151.レイドール伯爵 4
さてこれからどうしよう、と考える。もちろんラステアに戻るのは決定事項だ。このまま私がファティシアに残ったところで、迷惑をかけてしまうだけだし。
それに、コンラッド様にも戻ると約束している……予定よりは遅れてしまったけれども。それに関しては、カティア将軍とネイトさんから説明して貰えば平気だろう。
「ルティア、会っていくかい?」
お祖父様のその言葉に、私はどうするべきか悩んでしまった。会いたい。会って、大変なことに巻き込んでしまったと謝りたい。でも、それを望むだろうか?
むしろいつまでファティシアにいるんですか?と怒られる気すらする。今の事態を選んだのは、自分達なのだから早く戻りなさい、と。
「……お祖父様、ここにいれば安全なのよね?」
「彼らには儂の仕事を手伝ってもらおうと思っている」
「仕事って……魔物狩りを!?」
「いや、そっちじゃない。もう一つの仕事だ」
もう一つの仕事。それはフィルタード侯爵家の悪事を調べること、だったりするのだろうか?それは危険なのでは?せっかく偽装して助かったのに、下手に動いたらバレてしまうのではなかろうか??
「お祖父様、それは、危険ではないですか?」
「そうだな。危険を伴うだろう」
「私のせいで、みんなを危険な目に遭わせたくありません」
「ルティア、これはもうお前だけの話ではないんだよ」
「でもっ!」
「きっかけは確かにルティアだったかもしれん。しかし、彼奴等は完全に道を踏み外した。リュージュ妃が努力して軌道修正しようとしていたが、あの二人相手ではどうにもならん」
「ーーーーお祖父様は、全部知っているのね?」
「全てを知っているわけではない。が、集まった情報から推測することはできる」
それだけの情報を集められるのに、それでもフィルタード侯爵家やその派閥を罪に問うことはできていない。それだけ巧妙に隠されているのだろう。
そして、一つ罪に問うたところでトカゲの尻尾切りだ。根本的な問題をどうにかすることはできないのだろう。
「私、王様にはできないことないって思ってた」
「そうだな」
「でも実際はそうじゃないのね」
「ああ。王であるが故にしがらみも多い。そして、決定的な証拠がなければ法の元に裁くことはできん。もしも法を無視すれば、それは彼奴等と変わらんからな」
私はその言葉に頷く。私ですらこんなに腹が立っているのだ。お父様はもっと腹を立てているだろうし、歯痒い思いもしていることだろう。
でももしも、五年前にお父様が亡くなっていたら……?今の状態はもっと悲惨なことになっていたはずだ。
「今は、我慢の時なのね?」
「そうだな」
「お祖父様、次に会う時はみんな揃っていないと嫌よ?」
「ルティア……」
「本当はね、すごく会いたい。会って謝りたいし、危険なことはしないでって言いたいの」
「……至らん儂を許しておくれ」
「ううん。お祖父様がいてくれたから、気がついてくれたから、みんな無事なの。だから、今日は会わない。全部終わった後で、みんなに笑顔で会いたいもの」
お祖父様はそうか、と小さく呟く。そんなお祖父様に私はニッと笑いかけた。
***
「本当に、一泊されなくてよろしいのですか?」
「はい!早くラステアに戻らないと……予定よりも遅れてますし」
私がそういうと、テルマさんはお母様の部屋だけでも見て行かないか?と聞いてくる。どうしようか迷っていると、ネイトさんがせっかくだからと背中を押してくれた。
「お母様の部屋は、まだそのままなのね?」
「ええ、今でも毎日掃除をして綺麗に保っています」
「……じゃあ、そこだけ。そこだけ見たら、行きます」
「……はい」
テルマさんに案内されて、一人、お母様の部屋に向かう。西側の塔の二階。大きな扉が開かれると、目の前には広大な森が広がって見えた。
部屋の窓のすぐ下は森なのだ。こんな森のすぐ側に窓があって大丈夫なのだろうか?思わず窓辺に寄って森を見てしまう。
「すごい広い森」
「カロティナお嬢様はよく森に行かれて、魔物狩りをされてましたよ」
「それ、ロックウェル魔術師団長からも聞いたわ。あとお兄様からも」
「ああ、アマンダ様ですね。学院が長期休暇に入ると、よく訪ねてこられてましたよ」
「そうなの!?」
「大変仲がよろしい様でした」
ということは、魔術師団長に聞けばお母様のことがわかるのか。いやでも、あの魔術師団長にお母様が一緒になったら……聞いたらいけない話の方が多そうだ。
どこそこを壊したとか、壊滅させたとか。そんな話ばっかりだったら、反応に困ってしまう。
「……お母様の、普通の話を知ってる人っているのかしら?」
「普通の話、ですか……そもそも『普通』の枠にはまる方ではありませんでしたから」
「そっかあ……聞きたいけど、聞いたらいけない話の方が、すごーく多そうな気もするのよね」
「それは、まあ……」
テルマさんがちょっとだけ遠い目をする。きっとここでも色々しているのだろう。流石に真似しようとは思わないけれど、きっと思い出は綺麗なままの方がいいのだ。
遠い、遠い昔に、優しい手が頭を撫でてくれた。その思い出があればいい。
それにそのうち嫌でも耳にするかもしれないしね!お父様とかお父様とかお父様とか!!たまに私の顔を見て「似てきたなあ」って呟いてるし。
「この部屋って、お母様が王都に来るまで過ごしていたの?」
「そうですね。ああ、そうだ」
そういうとテルマさんが、備え付けの棚からちょっと大きめな四角い箱を持ってくる。それはとてもシンプルな箱。これがどうしたのだろうか?テルマさんを見上げると、蓋を開けてみてくださいと言われる。
「え、あ……これ、もしかして魔石?」
「はい。カロティナお嬢様が倒された魔物から採れたものです」
「あの、すごくいっぱい入ってるんだけど……」
「すごくいっぱい狩られてましたからね」
パチン、と茶目っ気たっぷりに片目を閉じるテルマさん。この量の魔石を一人で?本当に???私はあいた口が塞がらなかった。
だって本当に大小様々なサイズの魔石が入っているのだ。
「まあ、正確にはリリア様、ヴィオレット様が集めた分も入っていますが」
「そ、そうよね!お母様一人では流石に……」
「ですが半分ほどはカロティナお嬢様ですかね」
「ソウナンダー……」
今度、王城に帰ったら似てるのは見た目だけですよね!?とお父様に確認しなければいけなくなった。だって、流石に魔物狩りには行けないし!!
そうして箱を見ていると、テルマさんが箱をそっと手渡してくる。首を傾げると、お持ちくださいと言われた。
「え、でも……これ全部魔石でしょう?貴重なものなのに……」
「ルティア様、ここはレイドール領ですよ」
「え、ええ。そうね?」
「魔石が欲しければ、自ら狩りに行けば良いのです」
「それは、ええっと……」
「なのでこちらはルティア様がお持ちください。このままでは誰にも使われず、埃を被るだけですので」
「……本当に、いいの?」
「はい」
箱の中の魔石は加工される前だからか、そこまでキラキラしているわけではない。でもこの一つ一つが、魔物を倒して手に入れた証。
そして魔石は、普通の宝石よりも強力な魔術式が入れられる。何かあった時の為に、持っているのは悪いことではないはず。お父様やロイ兄様、アリシア、他のみんなを守る為の力になると思うのだ。
「テルマさん、ありがとう。大切に使うわ」
「いえいえ。ガンガン使ってください。その方がきっと皆様喜ばれます」
「……そうね」
腰につけていたマジックボックスに箱ごと収納する。ラステアに行ったら、向こうで加工してくれる人を紹介してもらおう。きっとラステアでも魔石は重宝されるはずだから、交換で加工して貰えばいいかな。
そんなことを頭の中で考えながら、お母様の部屋を後にする。
「それじゃあ、カティア将軍とネイトさんが待ってるから……」
「承知いたしました。またのお越しをお待ちしております」
「うん。飛龍に乗ればあっという間だもの!絶対に遊びにくるわ」
そういって屋敷から出ると、将軍とネイトさんがラスールを連れて庭で待っていた。
「お待たせしました」
「いいえ、でも良いんですか?」
「はい!ラスールがいれば、また来れますし」
「ま、飛龍がいればひとっ飛びだものね」
将軍の言葉に頷き、ラスールの背中に乗る。そして将軍の合図と共に、バサリと羽が広がった。何度かそれを繰り返し、ふわりと体が浮く感覚。
どんどん高さが高くなり、屋敷の真上まできた。
「あそこら辺が、お母様の部屋……かな?」
西側の森の上、テラスのある部屋を探す。するとそこにはお祖父様と、クリフィード侯爵、それにクリフィード侯爵領の騎士達が立っていた。
侯爵と騎士達は皆一様に胸元に手を当てている。
「ルーちゃん、手を振ってあげたら?」
「で、でも……」
「おじいちゃんに手を振るのは当たり前でしょう?」
「っ……!はいっ!!」
私は大きく手を振った。いつか、いつか、彼らとまた笑顔で会えるように。いや、絶対に、絶対に会うのだ。
二度ほど屋敷の上を旋回すると、私達はーーーーラステアへと向かった。
いつもご覧いただきありがとうございます。
ルティアは 魔石を 手に入れた……!!
キュピーン!と音が鳴りそうな感じですね。
レイドール領でのお話はこれにて終わりまして、次はラステアに戻ります。
ちなみに、レイドール伯爵は辺境伯爵という立場上、色々な情報に精通しています。
怖いのは魔物だけではないので。




