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第10話 TSUNAMI

 今日の出演バンドは4つ。

 とは言いつつも、お客さんのお目当てはトリである『Sleepwalking androids』だ。


 建山さんがドラムを務めるこのバンドは、いわゆるエモとかスクリーモと呼ばれるラウド系のバンド。

 国内シーンにおいても2010年代前半はラウド系バンドが次々と頭角を顕してきた時期で、例に漏れず彼らもメジャーデビューの声がかかるかもというところまで来ていた。


 実際本当にデビューするのではないかと当時の僕も期待していたのだけれども、彼らはその前に解散してしまった。


 表向きその理由は音楽性の違いなんてことになっていたりする。けど、長年バンドをやってきた僕にはわかる。


 バンドが壊れるときというのは、大体お金か性のトラブルがある。

 真実は知らないけども、建山さんの女癖の悪さが関係しているのではと僕は睨んでいる。


 考えたくはないけど、そのトラブルに薫先輩が巻き込まれていたとなれば目も当てられない。

 だから今のうちに、建山さんの本性を薫先輩は知っておくべきだと思う。


 でも、どうやったらそんなことが出来るだろうか?


 今の薫先輩は強い憧れを建山さんに抱いている。何なら少し盲目的と言ってもいい。

 だから薫先輩に建山さんがトラブルメーカーであることを認識させるには、ちょっと刺激的なイベントでも起こさなければならないのではと僕は思ってしまうのだ。


 頭の中で答えにならない思考を巡らせているうちに、タイムテーブルはどんどん進んでいく。

 前の3組の演奏など全く頭に入らないまま、ついにSleepwalking androids出番を迎える時刻になった。



 Sleepwalking androidsは、ボーカル、ギター、ベース、ドラムの4人組。建山さんが高校卒業後、中学の同級生を集めて組んだバンドらしい。


 登場のBGMがフェードアウトすると、発振系のファズが効いた電子音みたいなギターの音が響き渡り、まるでそれを追いかけてくる津波のようなラウドなサウンドが襲ってきた。


 僕はその楽曲の完成度に驚かされる。


 やはり建山さんをはじめとする演奏陣のレベルが高いのだ。この時期、地元では恐らく彼らより上手いバンドはいないだろう。


 激しい曲をいくつもこなしているのに、彼のプレイングはへばる気配を見せない。それどころか、むしろギアが上がっているのではないかという印象さえ受けるのだ。


 当たり前だが、ドラマーというのは他の3人よりステージの後ろ側に陣取っている。にも関わらず、建山さんはグイグイ前に出てバンドを引っ張るフロントマンみたいな存在感があるのだ。


 いつの間にか視線がドラマーに向いてしまう、そんな不思議な魅力というのが薫先輩が建山さんに憧れる理由なんだろう。


「やっぱり建山さんは凄いな。芝草もビビっただろう?」


 演奏が終わり、今日のライブは大団円となった。

 あの圧倒的な技術に、僕も薫先輩も度肝を抜かれている。


「は、はい……、ちょっとあれには敵わないです」


 正直な感想を言うと、ドラムの演奏に関しては完敗だ。10年前の建山さんは既に、10年アドバンテージのある僕を超えていると思う。


 僕が全面降伏するようにやれやれとため息をつくと、すかさず薫先輩はフォローを入れてくる。


「なに言ってるんだよ。プレイスタイルは違うが、芝草だってあんな感じに叩いていたじゃないか。十分君のドラムは通用する――」


「……いいんですよ先輩、無理にお世辞なんか言わなくて」


 薫先輩の言葉を遮るように、僕はそんなことを言ってしまう。

 本当は褒めてくれて嬉しいのに、どうしてかそれで喜んでしまう自分が許せなかった。


 ここで満足してしまったら、時雨も理沙も僕を置いてどこかに行ってしまうんじゃないかと、そんな焦燥感がずっと離れないのだ。


 早く上達しなければ。


 僕は今すぐにでも練習をしたい衝動に駆られていた。

 しかし、その焦りをかき消すかのように、僕らの目の前にはある男が現れる。


「よう関根じゃん、久しぶり。来てくれてありがとうね」


「建山さん、お疲れ様です。ライブめちゃくちゃ凄かったです!」


 ライブを終えて、建山さんが挨拶をしにやってきた。


 女たらしと言うだけにさぞかし顔が良いのかと思うだろうが、実際のところ男前の陽介なんかに比べたらごくごく普通の人だ。

 でも喋るとめちゃくちゃ気さくだし、すぐに友達になれそうなタイプである。それ故に距離が縮まりやすく、簡単に心を許してしまいやすい。


 数多の女性が建山さんの魔の手に引っかかるのは、彼のそういう気質のせいだろう。


「あれ? その後ろの子は初めて見るね? 関根の後輩?」


「そうですよ。うちの期待の1年です」


 僕は薫先輩から紹介され、思わず背筋を伸ばしてしまう。


「ど、どうも、芝草融って言います。よろしくお願いします」


「ハハハ、そんなに固くなんなくてもいいって。俺、別に威厳のある先輩じゃねーし。歳だって4コぐらいしか変わらないだろ?そんなん気にすんな気にすんな」


 建山さんは軽くそんなことを言う。

 この軽さのおかげで助けられたこともあるし、困らせられたこともある。


 でも2周目となればそれは関係ない。

 とにかく今は薫先輩を建山さんから救い出さなくては。


「あっ、そうだ、これから打ち上げやるんだけど2人もどう? ソフトドリンクだけならタダだよ」


「もちろん! 芝草もどうだ?」


 僕はその勢いに一瞬たじろいだ後、「はい、出ます」とだけ言った。

読んで頂きありがとうございます!


ちょっと書き溜めが出来たので本日も更新できました、いつもご贔屓いただきありがとうございますm(_ _)m


基本隔日更新で、筆が進んだらこんな感じにポロリしていこうと思います( `ᾥ´ )


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います


元ネタは言わなくても分かりますね?(笑)

サザンオールスターズの『TSUNAMI』です!

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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https://book1.adouzi.eu.org/n3566ie/

こちらもよろしくお願いします!!!
― 新着の感想 ―
[気になる点] ……そのソフトドリンク 青く変色してません?大丈夫?
[一言] 打ち上げ…心のアラートが鳴り続ける
[一言] 女癖の悪い奴って、ソフトドリンクと言って口当たりが良いけどアルコール度数の高いカクテルを飲ませるのが定番ですよねぇ
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