第12話 限界LOVERS
BURNYでの騒がしい打ち上げは段々と落ち着きを見せていき、開始から1時間半もすると解散の雰囲気になった。
ここから飲み直す人はまた別の店にでも行って飲むだろう。
僕みたいなただのお客さんである高校生は、早く帰らないとお巡りさんに注意されてしまうような時間帯になってくる。
「悪い芝草、私はもうちょっとユキさんの手伝いをしていくから先に帰っててくれ。……変な寄り道はするなよ? 部長として、部員がお巡りさんの世話になるのは勘弁だ」
「わかりました。先輩も遅くならないようにしてくださいね」
薫先輩に先に帰るよう言われた僕は、素直にそれに従ったふりをする。
とりあえずライブハウスから立ち去る姿を先輩に見せておいて、その後は建山さんの動向を探るべく刑事ドラマの刑事さんばりに張り込みだ。
BURNYの面した通りから一本入ったところにある、あまりひと気のない路地裏。
打ち上げが終わってしばらくすると、そこには建山さんが現れた。
彼は2次会に行くでもなく、ましてや帰る様子もない。そこでスマホを弄りながら誰かを待っている。
「建山さん、お待たせしました。すいません遅くなって」
膠着状態を引き裂くような少女の声が路地裏に響く。
暇そうにしている建山さんのもとに現れたのは、やっぱり薫先輩だった。
「おー関根、お疲れお疲れ。客なのにドリンカーやるなんて大変だったでしょ」
「いえいえ、あれはあれでいろんな人とお話できるので楽しいもんですよ。建山さんこそお疲れ様です」
「いやー、別にこれぐらいじゃ疲れねえって。夜はまだ長いんだし」
建山さんはほろ酔い上機嫌といった感じ。普段から酒が入るとこのぐらいのテンションが長く続く。
「それで……、話ってなんですか?」
薫先輩は不思議そうに建山さんへ訊く。
わざわざ話があると言って引き止められると、なんだか重要なことを打ち明けられそうなものだが、建山さんの場合はそうではない。
「なあに単純なことよ。これから俺と2人で遊びに行かない?」
「えっ……、でももう夜も遅いし……」
「大丈夫大丈夫、ちゃーんと場所は選ぶからさ。打ち上げのときあんまり関根と話が出来なかったし、もうちょいお喋りしたいなって思って」
建山さんは薫先輩の罪悪感や良心を埋めていくかのように、次々と言葉を紡ぐ。
そういう風にして何人もの女性を相手にしてきたのだろう。わざとらしい感じはなく、とても小慣れていて自然に見える。
「……さすがに遠慮しておきます。確かに建山さんと喋りたいことはありますけど、また今度の機会でも……」
「また今度なんていつになるかわかんないじゃん。もしかしたら俺、デビューが決まって上京しちゃうかもなんだぜ?」
さすがの薫先輩もその言葉には反応せざるを得なかった。
いや、本当は建山さんが薫先輩の気を引くために、でまかせで言った嘘かもしれない。
それでも嘘か本当かの判断をつけるのは、今の先輩には難しいはず。
もしかしたら建山さんと会うのはここで最後になるかもしれないということになれば、先輩の心の中にも迷いが生じる。
「そ、それは本当なんですか……? デビューなんてそんな……」
「ああ、そういう話はあるっちゃある。……まあ、受けるかどうかは俺一人じゃ決められないけどな」
憧れの先輩がどこか遠くへ行ってしまう。
そんな事実を突きつけられてしまった薫先輩は、何か焦っているような、それでいて困惑しているような表情を浮かべた。
「だからちょっとだけ2人で話そうよ、なっ? お代は全部俺が奢るし、別に帰りたくなったら帰っていいしさ」
そう言って建山さんは薫先輩の手を取ろうとする。
これも何十回と経験してきた仕草なのだろう。慣れきっていて下心すら感じさせないような自然なやり口は、純情乙女な薫先輩には見抜けやしない。
「で、でも……、私……」
「大丈夫だから、何かあったら全部俺のせいにしていいって」
「そんなこと……」
先輩が困っている。
僕が出るならここしかない、そう思うよりも先に身体が動いていた。
「……そこまでです、建山さん」
僕は薫先輩の手を取ろうとしている建山さんの腕を払った。突然現れた僕の姿に、2人とも驚いている。
「し、芝草っ……?」
「なっ……! お前、一体どこから……!?」
いつも建山さんはこのやり方で上手くいってたのだろう。
水を差されるとは思っていなかったのか、建山さんはちょっとだけ焦りを見せる。
長話をする気はない。さっさと先輩を連れて帰ろう。
「薫先輩、帰りましょう。お巡りさんの世話になるなと言ったの、先輩ですよね」
「た、確かにそうだな……。ハハハ……」
バツが悪そうに薫先輩は笑う。
自分で早く帰れと僕に行っておきながらこの体たらくだと、さすがに先輩として気まずいだろう。後できちんとフォローしなければ。
「……おい、ちょっと待てよ。もしかしてお前ら俺をハメようとしてたのか?」
「そんなつもりはないですよ。ただ先輩が深夜にうろついてお巡りさんのお世話になったら、進路にも響くかなって思っただけです」
「余計なことしやがって……!」
「あと建山さん、女子高生に手を出すのはご法度ですよ」
「なっ……!」
最後の一言で彼の逆鱗に触れた気がした。
このまま何発か拳を受けてしまうのも僕は覚悟している。
でもそれで先輩の未来が守れるのなら安いなと思った。
しかし、建山さんからの一撃が来る前に、まさかまさかの展開が待っていた。
「はーい、そこまで。薫、ありがとねー」
まるで映画の撮影でカットを入れる監督のように現れたのは、ユキさんだった。
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サブタイトルの元ネタはSHOW-YAの『限界LOVERS』です!どちゃくちゃカッコいいので爆音で聴いてね!




