229.適材適所を考える
溢れてくる涙は止まらなくて、暫くのあいだロビンに抱きついていた。
ロビンは何もいわず、ただ私を抱きしめてくれている。
昔は良く、こうして慰めてもらっていたな。まだロイ兄様と一緒の小離宮にいた頃は、ロビンのことも兄様と呼んでいたっけ……
どうして兄様と呼んではいけないの? と困らせたこともあった。
きっと今も困らせているわね。
「姫さん、俺からのお願いなんですが……カロティナ様を目指すのはやめましょう。被害がデカすぎます」
「……そうなの?」
「そうです。まあ、少しぐらい身を守る術を学ぶのは……良いことかもしれませんけど」
「本当に? 私、真に受けるわよ?? 今日、イザベラ嬢に鉄扇というのを見せてもらったし」
スン、と鼻をすすりながらロビンを見上げる。
ロビンは苦笑いを浮かべながら、私の目元を指でそっと撫でた。
「多少の護身術なら、まあ……それに姫さんは走り回れるでしょう?」
「そうね。走り回るのは、得意かも」
「そしたら一発急所を蹴り上げるか、もしくは足を踏みつけるかして逃げ回ってください」
「そんな護身術あるの……?」
「ありますよ」
けろっとした顔で言うので、本当なのか疑ってしまう。今度、第五騎士団のヘインズ騎士団長に聞いてみよう。彼ならちゃんと教えてくれるだろう。
「姫さん、一人で何でもしなくて良いんです。いつも言ってるでしょう?」
「……でも、私にできることはしたいの」
「自分にできることを何でも自分でやるのは間違いなんですよ。いくら姫さんが自分で服を着られても、侍女は服を着るのを手伝わなければいけない」
「それは、そうね……?」
「侍女に自分で着られるからいいわ、何てもう言っていないでしょう?」
私は小さく頷く。それだと侍女の仕事を取ってしまうから。
だから任せられる仕事は任せないといけない。侍女長のカフィナに口を酸っぱくするほど言われていることだ。
いや、正確には自分でできることも侍女に任せること。と、言われている。
私がやれる範囲というのは年々少なくなっているだろう。
それでもまだ任せて良いといわれるのだから、私はカフィナの目から見てやり過ぎている。
「適材適所って……いつもカフィナがいっているわ」
「でしょう? 姫さんの「私にできること」は姫さんが自分でやらなくても良いんですよ」
「それって……無責任じゃないの?」
「違いますよ。無責任っていうのは、提案するだけして何もしない人です。そのくせ文句だけは言う。姫さんは誰かに「これをして」といったら、ちゃんと進んでるか確認するでしょう?」
「当たり前よ! だって私が提案したんだもの。ちゃんと、確認して難しいなら別の手がないか考えるわ」
「そう。それだけで良いんです。中には本当に姫さんにしかできないこともありますよ? でも大半のことは人に任せられるんです。そこを履き違えちゃいけない」
一人で何でもやろうとしたら、誰だって一杯になって潰れてしまう。
王侯貴族に大事なのは適材適所に人を配置すること。その目を養うことが、今の私に求められていることだとロビンはいう。
「……なんか、小さいころも似たようなこといわれた気がするわ」
「何度でもいいますよ。なにせ姫さんは思い込んだら一直線ですからね」
「そう、かな……そうかも……」
「仕方ないといえば、仕方ないんです。子供の頃から一緒にいる人間が変わらないですからね。新しい意見を取り入れる機会がなかったですし」
「新しい、意見……私がアリシアたちと一緒にいることで満足してしまったから?」
「そうですね。もちろん理由があって、今があるわけですけどね」
「私は、アリシアが大好きよ。だから彼女の話がなくても、きっと友達になった」
「そうかもしれないですね。ですが、今の閉じた世界の原因はアリシア嬢たちにもある。それは本人たちのためにもならない」
そういわれて、ロイ兄様がなぜイザベラ嬢にあんなことを頼んだのかわかった気がした。
悪役を頼むなんて、と思ったけど……私たちの成長を促しているのだ。依存するのではなく、お互いにちゃんと手を取り合って立てるように。
今の私たちはお互いに依存している。
他にお友達がいなくても、それは目的があるから仕方ないよね。と、自分たちで周りを遮断していたのだ。
よくよく考えれば、攻略対象のシャンテたちと仲良くなるなんてアリシアにはなかった考えだろう。だからこれからを考えれば、味方はいっぱいいた方が良いに決まってる。
シャンテたちと仲良くなれたように、他の人とも良い友人関係を築けるはず。
それは私だけでなく、アリシアにとっても良いことだ。友好的な目が増えることは、冤罪の発生も下げると思うし。
それに苦しいだけの時間にしたくない。
アリシアが刻一刻と迫る時間を気にしていることを私は知っている。
楽しい時間を過ごしたい。そう、アリシアと約束をしたのだから。
私はその約束を守らなければ……! これは私にしかできないこと。
「私、お友達を増やすわ。一番のお友達はアリシアだけど、大事なお友達が増えることは良いことだもの。私にもアリシアにも、必要だわ」
「そうですね。それはきっと姫さんとアリシア嬢にしかできないことです。なにせ周りがお友達になりましょう! といってできるわけじゃないですからね」
「そうね。それに、イザベラ嬢とも友達になりたいわ。そのうち一緒にお泊まりできるくらい」
私がそう言うと、ロビンはちょっと困った顔になった。
首をかしげるとロビンは苦笑いをする。
「一応、イザベラ嬢はトラット帝国の方なのでね」
「そうはいうけど……イザベラ嬢はシュルツ卿の妹さんよ?」
「まあ、そうっすね。あの食えない人の妹さんですね……」
「シュルツ卿が食えない人なのはそうだけど、イザベラ嬢は素敵な子だと思うわ」
「ううーん……まあ、そうですか……ねぇ?」
「それにロイ兄様だって、色々なお友達がいるのでしょう?」
「そうですね。ロイ様のご友人は……まー彩り豊かですかね」
友達のことを彩り豊かというのだろうか? 変に引っかかる物言いだが、ロビンの目にはそう映っているのかもしれない。
でもちょっとロイ兄様の友達が気になるから、あとで名前を教えてもらおう。その人に兄妹がいるのなら仲良くなれるかもしれないし。
さすがに何の切欠もなく、声をかけるのは躊躇してしまう。
「さ、姫さん。そろそろ宮に戻りましょうか?」
「……うん」
なんとなく、なんとなく……離れがたくてロビンの胸に顔を寄せて腕に力を込める。
そんな私の頭をロビンは優しく撫でてくれた。
「……まだ、目元赤いですしね。そのまま戻ったらユリアナが心配するかな」
「……そうね」
「ちなみに、俺でもすらいむの魔術式を使ってすらいむが出せるんですよ?」
「ロビンも?」
ロビンはあまり魔力量が多くないから、魔法石を使った何か、をすることは少ない。
むしろ自分で何かを達成してしまう。
ポンポンと背中を軽く撫でられ、もう片方の手がお仕着せのポケットに入れられた。
出てきた手の上には小さな魔法石。
ロビンの魔力が注がれ、小さなすらいむが手のひらに現れる。
「目の上にそーっとのっけてみてください」
「目の上に……?」
私はロビンの手からすらいむを受け取り、それを目の上にそっと乗せてみた。
ひんやりとしていて、とても気持ちが良い。
「これってこんな風にも使えるのね」
「ロイ様が夜更かししたとき何かに使ってますね」
「……そうなの?」
「眼精疲労には温めた方が良いんですけど、冷たいときがいいときもあるそうで」
「ふふ……ロイ兄様らしいわね」
「そうでしょう?」
ロビンの顔をすらいむ越しに見る。
いつもと変わらない、ロビンの顔。その変わらなさがなんだか嬉しい。
「なんです?」
「ううん。なんでもない」
「冷やしたら、戻りましょうね。ちょっと寒くなってきましたし」
「そうね」
そのあとは、ロビンが上着を貸してくれて部屋まで戻った。
きっと、私が間違えそうになったら一番にロビンが止めてくれる。
そんな、気がした――――
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