「撲滅!着ぐるみ詐欺訴訟」
「あの時のわたしはどうかしていた。」
学院を卒業後、わたしは領地に戻らず、皇都にあるリガール公爵家の屋敷にお世話になっている。エイレーン様の実家だ。
理由は簡単。
自分でも思う。
自業自得である。
学院を卒業する前、わたしは着ぐるみワールドによってどうかしていた。今になって思う。おかしくなっていた。
何故、あんなものを作ってしまったのか。
あんなものを注文したせいで、わたしは今尚、領地に戻れず皇都に留まっているのだ。
皇都を出る許可が下りないのである。
事実上の軟禁状態だ。
そう、わたしは訴えられている。
着ぐるみ詐欺にあったという人から訴えを起こす訴状が届いたのだ………!!
とんでもないことになった…。
着ぐるみ発案者であるわたしとわたしが発注した仕立て屋が、着ぐるみ詐欺による被害の賠償を求めて訴えられている。そのせいでわたしは皇都を出ることが叶わず、卒業後も領地に戻れずエイレーン様のお屋敷にお世話になっているのだ。当然、領地にいるお父様の下にも訴状は届き、急遽こちらに向かっていると聞く。
着いたらお説教確定だわ…。
「ユーリア様、ご安心なさって。お父様が腕のいい弁護士を紹介してくれるそうですわ。」
「弁護士費用が不安ならわたしが負担しよう。」
「アレク様…ですがそこまでしていただくわけには…」
エイレーン様のご実家なのに、何故か当たり前な顔しているのはアレク殿下。一人でいるのは不安なのでいてくださるのは有難いのだけど、ほぼ毎日来てて大丈夫なのだろうか?エイレーン様との復縁説とか誤解を招かないだろうか?
「問題ない。これでもそれなりに個人資産があるんだ。ユーリアのためなら惜しくないよ。」
「アレク様…っ」
さすが皇子様!セレブで太っ腹!持つべきものは皇子様ですね!
「ありがとうございます。でも多分大丈夫ですわ。仕立て屋からのマージンがありますので!」
着ぐるみの馬鹿売れで、発案者のわたしにもいくらか入ってきているのだ。それを当てれば、なんとかなるはずである。
「それにしても詐欺か…。」
「………」
考えてみれば当然起こりうることだったのだ。
着ぐるみだ。
そう、あれは着ぐるみなんだから。
かぶってしまえば誰が誰だかわからなくなる。当たり前の話である。
「しかし服をどういう風に着るかは当人次第だ。その結果を発売元のせいにするのは間違っている。」
「わたくしもそう思いますわ。ユーリア様は悪くありませんわ!」
「………」
いえ、ワルカッタトオモイマスケド…。
着ぐるみを服って…やっぱりこの世界であれは服なのね…。“着ぐるみ”って商標登録したって聞いたのにこの世界で着ぐるみは認定されないのね…。
着ぐるみ詐欺。
なんじゃそりゃ。と、思ってしまうのはわたしに前世の記憶があるせいなのか。そんな詐欺が成立する意味がわからない。
なんで騙されるのよ?!あきらかにかぶってるじゃん!
ケースその1、
見合い相手が着ぐるみを着ていて、結婚してみたら別人だった。訴えてやる!
ケースその2、
恋人だと思ってお金を渡したら別着ぐるみだった。訴えてやる!
ケースその3、
着ぐるみを着ていて酸欠になって倒れた。訴えてやる!
ケースその4、
顔だけ着ぐるみを着ていて首を痛めた。訴えてやる!
意味がわからない…。
なんで気づかないんだ…着ぐるみじゃんか……
あんな重いものかぶってるんだから当然の結果じゃないのよ…
そもそもわたしは量産なんてするつもりなかったのに。流行らせるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。
なんで……。
「ユーリア、心配しなくていい。わたしがついている。」
「アレク様…?」
いつの間にかエイレーン様がいない。
アレク様、ちょ…っさっきより距離が近くなってません??
円卓を囲んでいたはずのエイレーン様の姿は気がついたらなくなっていて、正面に座っていたはずのアレク様が隣に座っていた。にこやかな笑顔なのに目が笑っていなくてちょっと怖い。
人間化したアレク様は、まさに物語に出てくるような王道中の王道の王子様で、アイドルグループでいうならセンター、1番人気のアイドルばりのイケメンで。ドキドキしちゃうんだけど時々目が怖いのは何故なんだろう。ふっと真剣な目になる時がなんとなく怖い。
「ユーリア」
「は、はい」
あっという間に手なんかとられちゃって慌ててブンブンして離そうとするんだけどものすごい力!ちっとも離れない!
「わたしの妃になってほしい。」
「そっ、その件はお断りしたはず……っっ」
「諦めきれない」
諦めて!
嬉しくないって言ったら嘘になるけどこんなところをカミュ先生に見られて浮気女と思われるのは嫌なんですっ!
ちょ…っリガール公爵家の侍女さん達も無表情で視線逸らしてないでとめて!?護衛さん?!あなた達のご主人を止めるのもお仕事なんじゃないの?!
「わかっている。ユーリアには急なことで困惑しているのだろう。」
「そういう問題ではなくてですね、」
「しかしわたしは学院にいる時からユーリアを好いていた。」
ちなみにさっきからずっと握られた手をブンブンしているのは継続中だ。ブンブンしながら甘い台詞が吐けるアレク様ってすごい。
「だがこういってなんだが、訴えられたことはわたしにとっては幸運だった。ユーリアとの時間を得られた。ユーリアが領地に帰ってしまうと…わたしの立場ではなかなか会うことができないからな…。」
「アレク……さ、ま…?」
「ユーリア、答えを急がないでほしい。君がカミュ叔父上のことを好いていることはわかっている。だが、わたしにも時間がほしいのだ。好きになってもらえるよう努力する。」
「アレク様………もしかして……」
もしかして、
「うん?どうした、ユーリア?」
もしかしてもしかしてもしかしなくても?!
わたしが訴えられたのってアレク様が一枚噛んでるんじゃーーー……っっ?!
「裁判は長くかかるだろうが気長にいこう。ユーリアのためにわたしが力を貸すよ。」
そうにっこりと笑ったアレク様の後ろに
着ぐるみだった頃のアレク様の姿が重なってみえた気がした―――。




