第二十一話 愛しのアイスヴァルト
予約投稿日を間違えるという痛恨の失態……しかもそのことに夜まで気付かないという(-_-;)
毎日投稿を宣言していたわけではありませんが、もし更新を楽しみにしていた方がいらしたら申し訳なかったです<(_ _)>
「まあ!! アルテ姉さまとアイスヴァルトは婚約者同士なんですの?」
瞳をキラキラ輝かせるクレイドール。
「ふふふ、まあね。帝国にいる時は色々邪魔が入ってしまったけれど、国を出た以上誰にも文句は言わせないわ」
アルテリードも負けじと紫水晶のような瞳を輝かせる。
「盛り上がってるところ悪いが……クレイドール、あの建物はもしや魔塔か?」
リッジフォードへ到着した一行だが、メルキオールを始めとした魔導士たちが気になっているのは絶賛建設中の見慣れた建物。規模は違えど、構造は大陸共通なので、魔法使いなら一目見ればわかるようになっている。
「ええ、皆さまのために造っているので、完成したらご自由にお使いくださいませ」
「ご自由に……って、アレ、帝都にある魔塔と同じくらいでかいんだが……」
実際のところ、帝都に負けないというアイスヴァルトとメイソンの思惑で、若干こちらの方が大きい。
「ちょっと待って!? ねえクレイドール……あの魔塔……塗装にミスリル使ってるでしょ?」
「駄目……でしたの?」
「いや、逆よ逆、凄すぎてびっくりしただけ」
魔法とミスリルの相性の良さは多岐にわたり、利点は数え切れないほどある。魔塔にミスリルを使うのは魔法使いの夢であり憧れ、ひいては魔塔の格の違いそのもの。実際は予算という壁に阻まれてしまうので、国営の魔塔よりも民間の魔塔の方が豪華だったりするのだ。よって――――天下の帝国とはいえ、国営である以上貴重なミスリルは魔塔にまで回って来ず、それどころか予算不足で外壁の補修すらままならない有様だったりする。
「ああ……付いてきて本当に良かった……」
宮廷魔導士たちが泣いて喜んでいる。大陸にある魔塔は一番新しいものでも建てられてから百年以上経過している。真新しい自分たちだけの魔塔を手に入れることが出来るなど、一体どれほどの善行を積めば起こるのだろう。ここには過去も伝統もしがらみもない、あるのは輝かしい未来だけ。
「あの……私たち、手伝って来ても良いでしょうか?」
魔導士たちは居ても立っても居られない様子でメルキオールを見つめる。
「ああ、もちろんだ。なんたって俺たちの新たな城になるんだからな」
「あら、お帰りなさいクレイドール」
「あ!! ミレイユ姉さま、ただいまですわ!!」
おばさまはやめて、という懇願によって姉ポジションを手にしたミレイユと街角でばったり遭遇する。
「クレイドール、こちらの方々は?」
「これからグレイリッジ領に来てくださる魔法使いの皆さまですわ。こちらのアルテ姉さまは、アイスヴァルトの婚約者なんですって」
ピクリ ミレイユの眉が動く。
「初めまして、私は聖女――――アイスヴァルトに、君のことをもっと知って将来は結婚を視野に――――なんて言わせたミレイユですわ」
露骨に牽制するミレイユにアルテリードも負けていない。
「初めまして、私は帝国皇女のアルテリード、アイスヴァルトとは幼馴染で、彼のことなら何でも知っている天才魔法皇女よ」
まるで雷魔法を発動したかのようにバチバチと視線がぶつかり合う二人。
「ふふ、その割にはアイスヴァルトの口から貴女の話、一度も聞いたことがないのですけれど……それに――――自分で天才って仰るのは恥ずかしいから辞めた方がよろしくってよ?」
痛いところを突かれてぐぬぬ、と唸るアルテリード。
「ふ、ふん、彼のことだから私に迷惑をかけないために言わなかっただけだわ、それに――――天才なのは事実、本当のことを言っているだけなのに、その胸と同じでずいぶん心が小さいのね――――ぐふっ!?」
(くっ、この皇女さま、やりますね……自分へのダメージを顧みずに道連れにしようとするとは――――メンタルヒール!!)
(くうっ、さすがの私も聖女相手にするのは分が悪い……余所者の私がクレイドールの家族と喧嘩するのはマイナスでしかない……わね)
互いに相手を認め合う二人。
「……仕方ないわね、帝国では一夫多妻が当たり前ですから、妻同士仲良くしましょう」
「そうですね……そちらが先に婚約関係にあったのでしたら尊重しますわ」
「「ただし――――正妻は私」」
ぐぬぬ、再び睨み合うミレイユとアルテリード。
「お、魔法使い見つかったみたいだな――――って、アルテリードっ!? なぜお前がここに!!」
タイミングが良いのか悪いのか、アイスヴァルトがやってきた。
「「アイスヴァルト、どっちが正妻なの!!」」
「いきなり何の話だっ!?」
「ふふ、みんな仲良しなのですわ!!」
詰め寄る二人と困惑するアイスヴァルト、それを眺めて嬉しそうに笑うクレイドールであった。
「あら、アル!! 遊びませんこと?」
「ああ、クレイドールか、良いよ、何して遊ぶ?」
歳が近いこともあって、アルとクレイドールは顔を合わせると一緒に街を巡ったり、遊んだりするようになっていた。忙しい大人たちと違って、アルがいつも暇そうにしていたこともあって話しかけやすかったというのもある。
「そうですわね……かけっことか木登りとか……狩りなんかも楽しそうですわ」
「うーん……ごめんクレイドール、僕は身体が弱いからそういうのは無理かな」
「あ……そうでしたわね、それじゃあ――――おやつ食べながらお話しましょうか」
クレイドールとアルは、見晴らしの良い丘の上に敷物を広げてバスケットからお菓子を取り出して頬張る。
「あのさ……クレイドールは結婚とか考えたりするの?」
「結婚したい人ならいますわ」
「えっ!? そう……なんだ」
「お父さまですわ!!」
「あ……うん、そうだよね、勇者カッコいいもんね」
落ち込んだり笑ったり忙しいアル。一方のクレイドールはニコニコしながら花を摘んでアルに差し出す。
「アルは勇者になりたいんですの?」
「いや……僕は勇者にはなれない。でも――――皆を、この国に暮らす全ての人を守りたいと思ってる、誰もが笑顔で暮らせる場所にするんだ」
熱く語るアルの横顔をじっと見つめるクレイドール。
「アルは……カッコイイですわ、私なんてこの街だけで精一杯ですのに……」
「そんなことない、クレイドールは本当に凄いよ、僕には眩しすぎるくらいに」
次々不可能と思えることを成し遂げてゆく姿を見ていると、出来ないことはないんじゃないかと思えてくる。アルは胸が熱くなるのを感じる。
「そうですわ!! 明日、ミレイユ姉さまにアルのこと診てもらいましょう!!」
「えっ!? 良いの? だって聖女さま忙しいのに……」
「大丈夫ですわ、明日夕方に屋敷へ来てくださいませ、夕食も用意させますわね」
「はあ……はあ……またか……どんどん間隔が短くなっている……」
クレイドールと別れた後、吐血して動けなくなる。
(……絶対に生きてやる……死んでたまるか)
アルは、鉛のように重い身体を引きずるように立ち上がると、呼吸を整え、何気ない様子でワグナー商会へ戻るのだった。




