第三十話 ダンジョン
「第一回クレイドール杯これより開催いたしますっ!!」
収穫祭のイベントの一つとして立案された武闘大会、それがクレイドール杯である。
剣術部門、魔法部門に分かれていて、成績優秀者にはミスリル製の武具、各部門の優勝者にはブラックミスリル製の武具が与えられるという超太っ腹な企画。
参加希望者が多すぎたため、予選を行い、勝ち残った参加者が本戦で競う形となった。
「優勝は決まりだなブルーレイン」
ラインハルト以下クランメンバーは彼女の優勝を疑わないが、
「馬鹿言わないで……とんでもないのがゴロゴロ参加してるわよ……」
ゼロ、セリオン、クリス、フラン、いずれも規格外の化け物だ。トーナメント式なので、組み合わせ次第では上位を狙えるが――――初戦から当たったらどう転ぶかわからない。
そもそも本戦に勝ち残っているのがAランク以上の冒険者や騎士ばかりなので、弱い者など存在しない。
「でも――――ブラックミスリル製の武具……絶対に手に入れたい」
こればかりはお金があってもどうにもならない。クレイドールが参加していない以上、ブルーレインにも当然チャンスはあるのだ。
「剣術部門――――優勝者は、魔王!!」
「……なんで魔王が参加してるのよ……」
「……負けた」
「……あと一歩だったのに」
結果は組み合わせにも恵まれた魔王が優勝した。他の有力メンバーは、お互いに潰し合って体力を消耗したことが敗因であった。ブルーレインはそれでもスミス謹製の高品質なミスリル武具を手に入れることには成功したが。
魔法部門は、師匠のメルキオールとの死闘を制したアルテリードと聖女ミレイユが決勝で激突したが、さすがにアルテリードの消耗が激しく、徹底して防御に徹したミレイユが無限の魔力を活かして優勝した。
さすがにこれだけでは他の者が可哀想だったので、騎士の部、一般の部、など追加で開催が決まり、リッジフォードの街は大いに盛り上がった。
それ以外にも、収穫野菜の品評会や魔塔による魔法ショー、学校の生徒による出し物、ドワーフ族のパン作りコンテストなど、とても回り切れないほどのイベントが開催され、一週間の予定だった収穫祭は最終的に二週間に延長され大成功で幕を下ろしたのだった。
「ブルーレイン、冒険者って何をするんですの?」
祭りが終わって時間が出来たクレイドールとシルフィは、冒険者活動を始めることにした。
「そうね……魔物討伐や採集がメインですけど、護衛任務やダンジョン攻略なんていうのもありますよ」
「ダンジョン?」
「地下迷宮のことですよ、この辺りにあるかはわかりませんが、ダンジョンでしか手に入らない素材や鉱石を持ち帰ってくるのです。古代遺跡がダンジョン化していることもあって、そういう場所では貴重なアーティファクトが手に入ることもありますね」
なんだか楽しそう、クレイドールとシルフィは瞳を輝かせる。
「クレイドールさま、ダンジョン探そう!!」
「良いですわね!! ダンジョン探すのですわ!!」
「あはは……そう簡単に見つかるものではないですよ?」
なにせ王国内全域でも二か所しか確認されていないのだ。ダンジョンは資源の宝庫、ある意味で鉱脈が見つかるよりも価値がある。ダンジョンがある二か所は、いずれも王国内で王都に次ぐ賑わいを見せている場所でもある。
「大丈夫ですわ、丁度いい魔法がありますの――――サーチ!! ですわ!!」
天才魔導士アルテリードが開発した魔法で、本来は生体反応を調べる索敵、または救助用の魔法なのだが、クレイドールはそれをさらにアップグレードして探したいものを探せる魔法にしてしまった。
しかも――――その範囲が凄まじく広い。
巨大なリッジフォードの街はもちろん、グレイリッジ領全域にまでその範囲はおよぶ。
「あ、見つけましたわ!!」
「えええっ!? 本当ですか!?」
「さすがクレイドールさま!!」
「えっと……ここで間違いないですわ」
やってきたのはグレイリッジ家の屋敷。
「この地下に巨大な空間が広がってましたわ」
「……そ、そうなんですね」
まさかのゼロ距離にダンジョン発見。
「ふふ~ん、ダンジョン!! ダンジョン!!」
ドワーフたちが屋敷の近くにダンジョンの入り口を作ってくれているのをクレイドールが待ちきれない様子で飛び跳ねている。
「アイスヴァルト、まだ入っちゃ駄目ですの?」
「得体のしれないダンジョンだからな、今魔王を呼んでいるから少し待て」
クレイドールがどうにかなるとは思っていないが、念には念を入れて最高戦力を投入する。
クレイドール、シルフィ、魔王、ゼロ、セリオン、賢者ネルフィ、クリス、フラン、アルテリードと聖女ミレイユ、メルキオール、ブルーレイン そうそうたるメンバーが集まった。
意外なことにダンジョンの中は明るかった。
「ふむ、魔物の気配は感じないな」
魔王がそう言うので、皆少しだけ緊張を解く。
「それにしても――――恐ろしいほどの魔素濃度ですね……おそらくそれが原因で魔物が居ないのでしょう」
賢者ネルフィが思わず身震いする。エルフは魔素の濃い場所を好むとは言え、ここは限度を超えている。ようするに生物が住める場所ではないということだ。
「この明るさは一体何なのかしら?」
魔法で岩盤を階段状に変化させながらアルテリードはいまだ底が見えない穴の奥を見つめる。地下深くにいくほどに明るさが増しているようにも見える。
「ふむ、発光する物体か……思い当たるものがないでもないが……まさかな」
メルキオールのつぶやきは広いダンジョンにかき消される。
「シルフィ、先に行くのですわ!!」
クレイドールとシルフィが飛行魔法で一気に穴の底へ降りてゆく。
「お、お嬢さまっ!? 危な――――くはないか」
敵の気配もなければ毒などの有害物質も検知されていない。
「いや、これが遺跡なら強制転移の仕掛けがあるやもしれん」
魔王が弾丸のようにクレイドールたちの後を追う。
「はあ、仕方ないな」
ゼロたちも一気に飛び降りるのであった。
「うわあ……綺麗ですわ……」
「なんだこれ……キラキラしてる」
クレイドールとシルフィが虹色の光に照らされながら見惚れているのは、壁、床一面に広がる輝く結晶体。
「これは珍しい……魔水晶ではないか」
魔王が欠片を手に取って目を細める。
「なんと……まさかとは思ったが、本当に魔水晶だったか……」
メルキオールも信じられないと呆然とする。
「魔水晶ってなんですの?」
「魔石と同じで魔素が結晶化したものですよ。本来は気の遠くなるような時間をかけて形成されるもので、魔素が溜まりやすいダンジョンの最下層で稀に手に入る貴重な鉱石、私も長く生きてますけど……こんなに純度が高くて大量の魔水晶初めて見ました」
賢者ネルフィが優しく教えてくれる。
「なあ、魔導士のオッサン、これって高く売れるのか?」
「誰が魔導士のおっさんだ!! 高く売れるも何も、値段が付けられないほど貴重で有用な鉱石だぞ?」
ゼロの質問にメルキオールが呆れたように答える。
「ふむ……地中に埋められた魔石から漏れ出した魔素が地下に溜まって魔水晶を形成したのだろうな……あくまで仮説だが」
膨大な数の高ランク魔石から染み出る膨大な魔素に土壌が耐えきれず地下空間が出来、魔素が何らかの原因でこの場所に溜まったことで魔水晶となったという仮説を魔王が立てる。
「たしかにそれなら一応説明はつくが……なぜこの場所で留まっているのか……魔素を透過しない物質でもあるのか?」
メルキオールが頭をひねる。これだけの濃度の魔素であれば、もっと深くまで染み込んでそのまま地脈に還元されてしまうはず。
「魔素が透過しない物質……もしかして」
賢者ネルフィが何かに思い当たったらしい。
「アルテリード、慎重にこの下を掘ってみて」
「私はドワーフじゃないんだけど……わかったわ」
ガガガガガ 魔法で岩盤を削るアルテリード。
「なにこれ……金色の石? 私の魔法で傷一つ付かないって……」
「間違いないですね……これは――――オリハルコンですよ」
伝説の鉱物オリハルコン、この世で唯一魔素が透過しない物質で、その硬度はブラックミスリルを超えるといわれている。
高純度の魔水晶にオリハルコンの鉱脈――――クレイドールとシルフィを除いた全員が遠い目をするのであった。




