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第29話 犬にしてくれ

 いつものマクドナルドの2階席。恒例のバンドミーティングが始まっていた。


「――と、いうわけなんだ」


「まあいいんじゃないか?どうせあの岩本ってやつと交渉したって日が暮れるだけだったろうし。それに、ライブとか楽しそうじゃん」


「……私もそれでいいと思う」


 ミーティングで起こった事の顛末を二人へ説明すると、案外あっさりと納得してくれた。


 そうと決まればあとは練習あるのみ。オリジナル曲は『時雨』をブラッシュアップするとして、あとはコピー曲を決める必要がある。


「コピー曲か……、私は特にこだわりはないけれど、時雨が歌うんならラモーンズじゃまずいよなあ」


「そ、それはそれで見てみたい気もするけど、また別の機会かな……」


 理沙ならどんな曲でも対応してくれるだろうけど、やっぱりパンクが演りたいらしい。

 彼女のことだ、いざラモーンズのコピーでもやろうものなら、衣装までばっちり決め込むだろう。


 革ジャン、スキニージーンズ、サングラスのラモーンズらしいニューヨークパンクスタイルな時雨を想像したらちょっと吹き出しそうになってしまった。


「……私は、やっぱりガールズバンドのコピーをしたほうがいいと思う。男の人の歌だと、キーを変えたりアレンジを変えたり、それだけで大変」


「確かに時雨の言うとおりだね。実際のところあまり練習時間に余裕もないし、楽譜スコアそのままコピー出来る方がありがたい」


 勝負は2週間後。時間が限られている以上、余計な手間は出来るだけ省きたい。

 そうなればコピー曲は早めに決めておいて、とにかくひたすら練習するのが正攻法だろう。


「じゃあこれから僕んちに来なよ。バンドスコアなら結構持ってるから、その中から探そう」


 すると、その言葉を聞いた二人は目を見開いて僕の方を見る。


「……あれ?僕なんか変なことを言った……?」


「い、いや、融ってそうやってしれっと自分の部屋に女子連れ込むんだなって……」


「うん」


「いやいやいやいや!それはちょっと誤解だよ!バンドメンバーで集まるぐらいしれっとやらせてくれよ!」


 何かあらぬ誤解をされているけどそういう意図は全くない。


 むしろ僕が時雨の部屋に行くのもなんだし、ましてや県議会議員のお宅(理沙の家)に行くのもはばかられる。

 それならここから距離も近いから、僕の家でコピー曲探しをするのが一番良い。ただそれだけ。他意はない……はず。


 ◆


「おー、やっぱり予想通り融の部屋って感じだな」


 人気バンドのポスターが貼られている壁と、漫画や小説、バンドスコアやCD、音楽雑誌が整理されていたりされていなかったりする棚や机を見て、理沙は率直な感想を述べた。


「予想通りって……、そんなに僕の部屋は僕っぽかった?」


「そうだな、趣味全開なところとか、片付けが行き届いてないところとか」


「ご、ごめんよ……、もうすこし片付けるようにするから」


 普段からきちんと片付けができる人が羨ましい。

 整理、整頓、清掃、清潔は全ての基本だと言うから、今後はもうちょっと意識しなければ。人を呼ぶならなおさらだ。


「……時雨?そんなに棚をぼーっと見てどうしたんだ?」


 部屋全体を見回す理沙とは違い、時雨は僕の部屋に足を踏み入れるなり、CDの並んでいる棚をずっと眺めている。


 ちなみに家に入った時も飼犬のペロとずっとにらめっこしていた。時雨の家では犬を飼えないようなので、飼犬に対する憧れがあるらしい。

 だから多分時雨は、興味があるものに関してはずっと眺めてしまう癖みたいなのがあるんだろう。


「……ええっと、聴いてみたいのいっぱいあるなって」


「良かったら借りてってもいいよ」


「ほんと?いいの?」


「もちろんだよ。ただし、コピー曲を先に決めてからね」


 時雨は嬉しそうにコクリと首を縦に振った。僕はそれにちょっとドキドキしてしまう。


 僕の音楽の趣味に興味があると言われると、何かこう嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちになる。でも、こうやって時雨と共有できるものが増えるのであれば、それは喜ばしいことだろう。


「……さて、改めて本題に入るわけだけど」


 僕は再度バンドミーティングを始めようと、二人を集めて咳払いをした。

 すると、議論をする間もなく理沙がこんなことを言い始める。


「それならさっき、あのバンドスコアの積まれた山から良さげなのを見つけたぞ」


 理沙が取り出したのは1冊のバンドスコアだ。青地に黒で女性メンバー3人の顔が描かれている特徴的なジャケット。

 このバンドのアルバムは、僕も爆音で何度も聴いた。


 まったく、理沙ったらいつの間に見つけ出したんだろう。


「ガールズバンドで3人で演奏できてみんなが知ってそうなのって、もうこれしかないと思ってさ」


 理沙はそのバンドスコアの中から、キラーチューンとも言えるとある曲のページを開いた。

 それを見て僕は納得する。


「確かに曲もキャッチーだからいいかもね。時雨はどう?」


「うん、それでいい」


 時雨も異議はないらしい。


 長引くかなと思っていた議論は、意外とあっさり決まってしまった。僕の部屋でミーティングをしたのが結果的に功を奏したのかもしれない。


 これからはマクドナルドじゃなくてうちでミーティングを開催しようかな。

読んで頂きありがとうございます!


皆様の応援が力になります!よろしくお願いします!


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います!



ちなみにサブタイトルの元ネタは忘れらんねえよの『犬にしてくれ』だったりします

カッコいいのでそちらもぜひ聴いてみてください

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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https://book1.adouzi.eu.org/n3566ie/

こちらもよろしくお願いします!!!
― 新着の感想 ―
え、あの歌もう10年以上前なの? 電気グルーヴのも20年くらい前かと思いきや30年経っとる… どっかの時間ふっ飛ばすスタンドのせいか?
[一言] 贅沢は味方 もっと 欲しがります 負けたって
[良い点] ・二人を部屋に連れ込んだ融…。二人だよ!二人!(笑) [一言] 部屋を見られるってなんだか恥ずかしいけど、バンドのためだから!
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