227.王女に必要な矜持 1
一つ、威張ることと、堂々と振る舞うことは違う。
一つ、権力とは正しく使うものである。
一つ、馬鹿にされたときに黙っているのは、相手を調子づかせるので正しく対処する。
イザベラ嬢にいわれたのはこんなことだった。
そしてアリシアたちにバレないように、表向きはイザベラ嬢とは仲が悪く振る舞うこと。
「それって……でも、私にできると思う?」
「簡単ですわ。私がフィルタード派の取り巻きと一緒に、姫殿下を嘲ります」
「そ、それって……でもイザベラ嬢が悪役になるってことよね?」
「その通りです。いうなれば悪役令嬢、ですわね」
ロイ殿下が仰ってましたよ。なんていうものだから、ポカンと口を開けてしまう。
するとすかさず、ダメですよ。と指摘が入った。
急な事象に弱い、と。
驚いて口を開けてしまうなんてもっての外だと言われてしまった。
「いっそのこと、姫殿下も扇子を持てば良いのではないかしら?」
「扇子を?」
「何かあれば、このように……口元を隠せますもの」
「口元を隠すだけで良いの?」
「ええ。有益です。人は意外と口元を見るものですから」
「口元を……」
「それにこっそりとお話をするときにも良いでしょう?」
「それはそうかも……」
それからイザベラ嬢とは更にいくつかの決まり事を確認し合う。
その決まり事は事前にロイ兄様とも相談済みだと教えてくれた。事前に決まっていれば、逸脱した事態はそう起こらないだろうからと。
「ロイ兄様は、どうして……こんなこと思いついたのかしら?」
「元々、考えてはおられたようです。本来なら侯爵令嬢たるアリシア様と一緒に切磋琢磨されるであろう部分ですが、アリシア様は腰が低すぎた、と」
「確かに、アリシアは腰が低いかも」
「今日お会いしたときも、後ろでオロオロされてましたね。ロックウェル卿に関しては、自分が出るべきか迷っていたようですし……お二人とも判断が遅い」
「そんなこと……」
「諍いを産まない。それはよい心がけです。ですが、売られた喧嘩はきちんと返さねば。舐められる元です」
「そう簡単に言い返せたら苦労はしないし、それに……喧嘩ってそんなにしたことないもの。」
ライルとのは言い合い? それとも口喧嘩? でも本気で喧嘩をしたことはない気がする。今のライルはどちらかというと、私より思慮深いかも。
そりゃあ、あの縦ロールのあの子に対しては怒ったけど……アレはラステア国を馬鹿にされたからだし。と、考えて私はこれも正しくない対処の仕方だったんだなと思う。
最初から彼女たちを諫めるなりしていれば、伯爵家の令嬢でありながら王族より自分たちの方が偉いだなんて思わなかったはず。
私たちは何を言われても無視して、反応しないようにしていた。
それは彼女たちを調子づかせるだけだったんだな……
「良いですか? 姫殿下。言い合いにおいて一番重要なのは瞬発力と語彙力です。ぐうの音もいえない切り返しが大切ですよ」
「瞬発力と語彙力……」
「マナーに関しては、再度学び直せば大丈夫です。ですが、堂々と言い返す。それに関しては練習が必要でしょうね」
王族の腰が低くて良いことはない。そう断言された。
王族は偉いのだ。そしてその地位に見あう、責任を負う。だから常に堂々としていなければいけない。そうでなくば、周りはついてこない。なぜならそんな人に任せて大丈夫なのか? と不安になるからだ。
「信用できない、そう思われてもよろしいのですか?」
「それは、よくないわね」
「ですが姫殿下の行動は、あまりにも稚拙。そして他の貴族たちは姫殿下が周りの生徒たちと交流を持たないことを危惧しています」
「そ、そう……なのね……」
「はい。積極的に話しかける、とはいえ……切欠がなければ難しいですが」
「そうね。話す切欠があればいいのだけど……」
「そのためにはアリシア様とロックウェル卿と暫く距離を置く時間を取られては?」
侯爵家の令嬢と魔術師団長の息子、そんな二人と常に一緒にいては周りも声をかけづらい。
もちろん二人と一緒にいる時間も大事だとイザベラ嬢はいう。
「急に離れれば何かあったのかと、周りが不審がりますからね」
「そういうものなのね……なんだか凄く大変だわ」
それでいてイザベラ嬢と約束事をしていると悟られてはいけない。
暫く会わない、とかなら騙せるかもしれないけど……現状では全く自信がない。どうすればアリシアたちにバレずに騙し通せるだろうか?
やはり、イザベラ嬢みたいな扇子を持つべきかな?
「……イザベラ嬢、少しお願いがあるのだけど……扇子を貸してもらっても良いかしら?」
「ええもちろん。ですが、少し重いですよ?」
「え?」
イザベラ嬢は私に両手を出すようにいう。私はその通りに両手を前に差しだした。
手の上に、そっと扇子が置かれる。
「えっ!?」
「これ、鉄扇なんです」
「てっ、せん??」
「骨や、この端の部分に鉄が仕込まれています。あとここ、この石を押すと……」
「これ細い、……なに??」
「これは銀でできてる薄い板ですね」
「銀で?」
「あやしいお茶会のときは、こっそり取りだしてお茶に浸すんです」
「それって……毒だと変色するってこと?」
「ええ。ですがこの国の魔術式なら、異物が入っていたらわかるようにもできるのでは?」
そんな魔術式があるかはわからないが、カーバニル先生なら知っているかも知れない。
それに知らなくてもファーマン侯爵が作ってしまいそうだ。変わった魔術式を作るの得意だし。
「これ、私でも使えるかしら?」
「予備がありますので、こちらをお貸しいたします。こちらをサンプルに自分に合う物を作られてはいかがですか?」
「そっか。これはイザベラ嬢用に作られた物だものね」
「伯爵令嬢の私と、王女である姫殿下では危険の度合いも違いますし……それにもっと良いのができましたら、ぜひ私めにも売ってください」
「そんな、お金なんて取らないわ!」
「いいえ、ここは取る場面ですよ。ただその……お友達価格にはして頂きたいですが」
お友達価格といわれ思わず笑ってしまう。
イザベラ嬢が使っている扇子も十分、高価に見えるけどきっと彼女の本音はそこではない。
魔術式が他の国よりも発展した国、ファティシア王国で作る私の扇子だから言っているのだ。
「わかったわ。できたらお友達価格で融通いたします。それまで私の先生をよろしくお願いしますね」
「ええ。もちろんですわ。姫殿下」
こうして私とイザベラ嬢の秘密の関係が始まった。
***
矜持、とは――――自分の能力を優れた物として抱く誇り。
では私の矜持とは? いや、私じゃない。
王女に必要な矜持とは何だろう?
私は何かを成したわけではない。私にできることはとても少ないから。
魔力過多の畑も、ポーションも、私一人じゃどうにもならなかった。
お母様のようになりたい。だけどなれない。
だって私は知らないのだもの。おぼろげな記憶しかない。
魔物を一人で狩りに行くほどの物理的な強さもない。
誰かの悩みに寄り添うことはできても、解決に導くだけの強さはない。
勉学が特別秀でているわけでもなく、魔力量が普通よりは多いだけ。
だけど私の魔力量の多さなんて、ラステア国の人からすれば平均より少し多いかな? ぐらい。
アリシアを、この国を護りたい。その願いは大それたものなのかな。
自分だけじゃどうにもできないことはたくさんある。少し気を抜けば、マナーだって前に逆戻りだ。完璧にはほど遠い。
イザベラ嬢とのお茶会が終わり、彼女を見送ったあと――――
私は庭をぼんやりと眺めていた。
小さい頃は、私の世界はここだけだった。
この世界で十分満足していた。お姫様なんて言われても実感すらなかった。
「王女って実はとっても大変なんだわ……」
私が想像するよりもずっと。
望んで生まれたわけではなくても、責任だけはついてまわる。
「なーに黄昏てんっすか?」
言葉と共に、頬をぷにっと指で突っつかれた。
こんなことをするのは一人しかいない。
振り返ればいつもと変わらぬ様子でロビンが立っていた。
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