第二十九話 秋の収穫祭
「冒険者登録お願いしますわ」
「えっと……お二人はおいくつですか?」
冒険者登録をしにやってきた少女二人組、明らかに成人していないので、受付嬢は優しく尋ねる。
「十一歳ですわ!!」
「百十一歳だ」
「えっと……十五歳にならないと冒険者にはなれないのですよ」
「シルフィと足して二で割れば六十一歳ですわ!!」
「あ、あはは……計算できるなんてすごいですね、でも規則なのでごめんなさいね」
「そうなのですか……残念ですわ」
明らかに落ち込む少女に慌てる受付嬢。
「あ、そうだ、保護者同伴なら登録できますよ」
「保護者?」
「ただし、保護者の資格があるのはBランク以上の現役冒険者に限ります」
この制度は、貴族の子女の抜け道のために作られたものだ。見たところ間違いなく良いところのお嬢さま、どこまで本気かわからないが、高ランク冒険者を雇えば活動の真似事は出来る。
「困りましたわね……家に冒険者は居ないですわ……」
「私がBランクになるまで待ってもらうしかない」
言う通りなのだが、諦めきれない少女はギルドをぐるっと見渡す。
「あああああっ!!! ブルーレインがおりますわ!!」
びくうっ!? 突然名指しされて飛び上がるブルーレイン。
「そ、その声は……まさか……」
「クレイドールですわ!! お久しぶりですの」
「あ、あはは……お久しぶりです、相変わらずお可愛いですね」
冷や汗が止まらないブルーレインにクランメンバーが不思議がる。
「そのお嬢ちゃんと知り合いなのか?」
「え? ま、まあね……」
「ブルーレイン、私、冒険者登録したいのです、保護者になって欲しいのですわ」
「え……? お嬢さまが……冒険者? 御冗談ですよね?」
クレイドールを馬鹿にしたのではない、その逆だ。だが、クランメンバーはそう受け取らなかった。
「ハハハ、お嬢ちゃん、冒険者って言うのはな、危険な仕事なんだ。悪いことは言わない諦めな」
クラン一の怪力を誇るマキシマムがぐぐっ、と丸太のような腕に力こぶを作って見せる。
「おじさまより強ければ冒険者になれますの?」
「アハハハハ、そうだな、万一そんな奴がいたなら、いきなりAランクでも通用するだろう」
「でしたら、私と勝負してくださいませ」
「面白いお嬢ちゃんだな、良いだろう、暇つぶしに丁度いい」
「マキシマム、やめておきなさい!!」
「心配すんなブルーレイン、子ども相手に怪我させたりしないって」
「駄目よ、戦闘は危険だから腕相撲にしておきなさい」
「まあ、俺はなんでも構わないぜ」
ドガアアアアン マキシマムの腕がテーブルを破壊して床にめり込む。複雑骨折間違いなしである。
「私の勝ちですわね?」
クレイドールは、マキシマムの腕とテーブル、床を魔法で元通りにしながらブルーレインを上目遣いで見つめる。
「はあ……わかりました、お嬢さまの保護者、引き受けさせていただきます」
「おいブルーレイン、リーダーの俺に相談もなく勝手なことを」
「……駄目……ですの?」
クレイドールがキラキラした瞳で不安そうにラインハルトを見つめる。
「あ、いや……お嬢さんみたいな可愛い子の願いを叶えるのも冒険者の仕事だからな、もちろん引き受けるさ。ところで――――このあとお兄さんとおいしいもの食べに――――ぐはあっ!?」
ブルーレインに蹴飛ばされて壁に突き刺さるラインハルト。
「このロリコン野郎が!! さあお嬢さま、さっそく登録手続きしましょう」
「はい、ですわ!!」
「ずいぶん街が騒がしいですね」
街へ出たクレイドール、シルフィそしてブルーレインだったが、街の様子がいつもと違う。
「秋の収穫祭が始まるのですわ」
「お祭りですか?」
「ええ、人も増えたし、皆で楽しめるイベントがあった方が良いってアイスヴァルトが」
「アイスヴァルト……噂の凄腕執事ですか。たしかにそれは言えてますね」
この街にまだ足りていないものがあるとすれば、それは一体感だ。多民族と移住者が中心のこの街では仕方がないことだが、皆がこの街を愛し、故郷なのだと実感するためにうってつけなのがお祭りというわけだ。
「収穫祭の間は屋敷を開放して無料で食べ放題、飲み放題にするのですわよ」
「えええっ!? なぜそれをもっと早く教えてくださらなかったのですか!!」
「さっき決めたのですわ」
なにぶん初めてのお祭り、何をしたらいいのかわからないため、各自思い付いたら即実行してみるという方針だったりする。そのため、主催者であるクレイドールも、何が行われるのか知らない。
「収穫祭はいつまで?」
「一週間の予定ですわ」
あくまで予定なので好評なら延長するかもしれないが。
「はあ、それなら安心……うちのメンバー大食いで酒好きだから喜ぶでしょうね……」
Sランククランである彼らは金に困っているわけではないが、やはりタダ酒より美味いものはない。
「あ、クレイドールさま、あそこに屋台が出てる!!」
目の良いシルフィが行列を目ざとく発見し報告する。
「まあ!! お祭りの屋台なんて初めてですわ!! 行きましょうブルーレイン」
「ふふ、そうですね」
クレイドールにとって生まれて初めてのお祭り、そして屋台である。はしゃぐのも無理はない。
「リッジフォード名物クレイドール焼きだよ!! 一個五百バニーだ」
屋台からは甘い香りが漂ってくる。すでに行列が出来るほど人気が出ており、クレイドールたちもさっそく列に並ぶ。
「クレイドール焼きって……そんなものがあるの?」
「いえ、私も初めて聞きますわ」
「クレイドールさまは人気者だから」
ここリッジフォードでは、クレイドールにちなんだ商品や地名がすでにたくさん存在している。シルフィの言う通り、クレイドールの人気は凄まじいものがあるので、単純にめちゃめちゃ売れるのだ。
「ふーん……美味しそうじゃない」
クレイドール焼きは、ギム粉を平たく伸ばした生地に甘いイモブドウの餡とクレイドールの実を挟んで焼いた素朴でシンプルなもの。
クレイドールの実とは、ネルフィがリッジフォードの特産品にした古代植物の実が、赤銅色のクレイドールの瞳のようだったので、そう呼ばれるようになったものだ。クセになる酸味と甘みが特徴である。ブドウイモもそうだが、他では食べられない組み合わせで作られたこの焼き菓子は、リッジフォード名物と呼ぶにふさわしいものであった。
「はい、次はエルフのお嬢ちゃんだね。この鉄球を少しでも変形させることが出来たらもう一個サービスだよ!!」
領主クレイドールの怪力にちなんだ遊び心も楽しい、成功した者はいないが、皆楽しそうにチャレンジしている。
「この程度……私にかかれば――――身体強化!!!」
ぐっ、ぐぐっ
「うおおおおおおっ!!!!」
シルフィが全力で鉄球を握り締める。
「ふふ、どうだ店主?」
「えええっ!? へ、凹んでる……お、おめでとう、もう一個サービスだ」
わあ!! 歓声が沸き起こる。
「へえ……面白そうじゃない」
「うわあ、これまた別嬪さんだね、チャレンジするかい?」
「ええ、もちろん」
ブルーレインは鉄球を手にすると、涼しい顔で軽く握り締める。
「こんな感じでどうかしら?」
「ひ、ひいいっ!? ゆ、指の形に潰れてる……!! は、はい、もう一個サービスだ」
「ふふ、ありがとう」
『おい、あの子たち凄いぞ……鉄球を変形させてるぜ……』
何事かと、どんどん人が集まってくる。
「おじさま、私もチャレンジしたいですわ!!」
「ごめんなお嬢ちゃん、もう鉄球がないんだ」
「問題ないですわ」
クレイドールは魔法で鉄球を元通りにする。
「これでよろしくって?」
「あ、ああ……」
クレイドールが鉄球を手にすると、周囲の人々が騒ぎ出す。
『あれ、クレイドールさまだよな?』
『ああ、間違いない、領主さまだ!!』
街の人々を始め、ブルーレインやシルフィもクレイドールに注目している。誰もが彼女の怪力を知っているが、実際に目の前で見られる機会はそう多くないから。
「行きますわよ」
クレイドールが鉄球を人差し指と親指で軽く挟むと――――
パアアンッ
風船が破裂したような音がして――――鉄球は跡形もなく消し飛んだ。
「あらまあ……無くなってしまいましたわ……どうしましょう」
オロオロしているクレイドール。
「……えっと……何が起こったのかしら?」
「……うーん、爆発?」
人々は何が起こったのかしばらく理解できないでいたが、戸惑いはやがて賞賛と歓声へと変わる。
「おじさま……ごめんなさい、これ代わりに使ってくださる?」
クレイドールが差し出したのはブラックミスリルをとんでもない握力で球状に圧縮したもの。
実は特殊効果で、握力が測れるのだが、店主がそのことに気付くのはしばらく後のことであった。




