135.ただいま!そして行ってきます!! 1
ファーマン侯爵家のタウンハウスで夜まで体を休める。とはいっても、二ヶ月ぶりの帰郷に気持ちが高揚していて上手く寝つけなかった。
ベッドの中でゴロゴロして、お父様に何を話そうかと考える。
手紙のことはもちろんだが、あのドエクス伯爵達のこともいいたい。それと、トラット帝国のことも気になる。
そうだ!ライルにもお礼をいわなきゃ!ライルがくれたアジサイのブローチ。あのブローチのおかげで私の命は助かったのだから。
……でもなんで救難信号があんなに派手に打ち上がったのだろう?私の魔力量だけが原因ではない気がするのよね。アレはかなり眩しくて、凄かったけど。もうちょっと改良が必要ではなかろうか?
色々と考えていると、ウトウトしてきた。そういえば、クアドを呼ぼうと思っていたけど……ファスタさんから、コンラッド様が向かうことを伝えてもらっているし大丈夫かな。
ロイ兄様、ライル、ロビン、アッシュ……みんな元気だろうか?
双子達にもできれば会いたい。お母様にも。それだけの時間が取れるかは微妙だけど。あ、でも侍女長だけは、侍女長は……怒られそうだから、次にちゃんと帰った時に会おう。
ふっと意識が途切れ、私は夢の中へと旅立った。やはり普段しない夜の移動は、体力を消費していたようだ。侯爵家の侍女に起こされ、目を覚ました時には夕方になっていたのだから。
グッと、伸びをしてラステアの侍女服に着替える。手伝いに、と部屋にいた侯爵家の侍女は私の侍女服を興味深げに見てきた。
ファーマン侯爵家はトラット帝国に近い。どちらかというと夏でも涼しい土地で避暑地としても知られている。冬になると雪深く、とても寒いと聞く。
なので服装もカッチリと首元まで覆われたデザインが多く、王都で働く侍女達の衣装も同じようにカッチリとしていた。
ラステア国は通年を通して温暖な気候。雪なんて降ることは滅多にない。余程標高の高い山なら降るそうだけど……そして夏場は湿度も相まって物凄く暑く感じるのだ。
だから薄手の服を重ねて着るのがラステア流。暑くなったらすぐ脱げるように。足元もスカートのように見えるけど、裾の広いズボンタイプになっている。
ラステアでは袴、というらしいがこれなら走り回っても、風に吹かれても、裾がバサッと捲れることはない。
「あの、とても不思議な衣装ですね」
「そうですね。ファティシアのドレスだとラステアでは暑いですから……」
「暑い……といいますと、どのぐらいでしょう?」
「うーん……きっと侯爵様の御領地の夏よりも我が国の冬の方が暖かいですね」
「では夏はもっと……」
「はい」
コクリと頷くと、彼女は両手を頬に当て驚く。彼女が王都と侯爵領のどちらの出身かは分からないが、きっと彼女が想像するよりももっと暑いだろう。
私もまだ経験をしていないので、このままラステアに長く留まるなら覚悟しなければいけない。夏の終わりに行ったことがあるが、あの時ですら物凄く暑く感じたのだ。夏本番になればもっと暑いはず。
「重ね着をして、暑ければ脱ぐという形なのですね」
「はい。それにこの袴は薄手ですが風に煽られたり、走り回っても上まで捲れることがないんですよ」
「それは良いですね。本当はいけないのですけど、私達も急いでいる時は走りますし……でもそうすると、中のパニエが足にまとわりつくんです」
「でもこの生地の薄さでファティシア国で生活しようとすると、きっと風邪をひいてしまいます」
私が冬なんてとんでもない、といえば彼女は顔を綻ばせながら笑った。
「確かに!我が国では寒いでしょうね」
「ファティシアの衣装もレースやフリルがあってとても素敵だと思います。それに侍女服にも種類があるのですね?」
「ええ、清掃担当や、給仕担当、それに洗濯担当。キッチンや、他にもありますね。それぞれ仕事がしやすいように、とはなってますけど……でも袴?ですかそれはやっぱり羨ましい気もします」
「そんなにあるのですね。ラステアでは服の色が階級の差となってるだけで、形はほぼ一緒です」
コッソリと袖におやつを忍ばせたりもできます、と袖の部分を振って見せる。彼女も私達も、とスカートのポケットを叩いてみせた。
たわいもない話をしつつ、彼女は身支度の終わった私を食堂へ案内してくれる。
食堂の席に座り、案内してくれた彼女に礼を述べるとニコリと笑って彼女は去っていった。その姿を見ていたカティア将軍は「ルーちゃんは仲良くなるのが上手ね」と褒めてくれる。
「昔からそんなに人見知りしない方だと思います」
「そんな感じですね。ルー嬢はいつもニコニコしていて、親しみを持ちやすいです」
「うん?それはつまり私は親しみが持てないと……?」
「嫌だなあ将軍。私達そこそこ仲良しじゃないですか」
「……そうだったか?」
「そうですよ。でなければ、仕事サボって鍛錬に行く将軍を見送ったりとかしませんからね?良いんですよ。戻ってから、仕事部屋に閉じ込めても」
「あーそうだったな!私達仲良しだったな!!」
将軍はゴホンゴホンと、わざとらしく咳き込みながら食事に手をつけ始めた。私とネイトさんはお互いに顔を見合って笑う。
食事が終われば、コンラッド様からの指示待ちだ。
将軍の部屋でネイトさんと一緒に待っていると、ファーマン侯爵が部屋まで訪ねてきた。そしてファスタさんが無事に爵位を継承したことと、コンラッド様の面会時間が決まったことを教えてくれる。
「ファスタさん、よかったですね」
「ええ。ご本人もホッとしてました」
「後はルー嬢を無事に陛下の元へお連れするだけですか」
「そうですな」
そういって侯爵は私に視線を向け、怒られますぞ、と私に告げた。
「うっ……そんな予感はしてます」
「私だってアリシアがこんな風に戻ってきたら怒りますからな」
「アリシアは……私よりももっと冷静に行動するから、きっと別の手段を考えると思うわ」
私の言葉に侯爵は苦笑いを浮かべ首を横に振る。意外とそうでもないですよ、と。私と一緒にいるアリシアはいつも控えめで、大人の振る舞いをしていたからビックリしてしまう。
「この間お話ししたすらいむの魔術式で作ったクッションですとか、あと他にも色々と発明をする時は部屋の中でグルグル歩き回ったり、出来上がった時にはピョンピョン飛び跳ねて喜んだりしますよ」
それがまた可愛くて、可愛くて……早く帰ってきてくれないかな、とちょっとしょんぼりする侯爵に思わず笑ってしまった。アリシアをとても大事に思っているのがわかる。なんでもなければ、今回一緒に戻れたかもしれないけれど……
「私達はもう少し、ラステアに留まりますから……戻ってくるのはもうちょっと先ですね」
「そうですか……」
「でも飛龍で移動できれば、丸一日もあれば着きますし!」
「できればその……カゴでの移動がいいですな。飛龍に跨るのは、やはりちょっと」
そこで、自分が行くことが前提なんだ、とちょっと驚いてしまった。カゴでの移動が気に入ったのかもしれない。なんだか嬉しくなる。飛龍に乗れなくても移動できるって、実は結構需要あるのかも?
***
夜も更け、コンラッド様と共に王城へ向かう。待ち合わせ場所は、ロイ兄様の離宮。ここならばコンラッド様がコッソリ訪れても、他に話が漏れることはない。
ラステアの侍女服のまま、私は普段そこそこ訪れていた兄様の離宮に足を踏み入れていた。なんだかいつもと服装が違うだけで、見慣れた離宮も違って見えるから不思議だ。
離宮の入り口には案内役としてロビンが立って待っている。
ロビンはいつものようにコンラッド様に頭を下げ、そして後ろにいた将軍とネイトさん、スタッドさん、そして私に視線を移し、ピタリと固まった。
いやいや。私は今、頬を膨らませてるわけではない。髪も瞳の色も将軍と一緒だし、服だってラステアのもの。ついでに認識阻害も発動している。それなのにロビンは私を指差し、ジッと見つめるとワナワナと震えだした。
「ひっ……!!どっ……、いや、いやいやいやいや……!!」
大声を出すところをグッと堪えたのは流石というべきだろう。ブンブンと頭を左右に振り、そしてコンラッド様に胡乱げな視線を向ける。
「あの、ですね……どうしてその……」
「いいたいことは、まあ、理解しているんだが……少々事情があってね」
「事情、事情ですか……?遊んでません?大丈夫です??」
「そんなことはない、かな」
コンラッド様の言葉にロビンはまた私をジッと見た。どうしてバレたんだろう?私ってわからないはずなのに!!侯爵の時は私の癖でわかったけど、今回は別に何もしていない。していないよね!?思わず隣にいたネイトさんを見てしまう。
ネイトさんも私を見て緩く首を振った。何もしていない、の意思表示だ。それなのに何故!?ロビンは私と一発で見抜いた。
もしかしてすごく身近な人には直ぐにバレてしまうものなのだろうか?私はちょっとした不安を抱えつつ、お父様と兄様の待つ部屋に向かった。
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