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第38話 君になりたい

 2泊3日のバンド合宿はあっという間だった。


 普段の退屈な授業も、これぐらいあっという間に過ぎ去ってくれればいいのにと思う。

 でも悲しいことに、退屈なことほどなかなか過ぎ去ってくれない。それはタイムリープして時間を巻き戻したとしてもも同じことだった。


 オリジナル曲のアレンジも固まり、コピー曲の完成度も申し分ない。あとは、無事にステージで演奏出来れば十分に勝機はある。


「よーし、みんな忘れ物はないかー?」


「オッケー」


「大丈夫」


 まるで遠足のときの引率の先生のように理沙が最終確認をする。

 来たときは僕が案内をしていたはずなのに、いつの間にかこんな感じで理沙がまとめ役になっていた。これも政治家の血なのだろうか。


 合宿所を出て、行きと同じバスに揺られる。そうしていつの間にか、最寄り駅のバスターミナルにたどり着いていた。


「それじゃあ明日は適当な時間に登校しよう。なんなら、ずっと屋上に居たっていい」


「そうだな、ライブまではそんな感じでやり過ごしていいだろ」


 僕と理沙は楽観的にそんな事を考える。

 ここ何日か学校をサボったことは未来の自分がなんとかしてくれるだろうと、それぐらいの気持ちだった。


「2人とも、本当に私のためなんかに……」


「いいんだよ、何度も言うけどこの3人でひとつのバンドなんだ。もし今度、僕や理沙が時雨みたいに苦しい状況になったら、その時助けてくれればいい」


「ああ、一蓮托生ってやつだな」


「……それ、あんまり良い意味じゃない気がするんだけど」


 僕らはハハハと笑う。


 一蓮托生でも一心同体でも呉越同舟でもなんでもいい。

 苦難を乗り越えるために手を取り合える仲間がいて、本当に良かった。


 1周目の僕が今の僕をみたら、少しは羨ましがるだろうか。


 ◆


 翌日、金曜日。


 時雨と理沙は気分に任せて登校させるとして、僕は僕でやりたいことがあるので早めに学校に来た。

 僕は早速、軽音楽部の部長である薫先輩のもとへ部室の鍵を借りに向かった。


 狙いは先日のスネアヘッドズタズタ事件の犯人探し。奴がもう一度動くならばそれは今日しかない。

 だったら少し罠を仕掛けておいて、尻尾を出すのを待ち構えようという作戦だ。


事情を話すと、薫先輩は大層な驚きようだった。


「……そんな事があったのか。もっと早く言ってくれたら私も金村先生も対応出来たのだが」


「いえいえ、そこまで大事になるのは僕らも望んではいないので。ちょっと犯人にお灸を据えるくらいのことをしてやろうかなと。それに、部長の協力も必要ですし」


「わかった。そういうことなら私もひと肌脱ごう。この部にそんな事をするやつがいるなら、きちんと正してやらなければならないからな」


「ありがとうございます」


 僕は薫先輩に頭を下げる。

 この人が本当に話のわかる人で助かった。なんなら、1周目の時ももっと頼りにすればよかったなと思うぐらいだ。


 僕は先輩を連れて軽音楽部の部室へやって来た。

 鍵を開けて部室の中に入ると、僕は自分のスネアケースを棚に置く。


 このままにしておいたら、おそらく犯人は僕のスネアケースを開けて中身にいたずらをするだろう。

 そんなことはわかりきっているので、僕はダイヤル式の南京錠をスネアケースに取り付けた。


 これで中身に危害を加えられる心配は減るが、これだけではケースごと持ち去られてしまう可能性もある。

 そこで僕はもう一つ策を打つ。


「じゃあ部長、すいませんけど、このキーホルダーをちょっと貸してください」


「ああ、構わないぞ。……しかし、本当にそれでうまく行くのか?」


「大丈夫です。僕を信じてくださいよ」


 僕は、自分のスネアケースの隣に置いてあった薫先輩のスネアケースから、ミサンガのようなカラフルなキーホルダーを取り外し、自分のにつけ直した。


 そう、実は僕と薫先輩のスネアケースは、偶然にも同じ型のものだったのだ。

 違うところといえば、中身のスネアドラムとこのカラフルなキーホルダー程度。


 両方のケースに錠前をかけて中身が確認できないとなれば、犯人はこのキーホルダーのない方を目印にスネアケースへ手を出すだろう。そう僕は考えた。


 もちろん、何も起こらないならそれに越したことはない。

 でも何かが起こったらリスクを背負うのは部長の方だ。

 そんな賭けに協力してくれるのだから、この人は本当に人格者なのだろう。頼り甲斐があって尊敬できる、理想の上司みたいな人だ。


 ……僕、会社員になったことないけどね。


「ありがとうございます。本当は何も起こらないほうがいいんですけど、すいません」


「謝ることはない。それにしても、仲間を守るために芝草がそこまでしていたとはな。大したヤツだよお前は」


 薫先輩は半分呆れたようにそう言う。


 事の成り行きを説明する上で、やむを得ずこの3日間学校をサボったことも話してしまった。それでも薫先輩は僕をバカにしたりはしなかった。


 むしろ、そこまでの行動力をちょっと褒められてしまったぐらいだ。なんだか恥ずかしい。


 本当に大した人なのは、間違いなく彼女の方だろう。

 僕も、こんな器量の大きな人になりたいなと思った。

読んで頂きありがとうございます!


皆さんの応援が力になります!よろしくお願いします!


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います


ちなみにサブタイトルの元ネタはcinema staffの『君になりたい』です

カッコいいのでぜひ聴いてみてください

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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https://book1.adouzi.eu.org/n3566ie/

こちらもよろしくお願いします!!!
― 新着の感想 ―
[良い点] サブタイを曲名から引用するの、なんつーかすげーいいっすね!
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