第26話 マリーのサウンドトラック
◇理沙視点
翌日の放課後、私はショッピングモールに水着を買いに来た。
もちろん一人では心細いので、時雨と一緒。さらに言えばアドバイザーとしてもう一人追加で人を呼んだ。
「……というわけで、助っ人を呼んできた」
「やっほーしぐしぐ、お久しー」
テンションの高いその女子生徒は、私のクラスメイト。
融の親友である野口慶太の彼女である。
名前は実松麻李衣、この間のライブのときには撮影をしたり人を呼び寄せたりと、影の功労者として色々働きかけてくれた。
「さ、実松さん、お久しぶり……」
麻李衣とは顔見知り程度の面識しかない時雨は、彼女のテンションに若干引き気味。
時雨じゃなくてもこの距離感でいきなりあだ名で呼ばれれば、誰だってこんな感じになる。
「んもー、『実松さん』なんて堅苦しく呼ばなくていいって。麻李衣でいいよ」
「じゃ、じゃあ、麻李衣……ちゃん」
時雨は苦笑いを浮かべる。
あまりにも麻李衣と時雨でテンションが違いすぎるので、私としては連れてくるかどうかちょっと悩んだ。
でも、ファッションに関して彼女より詳しい人間を私は知らないので、連れてくる以外の選択肢がなかったわけだ。
私と時雨の2人で水着屋に突撃しようものなら、頭上にクエスチョンマークを大量に発生させながらわけもわからず変な水着を購入する未来だってあり得たのだ。
青春の1ページに羞恥にまみれたエピソードを刻みたくはないので、背に腹は代えられない。
「うひょー、しぐしぐに『マリーちゃん』なんて呼ばれちゃうのめっちゃテンション上がるー!今日は絶対に最高の水着を見つけようなっ!」
麻李衣は拳を突き出して得意気にそう言う。
いわゆる陽キャラというのは、彼女みたいな人間のことを言うのだろう。
「相変わらず麻李衣はテンション高いな……」
「そんなことないよ?むしろ、りさぽんとしぐしぐがローテンション過ぎるっていうかー」
「『りさぽん』はやめろ……、恥ずかし過ぎる」
「えー、可愛いじゃん『りさぽん』。呼びやすいし」
確かにあだ名の呼びやすさというのは重要かもしれないが、それ以上にそのあだ名が人に合っているかのほうが重要ではないかなと私は思う。
ゆえに、私のようなキャラで『りさぽん』なんて呼ばれるのは恥ずかしくてしょうがない。
そういうあだ名はもっと可愛いやつにつけるべきだ。例えば、時雨みたいな。
「それでそれで?2人ともどんな水着がいいわけ?」
「どんな水着って言ってもな……」
「うん……、正直よくわからないよね」
学校指定の水着以外買ったことのない私と時雨にとっては、このあたりのことはほぼちんぷんかんぷんと言っていい。
何が流行りでどれが定番でどうあれば無難であるのか、それすらわかっていないというのが正直なところ。
「んもう、2人ともバンドのやりすぎで女子高生らしいことすっかり忘れてない?水着ぐらい今のうちに着たいもの着ておかないと、歳をとったときに後悔するよ?」
「そう言われてもなあ……」
麻李衣はハァと軽くため息をつく。
私も時雨もオシャレに無頓着というわけでもないが、私服と水着ではやっぱり勝手が違う。
たまに麻李衣みたいなオシャレ番長から刺激を受けておかないと、あっという間に流行から置いてけぼりにされてしまうのかななんて思ったりした。
「まあでもそこんとこはアタシに任せなさい!2人にぴったりなやつを選んであげるから!」
自信たっぷりな麻李衣は私と時雨を連れて、このショッピングモールの中で1番水着の品揃えが良いというお店に来た。
ぱっと見、女性用の水着だけで壁ができている。そんな印象のお店。
以前東京の御茶ノ水で見た大手の楽器屋さんのギターやベースの陳列とはレベルが違う。
世の中にこんなにたくさんの種類の水着が存在するのかと思うぐらい圧巻の品揃えだった。
「こりゃ……、凄いな」
「も、ものすごい数だね……」
感嘆の声しか出ていない私と時雨の背中をポンと叩いて、麻李衣は私達を店内へ押し込もうとする。
「さあさあ、ボサッと立ってないで水着を探そう!」
「探すったって、こんなに大量の水着から選ぶのか?」
「もちろん!むしろこんなにたくさんあるんだから、絶対にお似合いのものが見つかるに決まってるじゃん!」
「麻李衣のそのポジティブさ、ぜひとも見習いたいものだな……」
皮肉っぽく私はそう言うけど、麻李衣は逆に褒め言葉だと捉えたらしい。なんだか嬉しそうである。
しかしながら何を基準に水着を選んだらいいのかさっぱりわからない。今年の流行色は赤みがかかったオレンジ色だという事は何かの雑誌かネットニュースで見た覚えがあるけれど、そんな色が私に似合うかと言えば否だ。
それに、正直なところあまり露骨に肌を出したくないという気持ちもある。誰が得するんだ、こんな可愛くもない女の水着姿。
時雨みたいな可愛い子の水着姿ならわかる。それなら私だって見たいぐらいだ。
……まあいいか、地味で無難なのを適当に選んでしまおう。
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サブタイトルの元ネタはGRAPEVINEの『マリーのサウンドトラック』です




