109 インバムント防衛戦 前
開始時間を待たずに、準備が整い次第ログインです。
さて……双子はもういますね。フレンドリストからPTに誘い、再び参加申請して鯖移動。
すると目の前にスケさんとアルフさんがいました。
「「お、ドレスじゃん」」
「ごきげんよう」
「「やっほー!」」
「まさかの海戦だけど、そっちは空かい?」
「その予定です。フェアエレンさんと約束はしていますが……」
「となると……ミードさん辺りが空いてるか?」
「とりあえず、普段ソロ組を集めてみんべー」
「だな」
こちらも他のメンバーはどうしましょうか。あと2枠余裕がありますが……アビーとドリーさんは種族が天使なので、空もできますが……エリー達と船でしょう。
……おや、思ったより飛行の知り合いがいませんね。
「空に出れる残りの知り合いは……キューピッドさんぐらいですね」
「あ、姫様! 空だったりしない?」
ということで、やってきたキューピッドさんを誘います。
「後はフェアエレンさんの予定です」
「おっけー。よろしく!」
「「よろしくー!」」
少ししてやってきたフェアエレンさんを誘います。
「おまたー。おっすおっす!」
「やっほー」
「キューピッドと姫様がいるなら気兼ねなく即死できるな!」
「いや、リザレクはMP重いからね?」
「命大事に」
「ガンガン逝こうぜー!」
私とキューピッドさんが【リザレクション】を持っているので、立て直しはしやすいですけど、キューピッドさんはともかく、私はMPが火力に直結しますからね。さすがにクラーケンをレイピアで斬りに行くのは嫌ですね……。
さて、そろそろ始まりが近いですが……。
「凄いPTですね……」
「衛生がいないが……致し方なし!」
スケさん、アルフさん、クレメンティアさん、ミードさん、駄犬さん、モヒカンさんのフルPTですよ。
クレメンティアさんが艦長で、ミードさんが船務、アルフさんが補給、駄犬さんが機関、スケさんとモヒカンさんが砲雷ですか。
このゲームは魔法の各属性にヒールがあるのと、光の派生である聖を取れば回復ができるので、特化って意味でのヒーラーは案外少ないんですよね。勿論トモPTのリミナさんのように『支援好き』が一定数いるので、特化型もいなくはありません。ヒール系は知力ではなく精神依存なので、回復量にそれなりの差が出ます。スケさんより私の方が回復量多いですからね。
「あれ? エルツじゃん」
「おう! 補給長とか衛生長が補正でかいらしいから来たぞ」
おや、フレンドの生産組が揃っていますね。
何でも生産者が補給長や衛生長に就くと、他よりかなり補正が大きいようですね。船体の修理アクションや回復アクションがあるようで、持っている生産スキルによって変動するとか。
空いてる知り合いのPTに入ったり、レイドに混じったりするようですね。
リーナのところは演奏のナディアさんをリーダーに変え、リーナは機関、ヘレンさんが船務、ノエリアさんが砲雷、グリセルダさんが補給をやるようですね。
「あ、マギラスさん! 衛生長やらないー?」
「お嬢様方の先約がありますので」
「ぐぬぬ……」
「おーほっほっほ! マギラスは確保済みよ!」
「高笑い上手いね……」
「練習したもの」
「なにしてん」
エリーとアビーが来ましたか。
リアル側をやっている間にそこそこ検証が進んだらしく、要求能力が一致していなくても、長はいないよりいた方が良いみたいですよ。
砲雷長は複数出やすいですが、2人で威力2倍とかなったりする訳もなく、かと言って効果がないわけでもないようです。
航巡と戦艦では『衛生長・飛行長』ですが、他は『衛生長』だけのようです。衛生長の存在意義は今のところ不明。船体じゃなくて乗組員にダメージが来ることがあるのか? と言ったところですね。
つまり我々ソロ組は、近くの航巡または戦艦で休むべし。必要プレイヤー数の多い戦艦の方が、航巡より衛生長・飛行長のいる可能性が高い。そのため避難場所は航巡<高速戦艦<超弩級戦艦ですね。受け入れ可能人数もあるようです。スペースがあれば乗ること自体は可能ですが、受け入れ可能人数を超えると、長の回復速度上昇の恩恵を受けられないわけですね。
空母の性能は始まらないと謎。
「航巡にしようかと思ったけど、どうしよか」
「私まだ決めてないよー」
「よし! サルーテさんにしよう!」
サルーテさんが衛生長・飛行長の航空巡洋艦ですか。リーナのところで休むのはありですね。と思ったけど、今回も開始時期やレベル帯で鯖分けされてるようなので、大して変わりませんか。
クラーケンの情報も海軍の人から得られたようですが……。
「イカかタコだと思ってたのですが……」
「ある一定サイズ以上になった海の魔物を、クラーケンと呼ぶらしいねー」
「意味合い的には海の怪物で姿が様々らしいから、こうしたんだろ」
「今回はクラゲですか……」
クラーケン・クラゲ種。
今回のクラーケン級は、海底都市アトランティス付近で見られる種の、アトランティックシーネットルと推定される。
今回の対象はアトランティックシーネットル・メデューサ。人のような胴体を持ち、腕の部分に触手が複数。そして腰辺りからスカートのように、そのままクラゲになっている。
メデューサとなったことで新たな能力を得ている可能性はあるが、《水魔法》系統を使用し、触手にはそこそこ強い毒を有する。
「メデューサって石化持ち蛇頭のあれじゃないの?」
「掲示板によるとクラゲの成体段階をメデューサと呼ぶらしいぞ!」
「こっちだと更に上の段階で使ってそうだね」
ラピスさんの疑問に答えたのはスグとフェアエレンさんですか。
クラゲは英語ではジェリーフィッシュですが、成体段階を指すのはメデューサなんですね。と言っても、一般的には『クラゲ』で通りますから、メデューサを通常の成体より更に上の段階に持っていったのでしょうか。魔物ですし。
ちなみにラピスさんが言っているのは、ギリシア神話のゴルゴーン三姉妹の末っ子ですね。古代ギリシア語でメドゥーサ。英語だとメデューサ。
メドゥーサはポセイドンの愛人ですが、なぜか全く関係無い処女神であるアテナの神殿で交わり、アテナがキレて化け物に変えた。それに抗議した2人の姉も化け物にされましたが、2人は不死だったのでメドゥーサだけが殺されたわけですね。
アテナの手助けなどを借りてペルセウスが狩りますが、その時の血からクリュサオルとペガサスが生まれたとかなんとか。
まあ、神話の一説でしかありませんけど。
「諸君! よもやこの服の出番が来るとは思わなかったが、まさに渇望した瞬間である! 存分に楽しもうではないか!」
「『おう!』」
聞こえてきた声の方に意識を向けると……なるほど、水兵ですか。白と青のセーラー服を着た集団が並んでいますね。ズボンとスカートの差はあれど、お揃いですね。あの人達は人数的に戦艦にでも乗りそうです。
さて、そろそろ始まる時間ですが……。
「よし、セーフ!」
「お、セシルも来たか」
「いやー急いで帰ってきたよ。間に合ってよかった」
ムササビさんなどには会っていませんが、フレンドリストを見る限り既にいますから、フレンドは全員揃ったようです。
「お、姫様感増したねー? やっぱ見た目は大事だねぇ」
「ネメセイアを継続するように言われまして、それに合わせたのでしょう」
〈〈対象クラーケンの進路変更気配無し。各艦出撃してください〉〉
「『来たか!』」
「俺はガンダムで行く!」
「艦だっつってんだろ!」
「……ホワイトベースなら良いか?」
「俺はホワイトグリントで頼む。勿論VOBでな」
「レギュレーション違反だ!」
「「そんな!」」
「うるせぇ出撃しろ!」
賑やかですね。
さて、個人飛行ですが我々も出撃しましょう。港の方へ飛びます。
「ヒャッハー! 最高だぜぇー!」
「ヤダー! はしたない!」
「お前ら戦車でも乗ってこい」
……賑やかですね。
「主動力、オンライン。魔動炉、異常無し。出力上昇、異常無し」
「ロック解除」
「ロック解除、動力供給」
「動力確認。主砲塔、異常無し。副砲塔、異常無し。各砲門、異常無し」
「収束魔動砲、及び防衛システム、異常無し」
「超弩級戦艦、発進する!」
「機関最大、推進器起動」
「全砲門エネルギー充填開始」
水兵組……楽しそうですね。
「……船、楽しそうじゃん」
「そうですね。しかし進む船と一緒に飛んで進むのもロマンあります」
「……分かるー」
「面白そうなので、水兵艦にでも付いていきましょうか」
「良いねー」
双子とキューピッドさんの了承も得て、賑やかな水兵達の戦艦に随伴しましょう。飛行組としても超弩級戦艦の近くは便利でしょうからね。
あれ、ナディア艦……なんか黒光りしてますね。しかも高速戦艦になってますし。エリー、トモ、スケさんのPTと合体ですか。セシルさん、ルゼバラムさん、こたつさん、ムササビさんもレイドで高速戦艦に乗っていますね。
「ナディアさん、なぜそんな見た目に?」
「補給長になったアルフさんの影響らしい?」
なるほど、アルフさんの鎧の色ですね。
どうやら一部人外系の能力が船体にのるようです。
「それ効果はー?」
「重要防御区画と船体防御力上昇、修理速度低下らしいです」
「抜かれると辛いパターンかなー? やっぱ船体最強はスライム装甲か……」
「スライム装甲ですか?」
「あの青い船だよー」
フェアエレンさん、私認識範囲外は一切見えないんですよ。……いや、見える……見えますね! お目々ちゃん、君か! 優秀ですね。小窓タイプですが、全く見えないよりは遥かにマシです。複数お目々は枠が邪魔なので一つ安定ですかね。お目々ちゃんは私の手が届く範囲内なら自由に動かせますが、普段は衛星です。
フェアエレンさんの言った方向には、確かに一隻だけ全体が青い船が浮かんでいます。
「物理完全無効。魔法に少し弱いものの、周囲の海水で超再生。実質ほぼ無敵っていうぶっ飛んだ性能。しかも壁とか床が低反発らしく、恐らく船員も守れる」
「能力がハマりすぎたパターンが来ましたか」
「ハロウィンが弱点即死パターンだったからねー……」
完全無効も魔法弱点も水で超再生も、全てスライム自前の能力ですね。弱点と言える足回りは船なので、推進器によりほぼ弱点無し状態になっていると。
スライムは水中も行けるのでソロが可能だと思いますが、船で補給長になった方が明らかに強いですね。
私がなった場合も気になりますが……なんか名状し難い物になりそうなので、試すのはやめておきましょう。
さて、そろそろ海に出ますね。問題があるとすれば……船の数が尋常じゃない事でしょうか。いったい何隻になるんですかね。
「これちゃんと周り見ないと突っ込むな」
「重雷装と駆逐の近くいたくねぇ……」
砲の向きを気にしつつ、恐らく有効なフレンドリーファイアをしない位置取りが必要です。船の移動は艦長か機関長らしいので重要ポジションですね。
魚雷は高威力低速ですが、船の移動はある程度制限があるため、非常に避けづらい。つまりフレンドリーファイアをしやすいので、注意が必要。よって、重雷装や駆逐の側にいたくないと、スグが言っていますね。
「でもこれ、随伴いないと詰むよな?」
「敵は万単位だろうし、ある程度は固まらないと詰むんだろうな」
「問題があるとすれば、潜水艦代わりの水棲系がどのぐらいいるかだ」
「全然見かけないからなー」
「あれ系は拠点が違うから、見かけないのはしゃーない」
スキルレベル上げたりスキル取ったり、進化で水から出れるようになりますが、基本的に水辺があるところを拠点にするようですからね。
確か水中、陸上、空の順に泳げるようになるとか。思うことはなくもないですが、ファンタジーですからね。運動会の時も空泳いでる魚いましたし。さすがに水だけだと行動制限がかかりすぎるのでしょう。
常識に囚われていたら、『ファンタジー』ではないのです。
「前方が凄いことになってるけど、あれしばらく放置で敵減らんかねー?」
フェアエレンさんが言うので、お目々ちゃんで前方を見つめると、飛行系の魔物と水棲系の魔物が戦っているようです。クラーケンから逃げる水棲系と、その水棲系を食いに来た飛行系ですかね。空と海で魔法を撃ち合い、集団で海に飛び込んだりと元気いっぱいです。
「自然は時に厳しい……」
「なんだっけそれ」
「運命は時に厳しい……」
「ああ、あれだ……テイルズか!」
「うむ」
なんかしんみり眺めながら話しているアルフさんと駄犬さんは、そっとしておきましょう。
下に穿いてるとはいえ、ドレスでふわふわしているのもあれなので、一号を肉魂で呼んで座りますか。
〈一部スキルが存在しないため、置き換えられて召喚されます〉
おんや? No!
えっと……《満ちる肉塊》が《氾濫せし肉塊》に変わっているのですか。そういえば肉塊は私の組織でしたね。
《満ちる肉塊》
常に新しくなり続ける体は被ダメージを軽減し、状態異常を無効化する。
《氾濫せし肉塊》
流体的な体は魔法に強いが物理衝撃に弱い。
その分状態異常を無効化し、回復力に優れる。
一号……タンクとして欠陥では? 対魔法タンクというのはそれはそれで需要ありそうですが……私で良いじゃないですか。
とりあえずテンプレートを更新して召喚しますが……特に変化は感じませんね。座りますか。
「相変わらず、姫様の存在感は凄いですね」
「ヒヒヒ、船より目立つなぁ!」
おや、これは……《アイちゃんズ》と同じ感触。……椅子レベルが上がりましたね、一号!
水兵組の乗る超弩級戦艦を中心に、セシルさんレイドとリーナレイドの高速戦艦。そして他の人達の巡洋艦や駆逐。更に私達生身組。
ある程度の艦隊がそこらでできていますね。いったいどんな戦闘になるのか、実に楽しみですね。
『面舵!』
『右へ曲がります、ご注意ください』
『トラックはやめよ? 雰囲気がお亡くなりになるからさ』
ふふ、ゴミ収集車とかにあるあのアナウンスですか。
周りの船も合わせて右に舵を切ります。でないと事故りますからね……。一定範囲への各艦同士の無線と、スピーカーでも付いているようですね。この船の技術はどうなっているのやら。
『戻せ!』
『舵中央!』
敵に向かって真っ直ぐ進んでいたのが、少し右斜になりました。船体を傾けることで、艦尾にある砲も使えるようにした角度ですね。
「素晴らしい歓迎っぷりですね。海鮮選り取り見取りですよ」
「『もはや食材としか見ていないの草』」
「どうして……過去の人はキノコやナマコを食べようと思ったんでしょうね」
「『ほんとにな』」
晴天の中、波を掻き分け突き進む艦隊と、飛行水棲組……実に良いですね。この場面切り抜いたSSとか、とても良さそうです。
……集ってる鳥達と荒ぶる海面から目を逸らせば。
『諸君、存分に楽しもうではないか!』
水兵艦の人が言うように、楽しむとしましょう。
一号から浮き、アサメイを手に呼んで時空属性で起動。同時に古き鍵の書が腰から飛び立ちます。
「「中ボスみたいなのいるー?」」
「大きいのがチラホラ見えるね」
キューピッドさんの言うように、そこそこ耐久ありそうな敵がちらほらいますね。まあ、主砲で狙えという的なのでしょう。
『左対空戦闘!』
『三式弾装填開始!』
『左舷対空砲、撃ち方始めー!』
さあ、開戦です!
私達は対空砲火を抜けてきた飛行系と、ドッグファイトですね。
エリアがインバムント南の海上のため、敵のレベルは30~40帯です。レベル的には格下と言えなくもありませんが、そうシンプルにはいかないでしょうね。
「そんな気はしてたけども! 空中での乱戦はいかんでしょ!」
フェアエレンさんがキレ気味ですね。
空中はとても快適ですが、それはあくまで1対1などの場合です。乱戦になると見るところが多すぎるので、難易度が跳ね上がります。遮るものも無いので、流れ弾もありますからね。
恐らく水中も似たような事になっているのではないでしょうか。
「どわーっ! 死ぬー! なんで私狙うんだよ! そこにでかいのいるでしょ!」
「フェアエレンさんが妙に狙われていますね?」
「……こいつらご飯求めて来たはずだから、丁度いいサイズなんじゃない?」
「山本おおおおおおおお!」
山本さんの笑顔が容易に浮かびますね。
確かに鳥からすれば妖精は一口サイズです。ただでさえ一発貰ったら死にかける妖精が、餌として狙われやすいとか鬼畜ですね。……電気バチバチしてるエクレーシーが美味しいのかはさておきますが、わたパチという可能性が?
ジグザグ飛行のグロームホークや、酸攻撃のアシッドホーク。各属性を持ったファイアバードなどなど……飛行系が大量ですね。
「誰か! 助けろください! ウインドバードはダメだって!」
「お、クラーテシーじゃん。だがこっちにそんな余裕は無い!」
クラーテシー。岩漿の妖精種ですね。サラマンダーを赤黒くした感じの見た目です。火と土の複合なので、水と風が弱点ですか。……今回辛そう。
「任せろぉ!」
「さすが騎士様!」
お、あれが妖精のタンク、キャバリシーですか。ピクシーと同じトンボの羽を持ち、身長が大きめで体格がしっかりしていますかね?
鎧に大盾、騎乗槍のような大きな槍を装備しているので、かなりごついですね。あの装備の時点で、アルフさんと同じ《パワーアーム》持ちでしょう。どう見てもあの槍は両手武器。
自分も武器もクルクルしながら、沢山飛んでくる魔法を反射したり弾きます。
「随分と弾幕が濃いですね……」
「こっちも基本は船だからかな?」
「これ水中の方がまだ難易度低そうですが……」
「魔法は使うだけ無駄だろうけど、数は水中の方が多いんだろうね」
私は水中でも行けますが……どう考えても形状的に不利でしょう。水中での行動は《座標浮遊》があるのでガン無視できると思いますが、確実にスピード負けすると思うんですよね。
敏捷はマシにはなりましたが、スキルや装備によるまともな補正を与えていません。現状はセット効果の反応速度強化で、防御の際の速度を確保しています。水中での行動制限は私と相性が悪いんですよね。
反応速度強化は4箇所で発動なので、胴体だけ水着に変える事は可能ですが……
【魔力解放】が指輪と胴体でしたか。ほぼ使わないのでどうでも良いと言えば良いのですが。
このイベントのために《水泳》や《投石》を取るか……と言われたらまあ、取りませんよね。そもそも水中での《座標浮遊》と《水泳》の挙動が分からないんですよね。《投石》に関してはもう、リジィに投げさせれば済みます。
……それに水中での行動制限緩和は、2次スキルからだったような。やっぱり優先度は低いですね。
「にょわーっ!」
あ、フェアエレンさんが食われた。
「ファッキンバード!」
【トニトルスバースト】を使って出てきましたね。
「……いっそこっちの方が楽か?」
「食われたら蘇生できないんだけど?」
「敵倒したら私ドロップしない?」
「それは……嫌だなぁ」
なんかパワーワード出ませんでしたか? 気のせいですかねぇ……。
それにしても、これは一号送還するべきか。完全に的。ほぼ全方位から魔法が飛んできてますね……。《聖魔法》を鍛える意味では悪くありませんが、回復にMP持ってかれるのはよくありません。
ヘイトの優先度も特殊なせいでいまいちです。リジィをリーナ達の船に召喚しておいた方が、役に立つかも知れません。ただ緊急時の避難所扱いにはなっているので、全く無駄……というわけではないのがなんとも言えませんね。
空中にある大きな球体。妖精種からしたら十分な壁なようで、一時的な休憩地点か船までの中継地点扱いをされていますね。
「1人ではMPがキツイのですが、それアンデッドではないので、気が向いた時に回復してくれませんか?」
「『回復するから出しといて!』」
妖精組から割と切実な声が返ってきたので、一号のままにしておきましょう。こちらもスキルが育ちますので、死なないなら問題はありません。
となると……一号を強化するために【夜天光陣】をフルで置いておきますか。クロウリーの六芒星になるように設置します。
双子は……2人で連携とっていますね。まあ大丈夫でしょう。
正面からのを返し、左右からも返し、左斜上から来るのは弾く……と。で、次は……右下と後ろ斜め上、前斜め下と後ろ斜め左下からですか。後ろ斜め上、右下、後ろ斜め左下、前斜め下の順に……刀身を後頭部側にやって返して、傾きつつ振り下ろして返す。回って弾いて、更に回って返す!
「姫様が全方位ビートセイバーしてる」
ビート……ああ、向かってくるキューブを斬る音ゲーでしたっけね。
『主砲徹甲装填準備!』
『よく狙えよ! 主砲、テーッ!』
『徹甲弾装填開始!』
『右舷上空敵影!』
『右舷対空防御砲火!』
『左舷副砲による対空支援砲撃を再開する! 航空組注意!』
『主砲塔照準、なんか亀の奴!』
『なんか亀の奴!? ……あれか。徹甲弾、テーッ!』
『おほーっ! 良いダメージ! やっぱ亀には徹甲か!』
超弩級戦艦、賑やかですね。魔動式なので、実際のよりは静かとはいえ、サイズがサイズなので迫力満点です。
右舷の敵は……あの削れ具合なら釣るより倒した方が早いですね。となると魔法は……装備のミラーも考えると……。
「【Ra'zw Lia Persepho Ate】」
【二重詠唱】を使用して【ノクスエクスプロージョン】を放つと……2箇所で爆発してミラーが遅れて爆発します。その爆発によって戦艦に向かっていた数体の飛行系を撃破。
『おー、サンキューひっめ』
『不敬。飛び込め』
『不敬罪が重い!』
『不敬罪だからな。介錯してやろうか?』
『お気持ちだけで結構』
遼遠の魔眼がとても便利ですね。対空防御砲火の中に飛び込まずに、見えている範囲なら魔法攻撃が可能です。実に便利。
「姫様の射程、なんかおかしくなーい?」
「この子達の能力ですよ」
「お目々ズかー」
「妖精ならレベル上げれば取れそうな気もしますけどね」
「マジでー」
「この子達の場合は遼遠の魔眼と言うものです。座標指定型魔法の指定可能距離を、視界に変更ですね」
「マジか。ふぅむ……座標指定型のみかー」
敵の集団が見えたら、開幕範囲による先制攻撃が可能になる。群れるタイプの敵には効果的ですね。魔法組としてはウォールやピラー、マインなどの使いづらい分類も使いやすくなるのは嬉しいところ。
「ん!? 一号、移動なさい!」
一号の真下……海面にピラーの前兆である魔法陣が出現したため、移動させます。大きいし移動も速いとは言い難いので掠りましたが、まあ良いでしょう。
「秘技! かっこいいポーズ!」
「『ふはっ! 何してんだあいつ……』」
水系無効の水妖精であるニクシーが、敵のピラーを辿って上まで来たのでしょう。ピラーが消えた事で空中に残され、ポージングをしたまま落ちていきました。
一発芸としては大変優秀ですね……。
「さて、本番はこれから……といったところでしょうか」
「「でっかい群れ!」」
今戦っているのは大規模な群れから離れてきた敵達なので、前哨戦みたいなものです。
今までは船に寄られないように先行して戦ったりしていましたが、これからは動きを変える必要があるでしょう。
「2人共、もう突っ込んではいけませんよ」
「「はーい」」
「あの数は突っ込んだら死ぬね」
「艦隊組の対空を抜けてきたのを倒す方向だねー」
フェアエレンさんの方法が一番でしょうね。突っ込んで囲まれた挙げ句に、対空砲に巻き込まれるのはごめんです。
ああ、今の状況ならお目々ちゃんに邪眼系を使わせますか。今までは触手で殴るぐらいしかできませんでしたから、状態異常系のスキルレベルが低めなんですよね。良い感じに育ちそうです。
「別の艦隊が戦闘に入ったね」
「おーおー、鳥もプレイヤーも落ちてーら」
「未曾有の腹打ち」
「まあ……あの高さからの腹打ちは、リアルだと死にますからね……」
今見えているのは既に死体ですけど。死んだら操作不能なので、空中で死んだ場合は当然そのまま落ちます。
お風呂とかで水面を手のひらで叩けば分かると思いますが、あれをお腹で……腹打ちすると、プールの飛び込み台でも洒落にならないダメージが来ます。つまり、生きた状態でも何らかの攻撃で海面に叩きつけられると、地面とは倍率が違うものの、しっかりと落下ダメージ判定が発生します。
最高速度での飛行状態から、水中への飛び込み検証とかされていたはずです。吹き飛ばされたり回避だったり、何らかの理由で行かざるを得ない時、飛び込み体勢推奨らしいですね。水の妖精であるニクシーを除き、妖精だと飛び込み体勢以外は即死の可能性大とか。
『弾は……多分大丈夫だろう。行くか!』
『砲が火を噴くぜー!』
対空砲によって上空が爆発だらけですね。しかも敵から魔法も飛んでくるので、避けなければいけません。これはかなり戦いづらい。
「『始まりの街は楽だったけど! こっちつれーわ!』」
「これ航空乱戦チュートリアルー? 辛たん……」
「他に聞いていませんし……おっと……そうかも知れませんね」
ゴブリンの時は上空はほぼフリーでしたから、たまに飛んでくる魔法を気にするだけで後は一方的でした。地上はその分数が多くて、出すぎるとすぐ囲まれ結構辛かったのですが……今回は逆ですね。地上組は船で、空が鬼です。
「はーっ! ざっまー! どわっ!?」
「ざっまー! あぶねぇ!」
「「割とガチで余裕がねぇ!」」
複数に狙われていたプレイヤーがギリギリまで引きつけ、寸前で避けた事で敵同士がぶつかって落ちていきました。それを指差して笑っていたところを敵に襲われ、そのプレイヤーを笑ったプレイヤーもまた同じ事になる……と。
「対空砲に突っ込みそうになって辛たん……」
「エクレーシーの利点が活かしづらい状況ですね」
「できなくもないけど、最悪他プレイヤーに突っ込むからなー……」
結構衝突事故も発生しているようですね。飛行系は基本的に敏捷が高いので、全方位を気にした状態での高速戦闘ですよ。大変ですね。
私は視界が全方位ですし、状況的に《座標浮遊》のみになるので、一般的とは言い難いですけど、私としてはこのぐらいの方が楽しいですね。
突っ込んできた敵をパリィして、背後から飛んできた魔法を回って返します。
「低空飛行すると今度は海から狙われるしなー……。麻痺って落ちろ!」
雷の状態異常は麻痺でしたね。効果時間は短いですが、効果自体は強力です。レベル1で2秒の行動不能。飛行状態から2秒も動けなくなればかなり落ちます。海面の落下ダメージまたは水棲系によって、その飛行系の敵は死んだと思って良いでしょう。
「MP無くなるぅ!」
「MPが無くなるとどうなる?」
「知らんのか? 鳥に食われる」
「自衛できるうちに船で休んできて」
「行ってくるわー」
MP無いと食われた時にバーストなどが使えず、逃げ出せませんからね……飲まれて死ぬでしょう。フェアエレンさん純魔なので、他に攻撃手段ありませんし。
キューピッドさんに言われてフェアエレンさんが回復ですか。双子も回復に向かわせるべきですかね? アメさんは大鎌なので良いのですが、トリンさんが純魔ですからね……。しかし、2人を離すと片方が死にかねないので、一緒に行動させるべきではありますか。2人セットで戻しましょう。
「姫様MP多いね?」
「私は種族補正と精神型で、最大MPは高いんですよ」
「ほほう。ガッツリ特殊だねぇ」
「例の発動キーが精神依存なので。キューピッドさんは弓なので、だいぶ余裕ありそうですね?」
「無茶しなければなんとかなりそう。問題は矢かなぁ……」
そういえば、こちらの消耗品は補給艦から補充できるんですかね? できないと非常に困るので、できるとは思いますけど。
「あ、支給品で矢があるっぽいね。自前の使うの勿体無いや」
「このイベント時限定アイテムですか」
「ポーション類もあるっぽいから、一回貰った方が良いね」
「MPはまだ余裕がありますが……支給品ポーション欲しいですね……」
……持ってきてもらいますか。支給品は1種1枠で全3枠と決まっているようなので、自分で取りに行くべきではありますが、戦う人数をあまり減らしたくないんですよね。
トリンさんは自分で使うので、私の分はアメさんに持ってきて貰いましょうか。
支給品は軍用品なんたら。
アメさんから軍用品HPポーションとMPポーションを受け取り、HPポーションを【魔化】してから返します。これでアメさんでも使えるようになるでしょう。
MPポーションも【魔化】してから、トリンさんの持っているMPポーションと交換します。フェアエレンさんはキューピッドさんに矢を渡していますね。
戦いながらなので、大変忙しない。
「『ん?』」
おや、なんか体力ゲージが表示されましたね。ただ、敵の名前が違うのでボスではないようです。
「『でけぇ!』」
「中ボスですか?」
〈〈そいつは特殊な攻撃をするぞ! その際は指示を出す!〉〉
この声は……海軍の人ですか。住人なので乗っているのは空母ですかね。
肝心の中ボスは……マレーアバーラエナ。クジラですね。水中だし全体は見えませんか。
「「あのサイズってリアルにはいないよねー?」」
「いないね。動物種最大のシロナガスクジラで30メートル台が精々だったはず」
キューピッドさんによると、あれはシロナガスクジラより遥かに大きいですね。
「……重雷装ぐらいのサイズかねー?」
「サイズどのぐらいでしたっけ?」
「さっきちらっと見たので160メートルぐらいだったかなー」
「ならあれはシロナガスの5倍ぐらいですか」
いくら水中とはいえ、骨の強度が無いと巨大化は無理ですよね? 魔物なので魔力での身体強化による巨大化でしょうか。レベルが60台なので上位種。身体能力はとても高いはずです。
『アパーム! 弾! 弾持ってこいアパーム!』
『それ俺ら死ぬんですが?』
水兵艦が補給艦を呼んでますね。補給艦の進行ルートがラインで表示されるんですか。守れと?
『少し下がるか。後進入れたまえ』
『へいボス!』
「あの水兵艦、軍艦から海賊船になりそうだが大丈夫かー?」
「まあ……RPの維持は難しいですからね」
大和級の軍艦に乗った海賊とか堪りませんね。魔物がいるこの世界で海賊をやっていけるのか知りませんが……そもそも船の維持ができませんか。
『イエー! 垂れ流すぜー!』
重雷装から大量の魚雷がマレーアバーラエナに放たれていますね……。
[ボエー!]
〈〈いかん! シールドにエネルギーを回せ!〉〉
クジラは潜水しました。魚雷全部外れましたね……。
しばらくすると海面の一部が赤・橙・黄色に分かれました。形は長方形ですね。赤が攻撃の中心となるはずです。橙と黄色部分は余波でしょう。
〈〈来るぞ! シールド展開!〉〉
『高水圧魔動シールド、展開!』
『シールド展開!』
海軍の人の声に合わせて、複数の船がシールドを展開。水の球体が船を包むようですね。海面から包むように伸びていくのですが、展開速度は船によって違うようです。
何隻か展開できていませんが、大丈夫なんですかね?
[ボエー!]
「『は?』」
「『お前はマンボウじゃねぇんだぞ!?』」
結構なスピードで海中から飛び出してきました。巨体のせいかスローモーションに見えますが、そんな事はなく。海面からかなり離れて飛んでいるので、泳ぐ速度はかなりのものなのでしょう。
まあつまり……巨体が海面に浮いている艦隊を巻き込んでビターン。
「『どわあああああああ』」
「「うわぁ……」」
双子がドン引きしていますが、これは酷い。
「ちなみにあの行動をブリーチングと言うそうですよ」
「「へー」」
「する理由は分かっていないらしいですね。……あれは間違いなく攻撃ですけど」
一番外周の黄色ゾーンにいた船は高波によって離されました。
橙ゾーンは高波の発生地点で、波乗りしたりバンジージャンプしていますね。……勿論船に乗ったまま。
問題は赤ゾーンの船で……巨体の端っこだった船は、恐らくシールドによって横に弾き出され、船ではあり得ない動きで海面を横滑りしています。エアホッケーですかね……。
そしてほぼ中心にいた船は……あー……。結構な勢いで海面から飛び出してバンジージャンプする船と、石を投げた水切りのような動きをする船がいますね……。
ちなみにシールドの遅れた船は木っ端微塵ですよ。
「あれ艦内地獄では?」
「まあ……壁に叩きつけられるのが一番マシな状況ですかね……」
甲板にいたプレイヤーは海に落ちるか、紐なしバンジーするかのどちらかでしょうね。
海に落ちた人は助けないとダメですかね? ……一応ハシゴがあるようですが、水棲の魔物にどつかれて死にますか。重装組はそもそも浮かないという。
クジラさんはビターンした後、そのまま潜って別の艦隊狙ってビターンしていますね。クジラに打ち上げられて一緒に空を舞っている水棲プレイヤーも見える気がしますが、見なかったことにしましょうか。助けられませんからね。
「ビターンする場所にマインでも置けば、結構なダメージになりそうですね」
「上がってくるところに爆雷落とすのもありかな?」
「鳥に食われそうになったら、爆雷突っ込めば良いんじゃね!?」
「お、ド畜生かな?」
「食いに来た奴に慈悲など不要ー!」
食べようと口を開いたところに爆雷を咥えさせると……。問題は、爆雷は1つしか軍用品スロットに入らない事ですね。
1つを軍用品スロットに入れて、もう1つは持つということもできなくはありませんか。フェアエレンさんなら手は空いているでしょう。
それにしても鳥爆雷ですか……。そういえば、犬に爆弾背負わせて……とかあったらしいですね。
「救助ついでに補給と回復しますか……」
「そうだね。一旦休憩かな」
吹っ飛ばされた先で補給を受けている水兵艦……超弩級戦艦にしましょう。
海面に浮かんで敵にどつかれている水兵服組を、触手で釣り上げます。この方が多く持てますからね。
召喚体は行動可能範囲が決まっているので、一号も多少動きますが仕方ありません。頑張れ妖精組。
着艦!
「現場は安全だって言ったじゃないですか!」
「冷静に考えてそんなわけないわな」
「死んでないからヨシ!」
「死な安死な安」
「あれ水棲の援護と飛行の救助無いと死ぞ」
船から落ちたらほぼ死ぬので、落ちるなって事でしょうけど……あの吹っ飛び具合は酷い話ですね。
キューピッドさんと軍用品を漁ります。
HPポーションとMPポーション、あとは……爆雷で良いですかね?
「無いよりは良いけど、矢1スタックじゃ足りないんだけどなぁ」
「私も持っていきましょうか?」
「枠空いてる?」
「必須なのはMPポーションぐらいなので、特に問題はありませんよ」
「よろしく!」
爆雷は1回ぐらい使ってみたいので、HPポーションを置いて矢にしましょう。
「おーい! 待ってくれ! ちょっとー! おーい、待ってくれ!」
おや、水兵の……まだ落ちている人がいましたか。
船の両サイドにあるハシゴから登ってこれたようですね。
「……行ったかと思ったよ」
「とんでもねえ、待ってたんだ」
「うわぁー!!」
……突き飛ばされてまた落ちましたね。割と下、死地ですけど。
「マジで落とすんじゃねぇよ!!!」
「やらなきゃダメかなって」
「そこまで期待してないが!? もう補給終わるか。ギリギリだな」
補給中のカウントが終わるので、また最前線ですね。
リーナ達は……あれかな? さすがにセシルさん達は分かりませんか。
「機関最大! 砲雷撃戦よーい!」
「全速前進DA!」
補給が終わりましたか。
補給艦は空母の方へ下がり、我々は前線へ。
「撃ち方始めー!」
「榴弾、テーッ!」
おぉ……いくら音は控えめとはいえ、さすがに乗っているとお腹に響きますね。
「回復したし飛ぼか」
「そうですね。船は中々にデンジャラスそうですから」
「上も大概だけどね」
甲板の後部から飛び立ちます。再び空中戦といきましょう。
さて、肝心のクジラは体力も結構減りましたね。
[ボーエー!]
おや、結構高めの長い声ですね。
〈〈む! 艦首または艦尾をマレーアバーラエナに向けるんだ!〉〉
〈〈間に合わないようならシールドを張れ! ひっくり返るぞ!〉〉
「『タイダルウェイブだと!?』」
タイダルウェイブの文字とともにゲージが伸びていますね。来るのは津波ですか。
表示されている色から近寄るか離れるかが安全で、中間が一番危険と。まあ津波ならそうなりますかね。
空の私達にはあまり関係な……待って。
タイダルウェイブの演出でしょうけど、円を描くように泳いでいるのです。それだけなら良いのですが、その上空に何やら水の球体が大量にですね?
「嫌な予感しかしないんだけどー?」
「これは……サラマンダー系死ぬかな?」
……空の私達目掛け、球体から大量の弾が撃ち出されました。
「『そんな気はしてたよ!』」
「ですよねー」
「やっぱ船じゃなくてこっち狙いだよね」
数は多いですが狙っているわけではなく、ばら撒いているので命中率は低い。更に言えば鳥達にも当たるので、火属性はかなり減りそうですね。……味方も含めて。
一号の前に移動して、飛んできたものを弾くとしましょう。一号は的が大きいので、こういう場合はよくありません。
一号の後ろにサラマンダーやクラーテシーが逃げ込んできていますね。うん、使い方としては正しい。後ろから一号を回復しているだけで、この攻撃は凌げるでしょう。
『総員艦内に逃げ込めー!』
『流されて落ちるか! 壁に叩きつけられるか! 好きな方を選べ!』
『どっちも嫌なんですが!?』
波を完全に掻き分けられるとは思えないので、確実に甲板組は流されるでしょうね。掴まっても耐えられるかどうか……。しかし艦内は艦内で、壁にぶつかると。
『ハッ!』
『うるせぇ座ってろ』
『飛び込んで潜って波を回避! その後乗り込めば良いんじゃね!? 天才か!』
『お、そうだな。自分で試してその考えが正しい事を証明してくれ』
『死ぬに決まってるじゃん。馬鹿なの? 死ぬの?』
『てめぇ……』
仲良さそうですね、この2人。まあ実際、水棲に集られて死ぬと思いますけど。
水兵艦は今も元気。
私達に対する魔法攻撃が止まりましたね……。
円を描くように泳いでいたクジラが動きを変え、潜水して飛び上がり、空中でゲージがマックスに。
[ボーエー!]
クジラが着水したところを中心に、全方位へ大津波が発生。艦隊を襲います。
「「飛んでる私達、高みの見物!」」
「してる余裕は言うほど無いけどなー! 【トニトルスマイン】……おら食え!」
「【エクリクシス】……汚い花火ですね」
「ほんとになー」
「ある程度こっちでも蘇生しとこうか……【リザレクション】」
「ざっす!」
一号の近くにいた火属性の人達は無事ですが、他の場所ではそれなりの被害が出ているようですね。隠れる前に運悪く中った人もいます。
私は魔法に強くなりましたから、今回のイベントは割と楽そうですね。周りを見る余裕があるのは良い事です。
トリンさんは私と同じように魔法攻撃。アメさんは近づいてきた敵を鎌で攻撃。キューピッドさんは周りを回復しながら弓で攻撃。フェアエレンさんはドッグファイトしながら魔法攻撃。
キューピッドさんは闇を持っていないので、双子は自分達で回復していますね。
『死ぬかと思った』
『お嬢様風に』
『死ぬかと思いましたわ!』
『オネエ風に』
『あんら~やだわ~死に損なったみたい~』
『モヒカン風に』
『ヒャハハハ! おっちんじまうところだったぜぇ!』
『ご苦労』
『……俺は何をさせられたんだ?』
……オネエから漂う強者感ヤバいですね。
「空中戦だからグラディウス使えねー!」
「敵の数的に使いたいんですけどね」
「あれは地面に突き刺さってから爆発だからね……」
一番範囲の広いグラディウスが仕様的に使えないんですよね。地味に欠陥です。空中の敵を狙っても海面に突き刺さって海上で爆発するはずです。水中でも似たようなものでしょう。海底に突き刺さるはずです。
「「敵に突き刺すのはー?」」
「鳥のサイズじゃ無理かなー!」
「「そっかー」」
鳥に突き刺さったまま海面に突き刺さって爆発するでしょうね。
「待てよ……一号に突き刺せば……?」
「哀れ下僕」
下僕ですからね。とはいえ範囲やらを考えると微妙ですか……。
……いや、本当に多いですね。次から次へと。暇するよりは……良いですか。
水中は水中でこんな感じなのでしょうかね。
「いっちょやるか!」
「やるか!」
「【火よ】!」
「【風よ】!」
「【猛り】!」
「【吹き荒れ】!」
「「【焼き尽くせ】! 【フィアフルストーム】!」」
おぉ?
近くにいたサラマンダーの人と、フェアリーの人が巨大な炎の竜巻を使いましたね。沢山の敵を飲み込んでいきます……味方も食われそうでしたが。火の敵は残っていますが、多段ヒット系で中々の火力ですね。
「へー、あれが【共振魔法】かー。初めて見たわー」
「だね。確かに使い所さんか」
フェアエレンさんとキューピッドさんの話を聞く限り、あれが《超高等魔法技能》の10レベで覚える【共振魔法】ですか。合体魔法や合成魔法、複合魔法やら言い方はありますが、『2人で別属性を同時使用で別魔法を発動する』ものですね。
このゲームのユーザー間では、複合魔法は《氷魔法》や《雷魔法》など、複数属性からの派生魔法を指すので、複合は複合、共振は共振です。
【共振魔法】は使われる2つの属性によって、発動するものは固定のようですね。火と風は炎の竜巻、【フィアフルストーム】だけ……ということ。
「姫様【共振魔法】は?」
「技能が13なので、覚えてますねぇ……」
「空間……いや、今時空だっけ? 気になるなぁ」
キューピッドさんの気持ちも分かりますけどね。しかし問題はですね……。
「どの属性と共振するかが問題ですね。探すところからでは?」
「あれPTじゃないと発動できんのよなー」
【共振魔法】はある意味必殺技の分類です。格ゲー風に言うならゲージを溜めろ。同じPTで魔法を使ってしばらく戦っていないと、発動できません。当然属性が揃っていることが前提です。
「光と闇で時空なのに、その二つが時空と共振するとは思えないし……」
「雷も……なー? 今3次の《豪雷魔法》だけど」
共振する属性の情報が無いんですよね。そもそも空間系を上げてる人が少ないですし、攻撃が無いので上げづらいおまけ付きです。
「うわっ……このPT……偏りすぎ……?」
「その広告は懐かしすぎでしょ。気づいた事を褒めてほしいぐらい」
フェアエレンさんが右手を口元に持っていってなにか言っていますが、キューピッドさんは分かったようですね……。
それはそうと、なんとこのPT……私とキューピッドさん、そして双子。4人で持っている属性が光と闇だけという、驚きの偏り具合。
フェアエレンさんが確か雷と嵐だった気がするので……それに加え風、水、土ですか。
まあ普段のPTだと光と闇だけなので、フェアエレンさんがいる分マシだとも言えますけど。
ん?
「あれ、姫様と共振できるな……」
「これは……やりますか?」
「やるでしょー」
「では、【時よ】」
「【光よ】!」
「【留めて】」
「【集いて】!」
「「【輝き照らせ】! 【スターライト――】」」
【留めて】の時点で指定した座標指定地点に、天からの光の柱が出現。極太ピラーですね……。
しかし名前からしてピラーだけで終わるはずもなく、数秒のピラーの後、球体として収束。
「「【――エミッション】!」」
特大バースト爆発……ですね。
「スターライトって聞くとブレイカーって続けたくなるわー」
「いやまあ、わかるけども」
「直訳すると星明かりの放出ですかね」
フェアエレンさんが言うのは、管理局の白い悪魔ですか。私はディアーチェが良いです。王様!
しかしあれ、闇が巻き込まれたら消し飛びそう。
[ボエー!]
〈〈シールドにエネルギーを回せ!〉〉
これは……ビターンですかね。エネルギーをシールドに回させてますが、どういう仕様なのでしょうか。船に乗っていないので、よく分かりません。
「クジラは中ボスというか……チュートリアルかな?」
「そんな気がしますね」
「船の動きとギミックのチュートリアルだろうねー」
船は動きが遅いですから、早めに行動を開始しないと手遅れになるでしょう。その確認と、シールドの使い方のチュートリアルですかね。
「ギョエー!」
「「フェアエレンさんが死んだ! このひとでなし!」」
素晴らしい捨て身タックルですね。効果は抜群だ……自分に対して。キューピッドさんが起こすと言うので、私は戦っていましょう。
[ボ……ボエー……]
さらばクジラさん。良い奴でしたよ。チュートリアル的な意味で。
雑魚敵も散っていきますね……。
〈〈各艦補給をしておけ! 本命が来るぞー!〉〉
休憩タイムですね?




