第三話『新しい世界』
次に僕が語りたくなったのは、冒険譚だ。
無論、こんなネットゲームの世界では冒険しかできないのだからそんな話しか無いし、僕にはろくな話し相手が居ないから大して面白い話でもない。
課金をたくさんしてゲーム内で最強プレイヤーになるサクセス・ストーリーでもなければ、ゲームを通して現実の女の子に恋をする恋愛物語でもない。僕はただ誰もいなくなったワールドを放浪して、NPCといろいろな話をして、ホームに居るトモちゃんと通話をしながら寂しさを紛らわしてきた。
そんな虚しい話で終わらせるわけではないけれど、なにぶん、ストーリーもアイテムのコレクションも、対人要素も何もない、ただリアルなだけのゲームというのは退屈なものだ。それはご了承頂きたい。
某ゲームのように殺人も破壊もなんでもござれな世界ならばまた少し違うが、結局これはRPGなんだ。出来ることは限られているし、腰ほどの高さの柵を飛び越えることだって出来ない。柵に見えて、それは天高く伸びる見えない壁なのだから。
ともかくとして、僕は『デジタルレーション』から与えられた権限によって同社のゲームならば自由にゲーム内を行き来することが出来るようになった。自由に、だが、有限だ。いつか会社が潰れて電気の供給が停止されればサーバーは維持できなくなって、自然、僕は消滅する。
だけれどニ三年経った今でもそれがないということは、多分サーバーがどこか別の場所に移されて放置されているのかもしれない。ただそれも維持するのにお金がかかるわけだから、誰かしらがこの世界に関わっていることになる。
だというのに誰も僕にメールすら送ってこないということは――やめておこう。
どちらにしろ、僕はそういった史上最悪の結末が来る前に、自分でその一歩手前の最悪の選択が出来る。少なくともこの世界から僕の存在を消すことは、可能なんだ。
だから、多分君たちが思ってくれるほど、僕は今落胆もしてなければ、諦めても居ない。一つの方法を確実に持っているということは、どんな手段であれ、ひどく心強いんだ。
ともかく、僕がこれからしたい話は、シブヤから離れた異世界『ソード・オブ・マジック』。剣と魔法の世界。
奇しくもニ三年前、バイト仲間の担当で羨んだ、ファンタジーの世界。
唯一でも良い、このログを読んでくれている君に綴る物語だ。
失望からなる希望。
そして半年ぶりにゲームを楽しむ僕に突きつけられる、現実的な死を覚悟する物語。




