223.その少女は可憐に、大胆に 3
私たちの世界はあまりにも狭い。いや、外を見に行く経験は同じ歳の子たちよりも豊富だろう。
だけど社交という場においては、あまりにもお友達が少なすぎるのだ。
小さい頃は、お友達を作るガーデンパーティーを何回か開催したけど……畑やポーションに係りきりになって、開くのを辞めてしまったのよね。
アリシアとお友達になったのもそうだけど、シャンテやジル、リーン。それにベルやアッシュ、リーナ。私の周りに人が増えたから。
第四と第五騎士団の人たちとだって仲良しだわ。
ポーションを届けに行くときに、色々話したりする。
でも、でもね……
「社交の場ってそれじゃダメなのよね」
「そうですね……」
「味方になってくれなくても、せめて敵に回られないように根回しは必要ですからね」
「根回し……根回しかぁ」
「難しいですよね。私たち、意外と人見知りなのでは?」
今さらですけど、とアリシアがいう。人見知りのつもりはなかったけど、極端に同年代の知り合いが少ないっていうことは……そうなのかしら?
それってものすごーく、問題があるわね。
「……やっぱり、彼女とは友達になりたいわね。誤解が解ければ、友達になれないかしら?」
「そのためには彼女と話し合う必要がありますけど……どうするんです?」
「そこはやっぱり、その、お茶に誘うとか?」
「まずは私が誘ってみて、誤解が解けたらアリシアやシャンテも一緒にとかどう?」
「ルティア様お一人で大丈夫ですか? 私も一緒に同席した方が……」
「でもそれだと彼女が警戒してしまうかもしれないじゃない?」
切欠は何だって良いのだ。トラット帝国から来ているイザベラ嬢をお茶に誘いたい。そう侍女長にお願いすれば、失礼にならない手紙の出し方も教えてくれるだろう。
日にちに余裕を持たせれば、礼儀作法もマシになるはず。
私はアリシアとシャンテと一緒に今後の予定を練る。
必要な対策は、エスト・フィルタードに怪しまれないように手紙を渡すこと。
レナルド殿下と私との間に何かある。そう思われては、また変な噂を流されてしまうからだ。
そしてその噂を聞いたら、イザベラ嬢は私たちに対して棘のある態度をとるかもしれない。
もちろんレナルド殿下に選ばれてファティシアに来たのだから、そうおかしなことはしないだろうけど……それでも敵意を持たれるのは困る。
私とイザベラ嬢の仲が険悪な雰囲気だと、フィルタード派は嬉々としてやらかすだろう。
なにって、私に対する嫌がらせ……とかだ。
そして自分の身が危うくなれば、イザベラ嬢に罪をなすりつけるかもしれない。
いうなればイザベラ嬢は悪役令嬢に祭り上げられてしまうということ。
普通はトラット帝国の令嬢にそんなことしないと思うわよね? でも、彼らは自分たちが優位に立つことが一番大事で、そのためならイザベラ嬢を利用してもおかしくない。
どのみち彼女はこの国の人間ではないし。外交問題に発展しかねないから、何かやったとしても見過ごされる可能性がある。
そりゃあ、命に関わるような危害を加えられたら別だろうけどね。
ともかくイザベラ嬢が、フィルタード派に取り込まれること。そして彼女におかしな真似をさせないこと。これは絶対に避けなければいけない。
表向きはほどほどの距離感。
裏ではちゃんとお友達。これが一番理想的だろう。
そのお友達になる。が、一番ハードルが高いのだけどね……
***
昼食が終わり、午後の授業を受ける。
そしてそれが終わったら、アリシアとシャンテと別れ王城へと向かった。
小離宮に戻れば、急だったにも関わらず侍女長たちが出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、ルティア様」
「ただいま、みんな」
いつもよりは意識して、挨拶を返す。こういうところから直していかないとね。
淑女らしく。淑女らしく。そう心の中で唱える。
「侍女長にお願いがあるのだけど、いいかしら?」
「ええ。なんなりと」
部屋に戻る道すがら、私はトラット帝国からの留学生――――イザベラ嬢をお茶に招きたいといった。そして招くのにどういった文面の手紙を渡せば問題ないかも。
「こちらからお誘いするのですから、いつも通り礼を尽くされた手紙でよろしいかと」
「そうなのだけど……最近そういったお手紙を書いてないから……」
「確かに、離宮にどなたかをお呼びすることはありませんでしたね」
アリシアは王太子妃教育を受けるついでに、こちらに寄っている体だものね。
もちろん招待してお茶会をするときもある。だけど仲の良い友達に出す手紙と、ほぼはじめましての人に出す手紙は違うのだ。
日にちや、時間帯、そしてお茶会をするのに相応しい場所。
特に他国のご令嬢を呼ぶわけだし、華美すぎても質素すぎてもいけない。トラット帝国がどのレベル帯のお茶会をしてるかもわからないし……だからといって相手から反感をもたれるのも不味いのだ。
「……おもてなしは、うちの国のものだけで大丈夫かしら? トラット帝国のものも交ぜるべき?」
「トラット帝国とは友好関係を結んでいますので、わざわざ交ぜなくとも良いのでは?」
「嫌味にとられたりしないかな?」
「心を尽くしたもてなしをしても、人によっては嫌味に感じることもありましょう」
「そうだよね……」
「だからといって、おもてなしを適当にして良いわけではありません」
「うん……リュージュ様にも相談してみる」
外交面はリュージュ様の得意分野だ。
トラット帝国の人たちとのお茶会も経験豊富なはず。ひとまずリストを作成して、それをリュージュ様に確認してもらおう。
「そういえば、その留学してこられたご令嬢はどのような方ですか?」
「どのような……うーん……すごいしっかりしてそうだった。所作も綺麗だし」
だからこそ38点といわれてショックだった。彼女から見て、私の所作はいまひとつ。といわれたようなものだもの。
実際そうなのだけど。それって一国の王女として問題大ありだ。
小さい頃は、庭を走り回っていても怒られなかったけど……今は歩いているときの裾捌きが悪いだけでも指導が入る。
デビュタントを終えて「大人の仲間入り」をしているんですよって。
わかってはいるけど、窮屈だなとも思うのだ。
部屋の中に入り、着替えを手伝ってもらう。
寮では自分でやるのだから離宮でもそうしたいのだけど、これもダメなことの一つ。侍女たちの仕事をとることになるから。
着替えさせてもらいながら、手紙の文面を考える。
できれば仲良くなりたいけど、今彼女がこちら側にどんな印象を持っているのかわからない。考えても答えの出ないことだけど、本人にどう思ってる? とも聞けないのよね。
この貴族らしさ、が本当に苦手。
そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
侍女長が私が着替え終わっていることを確認すると、扉の外を確認する。
どうやら外にいたのはロビンだったようだ。ロビンの耳馴染みのいい声が外から聞こえてくる。
ロビンは二言三言、侍女長と話すとひょっこりと扉の影から顔をのぞかせた。
「姫さんお帰りなさい」
「ただいま。ロビン。どうしたの?」
「ちょうど姫さんが戻ってきてるって聞いたんで、ロイ様に呼んできてほしいって言われたんっすよ」
「ロイ兄様が? 何の用だろ??」
特に約束していた覚えはない。
私は軽く首をかしげた。そんな私を見てロビンは、早く行こうとロイ兄様の離宮へと急かす。
「ささ、早く行きますよ」
「わかったわ。急かさないでよ」
「いつも俺を急かすからですよ」
「そんなことない、と思うわよ?」
「そんなことありますよ」
ロビンにいつだってガッと進むでしょ? といわれてしまう。
確かにそうだけど。なんだか今はそれすらもダメ出しに思えてしまった。
王女として、ダメな部分が多すぎる。今まではそれでも許されてきたけど、本当はダメなのよね。わかってる。わかっているけど……
ロイ兄様の部屋の前に立ち、ロビンがノックをする。
中から返事が返ってきて、ロビンが扉を開いた。私は扉が開くと同時に、叫んでしまったのだ。
「――――ロイ兄様聞いて!」
「親しき仲にも礼儀あり。マイナス21点です」
聞こえた声にピシャリと固まる。
部屋の中では、優雅にソファーに座るロイ兄様。そしてその正面に扇子で口元を隠したイザベラ嬢が座っていた。
現在モブ姉王女と龍花は交互更新中です。
よろしくお願いします。
龍は花姫の愛を乞う https://book1.adouzi.eu.org/n1321jk/




