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第19話 Funny Burny

 ◇時雨視点


 部室でのレコーディングの途中、突然岩本くんが私に対してこんなことを言い始めた。


「奈良原はさ、どんな時に曲が思いつくんだ?」


「どんな時って……、あまり考えた事なかったかも」


 理沙は集中が切れたと言って、購買に行ってしまった。

 岩本くんと2人きりになって気まずいなと思っていた矢先、彼は私に質問を投げかけてくる。


「例えば、風呂に浸かっててリラックスしているときとか、眠たくてウトウトしているときとか、そんな時に思いついたりしないか?」


「うーん……、言われてみればそんな気もするかもだけど……」


 アイデアはリラックスしているときに浮かぶなんていうのは私も聞いたことがある。

 けれども、こと曲作りに関してはあんまりそんな気がしない。曲が出来るときというのは、いつでも唐突に訪れるのだ。


 質問に対する回答がぼんやりしてしまって、私は少し困ってしまった。

 それにしたって岩本くんはなんでいきなりこんなことを聞いてきたのだろう。


「ああ、いや、単純に自分以外のヤツがどういう曲作りをしているか気になってな」


「そ、そうなんだ。私ってば、全然そんなの気にしたことなくて……」


「意識せずにあんな曲が書けるんなら、それはそれで奈良原の才能だと思う」


「才能だなんてそんなこと……」


 思わぬ形で褒められてしまい、私はさらに困惑する。

 岩本くんだって、かなり勉強や試行を重ねていて良い曲を書いているわけだから、別にそこまで褒められる必要なんてないと思ってしまう。


「俺は理論的なところに頼り切っているせいか、出来上がった曲はどうも工業製品的というか、悪くはないけど良くもない感じがしててな」


「そんなことないと思うよ? この間のライブのときの曲もカッコ良かったし」


「あの曲だけはなんだか特別なんだ。でもなぜかそれ以外の曲はあんな風にならない。その原因がまだ突き詰めきれてないんだ」


 その言葉から私は、作曲家というよりは技術者という印象を岩本くんから受けた。

 曲のカッコ良さという抽象的なことではあるけど、それを突き詰めるためにとにかく理詰めでアプローチしていく、そんなスタイル。


 感覚的な私とはかなりやり方が違うけど、彼だって十分に尊敬できる領域にいると思う。

 このレコーディングの合間合間にも、勉強になることはたくさんある。私はとにかくそれを吸収しようと必死だ。


「――まあ、考えたところでわかんないこともたくさんある。でも絶対に奈良原よりカッコ良い曲を書いてみせるから、楽しみにしておいてくれよな」


「……うん」


 私は頷くと、少し暖かい気持ちになっていた事に気がついた。

 今までは孤独に曲を作っていたけど、同じように良い曲を書こうと試行錯誤している人が身近にいる。


 岩本くんと切磋琢磨して、もっとお互いに良い曲を作れるようになれればいい。

 私がレベルアップすれば、もっと融とバンドが出来るはず。彼にもたれかかるだけではなく、何かを与えられる、そんな存在にだってなれる。そう思った。



 理沙が購買から帰ってきたところで、机に置いてあった岩本くんのスマホがブルッと震えた。

 誰かからの電話だろう。彼はスマホを手にとって電話に出た。


「もしもし、どうしたんだいきなり? ……え? ライブのチケットが捌けないからなんとかしてくれって?」


 電話相手は岩本くんのバンド仲間のようだった。

 どうやら、ライブを演ろうとしているのだけどチケットが捌けなくて困っているみたい。


 売れているバンドならともかく、そうでないバンドはライブをやるだけでも金銭的に大変だと融が言っていたのを思い出した。

 チケットを売るのにもノルマがあるのだとか。


「……わかったよ、ちょっと聞いてみるからまた折り返す。あんまり期待はすんなよ、じゃあな」


 岩本くんは電話を切って私達の方を向く。

 なんとなくこれから彼が言うであろう言葉は予想がつく。


「聞いてて大体察しがつくとは思うんだけどさ……、俺のダチのライブに行かないか? チケットが売れなくて困ってるみたいなんだ」


「なんでお前のダチなんか……、と言いたいところだけど、割とアリだ」


 渋い返事をするかと思っていたのだけど、案外理沙は乗り気で驚いた。


「なんてったってレコーディングで疲れたからな。気分転換に他人様のライブを観るのもいいだろ」


「じゃ、じゃあ私も行こうかな……。ライブハウスって行ったことないし」


 理沙につられた私は、本当に興味本位でただライブハウスに行ってみたい一心でそう言った。


「本当か! そう言って貰えると助かるわ、ダチのバンドみんな喜ぶよ」


 岩本くんいわく、いくつかいる出演バンドの中に、地元の物凄く上手いバンドがいるとのこと。

 演奏についても勉強になるだろうし、どういうアプローチで曲を作っているのか観察する良い機会にもなるだろう。

 まさに、『渡りに舟』と言った感じ。


「それで? そのライブはいつなんだ?」


 肝心な日時を聞き忘れていたところで、理沙が岩本くんへ問いかける。


「明日だ」


「……またいきなりだな」


「場所はBURNYってライブハウスだ。俺が案内するから、17時半くらいに駅に集合してくれればいい」


 初めてのライブハウス参戦は心の準備をする間もなく、いきなりやってくるのであった。

案外怖さは無く、むしろ私はなんだか楽しみでワクワクしていた。

読んで頂きありがとうございます!

次回更新は8/28日曜日を予定してます


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います


また、新作も投稿してますのでよろしくお願いします!


サブタイトルの元ネタはpillowsの『Funny Burny』てす!

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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https://book1.adouzi.eu.org/n3566ie/

こちらもよろしくお願いします!!!
― 新着の感想 ―
[良い点] FunnyBunny本当にいい曲ですよね。 僕の一番好きな曲です。
[良い点] pillows好きなのでタイトル見てニヤニヤしてます! [気になる点] あとがきに書いてあるpillowsの『Funny Bunny』が『Funny Burny』になっちゃってます。 タ…
[一言] なるほど。で、第2部8話の終わりに繋がるんですな。視点を替えて、あの時どう思ってたのかが明らかになるんですね。
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