては正当性が高いと……」
「だから、なんだ? なぜ一方の主張だけを受け入れるのか、なんの説明にもなっていないぞ? 当事者の話だけで判断してしまうのなら、どうとでもできてしまうではないか。だからこそ、第三者の目が必要となるのではないか? それをしないというのは怠慢であり、公平ではない」
「うっ……」
反論できない様子で、受付嬢が押し黙る。
「そして……冒険者は、正義と誠実なる心を持っていると聞いたが、それもまた、ふざけたような嘘みたいだな。なぜ一方的に決めつける? なぜ話を聞こうとしない? それは、自分の都合の良い話だけを信じて、真実からは目を逸らしているという、愚かな行為に他ならないぞ?」
「け、けどよ、成り立ての新米と、きちんと実績を残してきたAランク……どちらの言葉の方が信憑性が高いか、わかるだろう?」
「それが思考放棄だというのだ、愚か者め。実績などを考慮するのは構わないが、最終的な判断に私情を挟んでしまうと、それは公平ではない。ただの個人的な考えだ。我の言う意味、わからないではあるまいな?」
「ぐっ……」
再びの正論に、同じく冒険者が黙る。
「で……話を元に戻すが、我は無実を信じているぞ? そして、ギルドと冒険者達は、愚かな判断をしないと信じているぞ? さあ、改めて賢明な判断を期待しようではないか!」
落として、持ち上げる。
うまい話の流れの作り方だ。
ルルが場のペースを完全に握っているため、こうなると断りづらい。
……ただ一人を除いて。
「てめえ……さっきから、いったいなんなんだ? どこの誰か知らねえが、いきなりしゃしゃり出てきて、人様にいちゃもんつけて。あぁ? いったい、何様なんだ!」
「ふふん、我か? 我は……」
ルルは、なぜかドヤ顔を決めてみせた。
「カイル・バーンクレッドの妻なのだ!」
……よかった。
大悪魔なのだ! って正体を暴露するんじゃないかと思っていたから、ちょっと安心。
さすがのルルも自重できたみたいだ。
一方、トッグは、珍しく間の抜けた驚き顔を披露していた。
「カイルの……妻、だと?」
「うむ! 我は、旦那様の妻なのだ!」
行動で証明するかのように、ルルは、笑顔で俺に抱きついてきた。
トッグが、さらに間の抜けた顔になる。
「……おい、カイル」
「なんだ?」
「てめえ、結婚なんてしてたのか……?」
「いや。あんたに罠にハメられた後、色々とあって……で、ルルと結婚したんだ」
「あー……そうか」
突然の展開に、さすがのトッグも驚きを隠せないみたいだ。
無理もない。
俺もまだ、これが夢じゃないかな? と思う時がある。
「……まあいい。そいつが、てめえの嫁だろうがなんだろうが、どうでもいい。っていうか、嫁っていうなら、カイルをかばうのは当たり前じゃねえか。身内の証言なんて甘いものほど信用性はねえよ」
「そうだそうだ」と周囲の冒険者が騒ぐが、ルルは呆れた様子で言う。
「それを言うならば、お前達も同じだろうに。自分とパーティーの証言。そして、繋がりのある冒険者同士の擁護……傍から見れば、信憑性なんてなにもないぞ?」
「ちっ……」
トッグ達の言い分が正しいと証明するものはない。
しかし、それはルルも同じだ。
水掛け論になってしまい、場が膠着してしまう。
「一つ、提案があるのだ」
先にルルが動いた。
「わかりやすく、拳で決着をつけるというのはどうなのだ?」
「あぁ?」
「人間は、己の誇りを賭けて決闘をするのだろう? ならば決闘をして、どちらの主張が正しいか決めようではないか。やや乱暴ではあるが、力こそ正義、というやつだな」
「……くはっ」
我慢できないという様子で、トッグが吹き出した。
「おいおいおい、いいのか? そんな条件で。俺とカイルが決闘? そんなの秒殺じゃねーか」
「うむ。旦那様がお前を秒殺だな」
「てめえ……」
「まあ、怖いというのなら、無理に受ける必要はない。旦那様は優しいから、弱いものいじめをする趣味はないからな。家に帰り、ママに甘えているがよい」
「……死にてえらしいな」
「おっと、勘違いするな? あくまでも、決闘相手は我ではなくて旦那様だぞ? それと、我は事実を口にしているだけにすぎないのだ」
「こいつ……!」
戦うとしたら俺になるのだから、あまり挑発しないでほしいのだけど……
とはいえ、ルルの提案はアリだ。
昔から冒険者同士のトラブルは多い。
今回のように、どちらも自分が正しいと主張して、しかし決定的な証拠がなくて、水掛け論になってしまうことも多い。
故に、最後の手段として決闘を用いられることは、ギルドの規約で認められていた。
とはいえ、正式な決闘となると、ギルドマスターの許可が必要なんだけど……
「……その決闘、私が認めようではないか」
「ギルドマスター!?」
受付嬢の視線の先を追いかけると、白髪の男性が姿を見せていた。
眼帯をつけて、杖をついている。
しかし、その動きに一切の無駄が感じられない。
「話は聞いていた。私としては、トッグ君を信じたいところではあるが……しかし、そちらのお嬢さんの言う通り、証拠がないのも事実。ならば、決闘で白黒をつけようではないか」
「おいおい……ギルドマスターまでこいつらの言う通りにするっていうのか?」
「なに。ギルドマスターとして、やるべきことをやっているだけだ。私は、いつでもどのような時でも、公正であらなければならないからね」
「……ちっ」
ドヤ顔で語るギルドマスターを見て、トッグが不快そうに小さく舌打ちをした。
「どうするかね?」
「……仕方ねえな。やればいいんだろ、やれば。はっ、よくよく考えてみれば、カイルが相手だ。秒殺は確定だな」
「よろしい……では、バーンクレッド君はどうするかね? 改めての確認となるが、トッグと決闘をするかな?」
「はい、します」
即答すると、ギルドマスターは満足そうに頷いた。
「よろしい。では、この私、ギルドマスターが二人の決闘を承認した。日程は……そうだね、三日後にしようか。ルールはギルドの規約を見てくれればわかる。各々、励んでほしい」
こうして俺は、トッグと決闘をすることになった。
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