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Cランクの最強冒険者、わがまま令嬢の護衛になる 〜正体を隠した底辺冒険者が英雄に至るまで〜  作者: 朝食ダンゴ
第4章

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59.エリーゼの日記

 薄暗い牢獄の中にいながら、シルキィは日記の閲読に没頭していた。

 それがエリーゼの手記であることを理解した時、シルキィの好奇心は最高潮に達した。

 古い文字で書かれた文章を追うのは一苦労ではあったが、学院で学んだ文法を思い出しながら読解していく。幸いにも明快な文章であり、内容を正しく理解できた。

 時に胸を躍らせて、時に悲嘆を想いながら、日記に描かれる追憶の過去をなぞらえる。固く冷たい床の上にあって、シルキィはレイヴン達と旅をし、苦楽を共にしていた。


 レイヴンはダプアから脱出の後、しばらく諸国を周遊したようだ。旅は波乱に満ちていたが、レイヴンの誠実な心と大胆な行動が周囲に影響を与えていく様は、読めば読むほどに痛快であった。

 レイヴンが巡った国々には、シルキィが初めて耳にする国々も多かった。中には歴史書で学んだ過去の都市国家や現存する地名が並んでおり、頷きながら読んでいく。

 一際興奮を覚えたのは、レイヴンの口からラ・シエラの名前が出てきたことだ。シルキィの生まれ故郷。父トゥジクスが統治する地である。鼓動を高鳴らせて本を閉じ、落ち着いてからまた開く。少し読み進めては、また閉じる。それを何度も繰り返した。


 レイヴンは各地を巡った後、ラ・シエラの土地を目指したようだ。その理由は記されていなかったが、彼がラ・シエラの地に特別な感情を抱いていたことは仄めかされていた。

 ラ・シエラへの道のりには、それまでとは比べ物にならない苦難と障害が待ち受けていた。強大な魔獣の群に囲まれたこともあった。エリーゼが病を患い、秘薬の材料を得るために竜に挑んだこともあった。王殺しの汚名を着せられ、暗い地下牢で過酷な拷問に耐える日々もあった。心を通わした仲間を失い、信じていた友に裏切られ、誹謗され、無辜の人々から石を投げられたこともある。一日一日、その日を生き延びるのが奇跡であるかのような毎日であった。


 だが、彼は断じて絶望しなかった。不屈であった。いかなる時も勇んで危機に立ち向かうレイヴンの姿に、シルキィは一喜一憂し、目元に涙を滲ませた。

 エリーゼの直筆には、彼女の目から見たレイヴンの生き様が鮮明に描かれている。綴られた文章の端々から彼女の生の感情を垣間見たシルキィは、エリーゼの愛情の深さと秘められた一念の強さに何度も心を打たれた。

 一刻も早く、この感動を誰かに伝えたいと思った。そしてここが牢獄であることを思い出して、むしろ希望が沸き上がったのだ。

 レイヴンやエリーゼが乗り越えてきた困難に比べれば、自分の置かれた現状などまるで取るに足りないではないか。どうして弱気になることがあろうか。それは一種の現実逃避にも思えたが、シルキィの胸に去来した強い希望は本物だった。今この場において、それ以上に現実的なものなど存在しなかった。

 いつしかシルキィの表情は凛然とし、生命力に満ちていた。


 彼女は日記を読み進める。

 レイヴンはついにラ・シエラに辿り着いた。彼の隣に残っていたのはエリーゼだけであった。彼女は最後まで、影のように彼に寄り添った。

 旅の終盤。レイヴンは終わりの時が近いことを悟ったのだろう。ラ・シエラの森で、彼はエリーゼに秘めた胸中を打ち明けた。

 当時の会話は、克明に書き残されている。

 彼の一言一句まで、決して忘れることのなきよう。そんな但し書きまで添えられていた。


 そこまで読み終えて、シルキィはかすかな異変を感じ取った。金属の打ち合う音。地震にも似た振動と轟音。それに紛れて、鋭い怒号までもが響いていた。

 忘れていた恐怖が再度襲来する。ただそれ以上に、今のシルキィには何があろうと動じない勇気があった。

 だが、音で集中が途切れたのも事実である。そのせいだろうか。日記の内容に、一抹の違和感を覚えた。どこに違和感があるのか、具体的には分からない。なにか重要なことを見落としているような気がして、シルキィは日記をパラパラと読み返してみる。

 轟音と振動は続いている。

 シルキィは違和感の追求を諦めて、日記の続きに目を落とす。

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