ご計画は慎重に
今俺の目の前には、一通の封筒がある。
そしてその横にははさみがある。
そのはさみで開ければ4月からの俺の人生がそこには書かれている。
「うわ~だめだ緊張する」
でも開けなかったからって、明日になればその中身が俺の望むように変わってくれるわけじゃない。
「よし。開けるぞ」
誰もいないのにわざわざ宣言すると、俺はその封筒を開け中身を取り出す。
少しずつ見えてくる文字。
『合格証明書』
!!!!!
み、見間違ってないよね?その前に『不』が見えないインクで書いてあるとか、そんな落ちじゃないよね?
・・・そんな馬鹿な事は無いよな。
俺を引っ掛けて何の得があるわけじゃないしw
やったよ。俺。やった~。
もうね、これで落ちてたら浪人決定なわけで。
浪人するなら1年頑張っちゃって斎ちゃんと同じ大学目指しちゃう?とかも少し考えたけど。
後輩になるなんて嫌だし。
違う大学にはなるけど、一年遅れちゃうよりは良い。
俺、4月から大学生になれるようです。
・・・さて、そうなると。
俺は携帯のメール画面を見つめながら考える。
計画は心してかからねばならない。
慎重に進めなければ、また落とし穴がいっぱい待っているんだ。
斎ちゃんは笑顔でたくさんの落とし穴を無邪気に掘ってくるんだから。
・・・昨日だってさ。
『永井結果どうだった~?』
ってメールが来たんだけど・・・。
俺20日発表なんだよって、この間のカラオケの時たぶん5回は言ったと思うんだよね。
ま。そんなもんですよ。人の記憶なんて。
つーか。斎ちゃんの俺のことに関する記憶なんてって事かな。
でも、良いんだ。
気にしてくれてるだけで俺嬉しいからさっ。
『斎ちゃ~ん。合格した~』
今日返したメールにすぐに斎ちゃんが返事くれる。もうね。それも嬉しいわけですよ。
『やったね~おめでとう』
うんうん。ありがとう。
『で、どこ受けたんだっけ?』
・・・・。
斎ちゃんそれも俺たぶん7回ぐらい言ってると思う。
い、良いんだ。
『坂南大学 経済学部』
『そっか~って、あたしそれ聞いたよね?』
・・・聞いてから思い出したんですね。聞いたって事を。
『うん。俺言ったね~』
『ゴメンゴメン。んで、その大学どこにあるの?』
・・・・・・。
俺、そろそろ泣いても良いですか?
俺は今回一つの挑戦をした。
さらにレベルアップを狙うんだ。
斎ちゃんとの関係をレベルアップ・・・したい。
俺は携帯に文字を打ち込みながら考える。
『斎ちゃん~永井じゃなくてさ、下の名前で呼んでくれない?』
・・・うわ。緊張する。
大学からの封筒を開けた時にも匹敵する緊張度だ。
何で?とか言われちゃうかな。それとも永井は永井だしって言われちゃうかなぁ。
斎ちゃんからの返事を想像する。
・・・待つって、長いものなんだな。
手の中の画面に文字が現れた。
メール受信中。そして携帯が鳴る。
そのメロディを途中でぶった切るようにボタンを押してメールを開く。
『永井の下の名前って、なんだっけ?』
そ、そうですか・・・知らなかったんですね・・・。
なんかまた無邪気な落とし穴が出現したよ。
いつかラストステージに行けんのかな?俺。
『将文です』
・・・初めましてとか付けてやろうか。
そう思った、けど。
斎ちゃんはさらに上手だった。
『そうなんだ~。じゃあ将文って長いからまさぴょんで良いじゃん』
・・・ぴょん???
ぴょ~~~ん~~~~?
まさふみが長いからまさぴょん???
・・・斎ちゃんそっちのほうが文字数多いですけど?
『まさぴょん~~~~?』
俺の頭の中を「?」が300個ぐらい飛び交う。
マジで?マジで学校でも「まさぴょん」とか呼ばれちゃうわけ?
そ、それは・・・どうなん?
『え~じゃあ、あたしのことも斎ぴょんって呼んで良いよ』
い、いや・・・そうじゃなくて。
斎ちゃ~~~ん。
『じゃあ決まり♪まさぴょんよろしく~~』
決まっちゃったし。じゃあってどこから繋がってるのかわかんないし。
斎ちゃんが決めたら、何となく俺、はむかえないんですけど、何故でしょう。
・・・これ、何の罰ゲームですか?
『斉藤照れたんじゃねぇの?』
『俺まさぴょんになっちゃった・・・』ってメールしたら、松屋は俺にそう返してくれた。
照れなの?
斎ちゃん流の照れなの?
斎ちゃんってば・・・ツンデレなの?
それならそれで・・・何気に俺ドキドキしちゃいますけども。
『斉藤照れるようには見えね~けどな』
きっとメール返しながら松谷は爆笑してるに違いない。
俺には悩みが一つ増えた。
明日の卒業式予行練習。
斎ちゃんに「おはよ~まさぴょん」って、もし、言われたら・・・。
俺は・・・。
「おはよ~斎ぴょん」って返すべきなんでしょうか・・・。




