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114 ティル・ナ・ノーグ

『お、見えてきたよー』

「まだ認識範囲外ですね」


 しばらく飛行すると灰色な魔力の壁が見え、奥に陸が見えてきました。

 フェアエレンさんはそのまま魔力の壁を通過して行きましたが……これ、別次元では? 灰色は空間系の属性色ですし、その魔力に沿うようにグリッドが見えます。次元結界的な物ですかね?

 とりあえず壁を通過してから、通常次元に戻ります。ミニマップの表記がティル・ナ・ノーグに変わりましたね。


「到着!」

「一面花畑ですね」

「妖精は基本的に浮いてるから、踏み荒らすことがないからねー」


 言葉通りの花畑です。カラフルな花が咲き乱れていますよ。私の認識範囲全て花。

 確かにメルヘンといえばメルヘンですが……。


「やたらどぎつい色した花もありますね」

「ヤバいよねあれ。綺麗な花畑に自己主張の激しい原! 色!」

「……凄いですねこの花畑」

「一面花畑でメルヘンだろぉー? なお色合い」


 清々しいまでにカラーバランス皆無ですね。RGB全ランダムか?って程のカラフル加減。


「中央の方行けばマシになるから。具体的には生活圏」

「ここは管理者もいないからこの有様だと言うわけですね」

「目がバグるからさっさと行こう!」

「そうですね。行きましょうか」


 この辺りは基本的に花畑で、他には何もないそうです。生えてる木は果樹が多いらしく、基本的に食用だとか。勿論多いのはりんご。

 とりあえず季節感はないというのは分かりました。季節感ガン無視で実がなっていますね……。


 フェアエレンさんが「お、見えてきた」と言ってから、少しして範囲内に入ってきました。

 これは今までに無い見た目ですね! 色々な属性の妖精達が集まっていて、小さめの家が沢山あり、その家もかなり個性的です。見てる分にはとても楽しいですね。


 サラマンダー、フェアリー、ニクシー、ピクシー、スプライト、ナイトメアの基本6属性妖精は勿論、プレイヤーでは見たこと無い種族もいますね。


「レプラコーンは有名ですね」

「採取系だね。プレイヤーだと見ないなぁ」

「採取が一番高いのは難しいでしょう」

「嵐は性別で変わるみたいなんだよねー。ヴォジャノーイとルサルカ」

「聞き覚えが無いですね?」

「調べたけど男性の水の精と水の精霊……というより、水関係の事故で亡くなった幽霊とかなんとか」

「それが嵐ですか」


 妖精自体が小さいので、当然住む家などもそれに応じて小さくなります。

 妖精は属性による影響が大きいので、土地もそれに合わせているようですね。水系は湖の近くだったり、火系は火山の近く、風系は木の上とか……よって、各属性によって集落のようになっているようです。

 フェアエレンさんが言うには、サイズはそんな大きくないのに、様々な環境が詰め込まれている箱庭のような島だとか……。


 そして私、めっちゃ見られています。


「人気者は辛いですね」

「慣れておられる」

「……冥府や奈落のように、一斉に跪かれるのに比べたらかなりマシですよ」

「うわぁ、やり辛そう」

「まあすぐに落ち着いて端に避けて頭下げるだけなので、慣れました」

「人間は慣れる生き物。慣れって凄い」


 最初は楽しいのですが、段々鬱陶しくなってきて、最終的に考えるのをやめるのですよ。慣れです慣れ。ええ、慣れです。行動を邪魔されるわけではありませんので、住人に関しては好きにさせておくのが一番ですからね。

 というか、こうして見られるだけなら始まりの町でも大して変わりませんし。


「まあ豚見に行こうか」


 どこにいるんですかね、気づいたら復活している謎生命体の豚さん。


 フェアエレンさんに付いて少し行くと、花畑ではない普通の平原にやって来ました。遠くに見えるとのことで、アイちゃんズ視点に切り替えましょう。


 結構先の方で複数体の豚さんが放し飼いにされていますね。

 ただ……。


「なんであの豚は頭突きしているんですかね?」

「さあ? 分からんがいつもあんなん」


 豚同士でどつきあっていますね。何してるんでしょうか。

 確かにマーカーが黄色ではなく、緑ですね。あれ……?


「あの豚……魂が黒い」

「え? 全部?」

「あそこにいる全ての豚が……ですね」

「へー? ……あ、ちょっと嫌な予感がするわー」

「奇遇ですね。《識別》しよ」



豚 Lv1

 妖精達の国、ティル・ナ・ノーグに生息する生き返る食用豚。

 ※豚さんの刑。

 大罪を犯した魂が、特別に用意された豚に生まれ変わりを繰り返している。

 この事は妖精王オベロンやその妃など、極一部しか知らない。

 なおかなりの美味だが、豚肉かと問われると言葉を濁すしかない。



 ああ、やっぱりですか。

 マーカーがペットではなく住人と同じで、魂が黒いって時点でそうなりますよね。



〈大罪は罰無くして赦しはありません。手出し無用です〉



 御心のままに。

 ……魂滅するほどではない罪深き者への罰ですかね。


「美味しいらしいですよ、あの豚」

「マジで?」

「これ、結果です」

「ほぉん……こっち一番上の行だけだわー。にしても豚さんの刑。エグいことを」


 飢えてる妖精達に日々追い回され、狩られるわけですからね……。

 気づいたら復活しているという事は、豚さんとして繁殖しているわけではないのですから、豚?っていう感じなのでしょう。


「妖精は悪戯好きのようですが、甚振るんですかね」

「いやー……? 確かさっくり殺ってたような……」

「あれ、そうなんですね。てっきりそれも罰に含まれているのかと」

「扱いが食材だからじゃねー? 討伐じゃなくて狩りでしょー」

「なるほど……」


 フェアエレンさんの言葉を証明するかのように妖精達が6人ほどやってきて、前方にいる3匹の豚さんを追い立て、魔法による攻撃で仕留めていました。


「頭へ一撃ですね……」

「狩人のそれだわ」


 討伐ではなく食べるため。……つまり戦闘による損傷は無ければ無いほど良い。その結果、急所である頭を一撃で貫かれるわけですね。


「毎日あれだし、罰にはかわりないねー」

「あの黒さは奈落でも下の方なので、同情の余地はありませんね」


 中身が同じかは分かりませんが、毎日3回……朝昼晩とあれなら罰としては十分でしょう。いつまで続くのか分かりませんが。

 神は実に容赦がない。

 コロコロされた豚さん達は妖精達にせっせと運ばれていきました。


「ドナドナ~」

「既に目にハイライト無いですけどね……」


 出荷よー……。

 『そんな~』って言える状況は既に過ぎてるんですけどね。


「あそうだ、ポータルか。立像はあの山の上だよー」

「ああ、開放しないとでしたね、中央ではなく山ですか」


 一番気になる事は分かったので、転移ができるようにポータル開放しましょうか。

 中央で待ってるというフェアエレンさんと別れ、亜空間を通ってさっくり開放。そして再び亜空間を通って合流。


「あの山、すごい分布してましたが?」

「分かる。火系と氷がいるんだよねあの山」


 山の頂上辺りに氷のジャックフロストの集落があり、少し下の方にサラマンダーやジャックランタン、クラーテシーの集落があるようでした。


 今度はリンゴの方を見に行きましょう。計画の無いぶらり旅です。

 ティル・ナ・ノーグのリンゴは、果樹園のように整えられている場所もありますが、まばらに生えているのもあるようです。

 食べるのが目的なら生えている場所も分かっており、沢山ある整えられている場所に取りに行く。気まぐれの場合はそこらに生えているのを食べるようですね。

 確かにちょいちょい実のなっている木が認識範囲に入っています。これがまばらの方なのでしょう。

 見る分にはただのリンゴですね。


「思ったよりリンゴの木が多いですね?」

「果樹はリンゴしか無いし、木はリンゴかそれ以外かの2択だよ」


 リンゴの木か、そうでないか……ですか。

 ……では、あれはなんだと言うのでしょうね。


「ところで、なんですかあのおもしろ植物は」

「いやなんか、リンゴの木は動き出す個体があるようでね?」

「まあクレメンティアさんとかがいるので、不思議ではありませんが……」

「で、ここでは豚と敵対しているってわけよー」

「そうはならんやろ」

「なっとるやろがい!」


 近づいてくる豚に向かってリンゴが飛び、弾けています。いつぞやのボマーとトリフィドを思い出す光景ですね……。

 ……よし、見なかった事にしましょう。


 妖精の国は妖精に合わせて家が小さいですが、一軒だけ例外があります。他の国と同じサイズの、白を基調としたお城があるんですよ。


「巨大な湖の中央にある大きなお城……良いですね」

「オベロンとティターニアは人サイズなんだよねー。あとは外の客人を迎えるためにもあのサイズらしい」

「なるほど。道は長い橋が一つだけですか」

「あれも飛べない客人用だねー」


 湖にはニクシーなどの水系や、木のドライアドがいますね。


「大変メルヘンで良いと思います」

「まあ見た目だけならそうかなー? 実生活は結構人間寄りだけど」

「うちのラブコメに対する挑戦ですかね……」

「……ラブクラフトコメディやめろ」

「コメディされてるだけまだ救いあるのがあれですが」

「まあねー。あれらに本気出されるとちょっと……」


 深淵の愉快な仲間達。見た目すらあのザマ。まあ、私も相手のこと言えない見た目してるんですけど。

 コメディしてくれないとハロウィンイベントみたいな状態になるので、コメディしてて欲しい連中です。


 湖の目の前で雑談していると、ニクシーが3人ほど恐る恐る近づいてきました。


「なにか恐れられることでもしたんですか?」

「いやいや、どう考えても姫様でしょうよ」


 ですよねー。


 どうやらこの湖は食用の魚介類もいるようなので、やってきたニクシーにお願いして獲ってきてもらいます。

 ニクシー3人が潜って行くのをフェアエレンさんと見送ります。


「どうです。これがお願いという立場による命令です」

「持つべきものは権力者」

「碌なもんじゃないですね……」

「おまいう。じゃあ私はリンゴ採って来よー」

「5個ほどお願いしますね」

「ういー」


 獲ってきてくれたニクシーは帰さずに、ササッと料理して5人で食べましょう! デザートはフェアエレンさんが採ってきた、この国原産のリンゴです。


 いざ実食……! といったところで、湖の方からの強烈な突風により無残な姿になりました。

 膝から崩れ落ちる私と、額に手を当てて天を仰ぎ見るフェアエレンさん。ウキウキで湖から出ていたニクシー達も、後ろに倒れるようにして湖にポチャリ。


「さっきまで穏やかだったというのに、いったい何だというのです……」

「城からの……魔力波ってやつかなー?」


 今までの穏やかさが嘘だったかのように、海のように波打っています。魔力の波動が広がるのに合わせて、水面も動いているので原因はお城確定ですか。

 フェアエレンさんの採ってきたリンゴをみんなで齧りながら状況確認です。……美味しいですね、このリンゴ。


「「「また喧嘩してる?」」」


 ……真っ先に出るのがそれですか。

 浮かんできたニクシー達から察するに、夫婦喧嘩は日常茶飯事と。


「さて、食べ物の恨みは恐ろしいと言いますが、どうしたものか」

「相手も王族だしねー?」

「気になるし見に行きましょう」

「良いねー」


 ということで、見に行きましょう。いざお城へ。

 飛んでいくと子供サイズの使用人がワラワラお城から出てきていますね……。


「あれ? ブラウニー出てきてるじゃん」

「あれがブラウニーですか。可愛い使用人ですね」


 今は定期的に魔力波に煽られ、髪やメイド服が乱れてますけど。

 正面玄関である扉を開け放ち、吹き荒れる魔力波から逃れるように扉の左右に避難しています。お城の扉や窓から出ているようなので、ちらほら扉や窓の左右に避難しているブラウニーの姿が見えます。

 ……ブラウニーも浮けるようですね。窓と窓の間や窓の上下に避難して、達観した表情で空を眺めています。背丈が小学生ぐらいなので、なんとも言えない気持ちにさせられますね……。


 窓の近くで浮いて達観している子達はそっとしておいて、向かうのは正面玄関ですね。

 やってきた私達――まあ主に私でしょうけど――を見たブラウニー達がピシッとしました。玄関は魔力が荒れ狂っているので避け、ズラッと一列に並んでいます。お見事ですね。


「これは何事ですか?」


 ブラウニー達は左右を見たあと、ザッと一斉に1歩下がり1人だけ出ている状態に。残った1人が宇宙猫みたいな顔になっていますね……。

 いるメンバーを確認してからのこの状態なので、この中では一番上の立場なのでしょう。


「えっと……ティターニア様が怒っているようですが、理由は分かりかねます」

「夫婦喧嘩ですかね」

「恐らくは……」


 まあお仕事中に魔力波が来たからこうして避難している……だと、理由まで知るはずもありませんか。


「それにしても凄まじいですね」

「この状態見たこと無いよねー?」

「ありませんね。高レベル……または高MP持ちが怒るとこうなるなら、今まで会ってきた者達はちゃんと周囲に配慮していたわけですか」

「ニグラスとか仔山羊ー?」

「ラーナとかショゴスもですね」

「運動会か。ニグラスは姫様が呼んだからおいといて、仔山羊は?」

「怒るというか、邪魔しに来た我々に苛ついてただけとか?」

「ん~……近くにいた狂信者に、一応気を使った可能性もあるかー」


 仔山羊にとって一応協力者でしたからね。その可能性はあります。

 今回ティターニアの近くにいるのは……普通に考えればオベロンと近衛、あとは侍女ぐらいですかね。妖精の国に宰相がいるのか知りませんが、いるなら近くにいるはず。つまりほぼ身内。土地的にも閉鎖的なので、遠慮がありませんね!


 おや、またもブラウニーがやって来ましたね。……吹き荒れる魔力波に乗るようにして。波動が来る瞬間にジャンプして距離を稼ぐという熟練の技を感じさせます。


「被害は?」

「こちらに報告はありません」

「何よりです。……ステルーラ様のお力を感じますね」


 魔力波による被害確認ですか。

 そしてこちらを見る偉いだろうブラウニー。……ネメセイアとは気づいていない? 隔離されている環境ですし、情報が来ていないのでしょうか。十分考えられる事ではあります。

 となると今までの反応は、《君臨するもの》の影響ですかね? もしくはステルーラ様のお力……Goである装備でしょうか。……もしくは目玉。


「ネメセイアです。友人に案内をしてもらっていました」


 納得したように頷いていますね。

 それで? 喧嘩の理由はなんですかね。


「オベロン様がティターニア様の楽しみにしていたデザートを食べたのですよ」

「一般家庭なら分かりますが……」

「……コック達に止めるすべはありません」

「「…………」」


 王である以上、基本的に食べ物はブラウニーが運ぶはずです。要するに、わざわざ王が厨房に突撃しているわけですね。

 ブラウニーも料理人も、王が相手ではどうにもならないので、こうなることが分かりきっていても甘んじて受け入れるしか無いと。

 結論:王が悪い。


「……帰ろっか」

「そうですね……」


 私達も食べ物の恨みですが、ティターニアも食べ物の恨み。

 文句を言うために夫婦喧嘩を止める……という面倒な事するぐらいなら帰りますね。割に合わないでしょう……。

 ということで、フェアエレンさんと意見が一致したため帰ります。撤収です撤収。夫婦喧嘩は犬も食わぬ。

 始まりの町に門を開いて、ブラウニー達とお別れ。


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― 新着の感想 ―
一面花畑ですね > サラマンダーが落ちると全焼します。 豚さんの刑 > 恐っ! 豚の身なんだから豚肉なんじゃないのっ!? 恐い! 旨い! ○肉味!!?
[一言] >※豚さんの刑。 豚さんが「おいしいよ!」っていってる トンカツ屋さんのカンバンをみた事あるけど まさか……ッ!
[一言] 豚さあああああん! あ、更新ありがとうございます! とても面白くて一気読みさせていただきました! さて、また始めから読みに3周目行ってきますね
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