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お見合いはご遠慮します  作者: 奏多


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5 国王陛下と密談

 本来、女官の立場で国王に会うのは難しい。

 ただ主が手伝ってくれれば問題はなくなる。主が国王に会うのに便乗すればいいのだから。


 そしてサリカが主であるエルデリックはすぐさま協力してくれた。

 エルデリックは父王に会いたい旨を紙にしたためると、別な女官に持って行かせ、サリカと表面上は無言のまま会話を続ける。


【お見合い、そんなに嫌な人だったの?】


 サリカは何度も頭をうなずかせてみせた。


【信用できません。私みたいな特別に容姿が秀でているわけでもない女に好意を持つ男性なんて、陛下と殿下と親族以外は皆不審人物です】

【そこまで言わなくても……】


 きっぱりと言い切るサリカに、エルデリックは少し困った顔をする。


【サリカは綺麗だよ。でも、嫌なことを強要されるのは忍びないし、万が一のこともあるから、父上への手配はしたから、安心して?】


 持つべきものは、自分を信頼してくれる可愛い王子様である。


【ううぅ殿下はほんとうにすばらしいお方です、どこまでもついていきます、老婆になって役に立てなくなっても、このアホ能力で監視ぐらいはできますから、防犯の見張りの置物として置いて下さいねぇぇっ】


 どさくさまぎれにエルデリックの手を握りしめ、あまつさえその感触を堪能しつつ、サリカはエルデリックに感謝の言葉を並べ続けた。


 そんなちょっと頭のネジがいらない処に刺さっているサリカに、エルデリックは苦笑いしていたのだった。


 さてエルデリックが国王に当てた手紙には、サリカからの用事で会いたいことについて、以前に決めた符号を入れてある。

 エルデリックの面倒を見る代わりに、何かあれば対処すると、サリカの両親に約束した時に決めた符号らしい。


 国王はエルデリックの手紙を見たならすぐに了解してくれたのだろう。

 フェレンツ国王は、その日の夕食前に時間をとってくれた。


 けれど表向き、サリカはエルデリック王子に女官として付き添っているだけだ。

 国王の緑の色調で整えられた私室へ入ったエルデリックは、まずは国王と向かい合ってソファに座り、まだ他の人目があるからとサリカは壁際に控える。


 それからフェレンツ王がサリカ以外の侍従達を遠ざけてくれる。

 そうして事情を知る王子と国王とサリカだけになるのをじりじりと待ち、サリカはようやくフェレンツ王に挨拶することができた。


「お久しぶりでございます、陛下」


 小声での会話になるので、サリカはエルデリックの後ろに近づいて、フェレンツ王に一礼した。

「こうしてゆっくりと話すのは、一ヶ月ぶりくらいかな? サリカ」

 齢50になるフェレンツ王は、口元のしわですら大人の魅力として感じられる壮年の男性だ。

 髪も目の色も一粒種のエルデリックと同じなのだが、さすがに年を重ねているだけあって、その半分が白髪になっている。


 威厳というよりは穏やかな気持ちにさせられるフェレンツ王は、まるで親戚の子供にするように、サリカに気軽に話してくれた。

 というか、祖母の代からフェレンツ王とサリカの家は友人のようにつきあいがあり、何度も家にお忍びで来たこともある。なので、サリカにとっても親戚の叔父さんのような存在ではあった。


「君が呼び出すのだから、何か面倒ごとが起きたのだろう? 何があったんだい?」


 柔らかな口調で訪ねられたサリカは、この優しい国王に面倒をかけることを心苦しく思いながらも、直近の問題を相談する。


「あの……女官長が、私に見合い話を押しつけてきまして……」


 見合いという単語に、フェレンツ王は表情を曇らせる。


「それは、君が選んだ人への橋渡しをしている、というわけではないんだね?」


 フェレンツ王の問いに、サリカはぶんぶんと首を横に振った。


「絶対ありえません! 陛下もご存じでしょう? 私は結婚したくないんです!」


 鼻息荒く言い切ったサリカを、フェレンツ王が「まぁまぁ」となだめる。


「それは承知しているよサリカ。万が一の確認のために聞いただけで……ほら、だって年頃の女の子だから、どうしても気になる子がいてもおかしくないだろうと思ったから……」

「私には、年頃の子のような事は望めないじゃないですか」


 フェレンツの言葉を聞いて、サリカは拗ねて頬がふくらみそうになる。


 二十歳にもなってこんな拗ね方をするのは大人げない。

 自分でもそう思うのだけれど、なまじ小さい頃から知っていて、第二の父のように信頼している人だからか、つい素の自分になってしまうのだ。


 それに、おいそれと五軒隣の○○君が好き、などとうかつに言えない人生だったことも確かだ。万が一サリカを何かに利用しようとした者がいたら、まっさき五軒隣の○○君は標的になる。そしてサリカのせいだとわかれば、自分に予想外のダークな人生を味合わせたサリカを恨むに違いない。


 そんなことがあるので、サリカは「気になる人がいるの?」という会話が好きじゃないのだ。周囲に説明もできないのに「本当に好きな人いないの?」と問い詰められるのは結構つらかった。独身主義だと言うと、そんなんじゃ人生楽しくないわよと説得してこようとするのだから、なおさら嫌気がさすのである。


 フェレンツ王も分かってくれているので、風船クラゲのように頬をふくらませたサリカに、苦笑いしながらも優しく諭してくれる。


「でもね、サリカ。君のお祖母様の時もとても大変だったし、彼女も一生独り身でいるって公言していた人だったんだ。だけど、ちゃんとおじいさまみたいな人に出会えて、結婚した。それを聞いた時、事情を知ってるみんなで喜んで、祝杯を上げたものだよ。だからね、君にもそういった良い出会いがあればいいって、そう思ってしまうんだ」


 そんな風に「幸せになってほしくて」と言われてしまうと、サリカももう拗ねられない。


「申し訳ありません……陛下」


 頬はしぼんで、しゅんとした気持ちでうなだれてしまう。

 すると、振り返ったエルデリックが、腕を伸ばしてサリカの手を握ってくる。


【サリカ、泣かないで。父上もサリカを責めたわけじゃないんだよ】


 まっすぐな青い瞳に見上げられて、サリカは胸がきゅんとする。

 それだけですぐにサリカの沈んだ心は浮き上がった。

 癒される~と思いながら、サリカは自然とへにゃっと微笑んでしまった。


「ありがとうございます殿下。ほんとに結婚せずに殿下の側にずぅっと仕えていられれば私は幸せなのに……」


 サリカの望みは、まるでお母さんか姉のようにエルデリックの成長を見守り、成人に喜び、結婚で万歳し、その子供をまたお祖母さんみたいに育てていけたらという物だけなのだ。


 しみじみと思うサリカの様子に気持ちが落ち着いたと判断したのだろう。

 フェレンツ王はサリカにソファに座るよう促し、話を続けた。


「でもそうなると、君の結婚にこだわるとなれば、やはり『アレ』の件がらみなのかな」


 王との間で『アレ』といえば、サリカの能力のことである。

 サリカはエルデリックの隣に座って、フェレンツ王に言う。


「やっぱりそう思います? あの能力に係わることだって……」

「その疑いは捨てない方がいいだろうね。ただ、ねぇ」


 フェレンツ王は眉間にしわを寄せる。


「あの女官長はそこまでは知らないはずなんだ。それに元々お節介な人だろう? この間もアムレアン子爵のご令嬢にお見合い話を持ってきて、大騒ぎしていたし。だから本気で君に結婚相手を見つけようとしてるだけの可能性もあるんだよ」


 確かに、女官長は筋金入りのやり手婆なのだ。

 同僚のティエリなど、自分が結婚に失敗したから人の世話を焼いて解消するという、代償行為をしてるんじゃないのと冷たい事を言ってはいたが。


 そのため最初は、女官長が能力など関係なくサリカに標的を定めたのだと思っていたのだ。

 しかしロアルドの強引なやり方と乗り気な様子は、とても『我が道を押しつける』女官長に巻き込まれたものとは思えない。


「だとしたら、より問題が難しくなります陛下」


 サリカは嘆息する。

 悪意ならつぶせばいい。

 サリカの秘密を知っていた場合、秘密の出所と共有者を捜し出して処置するのは骨が折れるが、やることは単純だ。

 能力を上手く仕えないサリカなので、母や祖母にお出まし願って後始末をつけてもらい、フェレンツ王ににらみをきかせてもらえばいい。


 けれど善意であれば、強硬に振り払いにくくなる。

 しかも国王の権力を動かせば、何事かと変に注目を集めることになってしまいかねない。芋づる式に知られたくない事まで探られては本末転倒だ。


 すると、サリカが自力でなんとかするしかなくなるのだが、相手は人の話を聞いてくれないときた。


「その場合、どうやってお断りしたらいいんでしょう。仕事があるからといっても聞いてくれないですし、今日は殿下への来客かと思って控えの部屋へ行ったら、女官長が紹介したお見合い相手だったらしくて」

「え、相手が押しかけてきたのかい?」


 目を丸くするフェレンツ王に、サリカはうなずく。


「それだけならまだしも、不審なぐらい熱烈に口説いてくるんです。陛下の騎士であるラーシュ様が割って入ってくれなかったら、キ……。どうなってたか……」


 さすがにキスされそうになったというのは、言い出し難かった。

 こんな自分が強引にキスされかけたなどと言ったら、自意識過剰だと思われないなと恥ずかしくなったのだ。


「……それはまたずいぶん質の悪い」


 フェレンツ王は渋い表情で言う。


「かといってその男に注意をしようにも、裏もなく君に好意を抱いているだけなら、きつくは言えないし……。こういう時に一番良い方法は、好きな人がいるとか、恋人がいると言ってしまうことなんだけどね」

「ああ、陛下が昔使った手ですよね?」


 ぽんと手を打ってサリカが言う。


「聞いたことがありますよお祖母様に。陛下がなかなか結婚しなかった頃、片思い相手を思いきれないから、今は嫌だって言ってたって」


 フェレンツ王は苦笑いする。


「昔の話だよ。だから君を手伝ってあげたいとは思うんだけど……。私にできることといったら、恋人としての名前を貸すぐらいしかないんだよね」


 そうしてフェレンツ王は、首をかしげながら言う。


「どうする? 噂を立てることで君が不利にならないなら、使ってくれてもいいよ。どうせ私には今、妻もいないことだし」


 一瞬、この申し出にサリカはぐらりと心が揺れた。

 事情を知っている人だし、間違いなく女官長も意見を取り下げてくれるだろう。

 そして国王陛下に危害を加えられる者などそういないから、安心ではある。


 だが、代わりにとんでもない負債を負うことも確かだ。

 王妃は早世しているので、そちらに配慮はいらないとしても、伴侶のいない国王の恋人だなんて、権力欲のある人にはいじめられかねないわ、ろくなことにならないだろう。


 何より、フェレンツ王の恋人のフリをしたら、祖母とフェレンツ王の不和を招きかねない。

 昔からの親友が孫娘に手をだしたとなったら、祖母も平静ではいられなくなるだろう。


「おばあちゃんが知ったら、殺されますよ陛下……」


 その言葉に、フェレンツ王も「う」と言葉に詰まる。

 サリカの祖母が般若のような顔をするところを想像してしまったのだろう。

 恩人を巻き込むわけにはいかない。

 だからサリカは丁重にお断りするしかなかった。


「とりあえずお断りの意志は示しましたし、面会の対応は外してもらって様子を見ます……」


 そう言ったサリカは、とりあえず話を区切るため、控えの間へ王と王子のためにお茶の入れ替えを頼みに部屋から一度退出した。



 親子二人きりになった部屋の中で、フェレンツ王はくん、と袖を引かれる。

 エルデリックに「なんだい?」とフェレンツ王が優しく尋ねた。


 そして手のひらを差し出す。

 フェレンツ王にはエルデリックの心の声は聞こえない。だから掌に文字を書かせるようにしているのだ。

 エルデリックはフェレンツ王の手のひらに、ゆっくりと自分の言葉を書き綴った。


『父上が片思いしていた相手って、サリカのお祖母様なんでしょう?』


 その言葉を反芻し、フェレンツ王は苦笑いした。


「お前は本当に察しのいい子だ。でも昔の話だけど……内緒だよ? 私の可愛いエルデリック」


 サリカと違い、その祖母は兵器として使えるほどの能力を持っていた。なのに王として利用せず、保護し、彼女の存在を伏せ続けること。

 それはフェレンツ王が自主的にしていることだ。


 最初はフェレンツの命の恩人で、親友の友達だったからだった。それが思慕に変わって、すぐに彼女を守るのならば、伏せられるべき感情だと自覚せざるをえなかった。


 だからほんの少しだけ。

 フェレンツ王の心の中に『もし本当にサリカが恋人になるなら』という考えが起こらなかったわけでもない。


 昔好きだった人によく似たサリカ。

 彼女と話していると、あのときの思いがよみがえるような、心をくすぐる感覚が吹き込んでくるように感じることもある。


「まぁ、彼女が望んでくれればと思ったことはあるけどね」


 だからつい、フェレンツ王はつぶやいてしまう。

 どちらの『彼女』も。

 自分を望んでくれるなら、万難を受け入れる気持ちは今でもあった。

 けれど彼女が望んでくれないのならば、傷つけるだけになることもよく分かっていたので、フェレンツ王は沈黙を選ぶのだった。

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