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没落寸前の崖っぷち令嬢、山で野生の執事を拾ったら全てが上手く行きはじめました  作者: ひだまりのねこ


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第二十六話 伝説の武具


「なあフラン、歓迎されているのは嬉しいのだが……こんなに良くしてもらって大丈夫なのだろうか?」


 グレイリッジ領にやってきた騎士団は、現在建設中の騎士団本部に付随する専用宿舎に滞在している。家族が居る者から優先的に無料の住宅が用意され、独身者は当面宿舎で寝泊まりすることになるのだが――――その宿舎は水道、風呂、光熱完備の最新魔道具が標準装備されており、布団も信じられないほど寝心地が良い。団長室に至っては、どこぞの王族の部屋と言われても納得してしまうほどの豪華さだ。


「あはは、それだけじゃないよ、アストリア家専用の屋敷貰っちゃったし」

「ライオネル家も屋敷貰ってしまった……」


 当然最新式である。


「これは死ぬ気で働いて恩を返さねばなるまいな」

「そうだね、クレイドールさまは……守る必要なさそうだけど……街は守らないとね!!」


 クレイドールは騎士団員たちにまとまった休暇を与え、街に馴染めるようにと計らった。団員たちはその休暇を利用して各自街を巡り、住民たちと交流する中で、すでにリッジフォードを第二の故郷として自分たちが守る場所なのだと認識するようになっている。その士気は街にやって来たばかりとは思えないほど非常に高い。


「それにしても――――食事が美味すぎる……!!」

「あ、それそれ!! 本当に美味しいわよね!!」


 騎士団員には宿舎で毎日食事が提供される。もちろん外食しても構わないのだが、ここはキングダム王国、トナリノ王国、帝国、エルフ、ドワーフの文化が集まっていて、日替わりで提供される料理がどれも絶品なのだ。まだ街中に飲食店が少ないこともあり、騎士団以外の人々にも開放されているため、交流の場としても大いに役割を発揮していた。



「クリス、フラン、ちょっといいか?」


「これはアイスヴァルト殿、わざわざお越しいただかなくとも、こちらから駆け付けますのに」 

「いや、何でも自分で確認したい性格でな、二人にちょっと付き合ってもらいたい場所があるんだが――――」




「実はクレイドール騎士団全員分の武具と装備を作成するにあたって二人の意見を取り入れるべきだと思ってな」


 クレイドール騎士団というのは新設される騎士団の名称だ、本人は恥ずかしがっていたが、強そうで縁起が良いと、団員や領民からも大変好評である。


「既製品ではなく新たに作るのか?」


 驚くクリスとフラン。新たに作るとなると莫大な予算が必要だが、それ以上に鍛冶師や武具職人が必要になる。


「リッジフォードにはドワーフ族の職人集団がいるからな、素材はミスリルを使用する」

「み、ミスリルだとっ!?」

「いやいや、さすがに冗談ですよね?」


 予算以前にそもそもミスリル鉱石は希少な上に流通が規制されていて量を揃えることは不可能だ。実家が商会を営むフランだからこそ、それがどれだけ荒唐無稽なことなのか理解している。


「問題ない、グレイリッジ領には数年程度では使い切れないほどのミスリル鉱石があるからな」

「は、はあ……?」

「ど、どうなってるのかしら?」


 とりあえずミスリル製の装備を本気で作るらしいとは理解した二人。


「そして――――これは口外しないで欲しいのだが、二人の装備はブラックミスリル製だ」

「は、はああああっ!?」

「ぶ、ブラックミスリル!? 嘘でしょ……」


 今度こそ理解できない。ミスリルは希少だがまだ理解出来るし、入手そのものはそこまで難しくない、数を揃えるとなれば話は別だが。しかしブラックミスリルは次元が違う、ブラックミスリル製の武具は例外なく国宝クラスであり、当然だが市販などされていない。そもそもブラックミスリルで武具を作れる職人がいないのだ。


「二人とも着いたぞ」


 やってきたのは、ドワーフ族自治区。最新式の鍛冶場が複数並んでおり、至る所から高い金属音が響き、肌を焦がすような熱気が通りまで流れてくる。


「おう、来たなアイスヴァルト」


 三人を出迎えたのは、ドワーフ族のスミス。

 

「彼が二人の武具を作ってくれる大陸一の鍛冶師スミス殿だ」

「アイスヴァルト、それは違う、世界一だ!!」


 鍛冶師スミス、子どもでも知っている伝説の存在。武人であれば誰しも彼の作った武具を手に入れることを夢に見る。


「え……あ……く、クリスと申します!!」

「ふ、フランです!!」

 

 さすがの二人も緊張した様子で頭を下げる。


「ふむ、なるほど悪くないな」


 国家戦力級の騎士をつかまえて悪くないなどと言えるのは彼ぐらいのものだ。


「よし、二人の武器を作ってやる、希望があれば先に聞くぞ」


「本当ですか!! 私は槍をお願いします」

「あの……私は双剣使いなんですが……?」

「構わん、二本作ってやる」

「なっ!? ズルいぞフラン!!」

「何言ってるのよ、槍は倍くらい長いんだから同じでしょ!!」


 伝説の鍛冶師に、しかもブラックミスリル製の武器を作ってもらえるチャンスなど二度と無いだろう。必死になるのも無理はない。


「二人ともそれくらいにしておけ、それより鎧のサイズを合わせるから今度はこっちだ」


 アイスヴァルトに連れられてやってきたのは、ドワーフ族の長の屋敷。


「鎧も作るのか?」

「いや、鎧はもう完成している。最初に装着した者のサイズになる機能が付与されているらしいから調整は不要だ」


「「……は?」」


 そんな機能聞いたこともない。訝しむ二人の前に運ばれてきたのは――――独特の光沢を持った漆黒の鎧。


「ま……まさか……これもブラックミスリル!?」 

「うそ……でしょ……この鎧で下手すると小さい国家が買えるわよ……」


 二人が知る限り、ブラックミスリルの全身鎧は存在していないはず。小さな胸当て一つで城五つ分の価格で取引されるほどなのだ、フランが言うことも満更大げさではない。


「騎士団員には全員ミスリル製の鎧を用意するつもりだ。さすがに時間はかかるがな」


 世界最強の帝国騎士団ですら、ミスリル製の鎧を纏えるのは指揮官クラスに限られる。


「どうしようフラン……なんだか怖くなってきた」

「奇遇ね、私もよ」


「何言っているんだ? 早く鎧を着てくれ、魔法効果を付与するんだからな」

「は? 魔法効果を付与?」


「ああ、ブラックミスリルはそれ自体に魔法効果を付与することが出来る特性を持っているからな。せっかくだから最高の人材を呼んである」


「まったく……私も忙しいのよ? まあ……ブラックミスリル製の杖貰っちゃったから協力するけど」

「はあ……見返りがなければ働かないなんて……本当に高貴な皇女さまなのでしょうか?」

「はあっ!? ち、違うからっ!! アイスヴァルトの頼みなら何でもするわよ!!」


 天才魔法皇女アルテリードと聖女ミレイユがやってくる。


 そして――――


「遅くなってごめんなさいね、ちょっと畑でトラブルがあって……」


 エルフ族伝説の賢者ネルフィもやってきた。


 

「まずは私からね、完全魔法反射も付けられるけど……支援魔法まで弾いてしまうから、耐熱、耐衝撃効果付与しておくわね」

「では私ですね、治癒効果と状態異常無効を付与しておきます」

「ふむ、私からは……自己再生を付与しましょう、もっともブラックミスリル製ならば滅多なことでは壊れないと思いますが」


 大陸最高クラスの三人から魔法効果を付与されたブラックミスリル製の鎧の完成である。


「あ、あわわ……どうしよう……万一盗まれたら……」


 ここまで来ると神話級の装備、存在自体が伝説だ。クリスは顔面蒼白になる。


「あ……それもそうですね、では盗難防止を付与しておきましょう」


 ネルフィは、持ち主以外が持ち去ろうとすると重くて動かせなくなる魔法を追加で付与する。 


「あ、あはは……これは大変なことになってしまったわね」


 騎士を引退して商会に本腰を入れようか迷っていたが、その考えを丸めて遠くへ投げ捨てるフランであった。


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― 新着の感想 ―
そうそう。 ここまできたら盗難防止も必須ですね。 全員分作ったらもう無敵ですねこれは。
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