11話 迫る悪意
「……どういうことだ?」
トッグは混乱していた。
カイルのレベルが1005と表示されたのが気になり、ちょくちょく冒険者証を確認していたのだけど、一向にバグが修正される様子がない。
それどころか、カイルのレベルがどんどん上昇して……
今では、1200に達していた。
でたらめな数字だ。
通常、バグなら数値が上下する。
あるいは表記がおかしくなる。
しかし、そういったことが起きる様子はない。
無茶苦茶な数字を除けば、冒険者証は正常に稼働しているように見えた。
「あのガキのレベルが1200……? いや。まさか、そんなことはありえねえ」
歴史に残る勇者でさえレベルは300ほどだった。
新米冒険者がその四倍なんてこと、絶対にありえない。
やはりバグなのだろう。
トッグはそう結論づけた。
「ただ……だんだん、街に近づいてきているな?」
大雑把ではあるものの、冒険者証を使うことで、パーティーを組んでいた相手の位置を知ることが可能だ。
カイルの反応は、だんだんと街に近づいていた。
この調子なら、あと一週間もすれば街に辿り着くだろう。
「ま、バグはどうでもいいとして……カイルが生きているっていうのなら、また利用させてもらうか。そのために……そうだな。色々と利用しやすいように、ちょっとした細工をしておこう」
トッグは黒い笑みを浮かべつつ、宿の部屋を後にした。
――――――――――
「よし、到着だ!」
大きくもなく、小さくもなく。
川と山に挟まれた街……『クレスト』。
冒険者の聖地と呼ばれているような街で、冒険者を始めるならここで、と言われているほど。
街に滞在する冒険者は、王都の次に多いらしい。
「特にトラブルなく移動することができてよかった」
「……」
「ルル? もしかして、歩き疲れた?」
「頭が疲れたのだ……」
移動の際、ほぼほぼ、ずっと勉強をしていたのだけど……
そのせいなのか、ルルは燃え尽きたような顔をしていた。
「あー……ごめん。さすがに、五徹は厳しかったかな? 無理をさせたか……」
「いや、旦那様が気にすることはないのだ……大変ではあったものの、旦那様と一緒に冒険を、という気持ちは我も同じ。むしろ、手加減しないで、みっちり教えてくれたことに感謝するぞ」
「そっか」
「……まあ、さすがに悪魔である我も疲れたが」
ははは、と乾いた笑いをこぼすルル。
本当に大丈夫か……?
「ルルなら絶対に合格できる。一緒に冒険できる日を楽しみにしているよ」
「うむ、我に任せるがよい! 人間の試験なんて、ちょちょいのちゃいなのだ!」
ルルは、ふふんとドヤ顔で……噛む。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
かぁー、っとルルの顔が赤くなる。
「……やり直してもよいか?」
「もう手遅れかな」
「はぅん……旦那様にかっこいいところを見せたかったのだ」
「いつも可愛いところをたくさん見ているから、それで十分だけど」
「か、きゃわ……!? もうもう、旦那様は我を喜ばせる天才なのだ!」
にこにこ笑顔のルルと一緒に、まずは宿を確保して……
それから冒険者ギルドに向かった。
――――――――――
「えっ!? 俺の冒険者資格が凍結されている!?」
ルルの冒険者試験の前に、現状を確認しようとしたんだけど……
俺の冒険者資格が凍結されていることが判明した。
「ど、どういうことですか!?」
「……バーンクレッドさんは、現在、仲間を見捨てての逃亡、パーティーの資金横領、意図的な妨害行為……などの容疑をかけられていまして。内容が内容なので、事の真偽がはっきりするまでは凍結させていただいています」
受付嬢に冷たく言われてしまう。
犯罪者を見るような、冷たい視線もセットだ。
逃亡に横領? 妨害?
そんなバカな。
どれも身に覚えがない。
いったい、どこの誰がこんな嘘を……
「よう、久しぶりだな」
「っ……!?」
忘れようとしても、絶対に忘れられない声。
俺はびくりと震えて、体を固くしてしまう。
ぎこちなく振り返ると……
「……トッグ……」
一時、パーティーを組んでいて。
そして、俺を罠にハメた『漆黒の牙』のリーダー、トッグがいた。
彼はニヤニヤと笑いつつ、楽しそうに言う。
「あれだけのことをしておいて、よくもまあ、また顔を出せたものだな。お前のせいで、俺達、『漆黒の牙』はけっこうな被害を受けたぜ」
「なにをでたらめを……! 俺はなにもしていないし、そもそも、犯罪めいたことをしたのはトッグ達だろう!?」
「おいおい、責任転嫁か? そんな言いがかり、信じてもらえるとでも?」
トッグは答えを求めるように周囲を見た。
受付嬢の視線は相変わらず冷たくて……
他の冒険者達も、蔑むような視線を向けてくる。
トッグはAランクパーティーのリーダーで、俺は、冒険者になったばかりの新米。
信頼も実績もなくて……
どちらの話を信じるか、少し考えればわかりそうなことだった。
誰にも信じてもらえない。
やはり俺は……
「我は信じるぞ」
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