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没落寸前の崖っぷち令嬢、山で野生の執事を拾ったら全てが上手く行きはじめました  作者: ひだまりのねこ


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第二十話 規格外


「なるほど……クレイドールに魔法の適性があるか知りたいのね」


 アルテリードは、ふむ、と少し考えてから、


「リリース!!」


 何もない空間から水晶玉のようなものを取り出した。


「す、すごいですわ!!」

「マジか!! 私のアイテムボックスみたいだな……」


「空間魔法で作り上げた亜空間収納よ、空間作るよりも維持する方が難しいから誰にでも使えるアイテムボックスの方が汎用性は圧倒的に上だけどね。今のところ使える魔法使い私だけだし」


 アルテリードが『魔導に愛されし者』と称される所以がこれだ。アイテムボックスをヒントに独力で新しい魔法を生み出したように、多くのオリジナル魔法を持っている天才なのだ。 


「この魔力水晶は大まかな魔力量を知ることが出来る魔道具よ、魔力量によって異なる色に発光するから、それによって魔力量のクラスがわかる。ちなみに魔力が規定以下だと反応しないけど、この魔力水晶宮廷魔導士を採用する時に使う最高級品だから、あまり参考にならないかもしれないわね……」


 魔法使いを選別するための魔道具なので、並の魔力では反応しないほど最低水準が高い。反応しなかったからといって、魔力が無いというわけではないのだ。


「アルテリード姉さま、この玉に触れれば良いですの?」

「ええ、簡単でしょ」


「ま、待て、なんとなく嫌な予感がするぞ」

「ハハハ、ゼロ、お前の直感を否定するわけではないが、その魔力水晶は、ここにいる全員の魔力を同時に測定してもまだ余裕がある。そんなことはあり得ないが、仮にクレイドールがアルテリード並みの天才だったとしてもなんら問題ない」


 状況を眺めていたメルキオールが楽しそうに笑う。


「触りますわね」


 ビキッ、バキッ、バリンッ クレイドールが触れた途端、魔力水晶が砕け散った。


「「……え?」」


「お、お嬢さま、力入れすぎだろっ!?」

「え? 軽く触れただけですわ」


「あ、あはは……きっとヒビが入っていたのね、師匠、予備の魔力水晶持ってませんか?」

「あるにはあるが……これ滅茶苦茶高いんだから壊さないでくれよ、まあ、それは冗談として――――うむ、正常に反応しているな、よし、触ってみろ」

「はい、ですわ!!」


 壊さないようにそーっとそーっと、生まれたてのヒヨコを触る時のように優しく――――


 ビキッ、バキッ、バリンッ


「うぎゃあああああ!? 俺の魔力水晶があああっ!?」

「師匠、落ち着いてください、一体どういうこと……? 今回は間違いなく壊れていなかったはず、まさか……クレイドールの魔力量に耐えられなかったとでも言うの……」


 あり得ない、が、目の前で起こった現実だ、魔法使いという人種は、好奇心が服を着て歩いているようなもの、このままうやむやにするはずがない。


「本当にどうなっている? こんなこと……いや、待てよ、たしかかの勇者がアカデミー入学試験で魔力水晶を破壊したエピソードがあったが……あれはまさか事実だったのか!?」


 英雄譚、などというのはほとんどが面白おかしく誇張されているものだが、事実がそのまま伝わっていることもある。


「私は魔法のことは詳しくないが、クレイドール嬢はあの暴虐聖女クラリスの娘だぞ、ある意味当然ではないのか?」

「な、何っ!? それは本当かセリオン!!」

「一応機密事項なので他言無用で頼む」


「なるほど……クレイドールは聖女さまの血を引いているのね……先に教えて欲しかったけど……」


 恨めしそうにセリオンを睨みつけるアルテリードとメルキオール。聖女の魔力は女神の祝福によってほぼ無限に等しいとされている。魔力水晶が砕けてしまうのも当然なのかもしれない。 


「ま、まあ、魔力量はもう良いだろう、次は適性を調べてみるか……」


 気を取り直したメルキオールが取り出したのは、属性の光球。


「これは適性のある属性の色に光るだけだから壊れる危険性はない、クレイドールは聖女の血を引いているから、おそらく神聖属性の紫色に光るはずだ」

「ちなみに私はあらゆる属性に適性のある全属性適性(オールラウンダー)だから虹のように輝いて綺麗だったわよ」

 

 アルテリードもメルキオールも興奮している。もしクレイドールに聖女の適性があったら――――すごいことになる。


「……なんか嫌な予感がする」

「ハハハ、ゼロは心配性だな、危険なことなど何も――――」


 カカカカカカカッッ!!!!! クレイドールが光球に触れた瞬間――――山全体が光に呑まれた。


「うぎゃあああああ!? 目が、目がああああっ!!!!」


 至近距離でもろに光を直視してしまい、のたうち回るメルキオール。


「お、黄金の光……!? こんなの見たことないわ……」

「お、黄金の光……だとっ!? そんな馬鹿な……それは――――全属性神適性(ゴッドタレント)だぞ!!」

「え? それってたしか勇者だけが持っているんじゃ……」


 適性があるだけでなく、見ただけで魔法が使えるようになるという規格外の才能、それこそが勇者である証なのである。


「あ、もしかしたらお父さまが勇者だからかもしれませんわ」


 クレイドールの爆弾発言にその場にいた全員が固まる。


「お、お嬢さま……それ……初耳なんだが?」


 辛うじて正気に戻ったゼロがツッコむ。


「ええ、聞かれませんでしたから」

「普通の男爵じゃねえのかよ!?」

 

 言われてみれば、クレイドールより強い父親が普通の人間なはずもない、それに暴虐の聖女を嫁にするのだから、これを勇者と呼ばずして誰を勇者と呼ぶのかという話だ。



「ま、まあ……とにかくクレイドールに魔力も適性もあることがわかったんだ、今のところはそれで良いだろう」

「そ、そうね、でも……もし本当に全属性神適性だとしたら――――見ただけで魔法が使えるってことよね? 何か魔法使うから再現してみてくれない?」


 好奇心が止まらないアルテリード。 

 

「あ、さっき見たから大丈夫ですわ」

「ま、待て、嫌な予感が――――」


 




「こ、ここは……どこだ?」


 気付けば全員知らない場所にいた。床もなく壁もなければ天井も無い黄金の光が満ちた空間。


「え? まさか……ここは亜空間!?」 


 最初に気付いたのは自らも空間魔法を使えるアルテリード。


 だが――――


「嘘でしょ……モノを収納するのと生き物を収納するのでは難易度が段違いなのに……信じられない」


 アルテリードの収納魔法に生物は入れることは出来ない。厳密には入れることは出来るが、内部に酸素が無いので死んでしまう。空気はもちろん、温度、重力、などあらゆる要素を調整する必要がある、袋を用意することは出来ても、袋の中に生存可能な空間を構築するのは神の御業に等しい難易度なのだ。


「ということは、ここはクレイドールが作り出した亜空間収納の中ってことか?」

「……おそらくは」


「はあ……だから待てって言ったのによ」


 さすがのゼロもこうなってしまってはお手上げだ。なにしろ出口がどこにもないのだから。


「アルテリード、空間ごと斬ってしまって構わないか?」

「やめておきなさいセリオン、出口以外はどこに繋がっているのかわからない、私はそんな奇跡に頼るようなギャンブルはごめん――――きゃあああっ!?」


 突然、アルテリードが悲鳴を上げる。


「うわあああっ!!!!!?」

「た、助けてえええ!!!!」


 巨大な手がアルテリードを掴んで持ち上げると、次の瞬間巨大な手も、アルテリードの姿も消えていた。


「……き、消えたぞ」

「アルテリードさま……どうかご無事で……」



「わあ!! 良かったですわ、皆さま急にいなくなったからビックリしました」

「はあ……びっくりしたのはこっちだわ……いいことクレイドール、わざわざ手で取りだす必要ないのよ、取り出したいものをイメージしながら『リリース』と言えば良いの、やってごらんなさい」


「わかりましたアルテ姉さま、えっと……リリース!!」


 無事、全員戻ってきた。


「全員揃ったことですし――――そろそろ街へ戻りますわよ!!」


 元気いっぱい、高々と右手を突き上げるクレイドール。


「セリオン……なぜお前がクレイドールに仕えているのか、少しだけわかったような気がする」

「メルキオール殿、わかってもらえて何よりだ、だが――――戦っているクレイドール嬢はこんなものではないから覚悟しておくんだな」

「え……? あの子、戦うのか?」

「だってほら……暴虐の娘だし」

「ああ……そう……だったな」

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― 新着の感想 ―
>「うぎゃあああああ!? 目が、目がああああっ!!!!」 誰だ!? こんなところで滅びの呪文(byめつぶし)を唱えたヤツは!?
いろいろと納得(;゜Д゜) そりゃここまでのチートにもなる。 というか頭脳要員がいないだけで初期の頃のような状態になるのか……このパンドラの箱、開けて良かったのかそうじゃなかったのか分からなくなって…
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