137.ただいま!そして行ってきます!! 3
手紙の件は安心できたけれど、結局亡くなったクリフィード侯爵のことは何もわからなかった。話し合いはそこで終わり。あまり長くコンラッド様を王城内に留まらせておくと、どこから情報が漏れるかわからないからだ。
そしてお父様がロイ兄様の部屋から出る寸前で私の前に立ち止まる。どうしたんだろう?と首を傾げると、お父様は「お姉さんと仲良くね」といって頭を撫でてくれたのだ。
「あ、はい……」
「また、いつでもおいで」
「ありがとう、ございます」
部屋から出ていくお父様の後ろ姿を見送る。やっぱり、わからなかったのかな?お父様でも認識阻害は見破れないということだろうか?ということは、ロビンと兄様がすぐわかる方が変なのかもしれない。
普通はわからないはずだもの。そうじゃなきゃ、認識阻害の魔術式を使っている意味がない。今回は頬を膨らませたりだってしてないし!
そんなことを考えていると、ポン!と肩を叩かれる。
恐る恐る振り返ると、にこーっと笑った兄様が立っていた。怖い。物凄く怖い。笑いながら怒ってるところが物凄く怖い!!
「ルティア、君は一体何をやっているのかな!?」
そういうが早いか、兄様は私の頬をパン生地のようにビヨーンと左右に伸ばしたのだ。痛い。とても痛い。
「おにいしゃま……おひさひぶりれすぅ……」
「本当にね!全く!!コンラッド殿下!貴方もです。悪ノリしてルティアを連れて帰ってくるなんて!!」
「いや、うん……止めてこっそりついて来られるぐらいなら、最初から連れてきた方が安全かなあって」
「その場合は紐で括って置いてきてください!!」
珍しく声を荒げて怒る兄様。でも兄様の手は変わらず、私の頬をパン生地のように左右に伸ばし続ける。本当に痛い!痛くて涙が出そうになる。
もうそろそろ許して欲しい……ロビンに視線で助けを求めると、はあ、とロビンがため息を吐いた。
「まあ、その殿下。姫さんも反省してる……と、思うんで。その辺にしときましょ?隣の姐さんが睨んでますよ……」
「だって私の妹だもん!!」
「いや、カティア将軍!余計な火種をぶち込まないでくださいよ!!」
「ルティアは僕の妹です!!」
どうどう、と馬を宥めるかの如く、ロビンとネイトさんが兄様と将軍を宥める。放って置いたら、そのままいい合いに発展しそうな雰囲気だ。
兄様はジトッとした目で私を見ると、わざとらしい大きなため息を一つ。それでようやく手を離してくれた。私は左右に伸ばされた頬を両手でさする。指で摘まれていたところがヒリヒリして痛い。きっと赤くなってるだろうけど、悪いことをしている自覚はあるから甘んじて受ける。
だって、心配させたもの。急に私が帰ってきて……二ヶ月前のことだって知ってるはずだし。やっぱりファスタさんが王城に行くからって、何も連絡しなかったのは拙かったのだ。
ちゃんとクアドを呼んで、手紙を持たせておけばこんなには怒られなかったし、心配もさせなかったかも。ユリアナのいう通り、事前の知らせは大事だ。
「ほんっっとうに反省してる?」
「反省してます……」
「父上だってきっと驚いたと思うよ。いきなりルティアが帰ってきたんだから」
「え?」
「なんだ、気がついてないと思ったの?」
兄様は呆れた顔で私を見る。でも、お父様は何もいわなかったし……お姉さんと仲良くね、といってきたのに。
「だって……そんな素振り、どこにもなかったわ」
「きっとルティアに後ろめたいことがあったんだろうね。普通は、他国のお嬢さんの頭を撫でたりなんかしないよ。非公式の場だとしてもね」
兄様の言葉にポカンと口を開けて驚いてしまう。だからきっと気が付かなかったのだな、って……ちょっと寂しいけど、お父様と過ごした時間は短いから、それは仕方ないと思っていたのだ。
でも、でも……お父様は私だって気がついてくれた。それがなんだか嬉しい。
「……ねえ、でもどうして私だって気がついたの?」
「そりゃあねえ……」
「そうっすね。そんなわかりやすいもの、首から下げてちゃあわかりますよ」
兄様とロビンは含みのある視線を私の胸元に送る。私もその視線を辿り、自分の胸元を見た。そこにあるのはお母様からもらった、髪と瞳の色を変え、認識阻害を起こす魔術式が入れられた宝石。
特に珍しい色の石でも高価なものでもない。デザインだってごく普通にあるものだ。それなのにわかったのは何故だろう?
私が不思議そうな顔をしているのがわかったのか、ロビンは呆れた顔で私を見る。
「ほんっっとうにわかりません?」
「わからないわ。だってこれ、結構ありきたりなデザインでしょう?」
「デザインはそうですけどね。使ってる石が特殊なんですよ」
「石?石の色も普通にある色じゃない?」
「そりゃあ、普通に見える色を選んだからでしょうね」
ロビンの言葉に兄様も同意するように頷く。私の隣にいたネイトさんは、「失礼」と私に声をかけると、首にかけていたペンダントの石を手に取る。
そしてジッと見ていたかと思うと、バッと勢いよく兄様達に顔を向けた。
「……これ、物凄く質の良い魔石、ですね?」
「そうです。殿下とルティア姫の母であるカロティナ様が、若かりし頃に魔物狩りをして手に入れたものです」
「えええぇ……これだけ質の良い魔石を持った魔物を狩られたんですか?まさか一人じゃないですよね?」
「多分、一人で狩りに行ったかと。カロティナ様はしょっちゅう、レイドール伯爵家とレイラン王国の間にある森に一人で入ってましたし」
「わあ。まさかのカティア将軍並みの方がファティシアにもいたとは……」
ネイトさんは、これは大変希少な石です。と私に告げる。カーバニル先生から聞いていたからそれは知っているけれど、魔石にだってランクはあるのだ。希少な魔石ではある。だがこれは色は緑だけど透明度は低い。魔石の中ではそこまでのランクではなさそうなのだ。それにデザインだって……
「魔石自体が高価なのは知ってるけど、この魔石は普通の石にしか見えないじゃない?それに私だって、この間まで普通の石だと思ってたし」
「カロティナ様は結構魔石を持ってましたからね。普通に見える石に、魔術式を入れたんですよ。そんな高価な石を子供が持ってたら盗まれますからね」
「あ、そうか……」
これは身につけていなければ意味のないもの。常に首からキラキラした宝石を下げていたら、誘拐されたり、無理やり奪われていた可能性もある。
それに……昔、私の離宮で働いていた侍女達は、お世辞にも、こう、手癖の良い人ではなかった。私の知らないところで、離宮を運営するお金を着服したり、勝手に装飾品を売ったりしていたらしい。
みんな新しい侍女長に代わって、罪に問われたけれど。私一人が訴えても、きっと前の侍女長が揉み消してしまってただろう。
でもそこまで聞いてもやっぱり納得できない。だって、ネイトさんだってじっくり見ないと魔石だってわからなかった。離れた場所から見て魔石だってわかるわけがない。
「あのね、姫さん。そのデザインを持ってる人間が、姫さん以外にいたとしてもこの離宮を訪れる可能性は限りなく0に近いんですよ。だったら姫さん以外にいないでしょう?」
「う、なる、ほど……そこは盲点だったわ。確かに同じデザインの物が流行ってるなら兎も角、持ってる人はいても、ここに訪れる確率は低いものね」
「そーゆーことっすよ」
ロビンの説明にようやく私は納得した。次からは見えるように下げるのではなく、服の中に隠そう。でないと毎回兄様にバレる度に頬をパン生地のように伸ばされちゃうしね。だって物凄く痛かったし!
「……ルティア、次はないよ?」
「えっ……な、ナンノコトデショウ??」
「姫さん顔に出過ぎ」
「ええっっ!?」
私が咄嗟に自分の顔をさすると、コンラッド様が吹き出した。思わずジトッとした視線を向けると、話を逸らすかのようにコンラッド様が将軍に話しかける。
「ほらね、カティア将軍。これが本当の兄妹なのですよ」
「いえいえ。私だって負けてませんよ!ねー?ルーちゃん!!」
「お姉様は私に甘い気がします……」
正直に告げれば、だってこんなに可愛い子を叱れない!と嘆かれた。そんな判断基準で大丈夫だろうか?若干心配になる。
「あー大丈夫ですよ。カティア将軍も仕事中は、まあ、そこまでではないので」
「……私、そんなにわかりやすいです?」
「はあ。まあ……お顔に出てますかね」
ネイトさんにそういわれ、私はちょっと落ち込んでしまった。これはもうポーカーフェイスを!!身につけるべきでは!?
「姫さん、無駄な足掻きはやめましょう?」
「なんでわかるの!?」
「今口に出してましたからね?」
「ぐっ……!!私だってきっとポーカーフェイスぐらいできるようになるもん!!」
「ルティアには無理かなあ」
「兄様まで!」
「ルーちゃんはそのままで可愛いから良いのよ!」
「そうですよ、無理は良くありません」
兄様だけでなく、将軍やネイトさんにまでいわれ、私は本当に落ち込んできた。どうせ私は腹芸とかできないもん!そのうち出来るとかいわれるけど……私にはきっと一生無理なのだ。
「腹芸しないで済めばそれに越したことはありませんよ?」
「そうでしょうか。それは王族としてどうなんでしょう?」
「まあ、素直なところも魅力ですし」
コンラッド様の慰めといえるのかわからない言葉に、私は項垂れるしかなかった。だってそれって、絶対に無理っていわれたようなものだもの。
いつもご覧いただきありがとうございます!
ピッコマさんで配信されましたポンコツ王太子、如何でしたでしょうか?
現在1〜2話までが公開されております(待てば無料で見られます)
可愛いルティアと、アリシアが動く姿をぜひご覧いただければと思います!




