220.大団円にはほど遠い
それは突然起こった。急に私の手首から印が消えたのだ。
呪いの印。それがキレイさっぱりと。
アイゼンというあの術者が自主的に解除するとは到底思えない。
つまりは、そういうことだ。
私はその現実とも向き合わなくてはいけない。人の命を軽々しく扱う者とはいえ、そうなってほしかったわけではないが……
「違うわね。結局のところ、結末は変わらないんだわ」
「……ルティア様?」
「あ、うんん。大丈夫。気にしないで」
馬車に揺られ、ファティシア王国へと戻る。その道すがら、窓の外をぼんやりと眺めていたせいでアリシアに心配させてしまったようだ。
全てが終わったわけではない。サリュー様の実家はキレイさっぱり無くなってしまった。縁者としてはいるらしいけど、レイティア侯爵家はその名を消されてしまったからだ。
慎ましく生活していれば、生きていられた。
でも彼らはそれを選ばなかったのだ。王に反旗を翻そうとして、あえなく捕まった。最後は牢獄へと送られ、そして首を落とされたのだ。
王に仇なすということは、失敗すれば命を失う。
どうして捕まったのかというと誰も彼らの話しに耳を傾けなかったから。裏でアイゼンも動いていたようだけど、アイゼンの力も数には敵わなかった。
もしかしたら、それすらもアイゼンの手の内だったのかもしれないけど。
それにレイラン王国の女王、ランカナ様は良く国を治めている。
対して、レイティア元侯爵夫妻は冤罪だと訴えていたが、どう見ても悪事を働いていた。証拠も、証言も揃っている。
その一つ一つは小さなものでも、積み重なれば領民から反感を買う。
それなのにどうしてアイゼンの話に耳を傾けてしまったのだろうか?
貴族社会で生きてきた彼らは、命じることに慣れているが自分で動くことにはなれていない。足がつきやすく、だから簡単に領民に通報されてしまう。
ちょっと考えればわかったはずなのに……
たとえ唆されても、謀反を起こしてはならなかったのだ。
「欲を掻いた。それだけのこと」
サリュー様は悲しそうにいった。
「彼らの悪事を知っていたのです。小さなことでも積み重なれば、隠し通すことなんてできない。義母やサティの衣装代は、ただでさえ高額だったのに……父は見栄のために見ないフリをした。豪奢に着飾らせて連れて歩けば自慢になるから」
「サリュー様は知っていたんですね」
「ええ。わたくしに勇気がなかったばかりに、ルティア姫には迷惑をかけてしまいました」
「そんなこと……」
「貴女のその正しさが、わたくしには必要だったの」
そっと両手を包まれ、私はどうしていいか迷う。こんなときに気の利いた言葉の一つでもいえれば良いのに、それができない。
ぽたりと、手にしずくが落ちる。
「サリュー様……」
「ごめんなさいね。貴女に、迷惑ばかりかけてしまって……」
「いいえ。いいえ……私は、何も役になんて立っていません」
「そんなことはないわ。ルティア姫、貴女の心にわたくしは救われた。間違いを正すのは、とても勇気がいることなの。わたくしはずっと愛されたかったから……」
愛されたくて、でも愛されなかった。だから自分には価値がないと思っていたのだと……サリュー様は呟く。
「私は、私は……サリュー様が大好きです。ウィズ殿下も、それにランカナ様もみんなサリュー様が大好きです。愛されなかったのは、悲しいけれど愛してくれる人はたくさんいます」
「そう、ね。わたくしはそのことを知った。知ることができた。それでも正しい道を選ぶことを躊躇してしまったの」
そうか、だから私が同席するならってサリュー様は言ったのか。
サリュー様に負担をかけないように、私たちだけでサティ嬢に会いに行ったけど……サリュー様には全部わかっていたんだ。
あの場に現れることは、きっとすごく勇気のいることだっただろう。
家族を――――罪に問うと、決めてしまったのだから。
サリュー様のされたことは正しい。たとえ身内でも、罪は罪と断じたのだから。
たとえどんなに助けを懇願されても、サリュー様は無視し続けた。それどころか、王太子妃の地位から退こうとランカナ様に申し出たそうだ。
ただそれはランカナ様によって却下された。
サリュー様がレイティア侯爵家から冷遇されていたこと。
それに王家の影がサリュー様の潔白を証明したこと。
あと、サリュー様がウィズ殿下の番であること。
それら全てをあげ、サリュー様は王太子妃のまま留まることになった。
私としては喜ぶべきことだ。お互い思いあってる二人が引き裂かれなくてすむ。
いや、ウィズ殿下の場合はサリュー様が王太子妃を退いたら、自分も王太子を辞めるかも……二人の間にお子は生まれているし、ランカナ様はまだお若いしね。
お子が大きくなるまでランカナ様に頑張ってもらうとか言いだしそうだ。
ウィズ殿下はそういうところがある。意外とわがままなところが。
番という感覚はわからないけど、でもきっとサリュー様に対する甘えのようなものでもあるのだろうなぁ。
何はともあれ、サリュー様の目は元に戻ったし私の印も消えた。
あとは本来やるべきことをやるだけ。
レイティア侯爵家の騒動後――――ラステア国との貿易や、共同での研究をまとめるのに二ヶ月。それから細々した打ち合わせをして、ようやくファティシア王国に戻ることになった。
せっかく飛龍に騎乗する訓練をしたのだから、飛龍で帰ろうかとも思ったのだけど残念ながらカーバニル先生に却下されてしまう。だから行きと同じく馬車で移動だ。
国境付近までコンラッド様をはじめとした騎龍隊が見送ってくれる。
それ以降はクリフィード侯爵領の騎士たちが王都まで送ってくれることになった。なにせ行きよりも人が減ってしまっていたしね……
それに王都の騎士たちは、信用ができない。もちろん信じられる人たちもいる。いるけれど、混ざっている可能性は十分あるのだ。
「そういえば、飛龍たちはあとから来るんですよ、ね?」
シャンテの言葉に私は頷く。アリシアとシャンテの飛龍は、私の飛龍ラスールと一緒にあとからファティシアへ来ることになっていた。
ラステア国からの譲渡品、という立場になるらしい。
ただ龍のお医者さんも必要らしくて、そのお医者さんを常駐させるのかそれとも定期的にファティシアへ来てもらうかで話し合いが必要になる。
「シャンテはだいぶ龍に慣れたわね」
「そうですね。はじめはとても驚きましたけど……アレの経験があるので、飛龍のサイズならそこまで怖くないかなと」
「私も高いところはまだ苦手意識がありますけど、龍たちも慣れれば可愛いなって」
「アタシだって龍の鱗は大好きよ~」
「カーバニル先生は毎回囓られてたものね」
カーバニル先生が鱗を拾っていると、なぜか龍たちがちょっかいをかけてくるのだ。
よだれでべちょべちょになってるカーバニル先生を何度見たことか……私たちにはしてこないので、鱗を拾ってるカーバニル先生に何か思うことがあるのかもしれない。
「鱗は輸入という形になるんでしたか?」
「そうよーま、アイツも……何らかの形で協力するといってたし、鱗の研究は大丈夫でしょ。今後もガンガン研究していくわ」
「……あの」
「なあに?」
「母にだけは、その……あまり関わらせたくないといいますか……」
「そうねぇ。でもアマンダよ? 一〇〇%無理じゃない?」
「ならせめて、関わる頻度を下げてもらいたいです。まだ妹も小さいですし」
「たしかに家庭を疎かにしちゃダメよねぇ」
二人の会話に苦笑いを浮かべる。確かに鱗の研究に関しては、ロックウェル魔術師団長も目の色を変えそうだ。
「それならポーションの担当にするとかは?」
「そうねぇ……ポーションもある程度、研究が終わってるし。今やることといえば、量産体制をとるための効率の良い魔力過多の畑の作り方とか……?」
「あ、それもたぶん寝ずにやりますダメです」
顔の前で高速で手を振るシャンテに思わず笑ってしまった。カーバニル先生はちょっと遠い目をしている。
「それなら……カーバニル先生と共同で研究すれば良いのでは? お互いに牽制し合えば、お二人とも寝ずに研究はされないでしょう?」
アリシアの言葉に私とシャンテはパンッと手を叩く。
確かにそうだ! カーバニル先生も寝食忘れて研究に没頭する。なら二人で時間を決めてやってもらえばいいのだ。
「いや、アタシはいいのよ~まだ若いし?」
「若いうちから無理をしていると、年を取ってから大変ですよ?」
なにか凄く実感のこもった言葉でアリシアはカーバニル先生に告げる。
私は先生を見ると軽く頭を左右に振った。こういうときのアリシアは怒ると怖い。
「先生、諦めた方が良いわ。それに健康は大事だもの」
「そ、れはそうなんだけどぉ」
「諦めましょう。母の面倒もついでにお願いします」
「いやよぅ~アマンダの面倒なんてー!」
ムキーといいながらカーバニル先生は服の袖を噛む。
ふと外に目を向ければ、見知った景色が目に飛び込んできた。
長い旅路も、もう終わりだ。
王都にたどり着いた。
そしてロイ兄様に指摘されて、あることを思いだすまであと少し。
ひとまず更新は龍花と交互の予定です(もう1本くらい連載増やしたい…)
ツン9割のヒロインが自分の人生を勝ちとる和風ファンタジーです。よろしくお願いします。
龍は花姫の愛を乞う
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