225.タネあかし
頭の中はパニックだ。グルグルとなんで? どうして? と疑問符が回っている。
ロイ兄様に呼ばれて部屋に来た。それなのにどうしてイザベラ嬢が部屋にいるのだろう?
いや、いるのならなぜ事前にいってくれなかったのか?
「……あらまあ、お可哀想に。固まっていらっしゃいますわよ?」
「ルティアはね、こういう突発的な事態に弱いんだ」
「そうなんですのね」
イザベラ嬢はチラリとこちらに視線を寄越す。そして扇子越しににこりと笑って見せた。
私は頭の中で38点という数字を思いだす。そして、マイナス21点という数字も。
合わせたら、私17点しかなくない?
私はぎこちない動きのまま、二人に向かって挨拶をする。
「ごきげんよう、ロイ兄様。イザベラ嬢」
「ごきげんよう。姫殿下。またお会いできて光栄ですわ」
「ルティア、いつどんなときに粗を探されるかわからないんだからね? ちゃんと確認してからはいっておいで」
「わかりましたわ……」
それぐらいしかいえず、私はロビンに促されるままソファーに座った。
あ、待って。もしかしてロビンは知ってて止めなかった!? バッとロビンを見上げると、ロビンがにこーっといい笑顔を向けてくる。
「……ロビン」
「ダメですよ。姫様。お客様の前です」
すました顔で言い放つロビンに内心で地団駄を踏みつつ、私は姿勢を正す。そしてロイ兄様とイザベラ嬢に視線を向けた。
「どういうことですの?」
「単純な話しだよ。ルティアの礼儀作法が及第点ではなかったという話し」
「そ、れは……その、認めますけど……」
「ロイ殿下は姫殿下を心配なさって、私にお願いされたのです」
「お願い、ですか?」
「ええ。姫殿下の手本になってほしいと」
「私の……手本……?? お手本なら、アリシア嬢がいますわ」
「確かにアリシア嬢の所作は綺麗だけどね。腰が低すぎて、上位貴族としての威厳にかける。それは君も同じだよルティア」
スパッと指摘され、私は項垂れる。確かにアリシアは腰が低い。私と一緒にいるせいかも? と思わなくもないが、たぶん生来のものだろう。
それにアリシアは「悪役令嬢」になりたくないのだ。悪役令嬢とは傲慢で、態度が大きいしワガママだともいっていた。
私だってワガママで傲慢な人にはなりたくない。そんな考えを見透かされたのか、イザベラ嬢はにこりと笑いながらいった。
「なにも傲慢であれ、というわけではないのですよ。姫殿下。ですが所作の美しさは必ず武器となります。そして身分の低い者に王族が侮られてはならないのです」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「自分には難しい、とお考えですか? その時点で、相手から侮られます。フィルタード派の貴族たちがなぜ、姫殿下を侮るのか? その腰の低さが問題でしてよ?」
「でも、同じ土俵に立つのは……」
「姫殿下の場合、同じ土俵にすら立てておりません。だって侮られていらっしゃるのですもの」
侮られないのは大事なのだというけど、私は偉ぶりたいわけではない。
王族だからとそれを傘にきたいわけでもないし。
「ねえ、ルティア。君はとてもチグハグなんだ。民のために、と色々しているけど自分のことは本当におざなりだ。それでは民もこちらを見てくれない」
「そんなこと……ないと思うのだけど」
「あるよ。もちろんね、僕たちも悪いんだ。幼い頃の君は、本当に自由に出歩いてニコニコと楽しそうで……それを見ているこちらも幸せな気分になれた。でも年相応、という言葉がある」
「……つまり、私は年相応ではないのね?」
「王族としての矜持を持ちながら、君はずっと幼いままだ。今だってそのまま入ってきただろ?」
それは、ロイ兄様しかいないと思っていたし……と考えて、これも甘えなのだなと感じる。
もしかしたら、誰かいるかもしれない。予測して動かなければいけないのだろう。
そもそもここはロイ兄様の小離宮。
ロイ兄様の知り合いが訪ねてきてもおかしくはない。
「次から、気をつけるわ」
「もちろんね、ルティアの良さもあるんだよ。身分に関係なく、誰とでも友達になろうとするところは誇れるところだ。だけどそれだけじゃいけないのはわかるね」
「そうね。今日だって、私……アリシアたち以外の友達がいないってわかったもの」
「たしかに、ルティアの友人は少ないね。いや、友達はいても友人はいないというべきかな」
ロイ兄様は苦笑いを浮かべた。そうはいうが、兄様の友達を私は見たことがない。
ちゃんと友達がいるのだろうか? それに友達と友人の違いって何? 内心で首をかしげていると、コホン、とロビンがわざとらしい咳をした。
「姫様、ロイ殿下にもいらっしゃいますからね。ご友人」
「でも私、一度も見たことがないわよ?」
「そりゃあ、そうでしょうね。姫様がこちらに来るときに呼んだりしませんよ」
「それって……私の所作があまりよくないから?」
「というより、そこまでの関係ではないからですよ」
「そこまでの関係ではない友人ってどういうこと?」
友達は、友達ではないの?? ロイ兄様に限って取り巻きを作っているとは考えにくい。
私には紹介できないけど、それでも友達? いや、友人……??
「姫殿下、簡単な話ですわ。アリシア様と姫殿下のような深い付き合いではないということです」
「えっと……それが、友人……なの?」
「それも友人です。ロイ殿下の敵に回らない、共に勉学を励むことのできる方々なのでしょう。ですが身内を紹介できるか、と問われるとそこまででもない」
「なんというか、ルティアとアリシア嬢の関係を表すなら親友なのだろうね。でも僕と友人たちの間はそこまで深くない。何でも話せるわけではないからね」
友達の定義って、複雑なのね……ロイ兄様とイザベラ嬢に説明されてもいまいちよくわからない。
でも私にも友達が必要なのだけはわかった。
カレッジに入っても、私はアリシアとずっと過ごしている。アリシアも他の人と話しているところを見たことがない。私たちは私たちが思うよりもずっと閉じた世界にいるのだ。
「……私、お友達を作るわ!」
「いいえ。お友達を作る必要はないのです」
「えっ? だ、だって……」
「姫殿下の仰るお友達は、アリシア様やシャンテ様と同じような関係を意味なさいますでしょう? 必要なのはロイ殿下のような友人なのです」
「お友達、じゃなくて友人……」
「ええ。気兼ねなく話せる、共に勉学を励むことができる、そして敵に回らない。そんな方々を騙されることなく、作らねばなりません」
「騙される……?」
「きちんと派閥を認識しておりませんと、偽の情報に翻弄されましてよ?」
つまり友人も選んで作らなければいけない!? 正しい友人ってどんな友人なのだろう??
フィルタード派はもちろんないわよね。彼らと友好関係が築けるなら、嫌みをいわれたりしないもの。まあ、そういう人たちですら取り込めるのを英雄というのでしょうけど。
私は少し考え込み、口を開いた。
「友人は、王家派……ではきっとダメなのよね?」
「そうだね。考えが偏ってしまうし、彼らは自分たちに都合の良い話しかしないだろう」
「それってフィルタード派と変わらなくないかしら?」
「派閥なんてそんなものだよ。自分たちの利益が最優先だからね」
「そう、なのね。それじゃあ、中立の人から友人を作るといいということ?」
「前提はそうなるね」
「前提は……?」
「フィルタード派でも、親がフィルタード派ではあるけど本人は興味がない。そういう者もいる」
「全員が全員、そうでないということ?」
「僕の友人の中にも親はフィルタード派という者がいるよ。たまに有益な情報をくれたりとかね」
そんな人がロイ兄様にはいるのか……それに引き換え、私は挨拶はしても特に話すような子はいない。大体がアリシアやシャンテと話して終わってしまう。
もしかしたら、私やアリシア、シャンテと個別に話したい。そういう子もいたかもしれないのに。私はその機会を棒に振っていたことになる。
仲良しの中に割って入るのって、結構勇気がいるし。特に私とアリシアは二人一緒にいたら話しづらいかも??
「姫殿下、何もすぐに友人を作る必要はないのです。相手が何を考えているか、それを見抜くのは一朝一夕ではできませんので」
「……それは、私が騙されやすいという意味?」
「ええ。もちろん」
イザベラ嬢はキッパリという。
つまり私って、人付き合いが苦手なのに考えていることはすぐ顔に出る。嘘も苦手。騙されやすい。どれも王族として、というより人としてダメじゃない??
「そういうわけだから、ルティアはイザベラ嬢から少し嫌がらせを受けてもらいたいんだ」
「え!?」
「そのときに聞き心地の良いことをいってくるなら、距離を置く。もちろん嫌がらせに加担するような人間は論外だよ」
「つまり、正論をいってくるような相手なら……大丈夫?」
「そうなりますわね。私としては嫌味をいう程度に留めますけど、ですが嫌味は嫌味でも姫殿下ができていないことを指摘しますのでお覚悟なさってくださいませ」
それはイザベラ嬢に負担にならないのだろうか? いや、でも私の不出来を指摘してくるのならそれは間違いを正すわけで……???
「あ、アリシアたちには……?」
「敵を騙すにはまず身内から、だよ」
――――ロイ兄様の笑みに私はただ頷くしかなかった。
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