228.王女に必要な矜持 2
「ねえ、ロビン。王女に必要な矜持って何かしら?」
「王女に必要な矜持、ですか?」
「そう。何が必要なのかしら」
「さて、俺には見当もつきませんね。なにせ平民ですし」
「でもずっと一緒にいるじゃない」
「そうですね。まあ、一ついえるとしたら……」
「いえるとしたら?」
私はロビンの顔をジッと見る。ロビンは手を顎に当て、考え込むポーズをして見せた。
一ついえるとしたら、と言いながらそこで悩まないでほしい。
「そうですねぇ……独りよがりにならないこと、ですかね」
「独りよがり……?」
「他人の意見などは聞かずに、自分の中だけで完結してこれでいいと思い込むことです」
「それは、今の私がそうだということ?」
「いいえ。ですが、今のままでは遠くない将来にそうなりそうですね」
そんなことない、と言いたかったけど……自信がなかった。
だってロビンは私が生まれたときから側にいる。ずっと、側で見てくれているのだ。そのロビンが言うのであれば、私はそうなりかけているのだろう。
「私は、ワガママになってるってこと?」
「いいえ。そうじゃないんですよ。正しいことをするのは良いことです。だけど姫さんはそれを全部自分でやってしまおうとする。そんなことは神様だって無理だって、前に言ったでしょう?」
「でも、私は……私にできることをしているのよ? それにできることって言っても、そんなに多くもないし」
「王族には王族のやるべき仕事があります。それはわかりますね?」
「もちろんよ。国を豊かにするために、みんなが飢えないように国を回していかないといけない」
「だけど姫さんは自分でアレしよう、コレしよう。と、畑から魔術式からラステアに行ったりなんだりとしてるでしょう?」
「だって必要なことでしょう?」
「本当にそう思いますか? 全部、自分でやる必要はありましたか?」
本当に必要なことなのか、そう言われると自信がない。
アリシアを助けるのも、国に疫病を流行らせないのもとても大事なこと。だけどそこにかまけてばかりで、私は本来しなければいけないことを放棄していないか?
ぐるりと頭の中で考えを巡らせる。
疫病は、ポーションがあるから国力が落ちるようなことはないはず。
魔力過多の畑があるのだから、食料に関しても平気。それに貧民街の人たちの働く場所の確保だってできている。
アリシアを助けるのに、私がアリシアと一緒にいることが一番大事だと思っていた。
でもそれを口実に、社交の場に出ることを避けていたのも事実だ。だって大事なお友達はもういるから、他は必要ない……――――
イザベラ嬢に声をかけづらいと言われて、そんなことないのにな。本音ではそう思っていた。気にせず声をかけてくれれば良いのに。
それって、すごく矛盾してる。
必要ないと思っている自分と、声をかけてもらいたい自分。それはきっと周りの子たちにも感じ取れてしまうものなのだ。
「……私って、受け身なの?」
「自分の興味のあることには猪のように突っ込んでいきますけど、そうじゃないことに関しては受け身どころか消極的でしょう?」
「積極的ではないわね」
「で、積極的にやっているアレコレは、別に姫さんがやらなくてももう問題ないものばかりだ」
「……畑仕事は、好きでやってるもの」
「ま、息抜きは必要ですけどね」
そういうとロビンは私の両頬をむにっと摘まむ。
小さい頃はよくこれをやられたっけ。成長するにつれて、やられなくなったけど。
「苦手だからと目を反らしていたツケが、追っかけてきたんですよ」
「……それは、そうだけど」
「王族というのは、人の上に立つから弱みを見せるもんじゃない。ロイ様ならそう言うでしょう。王族は人に手を差し伸べる立場の人間だ。でもそれじゃダメなんですよ」
「どうして?」
「完璧な人間なんていないからです。人間は間違いを犯す生きものだ。だから手を差し伸べるだけでなく、差し伸べられた手を取れることも大事なんです」
もちろん相手を見極める目も必要ですけどね。と、ロビンは笑う。
「姫さんは、差し伸べられた手を取れますか? それが正しいとわかっていても、自分にできることはもっとあるかもしれないと……その手を取るのを拒絶しませんか?」
正しい手を掴むことは難しい。それだけ相手を、色々な物事を知らなければいけない。
だけど狭い世界に閉じこもっていては、何が正しいのかすらきちんと判断ができないのだ。
そうロビンに言われ、私は自分の世界がいかに閉じていたのかを痛感する。
「私……お母様になりたかったの」
「カロティナ様に、ですか?」
「そうよ。だってお母様は凄く強くて、みんなを引っ張っていけて……周りを明るく照らしてくれる。そんな人だったのでしょう?」
「たしかに、カロティナ様は強かったですね。そして強引に解決に導くこともしばしばありました。ですがそれは、後片付けをする人間もいたってことですよ……」
「え?」
「カロティナ様がただの伯爵令嬢で、カタージュにいるだけだったらそれで良かったんです。あそこは魔物が多く出る場所ですからね。力業で解決しても、そこまで問題にならない。だけどここでは別です」
「べ、別……?」
「だってそうでしょ? 姫さんだって、ポーションをお披露目するときに根回ししたでしょう? 貧民街の件だって、なんだって全部根回ししてきたでしょう??」
私はその言葉に頷く。だってそういうものだもの。
いくらポーションの性能が良かろうと、いきなり作って! と言われて作る人はいない。魔力過多の畑だってそうだ。実証実験を繰り返して、これなら問題ないと判断されたから報告書を作ってお父様まで報告が上がる。
もっとも、実証実験や詳しい報告書はカーバニル先生を初めとした魔術式研究機関の人たちが頑張ってくれたからだけど。私はその手伝いをしたに過ぎない。
「あのね姫さん。根回しってすっごく大事なの。地元じゃそれで問題なくても、ここは王城。王様が住む場所なの。何の根回しもなく暴れ回って、誰がその後片付けすると思います?」
「……お、お父様かしら?」
「惜しいですね。リュージュ妃様と宰相様も、ですよ……」
「えっと、三人で後片付けをしたの?」
「本人も手伝ってはいましたけどね……でもね、事前に根回しをしておけばお三方も気持ちよく仕事できるわけです。余計な仕事を増やされれば、本来やるべき仕事を後回しにしちゃうでしょう?」
「それは、よくないわね」
「ものすっごく、よくないんですよ。だからカロティナ様を見習わなくて大丈夫です。もちろん、姫さんが今後カタージュで過ごしたいというなら話は別ですが。カタージュじゃ、消極的な人間はやっていけませんからね」
あそこはある種の魔窟です。みんな元気すぎるんで、とロビンはいう。
「そうね。確かにそうかも……」
「それにね、姫さんの先は色々あるんですよ。王族として政略の駒にならなくても、いいんです」
「え……?」
そんな道が許されるのだろうか? 私はだって、王族として生まれた。
ここで生まれて、ここで育ったのだ。
私が綺麗な服を着て、必要な勉強を受けられて、美味しいものを食べられるのは王族に生まれたから。だからそれ以外の道なんて……
「わた、私……」
「姫さん、上を見ればきりがないんです。そして世界はもっと広い。目の前に見えてる道だけが、正しいわけでもない。知るって、そういうことです」
「だってみんな、似てるって。お母様に似てるって、そういうのよ? 私はお母様のようにならないと、みんなを助けられないって……そう思って……」
「そんなわけありますか! カロティナ様は欠点だらけの方ですよ。みんな、死んだ人に……もういない人に夢見てるだけですよ。思い出は美化されますからね」
ポロリと涙が零れる。
王族として、正しいことがしたい。お母様の代わりにはなれなくても、お母様がみんなを助けたように私もアリシアを助けられたら……!
三番目と蔑まれ―――― いらないといわれた私を、見てもらえるかしら?
そんな思いがずっと胸の奥底にあった。
「私は……お母様にならなくていいの? 私のままでも平気……??」
「カロティナ様になる必要はありませんよ。姫さんは姫さんです。寂しがり屋でそれでも頑張って、前を向いて歩いてる。小さなお姫様ですよ」
ロビンに抱きつくと、ポロポロと涙が溢れてくる。
ただただ前を向いて走っていたけど、本当はずっと怖かったのだ。この道は正しいのか? それとも本当は間違ってるんじゃないか? アリシアを、みんなを守れるのか?
ずっとずっと、怖かった。
だって誰も、この道が正しいのかなんて教えてくれないのだから。
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