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Cランクの最強冒険者、わがまま令嬢の護衛になる 〜正体を隠した底辺冒険者が英雄に至るまで〜  作者: 朝食ダンゴ
第2章

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25.オーブル領エルンダ②

「それにしても、今日のエルンダは様子がおかしいな」


 オーブル領の主都エルンダは商人と旅人の街。南北を深い森に挟まれた広大な平原のちょうど真ん中に位置している。いくつかの街道が交差する商業都市であり、多くの人や物、情報の中継地点でもあった。都市の中央広場に設けられた市場は活気に溢れており、老若男女で賑わっている。


 街に入って気付いたのは、衛兵の数が異様に多いということだ。何度も訪れた街だが、ここまでの厳重な警備体制は記憶にない。都市公認の警備章をつけた同業者の姿も少なからずある。警備の数はいつもの三倍か、それ以上。治安が悪化していることを考慮しても尋常ではなかった。


「確かに、衛兵が目につきますね。催し物でもあるのでしょうか」


 部屋の窓から通りを見下ろすティアが、独り言のようにそんなことを言った。


「どうかな。めでたい理由なら、あんなピリピリしてないだろうし」


 一見明るく賑やかな街並み。だが、よくよく観察してみれば露店の商人達がそれぞれ警戒の念を抱いているように見えた。不穏な影を感じるのは気のせいではないだろう。

 シルキィはいつの間にか寝息を立てていた。普段の刺々しい表情からは考えられないくらいあどけない寝顔だ。


「セス様は」


 呼ばれて、ティアに視線を戻す。


「なぜお嬢様の依頼を受けて下さったのです? 私が申し上げるのもおかしな話ではありますが、労功の釣り合いが取れていないのでは」


「そうは言っても、アルゴノートってやつは掃いて捨てるほどいるからね。しがないC級じゃ、その日の依頼にありつけるのも珍しい。お嬢には感謝してるくらいさ」


 需要と供給を鑑みるに、アルゴノート市場においては雇用者の立場が一方的に強い。階級の低いアルゴノートにとってはそれが特に顕著であり、たとえ相手が貴族でなくとも媚び諂いへりくだることがしばしばある。要するに、仕事を選べる立場ではないのだ。

 ティアの黒い瞳がセスを見つめていた。凛とした美貌にわかりやすい表情はない。なんとなく後ろめたくなって、セスは壁の燭台に目を移した。


「苦労をされているのですね。アルゴノートの方々は」


 背負うものがなく、自由気ままに生きられるアルゴノート。反面、社会の庇護を享けられず、その身に起こるすべてが自己責任だとみなされる。

 それを苦労ととるかどうかは、個人の主観によるだろう。

 少なくともセスは、今の暮らしを苦痛だと思ったことはない。


「気楽なもんだよ」


 沈黙の訪れた部屋には、シルキィの小さな寝息だけが聞こえていた。

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