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状態異常検証。
朝一はいつも通りストレッチに型稽古、軽い生産を済ませます。
そして、一旦ログアウトする前に放置していた拡張を済ませましょう。ポイント的に……常夜の城と城下町をⅡへ拡張して、更に異人のリスポーン地点を1個分上げましょうか。
まずはリスポーン地点へ行き、UIをポチポチします。
「おー?」
「お? ハリボテからこじんまりとした平屋になりましたね……」
丁度死に戻っていた人と探索。
平屋の玄関部分に賽銭箱があることを除けば、後は普通に家ですね……。
「逆に普通過ぎてコメントがし辛いですね……。まあ次行きましょう」
死に戻りしてた人とは別れ、今度は城下町へ。
城下町のメイン広場、そこにはタワーが建っています。とても大事な役割を持つタワー。常夜の城よりも大事と言えるのかもしれません。
タワーには入り口である門があり、不死者が門番として立っています。しかし、中がどうなっているのか。それは宰相すら知りません。勿論ネメセイアである私も。
「ん……」
「どうした? ……まさか」
「ああ、時が来たみたいだ」
「そう……か。寂しくなるな。また会おう!」
「いつか、また」
2人の青年の片方が、タワーに向かって歩いていきます。
「時が、来たみたいです」
「では、扉へ」
高さ4メートルほどの、素材不明な扉です。基本的には誰も開ける事はできません。唯一開けられるのが、『時が来た』人のみ。
青年が扉に触れると、ゆっくりと扉が開きます。中に見えるのは上へと登る階段。
「穏やかな眠りと、良き旅を」
「ありがとう」
青年は一度振り返り手を振って、中へ入って行きました。それと同時に扉が閉まります。
時が来た人しかそもそも開けられないので、門番である不死者達は見送りと確認、それと説明役ですね。
時が来た人が開けた時に便乗しようとする人はいません。どうなるか分からないからです。
なぜならこのタワーは……輪廻転生が行われる、星幽へと通じる門。
命の危機どころの話ではなく、魂の危機です。ふざけて試せる事ではありません。蘇生薬がある世界ですが、魂となると話は別ですからね。
魂の消滅こそが本当の死。転生すら許されない大罪を犯した者に与えられる神罰。それが魂滅。それこそが神の御業である《消去する灼熱の鎖》であり、ステルーラ様の許可が無い限り使用不可。完全にイベント絡みのスキルです。
まあつまり、彼は輪廻転生の時が来たという事ですね。それなりに見る光景です。中には家族で一緒に……なんて事もあります。
結局新しい魂がすぐに来るので、目に見えて人数が変わったりはしません。
それはそうと、城下町の強化を行います。改修作業と言った方が正しいかもしれませんね。ポチッとすると光が伝わり、綺麗になります。ひび割れていた壁やすり減っていた道などが綺麗になりましたね。
民間霊魂達に見送られ、今度は常夜の城の門の辺りでポチポチして改修。新築とはいきませんが、ボロボロというより歴史を感じる状態へ。
これでポイントが無くなったので、またしばらく放置ですね。
一旦ログアウトして、朝食諸々を済ませログイン。
「サイアー、お茶の木が育ちました」
「お、では早速見に行きましょう」
お茶の木を植えた離宮の裏にある畑へ向かいます。
「ようこそサイアー」
「葉が採れるようになりましたか」
「ええ、ただ……案の定変質していますが」
確認してみますと、しっかりばっちり変わっていますね。品種が違えば適切な環境が違うでしょうから、当たり前と言えば当たり前か。育っただけマシ?
植えたのはダージリン、ウバ、キーモンの三大紅茶とアッサムの木です。これらが変質して亜種みたいな状態になっていますが、目的は紅茶。つまり肝心なのは味と風味。こればかりは飲まないと分かりませんので、いざ収穫。
あれ、これ加工前の葉っぱじゃないですか。それはそれで困りますね。サバイバルの時にリーナが加工済みで入手していましたが、イベント仕様? もしくは何らかのスキルですか。《採取》系は妹も持っているでしょう。妹の持っていない生産スキルかつ、影響がありそうなものと言えば《料理》でしょう。
よし、加工済みが採れました。全ての木から加工済みの茶葉を採取し、試飲。気に入れば自分用。気に入らなければとりあえずエリー達行きですね。
紅茶をいれるプロ、侍女に茶葉を渡して後は任せます。ポイントで交換しておいた茶葉の方を何回かいれて貰っているので、大丈夫でしょう。
「品質としてはどうか分かりますか?」
「上々と言いたいところですが……変質したばかりなので、まだムラがあります。本来でしたらまだお出しできるような物ではありませんね」
「採れるようにはなったけど、落ち着くまではもう少しということですね?」
「そうなります。もう少しすれば魔力が安定するでしょう」
言われて見てみると、確かに木の中を流れる魔力に揺らぎがありますね。これが落ち着けば魔力が安定供給され、品質が落ち着くと言うことでしょう。
「それにしても、随分と多い魔力量だ。よもや霊樹になったか? ふーむ……一応宰相に報告しておくか」
「霊樹ですか?」
「保有魔力が他に比べ多い木ですね。杖として重宝されます。代表格はトレント」
動植物は少なからず魔力を持つ。木は何かと便利で様々な事に利用されるけど、その中でも魔力の多い霊樹を加工して杖にすることが多いと。
「正確には、霊樹の杖は高級品です。トレントとかは反撃してきますから」
「伐採に一苦労ですか。まあ、茶葉目的なので伐採はしませんけど。引き続き管理を任せますね」
「お任せを」
木は任せて運ばれてきた紅茶を試飲します。
「土地のマナ濃度が高いため霧散しづらいですが、活用するなら道具も魔力品を用意するべきですね」
「霊樹な以上、葉も魔力を持ちますか。資金はありますし、そろそろ手を出しますかね。まあまずは味です」
「右からダージリン、ウバ、キーモン、アッサムになります」
「どれどれ…………ん?」
ダージリンから味見していきますが……どれも変わっていますね。
「恐らくですが、この土地は太陽がないからかと」
「あー……常に月でしたね。おかげで魔力回復系の魔草は育ちが良かったですが、ここで障害が出ましたか。とは言え不味いわけではないので、品種が増えたと思えばこれはこれでありですかね」
香りは良好。色合いは薄く。味もさっぱり系に。
「全体的に香りが伸び、味が失われましたかね……。アッサムの利点である濃厚さが死んだ。逆にウバは生きましたか? ダージリンとキーモンも悪くありません」
アッサムが死亡。ウバの独特な香りがより強調。ダージリンとキーモンは悪くないけど、少々味の薄さが気になる……でしょうか。
ん~……ん? 全体的に渋みを感じませんね。となると……。
「蒸らす時間を少し伸ばしてみましょうか。全体的に渋みを感じないので、その分長く味を出してみましょう。これらの品種はその方が美味しいかもしれません」
「畏まりました」
ゲーム故、お腹がタポタポになる心配がないので、試飲し放題です。
最悪今の香りさえあれば、味部分は何かしらブレンドするなり、お菓子で工夫する方法も無くはありませんからね。どうにもならなそうならそうしましょう。
逆に外の品種にこれらの品種を使用し、フレーバーにするのもありですか。
再びやって来た紅茶を試飲。どうやら方向性は合っていたようですね。この品種をいれる時は全体的に遅めにしてもらいましょう。
「うん、これなら十分ですね。アッサムを除けば……」
「アッサムはこれでもダメですか」
「重厚感と言うか、軽くなってしまったんですよね。あの濃厚さを期待して飲むとダメですね」
一番良い変化だったのがウバ。続いてダージリンでキーモンの……アッサムですかね。後は魔力が落ち着いてどうなるかです。
とりあえず、エリー達を呼びましょう。そして来る前にバタバタと木の見える位置にセッティングします。
〈エリーザが訪問してきました〉
〈アビーが訪問してきました〉
〈レティが訪問してきました〉
〈ドリーが訪問してきました〉
メイドさんに案内されてやって来ました。
「来たわよ」
「おはようです!」
「ようこそ、我が居城へ!」
「今日の主役は木?」
「はい。茶木です。ぶっちゃけただの木」
セッティングしといてあれですが、見て面白くもなんともありませんね。葉っぱ毟って加工してるだけで、物はただの木ですから。
まあ、そんな事より試飲です。
「アッサムが残念です……」
「ウバ、ポイントで貰ったのより美味しいわ」
2人の評価も私と同じでした。
「キーモン欲しいです!」
「ダージリンかしら。ウバも少しだけ欲しいわね」
ただまあ、どれが欲しいかはまた別の話。こちらは完全に好みの問題ですからね。とりあえず試飲の残りを渡しておきます。いれ方はメイドさんに聞いて下さい。
エリー達に茶葉というお土産を渡し、見送ります。
さて、ラーナのところでも行きましょうか。
【水面の型】は平日に通って覚えました。後はどれだけ使いこなせるかです。
「ようこそサイアー。訓練ですか?」
「【水面の型】使いこなしたいですからね」
「お手伝いいたしましょう。近距離ですか? 遠距離ですか?」
「今日は遠距離で」
「ではそのように」
訓練場にいる遠距離の人に協力してもらいます。ラーナによると私の訓練に付き合うことも訓練になるようなので、遠慮なく付き合って貰います。まあ、そもそもNPCなのですが、それは言わないお約束ですかね。
【水面の型】は全てを受け流し反射して、水面のように元に戻る……のが由来だそうです。
型ですが、Exが上がっていくほど曖昧になっていくようですね。より自然体に近づいていくというべきでしょうか。全ての体勢から全ての行動へ無理なく移行できるよう最適化される。《古今無双》以外の型は知りませんが。
反射するには刀身を飛んできた物に当てるだけ。つまり《危険感知》により表示される赤いラインの場所に刀身をスタンバイさせておくだけです。
ただこれはあくまでも『反射するだけなら』ですけどね。反射した物を当てられるかはまた別の話です。隠しで反射命中率補正がある感じはしてますけどね。
それはそうと、1個1個スタンバイさせていたら、1対1しか対応できなくなってしまいます。そして何より優雅さが足りない。
ここまで来たらもはや目指すはジェ○イでしょう。近接・反射においてイメージするのはあれです。ダメージソースが魔法と触手という事に代わりはないでしょう。
あれをできるようになるために練習あるのみです。くるくるしましょうくるくる。
「やはりサイアーの戦闘スタイルは《古今無双》よりも、《感知》と《看破》が主軸ですね。これらを上げることで安定感が増すでしょう」
「そう……ですね。空間把握で全体を見つつの《危険感知》と《直感》なので」
「3次スキルで《未来予知》と《第六感》です。加護を戴いているサイアーでしたらもしくは……ふふふ、実に楽しみですわ」
ほほう? 3次は《未来予知》に《第六感》ですか。そしてステルーラ様の加護が影響あるかもしれないと? 関係あるとすれば時空と運命の顔でしょうね。
まあそれは置いときまして。さあ、楽しく訓練といきましょう。
お昼のあれこれを済ませてログイン。何しましょうかねー?
……迷ったらとりあえず町を歩きましょう。という事で始まりの町へ。
お、馬車が止まっていますね。
このゲームは基本的にはリアル寄りです。町の中を商人の馬車が走っていたり、お店の前に馬車が止まっていたりします。在庫切れがある流通システムなので、この辺りも凝っているようですよ。しばらくすると補充されてるらしいですからね。
おや、お掃除ですか。ご苦労さまです。
町の中央にあるステルーラ様の立像は、毎日シスターが【洗浄】で綺麗にしているようですよ。教会のお仕事と言うかボランティアと言うか。
ちなみに教会の立像と町中央の立像、実は違うものなんですよね。教会の礼拝堂にある立像は、4柱とも白い石素材のような物で作られています。それに比べ町の中央にあるステルーラ様の立像は、灰色の陶磁器のような見た目なのです。
恐らくと言うか、この世界だと確実に意味があるのでしょう。ステルーラ様の立像が単品で置かれているのはおかしいですからね。旧大神殿エリアの大神殿は、ステルーラ様の立像単品置きが原因だとか言ってました。では町中央のは?
ポータルとして機能している以上、ステルーラ様の『時空と運命』の顔に限定する事で、アンデッドホイホイを避けているのでは……とは思います。
色か、はたまた素材か、それともその他の製造法に違いがある場合もありますが。ルシアンナさんにでも聞けば教えてくれそうですが……まあ良いでしょう。流石に雑学過ぎますからね。
「いっっって! カメェェェッー!」
歩いていた男の人が小指をぶつけたようですね。……下をノシノシ歩いていた亀のプレイヤーに。
「ごめんて。許してちょ」
「いいですとも!」
「エクスデスなのかゴルベーザなのかはっきりしろ!」
「お、ちゃんと通じてた」
「でも俺はドラクエ派」
「なん……だと……?」
「ザワ……ザワ……」
「いや、混ざり過ぎだわ」
「ウハハハ。パワーをメテオに!」
「いいですとも!」
ノリが良いですね。
あ、フレンド登録して狩りに行った。意気投合してしまったようですね……。
しかし亀のプレイヤーですか。何だかんだ、たまに感知範囲に入りますね。タートル系は見た目通りタンク向けです。盾は装備できませんが《防御》系アーツが使えるんでしたか。まあ、自前のが背中にありますからね。
お、2対天使だ。40レベのパワーで翼が2対になるようですね。
こうして広場で見ているだけでも面白いものです。皆さん格好が案外違いますし、種族も沢山いますからね。本当に違う世界にいるようです。どこに狩りに行くかと、楽しそうに話していますね。
さて、私はどうしましょうか。やっぱり3次スキルを目指して狩りですかね。そろそろ戦闘一筋組は3次に入ってるのもいそうです。
私の場合、一番先に3次入るのは《高等魔法技能》ですかね。どう考えてもSP足りないんですよこれが。
《閃光魔法》と《暗黒魔法》は主力なのですぐに3次にしたいですね。《高等魔法技能》も主力と言えば主力なので上げないとですし。それと《危険感知》と《直感》もですね。《聖魔法》と《影魔法》はまだまだかかるでしょう。6個のパッシブスキルも2次を控えていますね。
んー……この辺りの種族スキルも欲しいですね。《狂気を振りまくもの》の使い勝手が悪すぎる。
お? そう言えば、人外系共通種族スキルではなく、本当の種族スキルが不死者から外なるものに変わっていますね。人外共通より種族限定の方がSP安いので、こっちから取りたいところです。
良いのあるじゃないですか。これ取りましょう。
《未知なる組織》
接触した対象にランダムで種族依存の状態異常を付与する。
状態異常付与:爛れ、腐蝕、萎縮/収縮、回復不能。
爛れは酸による攻撃系で発生する状態異常ですね。問題はそれ以外。ヘルプには無かったような……いや、確か……。
・ヘルプの状態異常が、全プレイヤーの進行度に応じて更新されます。
具体的にはその状態異常を受ける、またはその状態異常にするスキルの取得。
ちゃっかりアプデ内容に書かれてましたね。まあ、所詮ヘルプなので細かい仕様までは書かれないため、結局検証班のWikiを見ることになるでしょうけど。
とりあえず、取らないと内容は分からないわけですね。これを取れば周りを気にせず《魔素侵食》も上げられるはずなので、取るとしましょう。
人外共通スキルで1個1個取るよりマシなはずです。
〈〈ヘルプが更新されました〉〉
どれどれー?
爛れ
酸系統の付着により皮膚が爛れた状態。
原因に触れている間スリップダメージを受け、爛れた箇所が動かしづらくなる。
腐蝕
何らかの原因により侵蝕され、皮膚や金属が腐り落ちるとても危険な状態。
原因に触れている間スリップダメージを受け、同時に最大HPも低下する。
対象が生物の場合『出血』付与。対象が金属系の場合『錆び』付与。
萎縮
有機物系限定。何らかの原因で細胞が縮んだ状態。被弾部位によりペナルティ。
収縮
萎縮の無機物系限定バージョン。
回復不能
何らかの原因で、全ての回復効果が無効化されている状態。
錆び
錆びている箇所の防御力低下。
出血
体から血が失われている状態。
爛れと出血は元々ありました。爛れは確か毒薬の酸バージョン云々で公開されたはずですね。
ちなみに《狂気を振りまくもの》で付く恐怖と狂気はこんなです。
恐怖
相手に恐怖している状態。恐怖している相手に与えるダメージが減る。
狂気
狂っている状態。自動で近くの者を襲い始める。
《未知なる組織》の説明を見る限りとてもいい感じですが、肝心なのは仕様です。肝心な部分が書かれていないので、なんとも言えませんね。効果時間とかダメージ量とか!
検証が必要ですね。
「へい、姫様! どうせ君だろう? 君なんだろう? 是非検証しよう」
野生の調べスキーが現れた!
「なぜバレたし」
「ええ? 状態異常って言えば姫様でしょ? それに人外系だと姫様が一番探すの楽。目立つし、個人板見れば大体分かる」
「あ、はい。種族スキルにあったの見逃してたので取ったんですよ。検証しようかと思っていたので丁度良いですね」
「よしきた!」
町中だと自動回復で検証どころではないので、町の外に出て行います。結構付いてきてますが、検証なので見てても楽しくはないと思うんですけどね……。
「へいかもぉん!」
PvPである決闘機能を使用しての検証です。でないとレッドプレイヤーになってしまいますからね。
まず重要なのは発動条件ですね。調べスキーさんをペタペタして試します。
「ふむ……爛れは一緒だな。そして剣では発動しない。姫様の体に触れる必要があり、鎧、服、肌の順でかかりやすくなると。つまり粘液系の状態異常だな?」
状態異常を与えるスキルでも、数種類分類できます。
武器や鎧など、身に着けている物越しでも効果が出るオーラ系。
直接接触が必要な粘液系。具体的にはスライムなどがそうですね。
特定部位のみでの器官系。こちらは蛇の毒牙などです。
《未知なる組織》はスライムとかと同じ判定……っと。《闇のオーラ》のように武器では効果がないわけですね。つまりパリィでも状態異常は付かない。
しかし、現状そこは問題ではありません。重要なのは触手で状態異常が与えられるかを試すべきなのです。
「うおっ触手だと!? やばい達する達する!」
「『男エルフの触手プレイ!? 誰得だ!?』」
「待って、感覚無くなってきた。これはいかんよ。なんだ?」
調べスキーさんに見慣れないアイコンが付いてますね。
「ふぅむ……これが萎縮か。麻酔打たれた感じになってるな。萎縮発生時にダメージあり。継続ダメージは無し。ステータスの低下か? おっおっ? 待て待て待ていっぱい付いたああああ!」
おー……爛れ、腐蝕、萎縮が付きましたね。腐蝕が付いたことで出血もおまけ。爛れと萎縮の状態異常レベルが上がってく。
「この触手えっちじゃないよ! ガチやばいやつだよ!」
「まあ、クトゥルフ系の触手ですからね……」
「HPがゴリゴリ減るんじゃー! というか、これじゃ単体の性能が分からんな。確実なのは放置して全部付くとまじで死ねるな」
「ふむぅ……最大HPもゴリゴリ減ってますね。とりあえず解放して……お?」
「回復不能だと!? 10秒か……ん? この状況死ぬのでは? 深度がまずい。粘液系だから……【洗浄】か。とりあえずこれで悪化はしない」
状態異常チャンスは器官系<粘液系<オーラ系です。成功率は逆になります。蛇とかに噛みつかれるとほぼ確定らしいですね。しかも最初からレベル高い。
そして粘液系ですが、原因である粘液などを【洗浄】などで綺麗にしないと状態異常レベルが上がっていくようです。つまりこの世界のスライムは強い。
前者2つに比べオーラ系はなりづらいのですが、何分桁違いにチャンスが多いので、やっぱり強い。ただこれ、本来高位種族用なので高レベルスキルです。
よくある状態異常の蓄積値がありそうですね。
調べスキーさんは状態異常レベルの上昇を防ぐために【洗浄】を使用。
回復不能状態でも【洗浄】は問題なし……と。回復というより洗ってるだけですからね。【飲水】で洗っても効果あるらしいですが、【洗浄】の方が早いし楽。
「減りがエグかったわ……。【キュア】で腐蝕が取れれば最大HP減少状態も解除されるが、当然HPは減ったままか」
「ゲームだからまだしも、腐蝕とかリアルだと切断案件ですよね」
「頭とか胴体なったら絶望的だろうねぇ……」
その後ももう少し検証。
状態異常確率は爛れ>腐蝕>萎縮>回復不能っぽいですね。
「ふーむ? なんか判定3回ぐらいありそうだな……じゃないと確率が……」
「そんなにですか?」
「まず、状態異常が成功するかどうか。成功したら1個、どれが付くか。で、粘液系だから付着時にまたそれぞれ付くか判定してる……はず? 複合毒はこの挙動なのかな……。多分状態異常だけで見れば、一番強いのは粘液系」
「付着からの継続判定はエグいですね」
「スライムは魔法で消し飛ぶけど、取り付かれるとやばいからね。粘液系は《投石》系で唯一飛ばす事もできるけど、弾速遅いし、落下もするから難しいらしい」
「ああ、飛ばせるんですね」
「うん。何が言いたいかというと、触手ちゃんエグすぎない?」
「触手そのものの攻撃力が少々不満でしたが、この方向で伸ばしましょうか。感染経路としては最高では?」
「状態異常にする手段としては最高だろうね……。そう言えば、フィーラーカルキニオンも状態異常持たせたらかなり化けたとか言ってたな……」
「ああ、触手ヤドカリですか。手数ありますし、触手だと粘液系ですか」
「そ。まあ、姫様みたいに空間から突然出てこないけどね……」
「多分本体の触手です。ほら、皆さんも分裂しましょう?」
「無茶言いおるわ」
粘液は【洗浄】または【キュア】で剥がれます。【キュア】だと状態異常をどれか解除しつつ、状態異常の原因となっている物を剥がしてくれるので、中々便利。
むしろ【キュア】で原因が解除されないと、先に【洗浄】が必須になるのでかなり面倒な事に。
魔法で攻撃しながら、アサメイでパリィか反射しつつ、マクロによる触手で妨害と状態異常付与ですね。
状態異常確率を上げる《魔素侵食》と、《未知なる組織》の上げがいがあります。
「出血分を抜くとして……火傷、凍傷、爛れは同じダメージだけど、腐蝕の方が微妙に強いな」
「最大HP低下は腐蝕で受けたダメージ分がそのまま減るようだな。【キュア】で腐蝕が治ると解除されるが、腐蝕が時間で解除されるとHP低下は残ったままか」
「回復不能は回復系統の魔法を無効化。ポーションも無駄。【洗浄】は有効。【飲水】などで洗浄も可能か。呪い系の上位と見て良さそうだ。効果を上げて時間を短くしたバージョンだな」
検証班が2人増えました。
「なるほど、萎縮のステータス低下は部位系だな」
「つまり低下率はかなり高めだ。見た感じ萎縮自体の確率が低めだが、粘液系だから油断ならんな」
全ステータス低下の衰弱は、低下率が低めです。それに比べ、被弾箇所限定のステータス低下系は、低下率が高めなようですね。
私は状態異常にする側なので、実はそこまで詳しく知りませんでした。今回は丁度良いと言えば丁度良いですね。
「腐蝕を肉体系。萎縮と回復不能はその他でいいか?」
「「異議なし」」
あ、そう言えば……《活性細胞》に特殊系状態異常って単語がありましたね。
「調べスキーさん」
「なにかな?」
「特殊系状態異常という分類があるらしいですよ?」
「「「詳しく!」」」
「あいにく私も詳しく知りませんが、《活性細胞》というスキル効果に『被特殊系状態異常の効果を半減させる』というのがありましてね」
「検証、しよっか」
にっこり笑顔ですね。まあ、私も気になるので構いませんが。
「さてまずは……脱ごうか。はいローブ」
「あ、はい」
スキルの効果を検証するには素っ裸&所持スキルを控えが安定。とは言え、今回は状態異常系なので、スキルまで控える必要はありませんね。
《活性細胞》を有効にしたり無効にしたりしながら検証します。
「なるほどね。確かに特殊と言えば特殊か?」
「まあ、要するに行動阻害系だな?」
「あれ? そもそも、《下級の独立種族》に全状態異常無効ってあるはずなんですが、特殊系状態異常は効くんですね」
「「「…………実に興味深い」」」
「姫様今日の予定は?」
「特には。いつも通り狩り行こうかなぐらいなので」
「楽しい楽しい検証しましょ?」
「まあ、構いませんけどね。私も何を警戒すればいいか分かりますので」
「よし、呼ぼうか」
「「おう」」
検証班が更に増えた。というか、来るの早いですね。
「『姫様協力と聞いて』」
「とりあえず状態異常系を姫様に当てろ。通ったやつが特殊系の可能性大」
「『よしきた!』」
地味に防御系スキルが育ちますね。
「姫様まさか、《高位物理無効》持ってる?」
「魔法も持ってますよ。レベル低いですけど」
「軽減と無効で微妙にエフェクトちげーな?」
「近接攻撃した時の感じも違うね」
「『実に興味深い』」
敵のスキルは分からなくても、エフェクトである程度分かるんですかね。ゲージ減らないので、無効は一目瞭然ですけど。
「あ、そうだ。姫様、自分に萎縮試そうか」
「自分に効くんですかね?」
「粘液出せる? 出せるなら瓶に入れるとアイテムになるんだ。それ投擲すれば効果出るはず」
どうやら人外系の小銭稼ぎとして使われるようですね。調合しなくても自分が出せばいいので、状態異常系のアイテムは大体人外系が委託に流しているようです。
試してみましょうか。表面の状態を変えられる事は分かっているので、ヌチョヌチョ状態で出現させます。デロンとしてるのを瓶に採取……しないで触れてみれば良いのでは? まあ、アイテムになるかだけ見ますか。
とても粘り気の強い、赤黒く泡立つなにかが瓶に入っていきます。
[毒物] 破局なる生 レア:Le 品質:C
爛れ、腐蝕、萎縮/収縮、回復不能を付与する可能性がある粘度の高い液体。
外なるものの組織体で、地上にはない未知の成分で構成されている毒物である。
生物の肉体を蝕み、生命を破局へと誘う。
状態異常付与(投擲):爛れ、腐蝕、萎縮/収縮、回復不能 Lv1/5s
状態異常付与(内服):爛れ、腐蝕、萎縮/収縮、回復不能 Lv3
液体粘度:大
「暗殺イベントとかで出てくるレベルの毒では?」
「なにこれエグすぎて草」
「イベント専用アイテムレベルの性能よな」
「それに毒物ジャンルも初めて見たな」
付与する状態異常レベルが3未満だと[劇薬]で、3以上だと[毒薬]になるそう。
(投擲)が掛かった時、(内服)が飲んだ時の効果ですね。
液体粘度は小が水レベルだとか。
飲んだ場合が基本的に強いらしいですが、当然口を狙わないといけません。飲んだ場合は掛けた場合より成功率が跳ね上がり、【洗浄】が効果無くなり、【キュア】系または解毒を飲むの2択だそうです。
始まりの町の門を出たところなので、検証班の人にウルフが釣られて口に放り込まれました。
「うわ、全部のレベル3ついた……」
破局なる生が口に入ったウルフはのたうち回り続け、死体が溶けるように朽ちてポリゴンになりました。
「うわ、死体まで消えた。説明通りの演出か」
「まあ、ダメージ系のレベル3があんな付けば耐えられんわな。萎縮でステータスも下がるし。にしても、他の毒と微妙に仕様が違うな?」
検証班はスライムの人や、植物系のクレメンティアさんと検証した事もあるようです。この時に分かった事らしいですが、人外種が『自分の状態異常能力で敵を倒す』のと、『状態異常系アイテムで敵を倒す』のでは処理が違うようです。
状態異常系アイテムを使用して倒すとドロップ品の品質が下がる。お肉なんかは使用した状態異常がついてる事もあるとか。
それに比べ人外系能力はその辺りの劣化が無いらしい。ただし、自分が持っていない状態異常系アイテムを使用すると劣化する。
そのため、自分由来の毒素は除去が可能なため劣化しない……という認識をしているとか。
これが状態異常系アイテムに関する現状での前提知識。
では破局なる生ではどうなるか……というと。
《解体》が効かなくなり、ドロップ品が劣化する。しかし毒としての能力はとても高い。毒としての能力がとても高いからこそ、ドロップ品が尋常じゃないほど劣化する……と思っても良さそうですが。
実際私がウルフと触手で戦ってみると、通常通りでした。良かった。《狂気を振りまくもの》と共に控えの住人になるところでした。
「経験値だけが目的なら姫様の組織はありか?」
「我々が把握してる生産者が姫様だけだし、毒の能力的にも値段半端ないぞ?」
「その経験値もベースと《投石》系だけだ。実用性皆無ではないか?」
「ドロップがゴミのイベント戦で、どうしても突破できない時のお供は?」
「それならありだろうが、今の所情報は入ってないな」
「新人達なら東西南北のボスまだいるだろ。あいつらに多少楽できるんじゃね?」
なんていうか、うん。検証班ですね。
「この辺のデータは姫様固有なので、姫様に渡して破棄」
「残りは後で纏めてWikiに載せよう」
「『最高に有意義だった』」
それなりに時間を掛け、検証を終わりにします。
《活性細胞》はバインド系で発生する拘束、水にあたった時の濡れ、凍結、これらの効果時間。そして転倒時の防御低下率に影響があることが分かりました。
つまり現状分かる拘束・濡れ・凍結・転倒は、全状態異常無効で無効化されない特殊系状態異常として、枠組みが移動されました。
「欠損も特殊と言えば特殊か?」
「あれはそもそもなる種族が限られてるからなー」
「私もなりますよ」
「全状態異常無効の管轄外か。まあ、物理的に飛んでるもんな?」
「特殊系も結構物理的ですからね……」
「ノックバックやアンバランスも効いてるが、《活性細胞》が効果なしということで、その他のままで良いな」
「『異議なし』」
「《活性細胞》以外にそれ系があったら再び検証という事で」
「『おう』」
「じゃあ姫様お疲れ!」
「お疲れ様です」
「『またよろしく!』」
装備を戻してローブを返します。そして解散。中々有意義でした。
拘束系は注意しなければ。凍結があるなら、恐らく石化もそうでしょう。凍結があって石化が無いとは思えません。
注意しようにもバインド避けるのはほぼ無理なんですけどね……。とりあえず当たったとしても《活性細胞》で半減、エイボンの【アンチスペル】により更に減るので、実質半分以下の効果時間になっているようです。
安心安全を目指すなら耐性系スキルを取るしかなさそうですね。解放条件知りませんけど……。
さて、狩りでも……いやなんとも言えない時間ですね。
んー……夕食までリアルの体でも動かしましょうか。よし、そうしよう。
名前:アナスタシア・アトロポス・ネメセイア
種族:漂い膨張せしもの Lv42
化身:深淵の修道女 女
職業:女神の代行者 幽世の支配者
職名:聖職者 最高位裁定者
綱:外なるもの
目:下級の独立種族
科:ステルーラ
属:唯一の存在
種:漂い膨張せしもの
スキルポイント:117
スキル
攻撃
《細剣 Lv42》《本 Lv31》《蛇腹剣 Lv7》
防御・耐性
《服装 Lv52》
強化・補助
《古今無双・一刀流 Lv29》《高等魔法技能 Lv56》《窮極の魔術》
《危険感知 Lv52》《直感 Lv52》《舞踏 Lv54》
《地図製作 Lv5》《トラップ感知 Lv5》《トラップ解除 Lv3》
《筋力強化 Lv18》《体力強化 Lv13》《器用強化 Lv16》
《敏捷強化 Lv11》《知力強化 Lv17》《精神強化 Lv18》
生産
《料理人 Lv41》《錬金術 Lv49》《採集 Lv23》《採鉱 Lv40》
その他
《目利き Lv38》《解体 Lv32》《鑑定 Lv39》《識別》
《古代神語学 Lv100》《空間認識能力拡張 Lv48》
種族スキル
攻撃
《閃光魔法 Lv47》《聖魔法 Lv17》《空間魔法 Lv51》
《暗黒魔法 Lv48》《影魔法 Lv27》《死霊秘法 Lv49》
《狂気を振りまくもの Lv23》《未知なる組織 Lv3》
防御・耐性
《物理耐性 Lv58》《高位物理無効 Lv29》
《魔法耐性 Lv43》《高位魔法無効 Lv6》
強化・補助
《生気吸収 Lv46》《魔素侵食 Lv12》《ソウルチェイサー》
《野生の勘 Lv46》《弱肉強食 Lv46》《魔力最適化 Lv43》
《異形の神の幼生 Lv25》《再生特性 Lv22》《活性細胞》
《アンデッド統括 Lv53》《偉大なる術 Lv26》《外なるもの Lv45》
その他
《揺蕩う肉塊の球体 Lv17》《狂える無慈悲なもの Lv17》《化身生成》
《幽明眼》《裁定の剣》《魂狩り》《座標浮遊》《下級の独立種族》
《本体の招来》
神の御業
《消去する灼熱の鎖》
称号
一般
料理人:一人前の料理人に与えられる称号。
錬成師:一人前の錬成師に与えられる称号。
錬金術師の弟子:始まりの町のメーガンに弟子入りした。
優雅で静謐なお姫様:他者に与える印象がとても良くなり、警戒もされづらい。
特殊
ステルーラの加護:被光系、闇系魔法耐性。空間系魔法強化。空間系魔法経験値ボーナス。空間系魔法コスト軽減。
幽世の支配者:幽世の者達への命令権を持ち、デスペナ軽減。常夜の城がホームになり、幽世の拡張が可能。
The Silver Keyの所有者:空間や次元に関する様々な恩恵を受けられるだろう。銀の鍵装備可能。
Book of Eibonの完全解読者:超古代の魔導書を完全に解読した。エイボンの書が本来の力を発揮する。
古代剣術後継者:型の効果がフルスペックで発揮可能。
外なるもの:住人に対して絶大な効果を発揮するが、効果の内容は貴女の信仰対象次第。
記念
一人前の冒険者:組合ランクがCになった者に与えられる記念称号。自他ともに認める一人前の冒険者。しかし、頂は遥か遠く。
ベルステッド解放者:始まりの町の東を一番最初に解放した記念称号。
インバムント解放者:始まりの町の南を一番最初に解放した記念称号。
ダンジョン到達者:異人で一番最初にダンジョンに到着した記念称号。
古代言語学者:遥か昔に地上で忘れられた言語を知る者に与えられる記念称号。
女神との邂逅:女神と出会った者に与えられる記念称号。




