第32話「保健室の秘密」
茹蛸になったわたしは茹蛸のまま、ふらふらと理事長室を後にした。
「わたしのことはキースでいいよ」
そんなことをセクシーにウインクして言ってくれたキース理事長の魅力にやられたのかと思っていたのだが
「駄目だ…本当に熱があるかもこれ」
どうやらそれもあるのかもしれないがそうではなく、本当に自分の身体が熱いことに気づいて教室ではなく保健室へ向かうことにした。
カミュ先生…
ついキース理事長にときめいてしまったバチがあたったのかも。カミュ先生ごめんなさい。
やっぱり一度きちんと先生のお気持ちを確かめなくちゃ…
本当に先生にその気があるのならもうわたし他の人にふらついたりしません…!
熱で朦朧とした頭で保健室の扉を開けた。そういえばノックを忘れていたかもしれない。
「かみゅせんせい……?」
誰もいない静かな保健室。先生の姿を探して中へ足を踏み入れてカーテンの衝立の向こうに人影を見つける。ゆらゆらゆらゆら…1人分の影が何重にも重なってみえる。熱で視界までおかしくなってる。
カミュ先生…?
あれ…?
おかしいな……カミュ先生…少し大きく、なってる…?
こちらの気配に気づいた影が動く。カーテンがめくられ奥から現れたのは―――
「…――さん、ユーリアさん」
ああ、この声は
「ユーリアさん…大丈夫ですか?」
「かみゅ…せんせい……?」
ゆっくりと目を開けると心配そうに眉をよせてわたしを覗き込むカミュ先生の顔があった。
わたしは安堵の息を吐き微笑む。
「かみゅせんせい、だぁ…」
よかった。
ちゃんとわたしの知ってるカミュ先生だ。
「……ずいぶん熱があがっています。大丈夫ですか?」
「ねつ……あつい、です…」
さっきよりも息が苦しいし身体も熱い。声を出すのも億劫だった。
わたしはまた倒れたのだろうか?ベッドに横になっていて額には冷たいタオルがある。カミュ先生に運ばれたのかと思うとまた熱があがってしまいそう……
「少しだけ起き上がりましょうか。水飲めますか?」
その言葉に
ぼうっとした状態のわたしはにへら~っと笑った。
「ふふ…水なら…口うつし、で~」
願望がつるっと口をついて出ちゃう。カミュ先生の驚いた顔にわたしはまたにへらと笑う。
「ふふ…じょうだん、です……さっき…驚かされた、から…しかえし……」
あれ~?
でもなんに驚かされたんだっけ…?なんかびっくりしたような気が、するんだけど…
おかしいな
思い出せないや……
「リア」
ぎし…っと
カミュ先生の手が顔の傍に置かれそのままカミュ先生の顔が近づいてくる。
耳元で先生の甘い声がした。
「わたしのことが…好きですか…?」
わたしはふふとまた笑う。
「はい」
カミュ先生がわたしのことリアって呼んだ。
リア、だって。
ふふ…なんて幸せな夢見てるんだろう。このまま覚めたくないなぁ…
「アレク達よりも――?」
「はい」
「理事長、は?」
「きーすりじちょう、せんせい…?」
「…いけない子ですね。もう名前を――?」
少しだけ、カミュ先生の声が低くなる。
「さっきたすけてもらった、から……」
「リア」
「かみゅせんせい」
夢の中をふわふわと漂っているみたい。今度の夢はなんてわたしに優しくて、甘いんだろう。
まるでカミュ先生が嫉妬してくれてるみたい。
先生が、わたしを好きみたいな、
わたしの願望そのままの―――
「わたしのこと………すき、ですか……?」
夢ならお願い、頷いて。
このまま幸せな夢に浸っていたい。
「かみゅせんせいがすきになってくれるなら…わたし」
「あなたはどんな姿のわたしでも、好きだと言えますか――?」
え―?
なのに先生の声は急に冷たく
わたしを突き放すように遠くなった。
「リア、あなたはこのままのわたしが好きだと言ってくれましたね。でも……もしもわたしの姿が変わっても……あなたは変わらずわたしを好きだと言ってくれるのでしょうか――?」




