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幕間 SPARKLE

「……そうか、それが芝草の出した答えなら私は何も言わない」


 夏の暑さをたっぷりと含んだ風が、彼女の長い髪を揺らした。


テスト期間が終わり、間もなく夏休みを迎えようとする頃。僕はやっとのことで紡ぎ出した薫先輩への返事を、まさに今伝え終えたところである。


「……ごめんなさい。先輩が差し伸べてくれた手を振り払うような真似をしてしまって」


「なんだなんだ、そんなことをずっと気にしていたのか君は? そもそもその差し伸べた手が私のエゴなわけだし、そんなに気に病むこともない」


「先輩はそういう風に言える人だから、尚更なんですよ」


 すると、薫先輩はちょっと核心を突かれたかのように一瞬表情を変える。


「……参ったな。返す言葉がない」


 やれやれと笑う彼女は降参するかのように軽く両手を上げる。


「まったく、改めて君みたいな頼もしい人とバンドを組めているあの2人が羨ましい限りだ」


「そう言ってくれるのも、先輩だけですけどね」


 僕がそう言うと、2人で顔を見合わせて苦笑いをする。


 多分、薫先輩とはこの距離感がちょうどいい。

 彼女の言葉を借りるなら、『好き』ではなく『憧れ』のような気持ちが僕の中にはある。


 先輩のようになれたら、もっと迷いなく人生を進められていたのかもなと思うことが何度もあった。

 でもそれは、先輩の手を借りたからといってなし得るものではない。結局は自分で決めることなのだ。


 自分で導き出した答え――先輩の告白をお断りすることを僕はやっとの思いで伝えた。

 この決断に自信が持てるように、これからの僕は歩んでいかなければならない。


「……そういえば芝草、全然話が変わるんだが」


「なんですか?」


 そう言うと薫先輩は何かを取り出す。


「毎年親戚からナカジマスパークルランドの優待券を貰うんだが、私は夏期講習で行く暇が無いから欲しいかなと思ってな」


 薫先輩の手には、隣県の遊園地であるナカジマスパークルランドのペア入場券が2組、都合4人分の優待チケットが握られていた。


 この時期のスパークルランドは遊園地だけでなくプールも楽しめるので、夏休みのレジャーとしては申し分ない。

 その優待券をくれるというのであれば、貰わない理由がない。


「い、いいんですか? 値段を考えたら結構な額に……」


「そんなことを気にするな。どうせ使わなかったら紙切れになってしまうんだ、使わないことが一番勿体ない」


 薫先輩は最もらしいことを言って僕の手を取り、チケットを無理矢理握らせる。

 小さい頃におばあちゃん家に行ったとき、こんな感じでお小遣いを握らされたことをふと思い出した。


「バンドのメンバーと行って来たらいい。毎日毎日練習漬けだと、いくら好きなこととはいえストレスが溜まるものだ」


「あ、ありがとうございます。このお礼はいつか……」


「……本当に真面目なんだな芝草は。まあいい、私が君にお礼をして欲しいなと思ったとき、また君を呼ぶよ」


 僕は薫先輩のその言葉の意味がすぐには理解出来ず、ポカンとしていた。その隙に先輩は立ち去ってしまう。

 もうすこし何か話しておかなければと思ったのだけれども、何を話すべきかわからなかった。


 手元に残ったのは4人分のナカジマスパークルランドの優待券。チケットの期限は8月いっぱいで、スパークルランド自体はバスに乗ったらすぐに行ける場所にある。

 夏休み中に空いている日を見つけて、皆で行こうかなと思う。


 時雨と理沙と僕で3人、あと1人は誰を呼ぶべきだろうか。

 野口でも呼ぶか? いや、あいつは彼女がいるので単体で呼ぶわけにはいかない。野口の彼女だけ通常料金で入場させるのは、さすがに理不尽な気もする。

 まあ、そのへんは後々考えることにしよう。


 でもなんで薫先輩は僕にチケットを渡してきたのだろう。


 僕も高3のとき無理矢理夏期講習に参加させられたけど、うちの高校レベルの夏期講習はそんなに厳しいものじゃない。

 遊ぶ気になれば遊び呆けることだってできる。


 事実、1周目でのうちの姉は、夏期講習をサボってしこたま遊んだ。夏休みが終わる頃にはびっくりするぐらい日焼けしていて、留年して部活に現役復帰するのかと皆に噂されたぐらいだ。


 そんな余裕のある夏休みであるのに、薫先輩がチケットを僕に渡してきた。

 あまり考えたくはないけど、本当は僕と一緒に行こうとしていたのではないかと思ってしまう。


 薫先輩、僕、姉、姉の彼氏という感じでダブルデート。

 そんな計画が先輩の頭の中にはあったのかもしれない。

 僕が振ってしまったせいで、その計画がおじゃんになったのならば、ちょっと心が痛い。


 チケットを返したところで先輩は受け取ってはくれないだろう。それならばお言葉に甘えまくって、思いっきりこいつを使って遊んでやるのがスジってものだ。


 いつか先輩にはきちんとお礼をしなければなと思って部室へ向かうと、前枠で部室に入っていた人たちから何やら不穏な声が聞こえてくる。


「こんなベース、お前らしくない」


「……うるさい」


「なんか変なんだよ、俺が口出ししても今まではお前らしさがあったのに」


「うるさいって言ってるだろ!お前の言うとおり弾いてるんだから文句言うな!」


 間違いない。これは陽介と理沙の声。

 そして今まさに理沙の堪忍袋の緒が切れて、感情を爆発させているところだった。

読んで頂きありがとうございます


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います

よろしくお願いします!


サブタイトルの元ネタは、山下達郎の『SPARKLE』です!


活動報告でも書きましたが、次回更新を延期させてください

大変ご迷惑をおかけしますm(_ _)m

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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https://book1.adouzi.eu.org/n3566ie/

こちらもよろしくお願いします!!!
― 新着の感想 ―
[良い点] 断ったのか。 ほんとよかったわ [気になる点] この後先輩が容易に想像出来るのが辛い [一言] 個性ぶつかり合うとほんと収拾つかなくなるのめっちゃわかる
[一言] ダブルデートの最後の一人、決まったか? お前らしくないと言えるあたり、陽介も理沙の事を理解はしていそうだが…。
[気になる点] イフとして、時雨と出会ってもバンドを組んだりしていなかったら、芝草君は薫先輩と付き合っていましたか? [一言] 理沙はベースにお悩み中ですね
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