115 森ダンジョン
主人公は丁寧で、フェアエレンは割と語尾を伸ばす。
クレメンティアは常識人で普通。新キャラは軽めでノリが良いボクっ娘。
ティル・ナ・ノーグから始まりの町・中央広場に帰還です。
「さて、思わぬ見学の終わり方をしましたが……どうしましょうかね」
「どーすっかねー?」
「ティル・ナ・ノーグ見学のお礼に、深淵ツアーどうでしょう」
「恩を仇で返すとな?」
「またまたご冗談を」
「こっちのセリフなんだよなぁ!」
拒否られてしまいました。
深淵は隔離されてはいますが、絶対に入場禁止というわけではないようです。しかし冥府や奈落は死後の世界なので、禁止なんですよね。
「お、やほやほー」
「出たな植物!」
「お久しぶりですね?」
クレメンティアさんじゃないですか。相変わらず何かに乗っていますね!
「下のこいつ、ゆるキャラ感あって地味に可愛いよね……」
「良いでしょー」
進化した事で下の子もレベルアップしていますね? 緑一色だった蕾が少し色付いて華やかになり、蔓が4本から6本に増えています。
確かドリアードでしたか。
「で、何してたの?」
「何しようかって話していたところですね」
「そーそー」
「私知ってる! そのまま寝る時間になるんだ!」
「それはそれでMMOの醍醐味なので……」
「「分かるー」」
のんびりフレンドと話していたらそのまま寝る時間……なんてのも、オンラインの醍醐味ですからね。
「3人で狩り行くかー!」
「構いませんが、どこへ?」
「……どうすっべ?」
私とフェアエレンさんとクレメンティアさんの3人PTですか。クレメンティアさんをメインタンクにして、私がサブですか。
「洞窟」
「やめたまえよ」
「フェアエレンさんは無理って言ってましたっけ。クレメンティアさんは平気なんですか? あそこストンプも頻繁に来ますが……」
「この子ストンプ耐性めちゃんこ高いんだよ」
この中ではクレメンティアさんだけ飛べませんからね。土のエレメンタルゴーレマンを考えて聞きましたが、その植物の不思議生物……ストンプに強いんですか。
「ふっ……行くのか? 洞窟に。死ぬぞ……私が!」
「ニヒルになに言ってんだ。……事実だろうけど」
「遺跡よりはマシなのでは?」
「あっちよりはなー」
「まあ私も? 火のエレメンタルゴーレマンに焼かれるんですけどね!」
「ダメじゃん」
洞窟ってレベルが低いので楽そうですが、4属性来るので結構辛いんですよね。特に人外系だと確実に弱点を突いてくる敵が出る事になるので、つらたん。天使と悪魔、不死者系は弱点が光や闇なので、平気なんですけど。
「西は?」
「私ら火属性持ちいなくねー?」
「いませんが、弱点は突かれませんね。クレメンティアさんの状態異常耐性は?」
「西のダンジョンで効くのは無いかな」
燃焼や火傷がかかりやすく、他よりDotダメージが多いそうですが、それ以外には割と耐性を持っている。まあ植物ですからね。どちらかと言えば私と同じ、状態異常にする側。
「複合派生系の妖精って耐性面辛いのよ……」
「まあ純粋に弱点増えるし、現状複合系魔法使ってくる敵は少ないからね?」
「雷無効で火と風に弱いんでしたっけ」
「雷が風と土の派生だから、風の弱点の火と土の弱点の風がどっちも弱点になる」
「植物がちょっと特殊なんだよね」
植物は水と土の派生ですが、打撃と火に弱く、水と土に強い。斧とか最悪です。
「そう言えばダンジョンの攻略状況はどうなんでしょう」
「そろそろ西のボスの討伐報告出るんじゃないかなー」
「北東は道中がゴリ押しできないからね。先に西かな」
北東の洞窟ダンジョンは属性が入り乱れている挙げ句に、ゴーレムビームとかありますからね。レベルは低めですが、ダンジョン自体の難易度は結構高いです。相手がゴーレムオンリーなので戦えば嫌でも音がでますし、それで集まってきます。
「西の森ダンジョン行くべー」
「そう言えばクレメンティアさんって移動は?」
「下のしまってビヤーキーかな」
いあいあするんですね!
クレメンティアさんは、星間の呼び笛を取り出しました。銀とメテオライトの合金で作れる笛ですね。ちなみにメテオライトは、星降る丘の湖の底で採取できるようです。
「あれ……もしかして、西のダンジョン近くの町開放してない」
「ほんまか工藤」
「姫様は遺跡が相性良すぎるからね。わざわざ西には行かないか」
「そうですね。遺跡以外ソロはちょっと……。あ、料理食べないと」
「「おっと」」
それぞれ料理を食べてバフを受けてから、一旦バラけて向かいます。
クレメンティアさんは門の外へ。フェアエレンさんは立像から最寄りの町へ飛び、北上してダンジョン入り口へ。
ちなみにフェアエレンさんがクレメンティアさんに、【防風魔法】と【耐寒魔法】をかけていました。ビヤーキーに上空を運ばれますからね。
私は立像から西のブレイユリッヒへ飛びまして、そこから亜空間へ。西の道沿いに移動します。
この町は小丘の頂上部分に壁で囲まれた場所のようです。
〈ティリヴェッタのポータルが開放されました〉
今回のメンテで追加されたオプション、『ポータル開放時の復活地点選択表示』を、オフにしたので開放メッセージだけになっていますね。ハウジングから移す事はほぼ無いと思うので、これで良いでしょう。
さて、北上してダンジョン入り口へ行きましょう。マップを見る感じフェアエレンさんはもう到着していますし、クレメンティアさんももうすぐ着きますね。亜空間じゃなくても上空直通はさすがに早いですか。
クレメンティアさんに少し遅れて到着。
……姿は見かけていましたが、初めましての方がいますね。
「お待たせしました」
「お、早い」
「姫様ーこの蛇も連れてっておけ-?」
「ドーモ、ヒメサマ。ヴァイパーです」
「ドーモ、ヴァイパー=サン。アナスタシアです」
「なんで忍殺してんだ……?」
「「ニンジャの礼儀だ。古事記にもそう書かれている」」
「NINJAに掠りもしてない奴らがなんか言ってるんだが」
姫&蛇。
ヴァイパーさんはたまに見かけていました。名前は知りませんでしたけどね? いやだって、10メートル級の蛇は嫌でも視界内入りますし。
本人によると11メートル11センチ。種族はなんとバジリスク。蛇なので索敵能力は高めですが、大蛇なので隠密性は低い。その分再生能力がそこそこでHPが多く、猛毒と石化の邪眼を持っている。
大きな蛇眼で瞳孔が黒の虹彩は赤。黒い光沢のある鱗に、光の反射で若干紫に見えるお腹。なかなか格好良い蛇ですね!
ちなみに……メス! 女性のプレイヤーですね。
この世界のバジリスクは中堅殺しの異名を持つらしいです。慣れてきた一人前と言われるCランクの壁だとか。
大きな体でHPが多く、放置すれば再生もして猛毒と邪眼を持ち、長期戦は大変不利。火力が足りないと倒しきれず、状態異常対策をしていないPTはジワジワと追い詰められていく。更に土系統の魔法も使用するようです。
何より問題なのが、こいつ進化が50レベなんです。基本的に厄介な能力を持っている上位種と呼ばれる存在は60レベからなので、そこも問題のようです。上位種との戦闘経験も乏しく、厄介な能力を持った相手との戦闘に慣れていない冒険者では、とても危険な相手とされているのが、このバジリスクだとか。
ちなみに鶏型のコカトリスもバジリスクと同じく中堅殺し。
サイズの関係もあり、中々町に入りづらいそうですよ。完全に蛇なので住人と話せませんし。
まあ、PTに誘いましょう。
「よろしくぅ」
「「よろぉ」」
「よろしくお願いしますね」
では行きましょうか、森のダンジョン!
ちなみにダンジョン入り口はかなりシンプル構造です。森の中にポツンと立像と地下への階段があるだけ。
とは言え立像のおかげでセーフティーエリアになっており、住人の冒険者達のキャンプ地にもなっているのでしょう。焚き火の跡など案外生活感があります。
ダンジョンに入ると……おお、幻想的な森ですね!
全体的に薄暗く、ホタルのような光が割と頻繁に見えます。
「これ明かり対策は?」
「明かりが必要なほどじゃないけど、森だから見通しは良くないね」
暗視がある私や……多分蛇のヴァイパーさんには関係ありませんが、フェアエレンさんとクレメンティアさんが特に対策をしてませんでしたからね。
「おっと、待ってね。食事済ませるから」
「「うい」」
「まあすぐ終わるんだけど。秘技……【念力】……丸呑み!」
「なんてこと!」
出したスープ皿を【念力】で浮かせ、そのまま流し込んでしまいました。
「なんたって蛇ですので……」
「蛇は元々丸呑みだからねー」
「そう言えばそうでしたね……」
咀嚼しませんし、手もありませんし、料理バフのために丸呑みですか。ちなみに蛇は腹持ちが良く、空腹ゲージが減りづらいそうです。
……料理バフを受けるために、結局は食べるんですけど。バフの効果は時間制限付きですからね!
「あ、クソザルどうする?」
「あー、このPTだとヴァイパー以外なら誰でも良くねー?」
ヴァイパーさんが言うのはノイジーモンキーでしたか。出るのは2層目から。
主に木の上におり、突然木の実とかを投げつけてくる敵です。要するに敵の遠距離物理タイプですね。問題なのは最初は静かな癖に、投げた物に当たるとキーキー笑うように鳴くため、煽られているように感じるようです。クソザル言われる所以。
「遠距離なら私が持っても構いませんが」
「んー……多分エレンの方が良いかな」
「そうー?」
「遊撃だし」
敵が遠距離と言えば私がジェダイをしても良いのですが、ヴァイパーさんはフェアエレンさんを推していますね。
理由としてはフェアエレンさんの移動速度が早く、森なので弾除けは沢山ある。
森の中のクレメンティアさんは猛威を振るうらしく、状態異常耐性も考えてメインとなる地上にしたい。
私に最初からタゲが来るなら私が対処しても良いけど、忘れてはいけないヴァイパーさんの11メートル11センチ。大体初撃はヴァイパーさんに当たる。
よって、フェアエレンさんが狩りに行った方が早い。
「姫様も魔法だけど、位置によっては木で射線通らない事あるから」
「ああ、PTだとそうなりますか」
「ボクがでかいから余計にね」
蛇のテヘペロを見せられるとは思いませんでした。片目閉じて蛇舌チロチロしてます。
かわ……かわ……んー……審議拒否。
とりあえずリジィだけ召喚しておきます。純粋な物理アタッカーですからね。このPTではヴァイパーさんしかいないので貴重。
ズルズルと進んでいくヴァイパーさんに付いていきます。
「そう言えばヴァイパーさん、石化の邪眼使いますか?」
「レベル上げたいし使うよ? 戦闘中に効果出るか知らんけど……」
「別判定な気がしますが、一応確認しますかね……」
凍結・石化・停滞。結果は同じですが属性が違うんですよ。氷・土・空間です。つまりヴァイパーさんは土で私は空間。判定が同じなのか一応確認だけしておきましょう。
戦闘中に効果出るかは……こちらも微妙ですが。
さて、第一村人ならぬ第一MOBは……47レベのスターダストバグ。背中が大変お綺麗なてんとう虫。そして大きい。人が乗れるぐらい大きい。始まりの町防衛戦で出てくるライドバグの上位でしょう。
まあ……人が乗るにはかなりバランス悪いらしいですけど、移動には使えるらしいですね。騎乗戦闘は無理。てんとう虫の形を考えればさもありなん。
なお、道中出る中で最高の物理防御力だとか。
「へいへいへい、テントウちゃん! よしきた!」
スターダストバグが突っ込んできたのを、ヴァイパーさんが受けるとともに巻き付いて動きを止めてくれました。
スターダストバグはヴァイパーさんが攻撃するには向かない高物理防御ですが、動きさえ止められるなら3人がピラーを重ねれば溶けます。PTならFFはありませんから、ヴァイパーさんごとピラー。
「……楽じゃん」
「ヴァイパー今のでよろしくー」
「絡め取るの結構難しいんだけど?」
「ガンバー!」
ヴァイパーさんが言うように楽でしたね。ヴァイパーさんが上手いこと突っ込んでくるのに合わせられたからですけど。
フェアエレンさんとの会話には混ざらないでおきましょう、頑張ってください。
ちなみにフェアエレンさんと一緒に浮いておきます。ヴァイパーさんが大きいですからね。ぶっちゃけた話、場合によっては押し潰されそうなので。
リジィは敏捷が高いので避ける事ができますし、ヴァイパーさんはクレメンティアさんだけ気にすれば良いわけですね。
「クソキノコだ!」
「うわぁ……」
ヴァイパーさんが嫌そうな声を出していますが、やって来たのはパライズマタンゴですね。60センチぐらいで黄色い傘を持ち、小さい足で走り回ります。こいつが敏捷型のようで、ちょろちょろ走り回りながら胞子をばら撒き体当たりをしてくる敵です。
結構な速度で私達の周囲を走り回るため、イラッとするようですね。かと言って放置すると麻痺して体当たりでボコボコにされますし。
ついでに言うと集団で来ます。今回は4体いますね……。
「ねぇ今どんな気持ち? ヴァイパー今どんな気持ち?」
「虚無ぞ」
ヴァイパーさんの体にペチペチとパライズマタンゴがぶつかっていますが、本人は不動。赤ちゃんにテシテシされてる犬みたいになってますね……。
通称ねぇ今どんな気持ちキノコ。
「ヴァイパーとは相性悪いよねー」
「たまに口の方に突っ込んでくるアホがいるけど、それぐらいしかむっり」
「私と姫様にはそこまで脅威じゃないけどね」
クレメンティアさんと私は麻痺が効きませんから、時間かけてもそこまで問題になりません。麻痺と動きが厄介なだけで、攻撃力自体は低いんですよね。
他の敵が来ると大変厄介な事になるので、基本的にはさっさと倒すのがセオリーではありますが。
突っ込んでくるキノコをパリィするだけでは、本体が柔らかく小さくて軽いせいか、ダメージが入りませんね。
木にぶつかるように弾いても、その木を蹴って突っ込んでくるとか……キノコの癖にちょっと格好良いことしてきます。
しかも体当たりは風切り音がする程度には速い。
「んー……面倒ですね」
「ヴァイパーの近くにウォール出すのが楽ぞー」
勝手に突っ込んでくれるのを期待して出す方が楽ですか。
このメンバーはヘイト稼ぎのタンクがいませんからね……。《君臨するもの》で私にタゲが飛びやすくはありますが。
「クレメンティアさん、叩き落としたら任せて良いですか?」
「おっけ」
虚無ってるヴァイパーさんの壁になるようにウォールを出して、突っ込んできたキノコをウォール側に弾きます。無理そうなら地面に叩き落とし、クレメンティアさんにお任せ。
真下にはたき落とせばまあ、ダメージは入るようですね。やはり最強は地面。
「来たな愚か者めが! ゴチになります!」
……パライズマタンゴが1体、ヴァイパーさんに丸呑みされましたね。
1体は食われて、2体がウォール行き、1体はクレメンティアさんが処理と。
1体は取り込ませて貰いつつ、マタンゴからのドロップはピリマッシュ。
ちなみにこのキノコ、大変良い出汁が出るらしいですよ。麻痺持ちなので処理が必要ですが。
仕留め方で確定高品質ドロップが可能なようですが、傘の根本の部分を横に切り離す必要があるそうで、このPTでは無理ですね。
「どうせなら最初の段階で食えれば楽なんだけど」
「大蛇の口は強いよなー」
このゲーム、基本的に丸呑みは即死ですからね……。今のところ食われて無事パターンは無かったはずです。体の大きく、丸呑みが大前提の蛇は強いわけですね。
まあ、ヴァイパーさんは丸呑みを主体にしたビルドでは無いですけど。バジリスクは状態異常でジワジワいくタイプですから。
「丸呑み主体なら麻痺毒だよねー」
「エレンには期待してる」
「死にかけで麻痺るんでしょ知ってるかんなー!」
「あるある」
雷系は麻痺が副効果にありますからね。フェアエレンさんの攻撃で麻痺れば、そのままヴァイパーさんが丸呑みして終わりです。死にかけで麻痺ると……うん。
「そもそもここの敵に麻痺効くんですか?」
「虫もマタンゴも麻痺はね……」
「HAHAHAHA!」
一応動物系も出てくるので、それぐらいですか。
「ところで、何層まで行く?」
「全員のレベル的に最下層行けるんじゃねー?」
「ハウンド来たらさすがに死ぬよ?」
「私は初見なのでお任せで」
1層が46~49。2層が48~52。3層が50~54。4層が52~56。5層が54~58。
私達は全員50超えているので、最低3層からですね。
「問題は巡回ハウンドだよねー」
「階層の最大レベル固定だからね。というか、ボクが末端から食われる」
「んー……ハウンド考えると4層までかな?」
「8体か。行けるかー?」
「最悪ボクが食われてる間に片付けてもろて」
「じゃあ4層までさくさく行くべ」
巡回のハウンド……要するに遺跡にいる抹殺型のような敵ですね。
この森のダンジョンでは1層が49レベ、ブラッディハウンドの2体。以降2体ずつ増えて行き、5層目は10体の群れのようです。
更に階層の最大レベル固定で出るので、2層は52レベ。つまりブラッディハウンドからバンパイアハウンドに進化し、4体が固まって動いている……と。
「ハウンドはタゲ取って空は無理なんですね?」
「あいつら木を登るんよなー」
高度限界が結構低いらしく、木を使って飛んでくるようですね。最初から話題に出てこない時点で、そんな気はしました。
ついでにここでの【索敵魔法】も無しだそうです。ハウンドが感知して全力ダッシュしてくるようですよ。ゲームでよくある詠唱反応ならぬ、魔力反応でしょうね。
「別PTの【索敵魔法】に重ねるとどうなるんです?」
「近い方に行くっぽい」
「逆探知できれば……いや、無理ですか」
「ハウンドの位置が先に分かってればできるけどねー」
別PTが【索敵魔法】を使えばそちらへハウンドが向かうので、【索敵魔法】を逆探知して別PTの位置が分かれば、こっちが【索敵魔法】を使用して狩り効率を……と思いましたがダメですね。
逆探知は別PTの位置が分かるだけでハウンドの位置は分かりません。ハウンドの位置が分かるのはこっちが【索敵魔法】を使用したタイミングなので、ハウンドの位置次第ではこっちに来てしまう。
「一回遭遇して問題無さそうならバンバン使って良いんだけどね」
「このメンバーだとどうだろなー」
「まあとりあえず4層だべよ」
そうですね。まずは4層目指してさくさく進みましょう。
「おや、チャーミングモスがいますね」
「うげ、どこ?」
「私から8時方向の木の裏ですね」
「よし、放置で」
チャーミングモスは魅了。
羽を広げて止まっており、羽による魅了付与ですね。木で羽を広げている間だけのようですが、できれば視界に入れたくない敵です。
私には関係ありませんが。
「いや、姫様なら封殺できるくね。【並列詠唱】でマインとピラーかなー?」
「えっと【並列詠唱】のルールは……【Wa'zi Lia Persepho Ke=ra】」
チャーミングモスの後頭部辺りにマインを出して、ピラーを置く……と。
ピラーに炙られた事でアクティブ化し、飛び立とうとしたモスが後頭部にあるマインに直撃。旧き鍵の書の効果で出たマインも誘爆し、そのまま残りをピラーに炙られさよなら。
「いや経験値入って来て草」
「これは酷い」
「よし、モスは姫様に任せようなー!」
「「そうしよう」」
モスはHPが低いようですから、問題なく確殺できそうですね。まあ、レベル的に1層と2層にしか出ないのですが。
マインとピラーなら魔眼のおかげで認識範囲に置けるので、こういう場合はとても強いですね。
問題があるとすれば……ドロップを拾いに結局行かないとダメな事でしょうか。回収とスキルを外すのどっちが楽ですかね……。
現状は4層を目指しているので、進行方向にいないモスは放置ということに。
モスは取り込んでしまいます。
「階段が見えますね」
「2層目行くべ」
何回かマタンゴの襲撃を受けましたが、それだけでしたね。モスは認識範囲に入っていましたがスルーしました。なんという遭遇率の低さ。
ソードディアやサクリファイスツリーを見ませんでしたね……。
森自体の見た目は2層目も変わらないようですが、1層よりも広くなっているようです。
住人からすれば下層に行くほど食料や水などが必要になり、万が一の時に救援も期待できない。更にこのダンジョンは敵の種類も多く難易度は高い方……と。
しかしここは森のダンジョン。薬草やら木材が手に入るので、需要は高いとか。洞窟の方だと各種属性耐性装備が必要になったりで、こっちの方がまだ楽?ぐらいの扱いっぽいですよ。
住人は大変ですね。
「次の階段は……あっちか」
私は初見なのでミニマップがさっぱりですが、他は結構来ているようなので下層へ最短ルートで進むことができます。
遺跡ダンジョンなら私が案内できるんですけどね。
「お、月光花じゃん。採らねばならぬー」
50レベ帯であるギガMPポーションの素材ですね。ちなみにHPの方は陽光花。さらについに出てきたマンドレイクが必要です。そう、叫ぶあれ。
「あ、マンドレイクは私が採るからね」
「よっろ」
ただ、植物系であるクレメンティアさん。彼女だと叫ばないようです。新たな種族特性が発覚した模様。
マンドレイクが叫んだとしても私には影響ありませんが、クレメンティアさん含めた他の人に影響はでます。更にダンジョンなので敵も来る。
クレメンティアさんだと叫びすらしないので、最初から担当にしてしまった方が良いという事ですね。
「おっと、マンドレイクあるじゃん」
「姫様マンドレイク見たことあるー?」
「いえ、まだありませんね。ハウジング栽培もしていませんし」
「じゃあこれね」
クレメンティアさんの蔓によって気軽に引っこ抜かれたマンドレイクを渡されました。
とりあえず鑑定だけして、PTの臨時インベに放り込みます。PT解散時に分けますので。
[素材] マンドレイク レア:Ra 品質:C+
引き抜くと叫ぶ、扱い注意な魔草。
大変効能が強く、効果の高い魔法薬に重宝する。
マンドレイクの叫びを聞いた者は気力が減り、気が弱い者は気絶する。
検証の結果は気力(MP)が減り、気が弱い者(精神判定)は気絶するらしいです。魔力が抜ける事でだるく感じるらしく、やる気が減るから気力って言い回しなのでしょう。
住人で精神が高いのは聖職者ぐらいなので、基本的にマンドレイクは気絶するという認識だとか。
おっと、敵が来てますね。
「振動的に……兎かな?」
「ウォーラビットの50が来てますね」
そう言えばクレメンティアさんの索敵は特殊でしたね。空には無力ですが、地上の生物にはめっぽう強かったはずです。
「あの兎絶対に進化先が殺人ウサギだと思うんですよ」
「分かるー。確実にボーパルバニーになるよねー」
「ウィザードリィでしたっけ?」
「「そうそう」」
ウィザードリィから更に遡る事ができるようですけどね。映画や鏡の国のアリスとか。
簡単に言ってしまえば、主に首を狙ってくる兎です。そしてこのゲームの首は強制クリティカルが発生する部位です。殺意が高いですね。
「あの兎は絶対特殊効果持ってるって検証班の結論出てたよね?」
「出てたよー。私には関係無いけどなー!」
特殊能力を持っていようがなかろうが、フェアエレンさんは当たったら即死するので、関係ないというわけですね!
ん、来ましたね。
ウォーラビット。80とか90センチほどあり、両手斧を持っている兎。
「あ、ごめん姫様。タゲよろしく!」
「ん、構いませんが」
ではやってくる兎さんのタゲを取りますか。
「……さぞもふもふなんでしょうね」
「テイムや召喚は結構ありだと思うぞー」
「「普通に強い」」
……取り込ませてもらいましょうか。
目の前にいるのは野生なので少々汚れていますが、綺麗にすればもふもふしていそうな見た目ですよ。
おや、ヴァイパーさんが魔眼使っていますね。こちらも停滞を重ねますか。……アイコンが2個並んだので別判定ですね。あと気になるのは、何度か状態異常にした後の耐性も別判定かどうかですが……無理ですかね。先に敵が死ぬでしょうから。
大変つぶらな瞳をしていますが、そのつぶらな瞳は私の腰近くにあります。
ジャンプと同時に私の首を狙って振ってきた両手斧を、跳ね上げます。空中にいる兎さんの横っ腹にリジィの両手斧が直撃し、吹っ飛んでいきました。
吹っ飛んだ先にランスで追撃します。
「蛇も一応首の判定あるから、ちょっとね……」
「あるんですね?」
「人とかに比べればかなり判定小さいけど、一応あるのよ。あいつはそこを的確に狙ってくるんだ……」
両腕に加えて蔓もあるクレメンティアさんでも良いですが、ウォーラビットの相手をするには私が一番安全というわけですか。
私は首を斬られてもクリティカルしませんし、首飛んだところで即死にはなりませんからね。視界に影響も出ませんし、5秒で生えます。
「さすが兎さん。結構な敏捷です……ね!」
両手斧を担いで勇ましく3本足で走ってきた兎さんは、再び首を狙ってきたので同じように上に弾き、リジィにぶっ飛ばされました。今度は私の他にもフェアエレンさんや、クレメンティアさんによる魔法の追撃でサヨナラ。
「こいつクリティカルダメージおかしいんよ」
「私には関係無いもんねー!」
「「せやな……」」
首にあたっても強制クリティカルなだけで、HPが残るなら生きます。しかしウォーラビットの攻撃は何か特殊効果でも持っているのか……というレベルで、耐えられないようです。
おっと、許可を取って取り込ませて貰いましょう。
サイズ判定はギリギリ極小なので、ウルフと同じコストですね。カスタムせずに武器を装備できるのは利点ですね。
「兎の頭蓋骨って結構怖くなかったっけ……」
「あの口の部分がなんともねー」
まあ、愛くるしさは皆無ですね。
実際に使うのは【術式最適化】の方なので、兎さん用のテンプレートを弄らないとですね。
ステータスも考えると……骨格をウォーラビット、素材はアーマーで、外殼はとりあえず1で、格は現状の最大レベルで、サイズはデフォで良いでしょう。
斧は……リジィの投擲用である、トマホークしかありませんか。今は両手剣で代用しましょう。
「ふぅむ……格好良いのではないでしょうか」
「ごっつくて草」
「兎とは」
「フル武装じゃん……怖いわぁー」
現れたのはキュルンとした赤いつぶらな瞳ともふもふの白い毛……な訳がなく。
黒い虚空の中に赤く輝く光に、つや消しのされた金属の体、長身で鈍く輝く剣。
アーマーの兎さんバージョンです。
「武器は色的にミスリルかー」
「リジィの斧は専用ですし、新調しなきゃですかね……」
「50はメテオライトだっけー?」
「確かね」
私以外武器持ちませんから、その辺り曖昧ですね。
メテオライトは……掲示板によると武具には向かないって書いてありますね。量を集めるのも大変なようです。
「オホホホ、ボクら使わんしな」
「それなー」
……武器は己の体さ!
「フェアエレンさ……」
「へあっ!?」
「フェアトラマンが死んだ!」
「ウキーッ! キーキッキー! ウキャー!」
「クソザルぅ!」
ノイジーモンキーからの不意打ち投擲がフェアエレンさんに直撃。ちょっと気づくの遅くて間に合いませんでしたね。
ノイジーモンキーはノンアク状態だととても静かですが、先制攻撃後やアクティブ時はとてもうるさい敵です。
あれ、このメンバー【リザレクション】私だけですか。
「蘇生しますね」
「よろー」
「【フロンスバインド】」
クレメンティアさんのバインドによって、ノイジーモンキーの乗っている枝が変化し、絡みつきました。
バインドの出現から拘束まで随分と早かったですね。植物系が《木魔法》を森で使うとああなるわけですか。
騒いでるモンキーにヴァイパーさんがズリズリと接近しているのを確認しつつ、蘇生します。
「【リザレクション】」
「ウキャー!」
「うるせー! 俺の名前を言ってみろー!」
「なんでそこでジャギなんだ? 【フロンスピラー】」
あ、リジィに投擲された斧がモンキーに突き刺さってますね。
緑色のピラーに包まれているモンキーにヴァイパーさんが辿り着き、尻尾の方で絡みつきながら地面に落とし、そのまま巻き付きました。
「フハハハ! 今だ! ボクごとやれ!」
「なんかちがくねー? いや殺るけどもさー」
悲壮感が皆無な挙げ句に、笑い方が偉そう過ぎるのが原因でしょうね……。
しかも絵面。10メートル超えの大蛇に巻き付かれている、1メートル前後のモンキーですからね。どう考えても大蛇が捕食者側。
ヴァイパーさんを振り解けるはずもなく、モンキーはそのままサヨナラ。
「このPT割と酷くねー?」
「タンクとは」
「倒せればおっけ」
ええ、まあ……クレメンティアさんの言うように、倒せれば経験値は入るので別に良いのですが、過程がだいぶ酷いですね。
1体目なので取り込ませてもらい、さっさと先へ進みます。
「バグじゃん。へいかもぉん!」
体当たりしにきたスターダストバグを、絡め取ろうとしたヴァイパーさんですが……ツルンと抜けられてますね。
「いや、やっぱむずいわ」
「どうして諦めるんだそこでー」
フェアエレンさんとヴァイパーさんがじゃれ合ってますが、魔法攻撃は忘れません。直線的に向かってくる敵なので、比較的当てやすいですね。
タゲが私に移ったようで、飛んできたバグを弾き、戻ってくるところを後ろから触手で叩き落とします。
「虫うめぇ!」
「ほんまか工藤」
「あ、ボク味覚無いんで」
ヴァイパーさんがガブガブしているところを倒します。
2層はまだ格下辺りなので、サクサク進みますね。
サクリファイスツリーというのがいましたが、放置です。根っこや《木魔法》辺りで攻撃してくるようですが、攻撃しない限りノンアクとか。
サクリファイスツリーは大変美味しい実をつけるが、食べた生物の体を媒体に成長するため、超危険物扱いらしいですよ。
生贄の木。木にとっては実が生贄でしょうが、食べたら死ぬのでなんとも言えませんね……。
「あ! やせいの ディアが とびだしてきた!」
「さあ、ボクと死合おうか……」
大蛇とソードディアの戦いが始まりました。
角が鋭く進化した鹿と、バジリスクが睨み合っております。しかしバジリスクは邪眼があるので、ディア側はさっさと動くしかありません。
ディアが踏み込みヴァイパーさんに突撃。ヴァイパーさんは避けずに噛み付きました。
ディアの角により状態異常の出血が発生しますが、ヴァイパーさんの牙により猛毒が発生します。
ヴァイパーさんは森だと木が邪魔で、体を使用した薙ぎ払いとかができません。ジワジワと巻き付きにいっていますね。
当然ディアは暴れまわり、角による攻撃がたまに当たっています。
うん、自然の摂理って感じですね!
「おい火力3人! しみじみ見てないで攻撃しろよぉ!」
「死合に手を出すのは無粋かと思いまして」
「「うんうん」」
「律儀か!」
まあ、出血も強度上がると割と洒落になりませんからね。
既に巻き付いてディアが動けていないので、ピラーで倒します。こう考えると、大蛇って強いですね……。恵まれた体格!
さて、3層目。森の見た目は特に変化なし。
ここから50~54なので、50代の進化系しか出なくなりますね。更に一部の敵が複数で湧いたりします。
「一旦ここでハウンドと戦っておきたいね?」
「6体のここでどうなるかだなー」
まあPTは今4人と枠はあるので、4層着いたら肉塊の一号出せばなんとかなる……でしょう。
「うわ、芋虫だ。ヴァイパー君に決めた!」
「バジリスクの鳴き声ってなんだろうな……」
「メズマグサーノに丸呑みだ!」
「嫌だよ!」
「じゃあ巻き付く!」
「それも嫌だなぁ!」
「なんでだよ似た者同士だろー!」
「喧嘩か!? 芋虫と蛇を一緒にすんなぁ!」
フェアエレンさんとヴァイパーさんがコントしてますね……。
私は別に蛇は嫌いではないですが、両方嫌いな人からすれば大差ない……んですかね? リアルで蛇にあったら噛まれたく無いので逃げますけど、嫌いかと言われるとそれはそれ。
「というか、あの敵丸呑みはダメでしょ……」
「蛇や蛙の天敵ですかね?」
メズマグサーノ Lv51
揮発性分泌液を体内で生成し、皮膚から少しずつ出すことで魅了効果を振り撒く。
食べられる事で寄生し、内部から喰らうことで急速に成長する。
属性:─ 弱点:物理 火 耐性:─
綱:昆虫 目:寄生型
科:キャタピラー 属:キャタピラー
種:メズマグサーノ
状態:正常
見た目は蝶や蛾などの幼虫を少しデフォルメした……キャタピーのような感じですが、結構えげつない生態していますね。
ちなみにめちゃんこ弱かったです。ボーナスキャラ感半端ない。
いえまあ、『幼虫』と考えると強かったですよ? 糸は吐くし、幼虫とは思えない速度で体当たりしてきましたから。しかし悲しきかな……所詮幼虫。リジィの攻撃でゴリゴリ減る。物理に大変弱い。
メズマグサーノを倒して少し進んで行くと、ノイジーモンキーを見つけたので、知らせます。
「やめろクソザル、その攻撃は私に効く」
「効果抜群だ」
「妖精相手にそのサイズの石を投げるのは条約違反だろー!」
「人に対物撃つようなもんかな……」
うん、確かにそんな感じになりそうですね。
なんたってソフトボールぐらいの石が飛んできますから、ゲームじゃなければミンチでしょうね……。
……クレメンティアさんがバインドしたのでボコりました。
「んー……思ったよりMPに余裕あるなー」
「そらこのメンツ上位層べよ」
人数は少なめですが全員火力組なのもあるでしょうね。力こそパワー。
クレメンティアさんの不思議生物が頑張って移動しているのをチラチラ見ながら、周囲の索敵です。
大体は《感知》系統に引っかかりますが、森のダンジョンは擬態してる植物系もいるので厄介なところです。同格から格上の狩場だとすり抜ける事もありますし。
……上から来た蔓を払います。
「何かいますね」
「ハンギングかな」
「上から来るぞぉ!」
上から蔓による攻撃が来るので、弾き続けます。
「ハンギングが一番探すの面倒なんだよなー」
「他のと違って特徴無いからめんどいわ」
「本体あれだね。【フロンスピラー】」
「「さすが植物!」」
クレメンティアさんがあっさり見つけてくれたので、ボコりました。
ハンギングツリーは本体が見つけづらく、範囲内にいる敵に上から攻撃を仕掛けます。常に攻撃をし続けるのではなく、隙や油断した時、視界外からとトリッキータイプですね。
本体が見つからない限り蔓だけで、本体が見つかると《土魔法》系統も使ってきます。逆に言えばそれだけなので、移動はしないため倒すのは楽。
「3人にピラーで炙られた挙げ句、リジィちゃんに斧で……成仏しろよ……」
「「「動かないのが悪い」」」
全段ヒットするならピラーの火力は最高レベルですからね。動かない敵にはまずピラーですよ。
そして植物は斧に弱い。……リジィの武器は両手斧。動かないからそれはもうフルスイングでしたね。良い音してましたよ。
ワイワイ狩りながら進んで行くと、もうすぐ下層という辺りまでやって来ました。
「ハウンドと遭わんかったね。呼ぶ?」
「【索敵魔法】で呼ぶべー」
別に逆探知されても問題はないはずなので、使うのは誰でも良いでしょう。上層ならダンジョンもPKがいそうですが……まあ、私が使用します。
「【Mey Hyrseh Ogma】」
ミニマップに波紋が広がっていき、赤点が表示されていきます。
「んー……近くにはいなー……あ、これですかね。結構な速度でこちらへ動き始めました」
「お、それそれー」
「近くに邪魔になりそうな敵はいませんね」
「ステンバーイ……」
「……真っ直ぐ走ってくるわけではないんですね?」
「「「え?」」」
「え?」
ミニマップに映っている赤い点6個の塊は、結構蛇行しながらこっちへ来ています。移動速度はそれなりですが……探している感のある動き方ですね。
「あ、効果切れてしまいました」
「……もしかして、敵も逆探知に失敗する?」
「逆探知は精神判定かー?」
「ボクは知らぬ」
ヴァイパーさんも土系統の魔法は持っていますが、使用頻度は低いのであまり育っていないようですね。ステータスが物理系なので、火力としてはイマイチのよう。
次はクレメンティアさんが使用してくれました。
「釣れた釣れた」
「餌はヴァイパー」
「おう待てや」
「新鮮なお肉よ!」
「姫様!?」
ぶっちゃけ私の方が『肉』ですけどね。
……いっそ腕の1本や2本食べて貰った方が倒すの楽なのでは? 自分達から体内に《未知なる組織》を取り込んでくれる訳ですよね。私の場合は一箇所欠損で最大HPが2割が減るので、下手するとHP効率が悪くなりますけど。
ん、まだ見えてはいませんが感知範囲に入りましたね。6個の赤点がこちらへ急接近。
すぐに認識範囲に入りました。全体的に黒いオオカミですが、足の方は赤が混じっていますね。
「顔が怖い」
「「「わかりみ」」」
魔物かつ敵なので、可愛くてもそれはそれであれなのですが……。
「可愛い兎さんもここにいるやろー」
「あいつ首狙ってくるやん」
大きい兎さんは手に物騒なの持っているのも問題ですね。どうしても意識がそちらに持っていかれます。
さて、来ましたか。
基本的に1人1体ですが、2体余るので誰か2人が2体抱える事になります。リジィにも1体抱えさせるのもありですが……どうでしょうね。戦ってればリジィに跳ねると思うので、そしたら様子見で良いか。
案の定ヴァイパーさんに6体が集り、ガジガジされています。バンパイアハウンドの攻撃で出血状態にもなり、放置すると間違いなく死にますね。
「左の貰うわー」
「じゃあ真ん中の貰おうかな」
「尻尾に噛み付いているのを貰いますか」
それぞれ攻撃する事でタゲを取ります。
ヴァイパーさんの尻尾に噛み付いているハウンドに魔法攻撃をしたことで、タゲがこちらへ移ったため、尻尾から口を離してこちらへ向きました。グルグル唸ってこちらを見ています。
これでヴァイパーさんに3体。他は1体の状態ですね。
「姫様バインドするよー」
「分かりました」
フェアエレンさんが魔法を引き撃ちしながら鬼ごっこをしている中で、ヴァイパーさんを襲っている1体にクレメンティアさんがバインド。
私とクレメンティアさんでバインドされている敵にピラーを設置。
「グルルルル」
「このっ! おらっ!」
「ガウッ!」
「てめっ! オルァ!」
ヴァイパーさんは楽しそうです。……どこからその声出してるんですかね。
バインドの敵に攻撃した間に最初に釣った敵がリジィに跳ねたので、バインドした敵を私が貰います。クレメンティアさんは最初の敵と戦って貰いましょう。
再びピラーを詠唱しながらバインドが解けたところで、触手でハウンドに噛み付いて拘束……からのピラー。
ピラー中の敵は放置してリジィの抱えてる敵を攻撃します。さすがに同格をリジィだけは厳しそうですね。
「討伐ヨシ!」
「どこ見てヨシって言ったんですか? ボクの早く倒して」
フェアエレンさんが終わってヴァイパーさんの敵に行きましたか。
私のピラー2発とクレメンティアさんのピラー1発で微妙に残り、こちらに突っ込んできたハウンドの爪での攻撃を受け流し、魔法で仕留めます。
そしたらリジィの抱えているのを倒しましょう。
「6体はまあ、行けるなー?」
「2体増えても行けそうだね」
とりあえずヴァイパーさんを回復して……予定通り4層目に行くようですね。
4層目も見た目的な変化は無し……と。
見た目の変わった遺跡が珍しい分類ですかね? 保全型がいるためでしょうけど、逆に言えば環境に影響を与える敵がいる可能性があるんですよね。……エフェクトだけの可能性もありますけど。
「さー、狩りすっぞー!」
「本番だ!」
今までは階段へ向かって直進でしたが、これからは敵に向かって直進です。
さて、敵はどこですかね。
「一番良い敵を頼む」
「楽なのはメズマグサーノの集団かな?」
「匂いによる範囲魅了系なので、集団だと厄介度は結構なものになるのでは?」
「2人が倒してくれるさー」
ザ・人任せ。
確かに私とクレメンティアさんなら、リジィもいるので楽に倒せますけど。
お、いますね。
「この数は……パラサイトダケかな?」
「……虚無ぞ」
多分パライズマタンゴの進化系であるパラサイトダケ。方向性はほぼ同じなのでヴァイパーさんが虚無る。
すたこらやってきたマタンゴがヴァイパーさんにぶつかっているのを眺めつつ、全員でウォールを出します。
見た目の違いは黄色い傘のパライズマタンゴに、黒い斑点を追加したぐらい……ですかね。
パラサイトダケ Lv54
胞子をばら撒き、対象を苗床として成長する菌種。
ある程度育つと自立を始め、パラサイトダケとなる。
属性:─ 弱点:火 水 耐性:─
綱:菌類 目:寄生型
科:マタンゴ 属:マタンゴ
種:パラサイトダケ
状態:正常
この菌類水にも弱いんですか。
フェアエレンさんもクレメンティアさんも、雷と木ではなく水のウォールを使用していますね。
私とヴァイパーさんは水を持っていないので普段どおりですが。
「ドコモダケみたいななりしやがって!」
「ドコモダケに失礼やろー」
「闇落ちドコモダケは笑うわ」
確かに、見た目はそんな感じですね……。こちらは色合いがだいぶあれですけど。
話しつつもウォールに向けて弾き、ウォールが消えたら出してを繰り返し討伐です。倒し方は結構楽ですが、時間をかけると状態異常強度が上がり死ぬタイプですね。
……DPSチェックとも言いますが、胞子系なので吸わなければ問題ありません。
「胞子タイプの状態異常なら私にも効きそうなものですが……」
「いや、姫様の体を構成するのってヤバいやつじゃん?」
「……なるほど。菌が死滅すると」
キャンプイベントの時は植物に寄生されましたが、あの時はゾンビ種でしたからね。今は《未知なる組織》でも防がれていると考えれば、違和感はありませんか。
まあゲーム的に考えてしまえば、状態異常無効を持っているんだから無効なんだよ……で良いんですけどね。ゲームにおいてはそれが正義。
ミニマップで反応のあった方へ向かっていくと、地面に近い位置で何やら光っている物体があります。
「「「お、ボーナスキャラだ」」」
ランタンスキンクですね。悲しい事に芋虫であるメズマグサーノに次ぐボーナスキャラです。
敗因は行動パターンと生態。いえ、生態としては分かりますよ? ぶっちゃけチョウチンアンコウのトカゲ版ですから、薄っすら光ってる疑似餌で虫でも誘き寄せて食べるのでしょう。
疑似餌に当たると攻撃という扱いになるのか戦闘モードになり、土から這い出て来るんですよ。
しかし、しかしですね……。
「じゃあピラーとマインなー」
ランタンがある部分には……近くに頭があるわけです。
【並列詠唱】でピラーとマインを用意し、マインを光ってる部分の近くにおき、ピラーをセットするとあら不思議。
ピラーによるダメージでアクティブ化。土から這い出ようとするとマインに直撃。
3人によるマインとピラー。そしてヴァイパーさんによるマイン。私の装備効果でマイン2個とピラー2個出るので、マイン5のピラー4ですね。
「マジこの敵笑うんですけど」
「這い出る時に無敵が無いのが悪いわー」
這い出るのが確定行動ゆえの敗北。
要するに登場演出みたいなものですが、ボスではありませんのでその間は無敵ではありません。攻撃し放題です。高威力のマインやウォール、ピラーを置いておけばいいよね……という悲劇。
「マインだけで足りるのでは?」
「そんな気はするね」
MPの節約のためにも、次はマインだけですかね。
この森のダンジョン、人気なだけあって狩りやすいですね。
森なので見通しは悪いですが、マップが広い分複数と当たる可能性は低いです。気を付けるのは……巡回のハウンドは当然として、ノイジーモンキーやハンギングツリー辺りでしょうか。それ以外は特にって感じですかね。
そういう意味では、洞窟ダンジョンって難易度高いですね?
「そういえばここのボスって情報出てるんですか?」
「巨大カブトとクワガタだってさー」
「カブトムシですか……ヘラクレスですか?」
「いや、名前なんだっけ……長い3本角のー……」
あー……いましたね。名前なんて知りませんが……。
「コーカサスオオカブトとノコギリっぽいやつだってさー」
「赤くてちょっと下に向いたギザギザのクワガタでしたか」
「それそれー」
コーカサスオオカブトと言われても、想像してるのがあってるのか分かりませんが……長い3本角カブトムシなのは分かったので、よしとしましょう。
「が、二足歩行らしいのー」
「……ポケモンにそんなのいたような?」
「うん、まあ……。ただ、クワガタはイメージと違うけどねー」
ノコギリのハサミが頭の上に付いているわけではなく、頬辺りから生えてるらしいですよ。
「『どうして……』ってSS貼られてて、ボクは耐えられなかった」
「あれは笑うやろー」
「カブトムシの角配置は、メダロットのアークビートルっぽいけどね」
アークビートル……えっとあれですか。頭と胸辺りに突起が付いてたやつですね。
3本角であの配置となると、胸1の頭2ですか?
「HP減るとなんか撃ってきそうですね……」
「「「分かりみ」」」
おっと、後ろにウォーラビットが湧きましたか。別のパーティーが複数狩りしているはずなので、そういう事もあります。
探しに行く手間が省けました。
「ウサたんInしたお!」
「ログアウトしろ」
「あたりがキツイぜヴァイパー!」
フェアエレンさんとヴァイパーさんはかなり仲が良いですね。
ボコられてウサたんがログアウトしました。
……1体で出てきたのが悪い。
「んー……植物系いるかも」
「……あちらにやたらカラフルな実を付けたのがいますね」
「「レインボープラントかー」」
淡く光る赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の実を付けている木が、認識範囲に入っています。
基本的に非アクティブで、アクティブ時の行動パターンは植物や土、水系統の魔法。更にあの実、色によってそれぞれ状態異常を持っていて、飛ばしてくる。
食べれば当然それぞれの色によって状態異常になりますが、少なくともあの実を見て『美味しそう』とは思いませんけどね……。
問題があるとすれば……状態異常があるから食べることができないだけで、味については触れていない事ですかね。状態異常をガン無視できる私達からすれば、ただの美味しい果実という可能性がワンチャン……。
「あの果実美味しいんですかね……」
「絶妙に不味い」
「……そうですか」
やはり既にチャレンジャーがいましたか。
絶妙に不味い……というのは気になりますが、不味いと言われているものをわざわざ試すつもりはありません。
物好きがどうにかこうにかして、美味しく食べる事ができるようにするかもしれません。
さて、近くの赤点2個は?
……ノイジーモンキーですか。面倒ですね。しかも既にバレていますね……。
腰辺りをゴソゴソすると出てくるあの石。実に不思議ですね……。こぶし大なので、絶対にそこに複数も入らないと思うのですが。
ヴァイパーさんがモンキーに向かいジワジワ進んでいますが、バシバシ石が当たっています。それを横目に、モンキーを魔法で攻撃します。
「オルァ!」
「キッキー! キーキッキー!」
「クソが!」
ヴァイパーさんのサイズがサイズなので、木の上にいるモンキーに飛びかかっていますが、木から木へと見事に避けられています。
まあノイジーモンキー自体が遠距離で殴り合うのが定石なので、ヴァイパーさんが空気なのは致し方なしです。
「ボクも頑張ろうと思ったが、膝に石を受けてしまってな……」
「おめーのどこが膝にあたるんだよ蛇やろー」
「「ふふっ」」
このダンジョン通いだと、昔は冒険者だったが、膝に石を受けてしまった人が多そうですね。
……ウォーラビット3体のリンクですか。ハウンドとパラサイトダケの次に多いリンクが兎さん。リンク数はポップ時に決まります。つまり、突然背後に1体だけ湧いたり、運が悪いと最大数だったりするわけですね。
ちなみにこのダンジョンで一番運が悪いのは、背後にハウンドが湧くことです。
ウォーラビットはヴァイパーさん、クレメンティアさん、私でタゲを取ります。リジィが私のを殴り、フェアエレンさんは近い敵でも攻撃するでしょう。
このウォーラビット、賢いのか賢くないのかよく分かりませんね。
兎のアイデンティティであるジャンプ力、そして種族的にも首を狙うためにジャンプするのはまあ、分かります。分かりますが、基本的に戦闘でジャンプするのは愚策ですよね? 空中で二段ジャンプができるならそうは言えませんけど。
この兎さん、パリィで跳ね上げても仰け反らないんですよね。空中にいるせいか、跳ね上げてもバク宙をして着地し、即座に首を狙ってジャンプしてきます。
他の敵に比べて、パリィで弾いても隙が全然無い。弾かれても空中なので抵抗できないのでしょう。それが逆にかなりの高速戦闘を可能にしています。
うん、凄いと思いますよ。こちらの首を狙ってくるのでショットが物凄い当てやすいのと、マインすら当てられる事に目を瞑れば……凄いと思いますよ。
触手によるカウンターで吹っ飛び、カウンターが発動しなくてもリジィに横っ腹をぶん殴られ吹っ飛び、私の魔法やリジィの投擲の追撃が入りますけどね。
「何ていうか、絶妙に戦いやすい兎さんですよね……」
「「「姫様が特殊なだけ」」」
……敏捷型の近接には戦いやすいようですね。
首を狙ってジャンプしてきたところを、しゃがんで斬りつける繰り返しだとか。首狙いなので、横薙ぎしかしてきませんからね……。
後は両手槍などを構えてると刺さりに来るとか、相手の斧より早く武器を振り下ろして叩き落とすのが基本だそうです。
タイミングがズレると首がお別れするので、中々スリリングな兎さんとして恐れられているようで。
「この階層でこの兎に不意打ちされると、最大3人開幕に持ってかれるから……」
「特に後衛ヤバいらしいね」
「私は猿の方が怖いけどなー!」
兎さんは基本的に草食なので、隠密行動は得意ですからね。ウォーラビットは大きいので、通常のよりはあれですが。
妖精はオワタ式なので、物理の時点で関係ありませんからね……。つまり石の投擲をしてくる猿の方が危険と。
「そもそも姫様、魔法攻撃パリィタンクっていう大概な色物ポジションだよ」
「魔法攻撃してくるジェダイぞ」
「ヘイト稼ぎがないのが悔やまれるぅー」
「盾持ちほどとは言わないので、もう少し何か欲しいんですけどね……」
むしろ盾持ち程はいらないのですが。タンクから跳ねても困りますので。ヘイト2位を維持できるのがベストですよね。
さすがにアサメイが盾系スキルに適応されるとは思えませんし、やはり存在感系のスキルでしょうか。隠密性が壊滅しますが、亜空間入れば関係ありませんからね。
敵を倒し、採取もしながらウロウロ。
「お、夜光草じゃーん」
「MPは大事」
「つまり命より大事と言っても過言ではないのだー!」
「MPの切れ目が命の切れ目」
まあ、私達魔法アタッカーですからね。基本的にMPありきのスタイルですから、MPが枯渇すると確実にお荷物。
「うっまーうまうおああああああー!」
「乙女らしからぬ声が出ておるぞ」
採取しに行ったフェアエレンさんが突然叫びだしたので何事かと思いました。
どうやらカームネススパイダーがいたようですね。蜘蛛の口近くにある短い触肢や鋏角と呼ばれる部分が鎌型の小型蜘蛛。食べる時に苦労しそうな進化な気もしますが、獲物が取れないよりはマシですか。殺意増々。
薬草や葉の裏などに潜み、猛毒を鎌に塗り攻撃する不意打ち物理スタイルの蜘蛛です。
つまり、フェアエレンさんが攻撃されると割とヤバい。
「顔面セーフ!」
「小学生か?」
「顔面✕」
「誰が顔面バツだー!」
ふふっ……パワプロでしたか。
なんてこと言っていますが、カームネススパイダー自体はサクッと討伐。この敵は不意打ちと猛毒の置き土産が厄介なだけで、首とかにヒットしない限り問題はありません。……とはいえ、フェアエレンさんのHPは割と減っていますが。
「あ、そろそろ洗濯物入れんとヤバい」
「入り口戻って小休憩しましょうか」
「「おけー」」
ヴァイパーさんが洗濯物を入れるそうなので、階層入り口へ。
「じゃあ10分後ぐらいなー」
「「りょー」」
「分かりました」
おトイレやら水分補給やらを済ませて、ストレッチでもしておきましょう。体は動かしておかないと。
10分後ぐらいに戻ります。
「お、姫様来たね」
「軽く運動してきました」
「えらい」
先にいたのはクレメンティアさんですね。謎生物の上でくつろいでいました。私も肉塊一号の上でくつろぐとします。
「寄りかかって足組んで目玉の球体撫でてるのは女王の風格なんよ」
「こういうところにRPの完成度がですね……」
「それは分かる。が、完全に悪役のそれ」
お、フェアエレンさんが動き出しました。
「人外極めてんなー」
「やっぱり人外感はアピールしていくべきかと」
「確かに姫様の見た目は割と人間だけど、その球体よ」
クレメンティアさんは肌が軽く緑で、フェアエレンさんは小さくて翅が生えていますし、ヴァイパーさんは大きな蛇です。
私は目隠ししていますが、割と一見は人間なんですよね。その後周りを回っている球体に気づくのでしょうけど。
「お待たー……マジ裏ボス」
「「分かる」」
「解せぬ」
「リジィちゃんが少し後ろに控えてるのももうね」
ヴァイパーさんの言うように、リジィは私の左少し後ろで、斧を持って直立待機しています。
……リジィの中身って謎なんですよね。リジィの本体である魂は既に冥府。そして一号でもない。言うなれば動きを体が覚えている『残滓』でしょうか。記憶の断片でも良いかもしれませんが。
「さあ続きすんべ!」
「「行くかー」」
「やりますか」
小休憩は終わりにして、狩りを再開します。
再び森でサーチ&デストロイ。
ん、敵が来ますね。
「うわー、めっちゃ来るかも」
「お、良いぞ良いぞー」
「ヘイヘイヘーイ! ボクの糧としてくれ……虚無ぞ」
パラサイトダケが視界に入った瞬間『スンッ』ってなりましたね。
「5時方向から兎さんも来ますよ」
「キノコも兎も最大数やんけ!」
「死んだらよろしくなー!」
「死ぬ前提をなんとかするべき」
パラサイトダケ6体、ウォーラビット3体の大所帯です。それぞれこの階層で、リンク状態での最大ポップ数です。
パラサイトダケの処理はクレメンティアさんとフェアエレンさんに任せて、私はリジィと兎さんの処理ですね。
ただこれ、兎さんがヴァイパーさんに行くと厄介です。下手するとヴァイパーさんが死にます。3体からの首狙いはさすがに死にます。
となると、兎さんは全て私が抱えるのが理想ですか。正直ウォーラビットは抱えるのが楽ですから、そうしましょう。
首狙いの攻撃を弾いた先でマインを踏むように置いたり、ショットを飛んでくるのに合わせて撃ち込んだり。
同属性別種の魔法を詠唱する【並列詠唱】を使用して、着地先にマインを置きつつ、リジィが吹っ飛ばした兎さんにランスを飛ばしたり。
首しか狙ってこないAIだからこその余裕なのですけどね。弾くの自体はとても楽ですから、魔法の余裕があります。
「まいう~」
……私が弾いて空中にいた兎さんが、飛びかかったヴァイパーさんによって丸呑みされました。一番HPの残っていた個体だったので、楽になったのは間違いありません。
……これが自然の摂理。ウォーラビットは間違いなく捕食者側な気もしますが……あれ? 首を狩るということはウォーラビットって肉食ですか? あくまで自衛のための手段であり、草食のままとか?
「大蛇はロマンだけど、小回り効かぬぇ」
「森でなければ振り回すだけで強いですよね?」
「まあね。かと言って移動狩りで毎回木をなぎ倒して行くのはね……」
「さすがに効率悪いですか」
後ろからキノコが突っ込んでくるので、振り向きながらフルスイング。
AIも攻撃方法も比較的単純な2種ですが、その分数が多いため、問題になるのは多数を相手にした場合の対処法。と言いたいのですが、普通は大盾のメインタンクと小盾のサブタンクが抱えて、それで十分な事が多いです。
それで安定しないなら狩場があっていないか、PTの動きが悪いかですね。
あの兎さんはもう死にそうですね。吹っ飛ばしたリジィにそのまま任せましょう。
弾いた兎さんの着地地点にマインを出して、ヴァイパーさんのところにウォールを出します。キノコの数が多い。
リジィの方は終わったようで、待機させます。キノコの場合、リジィは迎撃ぐらいですね。
ジャンプしてきた兎さんにショットを合わせ、着地地点にマインでさようなら。
「兎さんは終わりましたが……キノコも終わりそうですね」
「キノコのこー」
「「くたばれクソキノコ」」
クレメンティアさんを遮って実に辛辣な2人ですね。鬱陶しいのは確かなので、言うことはありませんが。
残りのキノコはさっくり倒しました。
「9時方向……来ます、これ!」
「退きません! こびへつらいません! 反省しません!」
「再翻訳笑うからやめろー?」
アニメのセリフを翻訳して再び翻訳したのをアフレコしたあれですね……。
9時方向というと、ミニマップ北を12時とした時計表現。9時なので左側です。
これミニマップを回転設定にしてると、パッと見で理解できなくなるので大変なんですよ。私はミニマップ固定派なので問題ありませんが。
「ワンちゃんが来ますね」
「狩りの時間だー!」
「さて、狩られるのはどちらか……」
「この時、私達は思ってもいませんでした。まさかあんな事になるなんて……」
「まさかヴァイパーがあんな事になるなんてー」
「オイオイオイ」
そんな会話をしている間に、バンパイアハウンドが8体の群れでやってきました。
グルグルと唸りながらゆっくりと近づいてきます。
「ヴァイパー8なー」
「おう待てや」
「清々しい全押しつけで笑う」
まあサイズ的にも、間違いなく開幕はガブガブされるんですけどね。
「ボクのお肉を食べなよ!」
「あ、遠慮なくー」
「おらっ! ただで済むと思うなよ」
ハウンドが遠慮なくガブガブしていますが、無償とは言ってません。肉を食わせて肉を食うになってるの面白いですね。完全に野生の仁義なき戦い。
とりあえず私は2体ほどタゲを取りましょうか。体力の減っていない敵ならランス1発で釣れるでしょう。
それからクレメンティアさんがバインドするでしょうから、ピラーも置きたいところですね。
「バインドするよー」
全員1体ずつ釣ったところでバインドですか。ピラーを重ねましょう。今度はフェアエレンさんも参加して、1体倒せますね。
ランスを2個詠唱し、リジィに跳ねないように釣った敵と、ヴァイパーさんに齧り付いているもう1体を釣ります。
タンクが耐えられるなら1体に集中して頭数を減らしていくべきなのですが、そもそもタンクらしいタンクがいませんからね。ダメージ軽減効果の高い盾装備の有り難みを実感します。
ランスによって走ってくるハウンドに、触手を真っ直ぐ突き出してみます。
「あ、食べましたね……」
「肉食だから? 私は食べてくれないんだよね……」
あのハウンドは《未知なる組織》の体内取り込みでだいぶ削れそうですね。基本的に状態異常系は、体内にぶち込むのが一番強いですからね。
植物系のクレメンティアさんには食いつかないとなると、見た目で判断でもしているのでしょうか。いや狼だし匂いもありえますね。
クレメンティアさんの場合は……蔓に棘を生やして刺すのが基本だったはず。敵が咥えてくれるならその方が楽なのは確かなんですけど。毒の入る量がそのまま状態異常強度に関わりますからね。
もう1体の方にも咥えさせ、たっぷりと状態異常にしておきます。
最初に咥えた方は……。
「んん~……カシコイ」
「まあ姫様の毒はえっぐいからね……。二度と食べたく無いでしょうよ」
ハウンドは学習するAIのようです。触手に食らいついて貰っているだけで倒せると楽だったのですが、仮にも巡回型の中ボスですか……。
私が2体のクレメンティアさんが1体。この3体をリジィも加えてさっさと削っていきます。
とりあえず、クレメンティアさんの方にも食べてもらいましょう。
「この触手戦法ありだね。姫様のHPも減らないし」
「相手の噛みつき攻撃も封印できているので、他の敵にも応用が効きそうです」
私に対してのハウンドの攻撃が爪ばっかりになってしまいました。
まあアクション系のゲームでは、特定の行動によって敵の特定の行動を誘発させる……なんて事はよくある事ですが。
「わざと噛まれて行動を制限するのはあり……かな?」
「戦いやすくなるとは思いますが、MPコスト的にはどうでしょうかね?」
「そこよね」
「とはいえ今回の場合は被弾が減らせそうですが」
「あーね。今の状況は確かに」
本来は後ろから撃つのが基本ですから、その状況からわざわざ一回噛まれてなんて考えると微妙です。
しかし今回はタゲの分散が必要なパターンですから、結局1体は目の前にいるため割とありだと思うんですよね。
「いやでも噛みつきに合わせてマインの方が……ウォールは効かんし」
賢いのでウォールには突っ込まないようです。
少し難しいですが、噛みつきを避けるついでにマインを食べさせるのが強い。安定性を重視するならショットですね。
レベルが上がって敵のAIも賢くなってきています。ボールやランスなどは正面から撃つと避けられます。弾速の速いアローは比較的当たりやすいですね。
色々試して狩りが効率化される……これが楽しいんですよね。アクションゲームの醍醐味です。
「さて、残りは……」
「うん、この階層で問題無さそうだね?」
「そうですね」
ヴァイパーさんと齧り合っているのが1体。フェアエレンさんと追いかけっこしているのも1体。フェアエレンさんの抱えてる方がHPが多いですね。持っていったばかりでしょうか。
まあ、先に殴るのはヴァイパーさんが抱えている方です。フェアエレンさんの方は当てづらいので後回しです。
「フハハハ! ボクの勝ち!」
「なんで負けたか明日までに考え……無理か」
「悩みから解放してあげましたね。ハハッ!」
「怖くて草。悪夢の国の住人かな?」
さて、次はフェアエレンさんの方ですが……。
「エレン、バインドするよー」
「あいおー」
フェアエレンさんがこちらへ向かってきて、付いてきたハウンドが植物に絡め取られ、ピラーによって南無三。
「楽勝っすなぁー」
「ボクのHPを見てもう一度言ってみろ」
「あれ~? どうしたんすかヴァイパーさんそんな傷だらけで~!」
「オルァ!」
「あぶねぇ!」
ヴァイパーさんがフェアエレンさんを食おうとして避けられてますね……。
ガッツリHPが減っているので回復します。《聖魔法》を上げられるので、ヴァイパーさんはある程度被弾してもらって良いんですけどね!
ダンジョン内をふらついては敵を倒し、寄って来るのは喜んでしばき倒し、動かない敵はこちらから出迎えて張り倒します。
特に問題はなく順調と言える狩りですね。たまにフェアエレンさんが死んでいますが……まあ、いつもの事です。つまり『問題』として扱いません。
「ぬぇあ!」
「「何だ猿か」」
「ああ、あんなところに。今日一の狙撃ですね」
ひとまず放置してお猿をしばき倒し、幽体離脱しているフェアエレンさんのところへ帰ります。
プレイヤーが死亡すると蘇生受付時間中は透明な体で、自分の遺体の一定範囲までは動くことが可能ですが……フェアエレンさんは自分の遺体の上に浮き、黄昏れていますね。
「気づいたら死んでいた。な、何を言っているのかわからねーと思うが、私も何をされたのかわからなかった……」
「「成仏してクレメンス」」
「石が飛んできただけですよ」
「対応が冷たいぞ君たちぃ」
「遺体なんで。ハハッ!」
「姫様が唐突にぶち込んでくるブラックジョーク結構好き」
「分かる。行こうか」
「置いてくなやー!」
戯れたところでフェアエレンさんを起こします。
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない……」
「あの世界リアルに考えるとちょいちょいシュールよな」
「魔物との仁義なき戦いを繰り広げた後、せっせと味方の遺体を棺に詰め引きずって町に帰り、教会にお布施して復活してもらう……と」
「容赦無く人様の家の壺割って行くしなー」
「不法侵入に器物破損と窃盗ぞ」
しかし逆に言えば、その3つを見逃して貰うのが勇者としての特典?
その代償として魔物や魔王と何度も怪我や死にながら戦い続ける……割にあわないと思うんですけどね……。
「ゲームだけだとその辺りの世界設定分からんよね?」
「まあどうでもいいっちゃどうでもいい情報だからねー」
なんて全く関係もなく、さして重要でもない事を話しながら狩りをしていたら、あっと言う間に時間は過ぎていきました。
「ん、こんな時間かー」
「だね。そろそろ解散かな?」
「ボクもご飯作らんとなー」
「帰りますか」
それぞれが狩りで手に入った次元の結晶を取り出して、帰るとしましょう。私は【リターン】ですけどね!
「みんな! 丸太は持ったか!」
「丸太ならそこにあるぞ」
確かに将来丸太なら沢山ありますね。森のダンジョンなので。
「知ってるか? それは木って言うんだ」
「では問題です。原木と丸太の違いを答えよ」
「「……え?」」
クレメンティアさんによる突然の出題により、ヴァイパーさんとフェアエレンさんが固まりました。
「あれって同じなのでは? 原木(丸太)とか書かれているのを見ますが、明確な分類があるんですかね?」
「多分同じじゃないかな」
「用語説明に『一定の長さに切り揃えた丸太のこと』って出てきたわー」
「ほーん。……ん? つまり一定の長さになってない木は原木でも丸太でもない」
「……倒木では?」
「た お れ た 木 ! マジかー?」
「なる……ほど……?」
「まあどうでもいいので帰るよ」
「「出したのお前やんか」」
ちなみにこのゲームでは、木を伐採して手に入るアイテム名はなんたらの原木です。それを木工系スキルなどによる加工。
……帰りましょう。
次元の結晶や【リターン】で帰ってくるのはダンジョンの入り口。ここからまた【リターン】を使ったり別の手段で町に帰る必要があります。
「いえーいお疲れー」
「「おつー」」
「お疲れ様でした」
PTを現地解散して各自で帰ります。私はもう一度【リターン】でハウジングに帰れるのでとても楽。
さて、夕食まで少し時間がありますが……ここまでにしますか。就寝前に時間あれば生産すれば良いでしょう。
離宮の自室でログアウト。
そうボクっ娘。なお大蛇。
書籍の6巻、漫画の5巻、発売しています。




