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ポンコツ王太子のモブ姉王女らしいけど、悪役令嬢が可哀想なので助けようと思います〜王女ルートがない!?なら作ればいいのよ!〜【WEB版】  作者: 諏訪ぺこ
第三章

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187.来訪者 1

 私がレイラン王国について知っていることは殆どない。

 それほどまでにレイラン王国は閉鎖的で、他の国との交流を持たない国なのだ。古の術もその一つ。ランカナ様から古の術がラステアにも残っているとは聞いているけど、それとレイラン王国で使われているものが同じかはわからない。


 私は破れた鱗をジッと見る。

 ウィズ殿下の呪いは古の術だった。サリュー様のも同じである可能性が高い。だからこそ、聖属性の力でなんとかしようと思ったのだが……それは叶わなかった。


 皇龍デュシスの鱗は聖属性の力が入れられる、今知る限りでは唯一のもの。

 これは常に発動している状態だから、サリュー様の目も入れた魔力が尽きるまでは見えるのだ。ただそれを断られたから私が持っていたに過ぎない。


「お姉様、もしかしてネイトさんが行ったのはサリュー様のところですか?」

「念の為ね。でも私の見立ては違うと思っている」

「どうしてですか?」

「私は、ルーちゃんが狙われたんだと思ってるの」

「え?だって、私……今はただの侍女ですよ?」

「そう、なのよね。でもあの男がルーちゃんを犯人に仕立てようとしていたでしょう?」


 そういわれてシュゲール・ハッサンを思い出す。確かに彼は私を犯人に仕立てようとしていた。じゃあ彼は古の術の使い手なのだろうか?

 見た目の印象と、中身が違うことはそれなりにある。シュゲール・ハッサンは私を犯人に仕立てるために何かの術を使っていた。それを鱗が防ぎ、役目を終えて破れたのかな……現状の情報が少な過ぎてよくわからない。


「お姉様、ランカナ様から前に古の術を使える人は少ないと聞きました。シュゲール・ハッサンは使える人なんですか?」

「古の術を使える人はごく僅か。しかも魔力量だけでなく、扱いも難しいと本には書かれているの。だからあの男が使えるとはとても思えない」

「でも人は見かけによらないっていうでしょう?」

「それはそうなんだけどーあの男が扱えるなら私だって扱えるわよ!ってことね」


 カティア将軍にそう言い切られてしまう。とても魔力量は多そうだけど、それ以上に必要ということなのかもしれない。ランカナ様やオルヘスタル魔術師長くらい多くないと難しいのだろう。

 でもそうすると、私に対してシュゲール・ハッサンが古の術を使うのは難しいということになる。矛盾していないだろうか?


「ルーちゃん、ルーちゃんのひいおばあ様が鱗をレイランに輸出していたとするでしょう?それがまだ残っていたら?」

「その鱗が術の元として使われた、ということ?」

「可能性の問題だけど……あるでしょうね。それに流石にうちの一族で変な相手に売ったりはしないでしょうけど、時間が経ったらわからないでしょう?」

「そうか。良い人に売ったとしても、代が変わったらわからないものね」

「もしくは国に没収されたりね」

「没収!?そんなことがあるの?」


 財産を没収するなんて余程のことがなければファティシアでは起こらない。だけど国によって法律が違うのも確か。トラット帝国は従属国にすごく重い税を課して、貴族たちの財産を巻き上げたとも聞くし……

 レイラン王国がどんな国なのかわからないし、絶対にないとは言い切れない。


「ぜーんぶ可能性の話だけどね。あとはルシアンが帰ってくるまで待ちかな」

「……サリュー様に何もないと良いわ」

「そうね。でも……もしもあの男がルーちゃんを狙ったなら、もしかしたら口を封じられる可能性があるわ」

「え?」

「だってそうでしょう?術は防がれて失敗したんだもの。その道具を渡した人は道具を回収した上で口封じをするわ。私ならそうする」


 バッサリと言い切り、私は驚いてしまった。それじゃあシュゲール・ハッサンが捕まり、真実を知る機会が失われてしまう。荒くれ者たちや、商業ギルドの受付の人の死は――――原因不明で終わるのではなかろうか?

 思わず唇を噛んでいると、将軍が私の頭を撫でる。


「ルーちゃん、そんな顔しないで。ルーちゃんの素敵なお姉様はこんなこともあろうかと!ちゃんと王弟殿下に話を通してシュゲール・ハッサンを探すように頼んであるから!!」

「お姉様!!」

「まあ、それより先に殺されちゃったらアレなんだけどね……」

「そ、それは……でも生きていれば、ポーションがありますし!」


 グッと拳を前に握ると、将軍もわしゃわしゃと私の頭を再び撫でてくれた。



 ***


 ネイトさんは暗い表情を隠さぬまま執務室に戻ってきた。

 もしやサリュー様に何かあったのだろうか?不安で胸が押しつぶされそうになりながら、私はネイトさんが話し出すのを待つ。


「ええと、良い報告と悪い報告とよくわからない報告があるんですけど……どれから聞きます?」

「なにそれー?」

「そういわれましても、私だってわかりませんよ。で、どうします?」

「とりあえず、悪い報告、良い報告、残りでお願い」


 将軍にそう促されると、ネイトさんは自分が仕入れてきた情報を私たちに教えてくれた。

 悪い情報はシュゲール・ハッサンの行方が知れないこと。ネイトさんは一番最初にコンラッド様の元へ行き、シュゲール・ハッサンを探してほしいとお願いしたそうだ。デュシスの鱗が破れた、と伝えただけで動いてくれたらしい。


 そして良い情報はサリュー様は特に様子に変わりはないということ。そのことに少しだけホッとする。今は悪化していない、ということが良い情報だもの。早く呪いが解ければいいけれど……


 そして最後のよくわからない情報。これに私は驚くことになる。


「カティア家から至急の用ということで、言伝を承りました」

「至急?うちからー?誰かしら……?」

「はい。カティア家からオルフェ様がおいでになりまして、至急、ルー嬢と一緒に戻ってほしいと」

「私もですか?お姉様だけじゃなく?」

「はい。そして紺碧色の髪と漆黒の瞳をもった青年に心当たりはあるか?とも」

「紺碧色の髪と漆黒の瞳……?」

「もしも心当たりがなければ、こちらで処理するので将軍だけ戻るように、とのことです」


 ネイトさんの言葉を反芻しながら、記憶の中を探っていく。紺碧色の髪に漆黒の瞳――――それは、もしやあの人では?私はネイトさんにその人の名前を聞いたか確認する。


「ええ、聞いております。しかし先にルー嬢からいっていただいてよろしいですか?」

「えっと……ギルベルト・シュルツ卿です。トラット帝国の、方です」

「当たりです。そのように当人も名乗っております。いやあ、素直に名乗っておいて良かったですね。その方」

「え?」

「偽名を使われたら判断しようがないですし。なんせ素直にトラット帝国の人間だといってますから」

「そうよねぇ……戦争した仲だもの」

「あ、そ、そういう……やっぱり、戦争した相手とは相入れないものですか?」

「個人としては良い人もいるんだろうけど、個人と国とは違うでしょう?たとえどんなに良い人でも国から命じられれば牙を剥くもの」


 それは私たちも同じだけどね、と将軍はいう。確かに正直にシュルツ卿が名乗ってくれてよかった。こんなときは私の心臓にちょっと負担がかかったぐらいで済むものね。

 でもどうしてシュルツ卿はカティア家にいるのだろう?そもそもあの人たちを連れて帝国に戻ったのではなかろうか?レストアでの出来事を思い出し、私は首を傾げる。


「どうするルーちゃん。うちに帰る?」

「そう、ですね。シュルツ卿の目的がわかりませんし……それにリリに、本当のことも話さないといけないかも」

「うーん……話したらすごく驚きそう。話さなくても大丈夫じゃない?」

「でも……」

「元凶のシュゲール・ハッサンが見つかったとしても、もうリリと会うことはないですし……それに、秘密は知っている人が少ない方が漏れないものですよ」


 二人に止められて私は考えてしまう。確かにシュゲール・ハッサンが捕まってしまえばもうリリと会うことはない。たとえ彼の罪がさほど重くなく、何年かの後に牢から出てきたとしてもリリは王都にはいないだろう。

 カティア家の領地は人手不足で、リリを筆頭に希望者がいれば領地の手伝いをしてほしいと考えている。いくらなんでもシュゲール・ハッサンがリリを探し出してまでどうこうするとは考えづらい。


「そう、ですね。リリに嘘をつくのは心苦しいけど……」

「それに知らないことの方が幸せってこともあるのよ。知ったら今まで通り気安く接してもらえなくなったり、とかね」

「優しい嘘、というやつです。ひとまず、全部解決してから考えてみては?」

「うん。そうしてみます」


 確かに他国の王族である私が、姿と名前を偽ってフラフラ出歩いているのは問題があるだろう。そこにどんな事情があったとしても、全部をリリに話すことはできない。そうなるとやっぱりちょっと問題あるものね。


「さて、じゃあ今日はーもう仕事終わりでいいのよね?」

「わざわざオルフェ様がいらっしゃいましたからね。ただし!私も同行しますよ?」

「そうね。ひとまずうちの人間以外の証言も必要だし、お願いするわ」


 本当はまだ仕事あるんですけどねぇ、とネイトさんはぼやいているけど今回ばかりは許してもらいたい。私一人でシュルツ卿と対峙して丸め込まれないでいる自信はないのだから。


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