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88 揺るぎなき意志と悪意の終わり

 数日前から南のゴブリンが云々……と掲示板で見ていたので、そろそろ防衛戦が来そうですね。

 お、これが最高効率ですかね……これで錬成陣各種の最適化は完了ですか。問題は錬金部屋の大錬成陣をどうしたものか。考えるにも紙に写すのが面倒なサイズですね。

 後はダンテルさんやらに頼んで、錬金キットのように布にでもしてもらいましょうか? 自分が使うだけなら【魔力錬成陣】でも良いのですが、生産時間を考えると布にしてしまった方が楽なんですよね……。

 いや、布素材を考えると先に師匠に持ってって、師匠経由で作ってもらいましょうかね。広めるなら広めるで師匠に頼むわけですし。

 最適化が完了したのは合成、錬成、抽出選入、分解の錬成陣です。錬金キットにある4つですね。

 実はそれ以外の【魔石加工】や【属性操作】など、2次スキルで覚えるアーツ系は1次で覚えた【魔力錬成陣】が使用されるんです。こっちも弄れるんでしょうか。

 【魔力錬成陣】は物を選んでから展開位置を指定すると錬成陣が広がるので、そこに魔石やらを置きます。この錬成陣空中でも良いんですよ。不思議な事に置いた物も浮いてるんですよね。

 つまり、展開後に物を置かずに……文字をグリグリしてみましょう。……ふむ、できますね。問題は保存。1個変えて閉じ……お、編集保存と錬成陣更新があるので、保存で良いでしょう。つまり魔力紙は不要ですね。

 4個も弄れば大体慣れます。合わない文字をデコピンで吹き飛ばし、何個かある候補から別の文字を魔力で入れていきます。

 法則があるので、これはこれでパズルみたいで面白いですね。完成すれば錬成陣の効率が上がって消費魔力が減り、品質が上がるっぽい。そして生産時の魔力操作ミニゲームも難易度下がるようです。とてもやる価値あり。

 最大の問題は《古代神語学》の取得難易度が高すぎる。外なるもの以外にいるんでしょうか。少なくとも人間にはいないはずですね。

 まあ、メーガン師匠のところ行きますか。いや待てよ……ふむぅ……あれを4個ほど用意しまして。



 まず教会へ行きます。


「おはようございます」

「ごきげんよう、ソフィーさんはいますか?」

「お呼びいたしますか?」

「お願いしますね。メーガンさんのところへ行きたいのです」

「では少々お待ちください」


 少ししてソフィーさんがのそのそやって来ました。

 とても興味深いだろう良い物で釣って、ソフィーさんと師匠のお店に行きます。


「ししょー」

「お前さんかい。ソフィーまで来てなんだい」

「良い物くれるって言うから……」

「物で釣られたのかい……」


 まあ、ソフィーさん研究者みたいなものですからね……。


「とりあえず師匠。これをどうぞ」

「これは……錬成陣だね?」

「錬金キットの4種は最適化が終わったと思います。今は【魔力錬成陣】に手を付けているところです」

「本当に改良したのかい。とりあえずしばらく使って問題ないようなら広めるとするさね」

「布になったら私にも下さい」


 ソフィーさんも興味深そうですが、魔女は《調合》側なので使いませんね。

 これで私も布バージョンが手に入るので、本命は完了です。


「それで、一応2人に渡しておくのはこれです」

「「これは……」」

「私の粘液組織なので研究するのは構いませんが、取扱には細心の注意を」


 赤黒いドゥルっとしたあれを2瓶ずつ渡しておきます。

 この2人ならまず悪用はしないでしょう。


「これはまた……とんでもないね……」

「流石女神ステルーラ信仰の外なるもの……とても興味深い……」


 うん、予想通り喜んでくれたようですね。用事も済んだので解散です。

 お昼にしましょう。




 さて、ログインしまして……どうしましょうかね? 北は鉱石、北西が魔草、西が……紅茶、そして南がラーナの故郷ですか。

 《錬金》的には北と北西。嗜好品的には西。好奇心としては南ですね。

 よし、南のディナイト帝国目指しましょう。好奇心には勝てません。


 まずはインバムントへポータルで飛びます。

 続いて港まで歩きます。

 船でクエストがあるようですが、そんな事は気にせず……飛びます!


 海面3メートルぐらいで南に向かって直進。当然敵はガン無視です。それなりに距離があるらしいので速度マシマシですよ。

 安全飛行すると飛行モブに集られ、爆走するとFOX4して死ぬらしく、飛行突破は難易度が高いらしいですがさてさて?


 海上を飛ぶ……中々気持ちいいですね。リアルではまず体験できない生身での飛行。こういうちょっとしたところに、人外の良さがありますね。

 ハハハハ、その程度の速度では私には追いつけまい。


 ちょなんで正面で止まっ……oh……汚い花火だぜ……。

 ……次の私はもっとうまくやってくれる事でしょう。


 あ、復活云々の選択肢すら無く戻された。まあ、飛び散りましたからね。致し方なし。たぁんとお食べ。いや……溶けるように消えますか。《未知なる組織》が有効なので、食べたら食べたで死にそうですけど。

 肉塊から肉塊を分離させ、化身を生成します。

 よし、また行きましょう。リベンジです。あの速度ではまず避けれないのが分かりました。ましたが、避けれないなら避けて貰えば良いんですよ。


 マクロを少々弄りまして《解体》も外して……再び港から飛び立ちます。今度はかなり上空。地上から見えないぐらいまで行かないと、悲惨なことになりますから。

 そしてある程度進んだら《狂気を振りまくもの》を有効に。

 結果、大変愉快な事になります。


 まず、敵側が私を見たら状態異常判定。沈黙は効果ありませんが、肝心なのは他です。気絶したら落下。恐怖で逃亡。狂気で同士討ち。即死でポリゴン。

 そして視界内に入ったものを、マクロにより触手で叩き落とします。攻撃可能な敵を、触手の振り下ろしで攻撃……です。

 というわけで、私が避けられないなら、避けて貰えば良いじゃない。海は既に格下から同格です。状態異常の効きが良い。



 掲示板によると始まりの町から南でインバムント。そこから南に3エリア分の海を越えると、南の大陸の窓口であるポースムント。ポースムントから更に南、町3個越えると帝都に到着するようです。

 ポータルを開けてから観光しましょう。掲示板によると、海を越えると敵のレベルが下がるらしいですね。


 マップを見つつ、ディナイト帝国の帝都へと直行します。

 そして思ったのですが、私の視界では浮遊大陸とか見れませんね?

 私はとても悲しい……。


 お、無事到着。《狂気を振りまくもの》をオフにしてから地上へ降ります。北門の前ですね。いきなり町中には降りません。1回ぐらいはね? どうせ2回目からは転移になるんです。


「む? ん!?」

「ごきげんよう。異人です」

「……確かに。ようこそ、ディナイト帝国の帝都へ」


 冒険者カードを見せて中へ入ります。

 始まりの町より広く住人も多いですが、まだここまで来ているプレイヤーが少ないため、始まりの町よりマシな人口密度ですね。

 ディナイト帝国の帝都はなんと言ってもコロッセオでしょうか。ネアレンス王国ほど目新しくはありませんが、巡回の騎士達がパトロールしたりと雰囲気はありますね。道もかなり広く、大型馬車がすれ違っても余裕があるほど。

 帝国と言うだけあって軍事国家らしいですが、町は綺麗に整えられています。住人の比率が冒険者など、戦いを生業にしている人が多い気がしますね。少なくとも視界に入る中では武装してる人が多い。ただ、帝都周辺は始まりの町と同じく敵が弱いため、装備的に新人が多い気がしますね。

 まあ、まずはポータル開けましょう。



〈ディナイト帝国、帝都のポータルが開放されました〉

〈これにより、ディナイト帝国主要都市のポータルが開放されます〉

〈復活地点に設定できます。Yes/No〉



 拠点は勿論Noですが、うっわぁ……なんですかこの数。ディナイト帝国広すぎでは? いやでも領地だなんだと考えると……国といえばこのサイズにはなりますか。北の大陸が国にしてはあれ……大体のゲームだとあんなものな気がしますけど。

 まあ大きい分には良いですかね? どこ見に行きましょうかね。やはり気になるのは敵です。となると端っこの町でしょうか。


「……そこの君、ちょっと良いか?」


 おや、中央のポータルで転移先を考えていたら、何やら三人一組で巡回している騎士に警戒されていますね。

 さっさと冒険者カードを見せます。


「異人の冒険者ですよ」

「……ふむ、そのようだな。すまない。ゆっくりしていくと良い」


 再び巡回モードに戻りましたね。

 これ、巡回している騎士全員に捕まると考えると面倒ですね。話が騎士達に伝わるのにも多少時間かかりそうですし。

 そう言えば、便利な機能がアプデで追加されてたような……?


セーフティーエリア内自動無効機能

 スキルを設定しておくと、セーフティーエリアに入った際、自動的に設定スキルがオフになる。


 これですね。この際なので設定するべきでしょうか。

 《未知なる組織》は入れておくとして、《揺蕩う肉塊の球体スフィア・クレマス・ウェイヴィー》はどうしましょうか。毎回捕まるのは面倒、しかし目印になっているのもまた事実。

 おっと、また捕まりました。冒険者カードで解放して貰いますよ。

 教会行く場合だけオンにした方が楽ですかね……。設定しておきましょう。これでエフェクトが消えます。


 帝国は帝都を巡回させられるだけの人手があり、恐らく治安も良いのでしょう。これで悪かったら巡回騎士達の意味が無いですからね。

 とりあえずそうですね……端の町に飛んで冒険者組合に行ってみましょうか。



 町は……見える範囲だと特にこれと言った特徴はなさそうですね。

 えーっと組合は……あそこですか。早速依頼をチェックしてみましょう。



〈イベントエリアへ入りました〉

〈クエスト:『揺るぎなき意志と悪意の終わり』が発生しました〉



 えっ? え?


「そう言えば、リーゼロッテさんは?」

「んー? ……そういや見てないな」


 リーゼロッテさんは私も知りませんね。

 他にも冒険者達が組合にいますが、2人の男性冒険者の会話がログに残っている以上、これがクエスト関係の重要な会話なのでしょう。

 話してる片方の男性、レベルが50後半ですね。片手剣に盾のオーソドックスな武装で、長身かつ体格が良い。……顔はちょっと怖い。


「ま、あの人はS手前だから大丈夫だろ」

「それもそうかねえ?」

「どっかでいつものように人助けでもしてるんじゃないか」


 ……これでキーとなる会話が終わりっぽいですね。

 リーゼロッテ、冒険者ランクS手前、人助けが趣味? 最近姿を見ていない。

 会話から読み取れる情報はこれぐらいでしょうか。


 それはそうと、なぜ突然始まったのか。突発系か、知らないうちに条件をクリアしていたか。ここに来るのが初めてですから、恐らく前者だと思うのですが……。

 えっと、肝心のクエスト内容は…………んん? 【夢想の棺】に関連付けされて……これ後者だ! そして壮大なネタバレ!

 リーゼロッテさん既に死んでますよね? だって棺ですからね。遺体と装備入れるスキルですよ?

 今まで出番は【泡沫の輝き】で【夢想の棺】にしまった装備を使うぐらいでしたが、遺体が手に入れば【泡沫の人形】を使うことができますね。


 はて、次はどこに行けば良いのでしょう?


「たっ大変だ!」

「なんだどうした!」


 おや、進みましたか?


「あ、アズレトさん! り、リーゼロッテさんが……リーゼロッテさんが西門で暴れてる! このままじゃ死人が出る!」

「……は? あの人に限ってそりゃ無いだろ」

「でも実際暴れてるんだよ! 早く西門に!」

「見た方がはえーか……行くぞ!」


 50後半の人がアズレトという住人のようです。

 組合の中にいた冒険者達がバタバタと外に走っていきました。

 死体を見つけるのかと思いましたが、門のところで暴れているとは……どうも予想と違いますね。

 Sランク手前の時点で勝てる気がしないのですが、見に行かないという選択肢はありませんよね。出て行った冒険者達を追います。様子見も兼ねて徒歩で。

 ガッツリ戦闘音が聞こえますね……。


「……かよ……! どうしたってんだあんたが!」

「…………」


 リーゼロッテさん、想像とだいぶ違いますね。

 菫色のサイドテール、赤い瞳でつり気味、左目側に泣きぼくろがありチャーミングです。問題があるとすれば無表情な事でしょうか。

 そして何より……10歳ぐらいでは? そのぐらいの子が私と同じぐらいの長さがある両手斧をぶん回し、180センチほどのアズレトさんと戦っていますね。

 リーゼロッテさんの武器である両手斧は、素材不明な色合いでとても綺麗ですが……防具がボロボロで、白い生地にバッチリと血が付いていますね。


「くっそ……! 明らかに正気じゃないからまだなんとかなってはいるが……」

「リーゼの姉ちゃん! あんたは人を助けるために冒険者になったんだろ!」


 これは……種族か役職、はたまた両方か分かりませんが、リーゼロッテさんの状態を教えてくれてますね。既に正気云々な状況ではありませんか……。

 さて、どうしたものか。冒険者達が抑えられてるうちに対策を考えなければ。

 アズレトさんと門番だっただろう騎士2人が正面に立って対処しつつ、他の冒険者達がどうするか考え中ですか。


「…………」

「くそ! 普段よりは大振りだが力がやべえ! めちゃくちゃ強い!」

「これは洒落にならないな。流石リーゼロッテ嬢……っと!」

「C未満は近づくんじゃねえぞ! シスターはどうだ!?」

「教会行ってくる!」


 残念ながら、肉体は既に死んでいます。

 しかし魂が肉体から離れない。というよりは離れられない?


「リーゼロッテ嬢……もうダメなのか……?」


 元凶は呪い……ですかね。状態異常の呪いではなく、黒魔術的な意味の。恐らくかなり強力な呪いでしょう。その呪いが体の所有権を奪った? まあ、この辺りは魂を救出した後、冥府でゆっくり聞けば良いでしょう。

 最大の問題は、どうやって魂と呪いを切り離すか……。棺クエストである以上、装備や肉体は傷付けたくないですね。

 ただ困った事に、私より遥かに格上ということです。26レベ差はちょっと。


リーゼロッテ? Lv68

 幼い頃に儀式の生贄とされかけたが、儀式の途中で騎士達に助けられた。

 だが、間違いなく儀式は発動していた。

 儀式の呪いに蝕まれる中、それでも助けてくれた騎士達のように……。

 しかし――

 属性:? 弱点:? 耐性:?

 状態:意識不明・アンデッド・魂への呪縛


 白いけど輝きの弱い魂に、どす黒い呪い(・・)

 魂への干渉は禁忌のはずですが、まあだからと言って0になるわけではなく。騎士達に助けられた以上、術者は始末されているでしょうね。奈落にて言葉通りの地獄を見ているはずです。

 問題は目の前のリーゼロッテさんをどうしたものか。


「ちくしょうっ! いったい何があったってんだ! 優しい人だったんだぞ!」

「連れてきた!」

「正気じゃない様子で暴れてるとのことですが……これは……」


 シスターが来ましたが無理です。むしろ浄化はやめて下さい。今の状況では魂云々の前に体が消える。そもそもあの呪い……生半可な浄化は効かないでしょうね。

 クエストをクリアするだけなら浄化も選択肢としてはありですが、棺クエストと言う意味では失敗も良いところです。

 とりあえず、魂と呪いを切り離す必要がありますね。しかしそのためには魂に干渉できないといけません。普通なら無理ですが、幸い私の種族と役職なら干渉は可能。むしろ本職ですね。

 ついに《裁定の剣》《魂狩り》《ソウルチェイサー》などの出番ですか。少々応用的な使い方ですが……いけるでしょう。

 問題は対象が強すぎる事ですが……なんとかなりませんかね? まあ、おかげで方針は決まりましたし、味方の冒険者がいるうちにやるだけやってみましょうか。


「アーツか!? くそっ! 【シールドバッシュ】」

「…………」

「騎士様みたいに人を助ける人になるんだろ!」

「ううっ……」

「っ! リーゼロッテ嬢! 気を確かに!」


 おや、この状況で頭を抑えて苦しみ始めましたね。経過時間によるイベントでしょうか。


「リーゼの嬢ちゃん! いったいどうしたってんだあんたらしくない!」

「うぐっ……村を……滅ぼした奴らの……思惑通りになど……絶対に……! 私は今まで助けるために生きてきた! その私の体で暴れる事は絶対に許さない……! たとえ魂を失ったとしても私は……!」


 お? ここは間違いなく見せ場!

 戦闘になるでしょうから《揺蕩う肉塊の球体スフィア・クレマス・ウェイヴィー》を有効にします。《未知なる組織》はオフのままで。


「いいえ。死後、魂は救われなければなりません。そのために冥府があり、我々がいるのです。全力で貴女をお連れしましょう」

「な、なんだ?」

「まだ正面から彼女と殴り合う強さはありません。彼女の動きを止めて下さい。後はなんとかします」

「目隠しした黒髪で黒と白の……ネメセイア様!?」


 シスターは私のことを知っているようですね。南の大陸にも話は通っているようです。


「体から魂を抜き、魂から呪いを切り離します」

「魂を抜く!? そんな事をしたら……!」

「このままでは呪いに魂すら食われますよ? 体はもう死んでいて、魂の輝きもギリギリです」

「ネメセイア……か。リーゼの嬢ちゃんの魂は……救って貰えるのか?」

「私が体に触れることができれば」

「……分かった。手を貸そう。だから頼む……」

「ごめんなさい……なるべく、抑えてみせるから」


 お、意識浮上による弱体化イベントでしたか? それともそっちルートに入ったか……まあどっちにしても好都合ですね。


「シスター、呪いを浄化するため応援を呼んできて貰えますか?」

「は、はい! すぐに!」


 私とアズレトさん、そして騎士の2人を加えた4人で、さっきより明らかに動きが悪くなったリーゼロッテさんに突撃。

 正直時間が無さそうな気がするので、さっさと片付けます。

 盾やら武器やらで両手斧を地面に抑え、触手で体を拘束。そのまま肉体を傷付けない《裁定の剣》で、剣の腹部分を向け左から右へ振り抜きます。

 体は既に死んでいるので、魂はあっさりと剣に引っかかり引っ張り出されます。その際、魂に縋り付くように出てきた黒いものを左手で鷲掴みにし、引っ張りつつ今度は刃で繋がっている部分を叩き斬ります。

 魂も呪いも体から出た事で、地面に倒れましたね。遺体は無事確保です。

 黒いものがリーゼロッテさんの魂から離れた事も確認したので、とりあえず黒いものをめった切りにして……おっと、黒いものを人のいない方へ投げます。


 離れたところに投げた黒いものは空中で集まり、実体化します。


「なんだ……? あの見てて気分が悪いもんは……」

「呪いの力そのものですね。リーゼロッテさんとは分離済みです。もう何も躊躇う必要はありません。全力で叩きましょう」

「『おっしゃあ!』」


 手を出せずやきもきしていた冒険者達も鬱憤を晴らすように参戦。

 霊体系に部類されてるようで、攻撃すると削ぎ落とされるように縮んでいきます。


 そして、教会組がやって来て浄化の一斉射によって消し飛ばされました。

 勿論遺体は退避しておきましたよ。私の目的はこっちですからね!


『ありがとうございます。もはやお礼はできませんが……』

「そこはご心配無く。御遺体は私が貰っても?」

『私の体ですか……?』

「《死霊魔法》が使えまして、棺に使用させてもらえないかと」

『棺……ああ、聞いたことあります。優れた術者は棺にしまった遺体をベースに、具現化召喚が可能だとか?』

「その魔法です」

『……私は今まで、助けられる人は助けて来ました。私の体を悪いことに使用しないと、約束してくれますか?』

「ええ、ステルーラ様に誓って」

『でしたら、有効活用して下さい。そう言えば……その武器がお気に入りです』

「ん……分かりました」


 【夢想の棺】を召喚し、遺体に【洗浄クリーン】を使用してから大きな棺に寝かせます。すると服装が死に装束に切り替わりました。流石に着せ替える必要はありませんでしたね。着ていたボロボロの物はそれぞれの位置に置かれています。

 ちなみに体に傷はありませんでした。呪いが治したのでしょうか? まあ綺麗なのは良いことです。

 そして、リーゼロッテさんが使用していた両手斧を武器の場所に置くと、遺品と認識されました。


 遺品も埋葬品も、要するに遺体の強化アイテムかつ装備品です。ただ、遺品は生前愛用していた思い入れのある品。埋葬品は私が用意した装備ですね。

 ちなみに大きい棺は【泡沫の人形】専用です。小さい棺は【泡沫の輝き】で他の召喚体も使用できます。

 遺品と遺体はセットのようなので、ここで吟味するプレイヤーも出るでしょう。

 リーゼロッテさんは近接アタッカーのようなので、私としては丁度良いです。タンクは浮遊要塞がいますし、魔法アタッカーは私がいますので。


「さて、リーゼロッテさん。冥府でお会いしましょう。向こうで今回の件の説明を願います。皆さん気になっているでしょうが、純粋な魂は一般人には見えません」

『分かりました』


 魂を見送るとクエストが完了しました。良かった良かった。


「では話を聞いてくるので、気になる方は冒険者組合でお待ちを」

「分かった。感謝する……」

「教会の方々も助かりました」

「いえ、お役に立てたようで何よりです」


 銀の鍵で冥府へ。

 リーゼロッテさんはどうせまだ並んでいるでしょう。私も裁定者なので中にいれることは可能ですが……ラーナに引き渡すのもありですかね? 魂は白いので、問題なく冥府の住人です。

 あ、いましたね。


「リーゼロッテさん、冥府にも軍があるのですが興味ありませんか?」

「軍ですか?」

「南の大英雄スヴェトラーナが率いる軍ですよ」

「あ、あのスヴェトラーナですか!?」

「そうですよ。まあ、主な仕事は治安維持なのですが」


 軍にもラーナにも興味がありそうなので、お城まで連れて行くとしましょう。ちゃんと今日担当の閻魔に、リーゼロッテさんを連れて行く事を伝えておきます。どうせ門を通る際に会いますからね。


「ラーナ」

「おや、サイアー。そちらの方は?」

「リーゼロッテさんです。68レベまで行った猛者ですよ」

「お、お会いできて光栄です!」

「ディナイト帝国出身です」

「ほほう、さようでしたか」


 どうせ長い付き合いになるのですから、感激するのは後にして説明を聞きますよ。


「はい。今回の件は長くなるのですが――」


 暮らしていた辺境の村が襲われ、今の見た目年齢ぐらいの頃に攫われて儀式の生贄として使用された。

 儀式の途中で騎士達の助けが入り助かったが、間違いなく儀式は発動していた。

 儀式の呪いに蝕まれ、次第に薄れていく意識の中、それでも他の人のために冒険者として活動を続ける。

 ただ1つ。助けてくれた騎士達のように、他者を助けられる人でありたいがために、蝕む呪いを精神力で抑え込んでいた。

 しかし精神は擦り減り、隙が生まれて魔物に殺され一度倒れる。

 そこで呪いが完全に発動。破損した体が修復され、ただ視界に入ったものに襲いかかる殺戮人形へ。


 聞いたのを纏めた感じこうでしょう。

 呪いの解除は当然試みたそうですが失敗。まあ、魂に関連づいていましたからね。

 ちなみに実年齢はそこそこ行っているが、呪いのせいか成長が止まっているとか。


「そのようなことが。見事な精神力ですわね。歓迎しますわ」

「では任せますね。私は冒険者達に説明してくるので」

「あの、ありがとうございました。おかげで誰も殺さずに済みました」

「魂の救済こそが我々の役目ですからね。そしてこれからは貴女も」

「はい!」

「ああ、そうだ。では、最初のお仕事を伝えましょう。ラーナ。リーゼロッテさんと奈落へ行き、やらかした人物が全員いるか、分かるだけ確認するように」

「畏まりました。では早速」

「結果は宰相かうちの侍女に伝えておいて下さい」


 部下になった以上、今後さん付けはあれですか? リーゼかロッテですかね。

 まあ、ラーナがリーゼロッテさんを連れて奈落へ行ったので、私も地上へ戻りましょう。そして冒険者組合へ。


「お待たせしました。早速説明しましょう」

「よろしく頼む」


 先程聞いたことを纏めた事を説明します。


「……そうか。そう……か」

「以後冥府の軍にて、治安維持に努めてもらう予定です」

「元気にやってるなら良いか! そのうちまた会えるだろ」

「あなた達が悪さして奈落に落ちない限りは会えると思いますよ」


 冥府と奈落は基本的に行き来できませんからね。

 用事も済みましたし、クエストの確認……の前に【夢想の棺】を確認するべきですかね。

 空いてる席を陣取りまして、チェックします。


遺体レベル(生前レベル)

 駆け出し(英雄)

遺品レベル(生前レベル)

 駆け出し(伝説)

埋葬品レベル(生前レベル)

 破損(英雄)


 遺体レベル、遺品レベル、埋葬品レベルはアイテム評価と大体同じ? まあ、上げて行けば分かるでしょう。

 できる事は遺体の強化、遺品の強化、埋葬品の強化が可能と。遺品と埋葬品でわざわざ分かれているので、遺品の方が重要なのでしょうか。遺体>遺品>埋葬品が強化優先度ですかね。

 強化は……魔力が必要なようです。肝心の魔力は魔石または魔法生物を討伐のようですね。

 とりあえず、あのボロボロだった破損した防具が修繕できるようなので、直しましょう。


 ちなみにリーゼロッテさんは、肩の出るワンピースに、同じく肩の出るコルセットコートでした。前まではいかず、胸の下辺りで留められるようベルトが付いているタイプですね。得物が両手武器なので、ヒラヒラされすぎても邪魔なのでしょう。

 スカートは膝上ぐらいで、コートは長めです。コートの生地は厚めだったので、ジャンルは軽装になりますね。

 色は白と紺です。


 では早速オーブを使用してみましょう。

 えっと、棺を出して……その上で魔石を砕く。すみませんね。棺って割と大きくて。結構場所取るんですよ。

 オーブを使用すると割れて、漏れた魔力が棺に吸われていきます。


「何してるんだ?」

「リーゼロッテさんのおかげで使用できるようになった魔法の確認です。これ、効率悪いですね……魔法生物倒さないとダメですか」


 《死霊秘法》のAIレベル上げに使用した方が良さそうですね。

 魔力的に……とりあえず埋葬品を修繕すると駆け出しに。それから全部駆け出しから1個上げて……一人前になりました。

 生前が英雄級ということは、頑張った甲斐はあったんですかね。それに遺品なんて伝説級です。多分英雄より伝説の方が上でしょう。他の情報が無いとイマイチ有り難みが分かりません。

 とりあえず破損から駆け出し、駆け出しから一人前ですね。


 おや、リーナから通信が……。


『お姉ちゃん防衛戦始まるよ!』


 まじですか。

 既に格下でしょうから、試すには丁度良いですね。


【夢想の棺】クエスト『揺るぎなき意志と悪意の終わり』

発生条件

 【夢想の棺】を取得済みかつ、棺が空の状態で、ディナイト帝国辺境にある町の冒険者組合へ行く。


ある意味マルチエンディングクエスト。

1.ステルーラ様の立像のある教会へ誘導する。町中央のは不可。近づくにつれ弱くなり、着く頃に浄化され、魂はちゃんと冥府へ。遺体は消滅する。

2.会話イベントの弱体化後に真正面から殴り倒す。こちらも魂はちゃんと冥府へ。遺体は倒し方次第。時間経過でリーゼロッテの抵抗が弱まり、敵能力上昇。つまり戦闘難易度最高。

3.呪い特効系や、魂への干渉能力を持っていた場合。魂は冥府に行き、遺体も無傷で残る。

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― 新着の感想 ―
自身の粘液を配ったり、死にたて遺体を本人了承の元で頂戴したり………。言葉にするとなんかとてもシュール!
[気になる点] 姫様、ディナイト行くとき一回死んだけど、デスペナくらったんでしょうか?だとすると、デスペナのときにクエストやったということに・・・
感想一覧
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