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「まだ続いていた喜劇」

ノートを開き、着ぐるみを描いてみる。

うん、描くのは平気だ。

着ぐるみって実際はどうなっているのだろう?

自分一人では着脱できなさそう。どうやっても手、届かないもんね。ルル達の場合、裸の着ぐるみに洋服を着るんだもんなぁ、大変そう。

とん、とん、と、ノートに描いた着ぐるみのイラストをたたく。

目を閉じて想像してみた。

頭は外れるよね?こう、持ち上げて外したら中から…


中から…


中からイケメンが……


「何それ、土偶?」


中から土偶?


「埴輪?気持ち悪いわね。あんた絵も下手なのねぇ。」


わたしのノートを覗き込んだルルが残念な生き物を見る目でため息をついた。


「“も”?!“も”って何?!失礼な!わたしほど可もなく不可もなくを体現してる淑女はいないよ!……って、下手じゃないし!土偶でも埴輪でもないからっっ」


「それは自慢なの?それとも自虐?じゃあその気持ち悪い絵は何のつもりで描いたわけ?」


「何のつもりって、どこからどう見ても着ぐるみじゃない!!」


わたしの主張に、今度は信じられないモノを見る目で見てくるのだから、ルルは人間美少女になってもやっぱりひどい。

わたしへの扱いや認識が、明らかに間違っていると思う。


夜会の日、魔王復活(笑)を知らされたあの後、わたし達はそのまま皇宮に留まることを求められ、用意された客室で一晩を過ごした。

アレク様の配慮でわたしとルルはすぐ近くの部屋にしてもらえたので、ぐっすり眠った今朝、こうしてルルと朝食の知らせを待っている間に、部屋にあったノートにふと思いついて着ぐるみを描いてみたらルルにひどいことを言われたというわけだ。


「それにしても皇宮って何から何まで素敵だよね!お風呂もうちの何倍も広かったし、侍女さん達のお世話は完璧だし、おまけにこのドレス!わたしにピッタリじゃない?!ね、ね、似合ってると思うでしょ?!」


まさか泊まることになるとは思わず着替えも何も用意していなかったけれど、泊まることになってすぐ、アレク様が届けてくれたドレス一式は、まるで誂えたようにわたしにピッタリで、昨晩着てきた夜会用のドレスとは違って裾に向かってふんわり広がりのあるデザインが可愛らしい。人妻とはいえまだ十代、こういうドレスも着こなせてしまうのだ。オフホワイトで胸元と裾、袖にある金の刺繍は細かな意匠で派手になりすぎず、繊細で上品だ。

ふわり、と裾を広げて軽く一周してみせれば、ルルも「似合ってるわよ、怖いくらいね。」と頷く。


「え?怖いくらい可愛い?ルルも似合ってるし可愛いよ!さっすがアレク皇子様だね!」


アレク様がルルに用意してくれたドレスは髪色に合わせた淡いピンク、シンプルながらスタイル抜群のルルのボディラインにそった形でルルの魅力を十二分に引き立てている。


「皇宮の朝食も美味しいんだろうなあ!楽しみ!」


「この状況に何の疑問も持たないあんたが怖いって話なんだけどね…」


今度は呆れた目でわたしを見てから、ルルはソファに腰かけ、わたしにも座るように促す。

いやわたしもね?色々おかしいなーとは思ってたよ?だから現実逃避で着ぐるみのイラストを描いてみたりしてたわけで。


「アレク達に聞かれる前にちゃんと話を合わせておくべきよ。」


「…話を合わせる?」


「魔族とやらの話よ。」


「魔族かっこ笑い。」


そういうのいいから、と睨まれた。

だって魔族って。


「急に出てきたよね。魔法とか魔物とかない世界だと思ってたのに。」


今度はわたしも真剣に頷いてルルの前に座る。

あれ?でも確かルルが逆ハーしてた時魅了?とか言ってた気もする。なんとなくそのままになってたけど。


「わかってると思うけど、まず間違いなく、学院で現れたっていう魔族はユーリアが呼び出したアレよ。」


「アレ」


「ほら、あんたが変な呪文と踊りで呼び出した、」


「ああ!クーリングオフした!」


花嫁になれとか言い出したあの?

あれは悪魔だったはずだけど。悪魔も魔族も一緒だっけ??


「そう、あんたが灰にしかけたあのストーカー。」


「危なかったよね、あやうく【悪魔殺しのユーリア】になるところだったよ。……ストーカー?」


な、なんのこと?!


「ユーリアは気づいてないみたいだったけど、あの悪魔、時々現れてはあんたにアピールしようとしてたのよ。まあ、そのたびにカミュが始末してたみたいだけどね。」


「えっ」


やだ、カミュ先生ってば!

わたし愛されてる!


「どっちがストーカーでどっちが悪魔なんだかね。」


ルルってば意地悪!

カミュ先生とわたしは両想いだったんだからいいんだよ!


「とにかく、あんたのせいだってことなんだから、ちゃんとわかってるの?!」


「ううっ………」


敢えて目を逸らしていたのに…!


「下手に認めると皇家転覆を狙った反逆罪に問われてもおかしくないから、しらを切りとおすのよ!一緒にいたわたしまで連座になりかねないんだからね!?わかってるの?!」


あの時は今よりもっと現実逃避したくてたまらなかったんだもん。

まさかこんな大事になるなんて思いもしなかったんだもん…っっ

ぶっちゃけ、あんなので本当に悪魔を呼び出せるなんて…

それにしても現実逃避の方法がお絵描きだなんてわたしってば成長してない!?やっぱり人妻になったら??!!


「あの悪魔さん、変態は変態でも悪い悪魔じゃなさそうだったけどなあ……」


回収しにきた平凡顔の悪魔さんも気さくな感じだったし…。


「いい?!あの悪魔があんたに呼び出されたって自白したとしても、絶対に認めたらダメだからね?!なんとしても否認するのよ!?」


「はい…ルル弁護士先生…」


ああなんで。

罪が露見しそうになってる犯罪者の気分に…。


「大丈夫よ、悪魔の言うことよりユーリアの言うことをアレク達も信じてくれるわ。万一バレてもカミュがなんとかしてくれるわ。」


本当に?

わたし魔女狩りとかされない?

だんだん涙目になってきたのが自分でもわかる。

そんなわたしに気づいたルルが、聖母の顔でわたしの肩を叩いた。


「安心なさい。いざとなればユーリアが悪魔でも魔王でも倒せばいいのよ。」


どうやって?!


「簡単よ。あの悪魔に、あんたの思ってることを叫ぶだけでいいのよ。」


わたしの思ってること…?


「そうよ、ユーリアは今、あの悪魔に対してどう思っている?」


「……………ストーカー気持ち悪い。」


その一言で灰になるわ、と。


ルルがにっこりと笑った。

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