表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cランクの最強冒険者、わがまま令嬢の護衛になる 〜正体を隠した底辺冒険者が英雄に至るまで〜  作者: 朝食ダンゴ
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/79

20.旅立ち②

 耳の良いセスには聞き取れたが、聞こえない振りをするのが礼儀だと思った。


「ティア、頼んだぞ。あの子が道を誤らぬよう、しかと導いてやってくれ」


「はい。旦那様も、ご自愛下さい」


 旅立ちであるにも拘らず、ティアの装いは平素の侍女服。その上にシルキィとお揃いのフードケープを羽織っている。適切な旅装とはいえないが、誰も指摘しないのでセスもあえて言及はしなかった。

 ティアが乗り込むや否や、馬車の扉が勢いよく閉められた。乗車しようとしていたセスと、その様子を見ていたトゥジクスが、顔を会わせて苦笑を漏らす。


 セスは仕方なく御者席につく。手綱を握ると、二頭の魔導馬の瞳に青白い光が宿った。


「セス、娘をよろしく頼む。じゃじゃ馬だが上手く扱ってやってくれ」


「この命に代えても」


「君を信じている」


 トゥジクスは真摯な表情で、御者席のセスを見上げる。彼の深い瞳には、様々な感情が渦巻いているようだった。

 ゆっくりと馬車が動き出し、いよいよ屋敷を出発する。


 シルキィは窓越しに父と使用人達に手を振っていたが、森に入ると座席に落ち着いた。そして、物憂げな面持ちでうそぶいた。


「ひと月かぁ」


 温室育ちの令嬢には、過酷な旅路だろう。快適な馬車と高性能の馬を携えておいて贅沢な話ではあるが。

 セスは開かれた窓から車内をのぞき込んだ。


「お嬢、一つ伝えておきたいんだけど」


「……なによ」


 一転して砕けた物言いのセスに、シルキィは湿度の高い眼差しを向ける。


「護衛中はあえて敬語は使わない。礼儀作法も最低限にする」


「理由を聞きましょうか」


「万が一の時、お嬢を守るために指示を飛ばすことがあるかもしれない。そんな時に回りくどい言葉を使うのはナンセンスだ。たとえ一秒でも対応を速くするために、普段からこの口調に慣れてもらいたい。無礼は承知の上だ」


 シルキィは唇をへの字に曲げる。反論を考えているのだろうか。少しの間思案する仕草を見せたが、ふと隣に座るティアに目を向けた。


「身分を考えればあり得ないことですが、今は平時とは違います。旅の途中で何が起こるか予測できない以上、セス様のお言葉にも一理あるかと」


 ティアは目線だけで主人の意図を汲み、自分なりの考えを述べた。

 シルキィは多少むっとしたものの、ティアがそう言うなら、と素直に納得した。


「なら、私もあなたに礼を払う必要はないわね」


 いったい今までどのような礼を払っていたのだろう。思い当たる節は皆無だったが、セスは気にしない。


「もちろん。気軽にセスと呼んでくれると嬉しい」


 にこにこと笑むセスと、鼻を鳴らしてそっぽを向くシルキィ。そんな二人を、ティアが交互に見やる。

 帝都を目指す長い旅は、ここから始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ