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68 フューチャーソフトウェア 3

 とある高層ビルの、広々としたフロアの……隣の一室。


「さて、今回のは中々好評だったと思うんだが」

「そうですね。参加人数も十分と言えますし、楽しそうでしたから」


 各担当リーダー達を集めての、情報の共有やすり合わせなどが定期的に行われる。

 今回は第二回公式イベントの反省会も含まれる。


「次のイベントは順調か?」

「イベントより次のアプデが問題ですかねぇ……」

「当日かなりバタバタするだろうからな。今のうちに用意しておけよー」


 9月後半ぐらいを予定している次の公式イベントより、9月1日に控えている大型メンテ――しかもハードウェアの方――が問題である。

 予想外の大企業から大規模支援の結果だ。


「しかし……なんであの企業から?」

「ジャンル違いすぎますよね」

「山本さん知ってますよね?」

「まあ、流石に知ってるが……俺もまだ口止めされてるんだよな。ああ、でもどうやら姫様経由っぽいぞ? 拝んどけ。贔屓はさせねぇけど」

「『は?』」


 姫様は高校生……と言う情報は知っているが、それだけだ。

 知らない者達はさっぱり繋がりが分からない。海外の有名過ぎる超大企業からだ。しかもゲームとはジャンルがだいぶ違う。

 まさか男優や女優などと言った、スター達の企業から来るとは思わないだろう。


「姫様の両親がお前達でも知ってるような有名人でなぁ……。母親の方が有名だな。父親が職業的にあまり露出しないし……雑誌か?」

「え、誰?」

「デザイナーと大女優のファーニヴァル家って言えば分かるか?」

「……え? まじで? 桜花様まじで?」

「まじまじ。そこの長女が姫様だと」

「母親似か……納得のAPP」

「APP言うな」


 APPとはステータスで外見を示す時などに使われたりする。Appearance(アピアランス)の頭を取ったものだ。


「あぁ! この企業桜花様のとこだ!」

「そういうこった」


 山本はリーダー達に簡単な経緯を話す。


「CMとかトレーラーに映ってた姫様を見た社長一家が、『あれ?』となり……このゲームを調べる。そこからまだ口止めされてる関係で言えないが、話が進んで」

「重要な部分!」

「まだダメ。良いこと思いついたから、支援する。お前達はそのまま突っ走ってくれだとさ」

「それで開発に最新機器導入?」

「そういうこったな。向こうが期待してるのはプログラムなどのシステム面だから、ゲーム自体に口は出してこない。そして向こうもゲーム作るわけじゃないから、こっちと潰し合う事もない」

「まあ私達からしたら、開発環境が最新型で埋まるから嬉しい限り?」

「そんな認識で構わん。だから切り替え準備も進めておけよ」


 変態技術者達の巣窟、FLFO開発陣のやる気を上げるにはどうしたら良いか。給料や休みは当然の事なので除外とする。

 答えは最新機器やソフトによる開発環境を用意し、好きに作らせる。そうするとどうなる? 斜め上に突っ走るか突き詰めるかのどっちかだ。

 自分の好きなことだからこその拘りは最強である。


「それで9月のイベントはどうなんだ?」

「元が運動会だけあって、作るの自体は楽ですが……問題はバランスですね」

「リアルと違って人間だけじゃないからねー」

「ああ、走る系で四脚と……綱引きとかでゴーレムか?」

「種族分けしようにも、人外系分けるほどいないのがあれですねぇ……」


 せっかくのファンタジー運動会なのに短距離だと妨害する前に終わってしまう。そのため短距離走はない。しかもスピードは大体敏捷で決まる。


「人類のみ、人外のみ、混合で分けるしかないか?」

「基本混合で、競技によって出れない種族……の方が楽ですかねぇ」

「チーム分けは結局どうするの?」

「システムに分けさせるけど、出る競技は個人で選んでもらう予定。勝負というより基本的に祭りかなぁ」

「種族で出れない競技もあるなら、そうするしかないか」

「順位に応じてベースと使用スキルに経験値を入れ、更に景品交換用ポイント。最後にチーム順位でベースと全スキルに経験値と、こっちもポイント……ですかね」


 話が脱線するのはいつもの事なので、絶賛修羅場真っ盛りでもない限り特に気にする者はいない。


「じゃあ10月のはどうだ?」

「ハロウィンですよね。建築班が城造りに勤しんでますよ」

「敵もちまちま作成中ですね」


 水面下でじわじわと次の次のイベントが進行中。


「ふぅむ。やっぱ今のところ、最大の問題は1日か」

「『ですねー』」


 その後もしばらく話してから、会議を終了。各自持ち場へ戻っていった。




「おわー!」


 広々としたフロアに、男の野太い声が響き渡る。

 のんびりしていたところを見事邪魔された山本である。役職柄、無視という選択肢が存在しない。


「なんだ、どうした」

「姫様がソフィーと接触した!」


 はて、ソフィーって誰だったか? と首を傾げる山本。

 流石の山本もいくら責任者とは言え、NPCの1体1体まで把握はしていない。


「ソルシエールの1人ですよ!」

「どれ……ああ、この子ね。はいはい」


 とは言えソフィーは重要NPCなため、見ればある程度は分かる。特にソフィーの見た目が見た目だから。

 完全に魔女っ子である。勿論狙って作られた。

 とは言えバグなどではないので、再び山本はくつろぎモードへ。


 運営がやり取りを見守ることしばらく、姫様にクエストが発生した。


「ですよねぇ……よりによってソフィーかー」

「この子だとなんか問題あるのか?」


 悟った顔で呟く人に、近くで聞いてた人が問いかける。


「いやー、問題どころか最高な相手だねぇ。蘇生薬ってソフィー以外にも複数から発生する可能性があるんだよ」

「んー……うん、この発生条件の書き方ならそうだろうな」

「その中でもソフィーが1番難しいんだわ。ソフィーはソルシエールの中でも天才の設定なの。具体的に言うとAIのベースが国王と同じ」

「まじか。人物AI最高じゃん」

「おう。でな、国王の行動原理は『国が第一』なわけだよ。国のために切り捨てる事も可能。でもソフィーは王じゃない。研究者アレンジされてるんだ。彼女の1番は『未知への探求』」


 ソフィー・リリーホワイトを釣るための餌……それは『未知の何か』だ。

 ではその『未知の何か』とはなんぞや?


 異人という外から来た者。地上に無い冥府の素材。冥府の王。


「つまり、姫様はソフィーにとって最高の餌なわけで。冥府の素材だけだと安定供給がされないと悟り、食いつきはいまいち。つまり冥府の不死者が冥府の素材を持っていくと食いつく。それが更にネメセイアの名を持つ姫様だったから……」

「……冥府の最高権力者と取引できれば確実ってか」

「だな。そして自分がいい素材を入手するためアドバイスもした。住人に採って貰えと。ソフィーは下手な小国の王より発言力のある伝説の魔女だ。お互いコネクションとして見ても損はない」

「ゲームとしてかなり重要な蘇生薬のレシピも手に入るしな……」

「しかも研究者気質なソフィーは、興味がない事はとことんスルーする。交流を持てる人物はかなり少ない。それだけでも住人ではステータス扱いだからな」


 他の誰も発生していなかったので、蘇生薬クエストがソフィーから姫様に発生。

 そしてもう一度言うが、ソフィーは天才の設定である。


「ソフィーと他でクエスト内容変わったりするのか?」

「する。クエストが面倒なほど発生が簡単で、クエストが簡単なほど発生が大変になってる。ソフィーは当然後者になるな」

「具体的にはどう変わるんだ?」

「んー……異人の死亡を何回か見せる。素材を集める。失敗してまた死亡を見せて、素材集めてのループになる。この回数が変わる」

「ああ、なるほどな。ソフィーは?」

「死亡を3回見せて、素材を集める。完成」

「3回だけで1発なのか」

「おう、天才だ。場合によっては製作に失敗して、また同じ素材持ってきて? もあり得るが、ソフィーにそれはない」


 つまりクエストが1番簡単な人物から、蘇生薬のクエストが発生したわけだ。

 クエストが簡単な分、ソフィーからクエストが発生する条件はかなり厳しかった。


「ソフィーの前に到着した大魔女の人でも、楽な方だったんだけどねぇ」


 AIがどう動くかは設定からある程度想定できるが、プレイヤーがどう動くかなど運営には分からない。

 とは言えこれで蘇生薬が完成するだろうから、理想通りと言えるタイミングだ。そのため運営としては、結果的に出回るならそれで良いか……と言う状態である。




 FLFOには住人達のAIを見ている者達が存在する。問題なく動いているか、妙な行動をしていないか、などの保守担当である。

 この人達はフューチャーソフトウェアの別の部署から出張してきている。社内で開発されているAIを、ゲームで使用しているわけだ。


 未来を看板に掲げる以上、社員達は新しいもの大好き集団である。『斜め上? 新しけりゃ方向は良いんだよ!』を地で行くやつらだ。

 本能の赴くままに、変態技術者共が妙なものばかり作り出すため、苦労するのは使い道を考える者達である。


 まあそれはともかく。


「なんか、外なるものが姫様誘導してるよな?」

「まあ、これぐらいしないと条件が厳しすぎるってのもあるが……これは……」

「寂しいから引きずり込もうとしてる……が正解か?」

「パラメータ見る限りそうなんだろうなぁ……」

「条件をクリアしていて気に入られた……と言うのが前提だがな」

「長らく新人? がいない状態だから、そういう行動を取ったようだな。止める必要もないだろう。スルーで良いよな?」

「AI的には良いと思うが、ゲーム的にはどうなんだろうな。山本さんに聞くか」


 ゲームの責任者である山本を呼び、パラメータなどを実際に見せつつ説明をする。


「ふぅん……やっぱりそう動いてたのか」

「やめさせるかい?」

「いや。ちゃんと用意している以上、バグじゃないから問題はないさ」


 MMOにおいて、プレイヤーは全員が主人公である。方向性や種類は問わず、全員が特別なのだ。

 セシルのPT以外にも、冒険者組合の依頼をせっせとこなしている者達は、冒険者からいつか英雄クラスになる……と。一目置かれている。

 生産者も、いつか凄いもん作るんじゃないかと、職人達から期待されている。


 ゲームなのだから、そういうものだろう。

 姫様は少し……いやだいぶ特殊な方向性に突っ走っているが、別に問題はない。開発陣の誰もが、こんな早く出番があるとは思わなかったが、ルート自体は作ってあるのだ。


「まあ、外なるものになっても本来の性能は発揮させるつもり無いからな。姫様のルートだと……本体ではなく化身として人型を作らせて、能力に制限かけて地上に降りるから気にしないで良い」

「じゃあこのまま見守る方向で」

「うむ。外なるものルート行くなら行くで、種族担当は楽しみにしてるぞ。複雑な特殊進化だから何が選ばれるか……とは言え、それは50からだけど。多分40進化はあれだろう」

「もう分かってるんです?」

「40はまだ前段階であんまないからな。服の見た目も変わるらしい。詳細は教えてくれんかったが、種族からしてあれしか無いだろうな……」

「じゃあ聞かずに楽しみにしておきましょうかね」


 オーブを《死霊秘法》に使用した場合の経験値指定ミスがあったため、姫様のなり得るルートの再確認をしているのだ。

 姫様を確認する数人と、他の特殊種族を確認する数人がいる。姫様だけで数人いる理由は、外なるものは進化が曲者だからだ。

 元の原型が消える種族すらあるので、大忙しである。今はゾンビから、ステルーラ信仰でなり得る種族の確認中。


 イベントのルールは勿論、イベントマップやイベントモブ、ポイント景品などを決め。更に2週間無いアプデの準備。そして確認作業などなどやること盛り沢山。




「じゃあ、今日はもう引き上げだ。早めに寝ろよー朝6時前集合だからな」

「『ういーす』」


 そして、9月1日(しゅらば)がやってくる。


「全員眠そうだな? まあ、どうせすぐ目が覚めるだろ……。6時になり次第鯖の終了処理を頼むぞ。すぐに電気屋が来る。一部以外は電気も落ちるからな!」


 山本が指示し、最初のうちはゆったりしてた社員達もバタバタ動き始める。体が起きてきたのだろう。


「ユグドラシル、メンテを始める。シャットダウン開始」

『音声認証……一致。顔認証……一致。指紋認証……一致。虹彩認証……一致。管理者を確認。終了処理を開始します』


 ちまちまと数日前から業者が出入りをし、できるところは既に終わっている。残りを今日の午前中に終わらせる予定だ。

 その間にその他を撤去し、新しいのが来るのを待つ。


「各自朝飯とか休憩取れよ?」

「コピー中とかは暇ができるので、その時ですかねぇ」

「山本さんでかいトラック来たで」

「お、荷物来たか?」


 大型トラック数台で来た荷物を運び込み、それぞれが作業しやすいように設置して行く。


「うおー! 最新型タブレット! 取説は?」

「箱に入ってんだろ?」

「ああ、これがそうか」


「……なあ、この脳缶みたいなやつなんだ?」

「脳缶って言うなや。取説は?」

「おぉ!? こんなのまで来たのか!」

「知っているのか!」

「これホログラム機器っしょ? モデリングで使えってことかな?」

「まじか。お、取説あった」


 ホログラム機器。独立させて使うものもあるが、これは周辺機器として繋ぐ必要のあるものだ。

 PCと繋いで3Dのホログラフィーを表示する。映っている物が、そのままゲーム内で表示される事になる。

 装備の確認をしたり、敵の動きを見たり……と、いちいちテスト鯖で見ることなく、映像を見ながら修正が可能になる。

 作業効率がかなり上がる事だろう。


「聞いてはいたが、またすげぇ鯖が来たもんだな……」

「元の鯖の何倍よこれ……」

「んー……単純に見て12倍ぐらいの性能か? 元のも悪いわけじゃないんだけどなぁ。まあ桁が違うんだから比べるだけあれだわな」


 電気屋の作業も終わり、しばらく様子見のために残る。


 早速コンセントに機器を繋ぎ始め、ニコニコ顔でセットアップを進めていく。

 山本もテストを兼ねて生放送を開始する。


「やあ皆! 偉い人だよ! あれ、比率が変だな……んー? ああ、こいつのせいか。……そうだな、よし。絶賛作業中だ。現時点での進捗は良好。アプデ情報は……お昼からにしようか」




 新しいサーバーの準備も整い、コピーの開始。


「1回で終わることを祈れ」

「元の方はどうするんです?」

「バックアップと、残りを速度のいらない処理に回す。お互い余裕のある状態にしたいからな」


 コピーを始めたら余計な操作どころか、近寄ることを禁止し、放置。担当者のみ、エラーを出してないかの定期確認を行う。


 他の場所でも開発環境の移行を行う。それによってやることがなくなるタイミングが出てくる。

 その間に食事や休憩、もしくはダンボールなどを片付ける。


「あー……アイス食いてぇな。山本さんアイス!」

「うるせぇ言い出したやつが数人連れて買ってこい」

「ダッツ買ってこよ」

「あれはダメな」

「えー!」

「あれ買ったら1人で収まらんだろが!」

「今何人いるんです?」

「えー……42……? いや、俺入れて43だな。あれ確か200後半だろ?」

「1万超えますねぇ……」

「1人で収めてこい。貰ってくるの忘れんなよ」

「へーい。アイス選びたいやつ行こうぜぇ」


 経費アイス。アイス1個でやる気出るなら安いもんである。まあ、安くないアイスもあるのだが。

 電気屋はモニタリングで問題がない事を確認し、アイスを食べてから引き上げていった。


「ポチッとな。どうだ、ユグドラシル」

『……問題ありません。快適です』

「鯖を変えた。前の鯖はそのままバックアップとして使う。問題があればそっちから持ってくるように。残りのスペースは速度のいらない処理に使ってくれ。では、問題がないか確認してくれ。フルテストで頼む」

『了解。フルテストを開始します』


 メインサーバーへお引越しした、FLFO統括AI、ユグドラシルが再起動。

 これからシステムに問題がないかのフルテストを行い、問題があるようなら前の鯖から必要なデータをコピーし直す。

 後はユグドラシルからアクションがあるまで、お任せだ。


「山本さん。ユグドラシルを再起動、フルテスト中です」

「そうか。予定より早いな?」

「予想以上にハードの性能がいいですからねぇ……。コピーが早い早い」

「良いことだな。後はテスト次第か」

「ですねー。その後、アプデのパッチを当てます」

「おう、任せた」


 各リーダー達から進捗を聞きつつ、生放送。問題が起きなければ進捗を聞くだけで暇な職種。

 夕方ぐらいで放送は止め、予定を組む。


 バタバタしつつも時間は過ぎ、夜になったら何人か残して仮眠だ。問題があったら担当者を起こすよう言っておく。勿論この時に担当者が誰かも教えておく。


 朝方に最終確認をして、開放。3陣の参戦だ。


 安定を確認できるまでしばらくは臨戦態勢を維持し、休みを別の日に回す。

 その予定をのんびり組み始める山本であった。


ここまでの掲示板や運営回で分かってるとは思いますが、運営は割と海外寄りのノリです。


紙幣には人物が書かれている。未来なので諭吉じゃないかもしれないが。

そもそも紙幣なのか? まあ、お札=1枚=1人。

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― 新着の感想 ―
どうも未来人です渋沢になりました
経費で落とすなら紙幣、というか現金が楽かなあ? そのうちNPC化しそうな主人公な姫さま。
[一言] 読み返していて気付いたんですが、ハロウィンイベント用にお城を作成していると書いてますね。でもハロウィンイベントにお城は出て来なかった。地方の一都市での出来事と云う位置づけのイベントだから。 …
感想一覧
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