第28話 決戦は金曜日
「はぁ!?『未完成フェスティバル』の参加権をよこせだと!?」
「そ、そうは言ってないだろ……。とにかく、よく話し合えと金村先生が言うんだ」
軽音楽部の週1で開催されるミーティングの日。僕は思い切って陽介に『未完成フェスティバル』の参加について話を切り出した。
もちろん、陽介から返ってきたのは今の怒号みたいな声だ。我が強い彼のことなので、これ以上建設的な対話ができるかと言われると答えは否だろう。
「そもそも俺達が先に応募しようと先生に許可貰いに行ったんだ。普通に考えて早い者勝ちだろ?遅れてやって来たお前らがそんなこと言う資格ねえよ」
「だ、だからまだ正式に承諾されていないらしくてね……」
「そんなんお前らが取り下げれば済む話だろ?こっちにはそんなことしてやる義理はねえんだよ」
まあもっともらしいといえばもっともらしい。
遅れてやって来たのは僕らだから、それに甘んじろと言われればそうするべきなのだろう。
でもこっちだってなんとしても『未完成フェスティバル』には出たい。
時雨が珍しくあれほど我を出すぐらいなのだ、出来ることならあの舞台に彼女を立たせてやりたいと僕は思う。
話し合いは平行線。さらに言えば存在する平面が違うんじゃないかってぐらいお互いの折り合いがつかない。
持ち前のしつこさを活かしても、陽介から撤退の意思を引き出すのはちょっと難しいと思われた。
「どうしたんだい1年坊主、なんの揉め事?」
ジリ貧耐久戦の様相を見せていた交渉に、割って入ってきたひとりの女子生徒。この軽音楽部の部長を勤める、3年の関根薫先輩だ。
髪は黒髪ロングで、それをシンプルにポニーテールで纏め上げている。1周目のときは、美人で姉御肌のいい先輩という印象だった。
髪をおろしたほうが美人に見えると言う声をよくきくが、彼女はそれをしない。
なぜなら、薫先輩は超がつくほどのヘビーメタラーでなおかつ、この部で一番激しいドラムを奏でるプレイヤーだから。髪の毛は束ねておかないと大変なことになる。
ちなみに、10年後はこの学校に戻ってきて音楽の先生をやっている。そのメタル好きが講じて、夜な夜な音楽室からはX JAPANの『Silent Jealousy』のイントロが聴こえてくるという七不思議まで生み出したとかなんとか。
そんな彼女でもさすがに物々しく見えたのだろうか、僕らをヒアリングして揉め事の仲裁に入る。こういう面倒見の良さは本当に見習いたい。
「……なるほどね。1枠しかないコンテストの出場権を巡って争ってるわけかい」
「そうなんすよ、芝草のヤツが手を引きゃこんな話すぐ終わりなのに、しつこいんすよね」
薫先輩は陽介にそう言われると、今度は僕の方をちらっと見てフフッと笑う。
学年も離れているので1周目の時はほとんど喋ったことなどなかったけど、どうしてかこの人は何かとてつもないことを考えているように見える。
そうしてやっぱり、薫先輩は予想斜め上の提案をしてくるのだ。
「じゃあ直接対決したらいい。出場権を争ってライブバトルだ。それで観客に投票してもらって多い方が勝ち。どう?シンプルでいいんじゃない?」
「「ら……、ライブバトルですか……?」」
珍しく僕と陽介のセリフがシンクロしてしまった。
「そう!我が校の代表として参加するわけだし、白黒はっきりつけたらお互い納得するでしょ?」
「それは確かにわかりやすいですけど……」
僕は少し困惑する。ライブをやるといっても、会場の準備とか機材の手配とか、あとはお客さんへ告知したりとかやることはたくさんあるからだ。
「まあ、そのへんの段取りは私に任せておいてよ。こう見えて伊達に部長やってないんだから」
薫先輩はノリノリだ。
そういえば文化祭や定期演奏会のときもこんな感じで企画段階からテンションが高かった。おそらくこの人は、お祭り騒ぎが好きなんだろう。
「……仕方ねえな、不本意だけどそれでケリをつけてやろうじゃねえか」
さすがに部長の提案ともなると、陽介も乗らざるを得ない。
僕としてもこれは願ったり叶ったり。陽介と千日手のような交渉をするより、ライブをやって決着をつける方が100倍マシだ。
「それじゃあライブは2週間後の金曜日。体育館は多分他の部活が使っているから、場所は武道場でどうかな」
「異議なし」「大丈夫です」
「あとは演奏する曲のレギュレーションだけど……」
コンテストの参加権を争うわけだから、コンテストへの応募曲を演奏するのは当然だ。でもその1曲だけではこのお祭り騒ぎ大好き部長が納得するわけがない。
「応募曲と、それに加えてコピー曲も1曲演奏するのはどうかな?それなら他の生徒にもウケるだろうし」
「コピー曲ですか……」
僕は少し尻込みする。そういえばバンドを組んでから、コピー曲らしきものを演奏したことはない。……ラモーンズごっこはやったけど。
「俺は賛成。ちょうど演りたい曲もあるしな」
「……わかりました、そのレギュレーションでやりましょう」
これから2週間でオリジナル曲だけでなく、コピー曲の完成度も上げなければいけないとなると、時間的にギリギリだろう。
でもやるしかない。これにはこのバンドの未来、ひいては僕らの青春がかかっている。
「よーし、じゃあそういうことで。2週間後の金曜日、楽しみにしているよ」
踵を返す薫先輩の長い髪が、気持ちいつもより踊っているように見えた。
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ちなみにサブタイトルの元ネタはDREAMS COME TRUEの『決戦は金曜日』だったりします。カッコいいのでぜひ聴いてみてください




