212.姉妹 2
サリュー様は――――
サティ嬢を疎んでいたのか、それとも哀れんでいたのか?
妹という存在を愛しているのか、いないのか?
どんな風に思っているのだろう?
「一番は、サリュー様のお気持ちだと思うの」
会いたいのか、会いたくないのか。そこがわからない。
私が同席すれば会う、しないのなら会わないなんて……サリュー様らしくないのだ。
普段のサリュー様なら、どちらかハッキリと決めるだろう。
きちんと自分の意思を持っている方だもの。たとえウィズ殿下が止めても、今後会うことができないのであれば会うはずだ。
どんな感情を抱いていようと、区切りをつけるために会う。サリュー様はそういう方だ。
「サリュー妃の気持ち、か……どうなのかな。ほら、彼女は家では妹優先の生活を強いられていたし」
「強いられたとして、それとサティ嬢を嫌うかは別問題だと思うの」
「何でも奪っていく妹でも可愛いと思えるかな?」
「それは、そうなんだけど……サリュー様も疎外感を感じていたみたいだし」
「そうなると会いたいようには思えないよね」
コンラッド様の言葉に何も言い返せない。確かにそうなのだ。でもわざわざ私を名指しして、判断を仰ぐことをサリュー様がするとは思えない。
それぐらいなら最初から同席してほしいと言ってくるはず。
私が側にいて何ができるかはわからないけれどね。
「そもそもの話なんですけど……ルティア様に同席を求める理由が謎ですよね」
「そうね。私にできることなんて、特にないもの」
「そんなことないですよ!ルティア様がいると心強いですもの!!」
隣に座るアリシアがグッと両手を握る。アリシアの言葉はとても嬉しいけど、サリュー様が心強いという理由で私に同席を求めるだろうか?
「たとえば、古の術の影響を気にしてるとかは?」
「オルヘスタルが見逃した可能性があると?」
「いやあねぇ。彼は、もうしないでしょうよ。でも……オルヘスタルさんは全部知ってるわけじゃないでしょう?」
「それは、そうだろうね」
カーバニル先生の問いに、コンラッド様の言葉がつまる。
「カーバニル先生は古の術が、まだサティ嬢にかけられてると思うの?」
「警戒するにこしたことはないんじゃない?もしものときは、アンタの力が必要になるでしょうし」
「それなら、確かにルティア姫の同席を求める理由になるね」
「でもそれならそういうんじゃないかしら?」
そういうと全員黙ってしまう。
「やっぱり……ルティア様に側にいてほしいんじゃないでしょうか?」
「私に?」
「ただ側にいてくれるだけで心強いことはありますよ。それにルティア様はサリュー様とサティ嬢の関係性もご存じでしょう?」
「それは、そうだけど……」
そういえば、あの言葉の意味も私はわからないままだ。
『わたくしにはわたくしのやるべきことがある』
それが今回の同席になるのだろうか?私に手を貸してほしいと望んでいる?
サリュー様は何をしようとしているのだろう?
「アタシは、正直いってあんまり関わってほしくないわね。ソレのこともあるし」
「そう、ね……でも、私はサティ嬢のことも気になっているの」
「サティ嬢?サリュー様じゃなくて??」
「なんだかこう、サティ嬢は……本当に操られていたのかなって」
「操られていたから、印があったんじゃないの?」
「印は体を操るためのものだったら?」
体の弱いサティ嬢に、素早い動きを求めるのは難しい。
私なら、体の骨が折れてまで操られたいとは思わないけれど……でも、サティ嬢はウィズ殿下を自分の番だと思っていた。
サリュー様の血が必要なのだと言い含められていたら、そのぐらいやるのではなかろうか?
だって、夢の中のサティ嬢の言葉は……彼女の言葉のはず。
「アイゼンが、サティ嬢を操っていたとは思うの。でも、いつも提案という形だった」
「ああ、そうか。シュゲール・ハッサンと違って、サティ嬢ならどうとでも言い含められる。提案する必要は、ないな……」
「そうなの。でも提案していた。一度、サリュー様の悪い噂を流そうって提案したとき、サティ嬢は拒否したの」
「そういわれてくると、サティ嬢の精神込みで操られていたとは考えにくいな」
コンラッド様は小さく頷く。
私はサティ嬢が古の術から解放されたときの違和感を告げた。
「言葉にしづらいのだけど……違和感があったの」
「違和感、ねぇ……確か、術から解放されたあとは泣いてたかしら?」
「そう。泣いてたのだけど……」
そのときの様子を思いだそうとする。私は、どうして違和感を感じたの?
自問自答を繰り返し、ふと思いだす。
「そう、だ。口元」
「口元?」
「はい。口元が、ほんの少しだけ笑ったように見えた……」
たぶん、私のいた位置からしか見えない。あの場にいた誰もが、私よりも背の高い人たちばかり。
私だけが座り込んだサティ嬢の顔をよく見ることができた。
そのことを話すと、嘘泣きっぽかったものねとカーバニル先生が頷く。
「え、どうして!?」
「今まで信じていたものが違った。そう告げられて、簡単に諦められる?」
「えっと……?」
「番じゃない。ソレは初恋よ。と、アタシは告げた。でも本人が納得して諦めると思う?」
「普通は、諦めるんじゃないの?」
だってウィズ殿下はにとってサティ嬢は特別な相手ではない。
ウィズ殿下の番はサリュー様で、でもサティ嬢は諦めない??どうして??
「アタシね、思うのよ。サティ嬢は子供の頃から望むものは何でも手に入れてきた。それこそ、姉のサリュー様の物でさえ」
「そうね。あの人形も……元々サリュー様の物だし」
「だったら言うんじゃないかしら?両親に。ウィズ殿下と結婚したい。自分が番だって」
カーバニル先生にいわれ、私は考え込む。確か、確かサリュー様はサティ嬢が唯一ほしがらなかったのが、ウィズ殿下だと言った。
預ける、と。それは時がきたら返してもらう。そういう意味だったのだろう。
自分が番だから。そう思い込んでいたから?
でも前提条件が違っていたらどうだろう?
「もしかして、自分が番じゃないってわかっていた!?」
「可能性の話よ。番云々はもしかしたらアイゼンがそう思い込ませたのかもしれない」
「そうか……アイゼンという男は思考を誘導するのは得意だろうしね」
「でも、どうして嘘泣きなの……?」
私がそう聞くと、カーバニル先生はため息を吐く。
正面に座っているコンラッド様は苦笑いを浮かべていた。隣のアリシアを見ると、アリシアはいいにくそうに教えてくれる。
「その……同情を引くためかと」
「同情?」
「私、操られて可哀想とか……番だと思ったら違っていたなんてーとか?」
「泣くと、同情が引ける……?」
「儚い感じの方なんですよね?」
「ええ、そうよ」
アリシアの問いに素直に頷く。でもどうしても泣いたからといって可哀想とは思えない。
きっと直前までの言葉と、操られていたときの動きが原因かも。
骨が折れたりしたことに関しては、可哀想って思ったけどね。
「ま、女の涙は武器になるって知ってるってことよ」
「はあ……」
納得いかない。でもみんなカーバニル先生の言葉に頷いている。
つまりそういう人もいるということなのだろう。
「でもそうなると、なおさらサリュー妃と会わせたくないな」
「そうよねぇ。自分に都合のいいように解釈されても困るもの。泣いて周りの同情を引かないともかぎらないし」
「そう、かな?」
「サティ嬢の性格を我々はよく知らないからね。家の中で彼女が優遇されているのはわかっているけれど」
その言葉に引っかかりを覚える。
サティ嬢は優遇されていた。サリュー様よりも。それなのになぜ、サティ嬢は両親にねだらなかったのだろう。自分をウィズ殿下の婚約者にしてほしいと。
体が弱いから?王太子妃の仕事をしたくないから?
でも彼女はサリュー様に預けるといった。なら、サリュー様の居場所を奪う気だったのではなかろうか??
子供ができるまで待つ必要があった?
でも子供は授かり物だ。いつ生まれるかなんてわからない。
それにお見合いだって……
「あ、そうだ。どうして……サティ嬢はお嫁に出されるの?サリュー様が嫁いだら、侯爵家を継ぐのはサティ嬢でしょう?」
「体が弱いというのは理由になるのかしら?」
「どうかな。それこそ、養子を迎え入れればいい。サリュー妃とウィズの子供をね」
「つまり他家に嫁がせる必要はない?」
「レイティア侯爵は、彼女を可愛がってはいたようだが……有力者へ嫁がせたがってもいたからね」
「それって不思議じゃない?一番有力な王太子の元へ嫁がせないのに、他の有力者の元へは嫁がせたいってことでしょ?」
カーバニル先生にいわれ、コンラッド様も頷く。
「そう考えると確かにそうだな。ウィズとサリュー妃が番だとわかっていたのは、たぶん俺と姉だけだ。侯爵にそんな繊細さはなさそうだし」
「だったら可愛い娘のおねだり、聞くわよね?」
「王家が求めたのが姉のサリュー妃であっても、きっとサティ嬢と会えば心変わりする……と考えてもおかしくないな。あの両親なら」
「でもそうしなかった。そうしないだけの理由があるんじゃない?」
だんだんと雲行きのあやしくなっていく話し合い。
隣に座っているアリシアの手は、テーブルの下でぷるぷると震えている。
その手をぎゅっと握ってあげながら、私は古の術よりも人の心の方が怖いのだなと感じた。
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